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温泉県盆地拠点移転2周年祝宴 [ゆふいんだより]

本日長月晦日は、上空に重要機密移動を守るかの如く目達原アパッチくんが乱舞する晴れ上がった空の下、遙々新帝都湾岸月島及び豊洲の倉庫に半年ほど詰め込んであった資料書籍CDピアノその他家財道具一式がトラック2台だかに積まれ遙々ここ温泉県盆地まで運ばれ、今は亡き葛飾巨大柿ノ木に比べると随分と小ぶりの実が高いところに実る柿のゲートを通り、終の棲家&隠居場たる田圃と温泉宿と久大線線路に挟まれた新オフィスに搬入されてから、まる2年となる目出度い日でありました。っても、その日の当電子壁新聞記事を探したら…なんと、ありません。バタバタでこんな無責任私設媒体などやってる暇などなかったようじゃわい。これがその前の記事か。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2021-09-09

その後もリフォーム工事が入って、本格的に滞在出来るようになったのは数ヶ月先の師走のことなんだけど、気分的には家財が全て手元に揃った「2021年9月30日」が、葛飾オフィスからここ温泉県盆地オフィスへの移転が実質終わった記念日であったわけですわ。周囲の田圃も半分は刈り入れが終わり、いよいよ秋本番じゃの。
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温泉県盆地生活、最初の1年はホントに行ったり来たりの練習という感じで過ぎていき、2022年9月にはいよいよ国境が開いてミュンヘンARDコンクールで2019年12月以来の欧州渡航。そこからの1年は、ええと、ドタバタ独仏白英鉄路周遊、初の福岡板付国際線ターミナル拠点ツアーとなった大邱からソウル、年が代わってまたちょっとソウル、笑っちゃうくらい近いと判明した統営、ストに巻き込まれトンデモだった独仏西、どうなるんだ香港、突然行くことになったブチョン、ニッポン新帝都より涼しいシンガポール…と国境を跨ぐ日々が戻り、その間にも大阪国際室内楽コンクールでの関西滞在などもあって、「新帝都半分、温泉県盆地半分」とはとても言えないような日々でありました。

そんなこんなで、どこまでコロナ前のような動きがやれるものか無茶をしてみた1年でありましたがぁ、結果、体力や精神力、はたまた経済力の限界をある程度は見据えることが出来たことは確かでありまして、実際、コロナ前なら無理しても行ったであろうヴェトナム取材を断り行って意味のある方にお願いしたり、メルボルンもミュンヘンもライブストリーミングに張り付くだけで判った気になるように己を仕向けたり…

ここ温泉県盆地を拠点に、この先、どうやってなにをやっていくか、まだホントはなにも判らないとしか言いようがないならが、まあ、「これはちょっと無理だな」と捨てることは出来るようになった…のかなぁ。明日神無月からは、零細自営業者は廃業せよと仰っているような税制が始まって手取りが更に減らさるわけだし、あああ、もうさっさと廃業しなさい、って神様が仰ってるのかしらねぇ。

ともかく無事に温泉県盆地3年目に入るのを祝い、いきなりですけど、明日10月1日の宵に、盆地オフィスで「オフィス移転2年御目出度うパーティ」を開催いたします。

遙々関西から某財団のプロデューサー氏、東京から1泊弾丸でいらしてくださる付き合いが長い編集者さん、湯布院町代表音楽祭の実質上の舞台監督くん、それに畑を面倒見ていただいている伊都國のスーパーレディが馳せ参じて下さり、地場野菜とロシア・ソーセージなんぞを中心に呑んだり喰ったりする予定。深夜前までやってそうですから、お暇な方は顔を出して下さいな。

告知をこんなギリギリにするなんて、まるで来るなって言ってるにのと同じだけど、まかりまちがって顔を出そうなんて仰る方は、ご一報あれ。昼間は日田にUNO弦楽四重奏団聴きに行ってますから、日の入り前にいらしても、すっかり当庵の住人となっているほーほーさん夫妻
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それにこのところの庭の主たるガビチョウくん
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くらいしかおりませぬぅ。悪しからず。

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アルデオQが久石譲 [現代音楽]

やくぺん先生が世界中のメイジャー弦楽四重奏国際コンクールをほぼ全て眺めて歩いていた現役時代、当然ながら無数の若い弦楽四重奏団が活動を始めようとする瞬間に立ち会っていたわけであります。そんな中には、なんでこんな個人的な相談事まで自腹切って付き合わなきゃならんのじゃと呆れてしまうような近しい関係になっている連中もいれば、ホントにコンクールのときしか聴いたことなくその後の活動っぷりが気になるけど遙か遠くから風の便りを聞くばかりって団体もある。コロナ禍のネットライヴ発達などで、遠く欧州やら北米大陸での演奏にライヴで接することも出来るようになったとはいえ、やはりオンラインはオンライン。近くに居ればもっと眺めていたいのになぁ、と心が残るあの顔この顔…

そんな団体のひとつに、アルデオQがあります。クスQやパシフィカQが出てきた頃に闘っていて、世代としてはヘンシェルやエクよりちょっと下くらいになるのかな。ディオティマなんかと同じステージで闘っていた感じはないなぁ。フランス拠点なんで、良くも悪くもその後に出現したエベーヌQやらと同じか、少し上になるのかしら。モディリアーニと一緒くらいかな。同じフランス女子チームとはいえ、ザイーデよりちょっと先か。

ま、なんにせよ、プロカルテットの活動が様々な形で結果を出し始め、地方音楽院も室内楽育成に本気になってきて、弦楽四重奏不毛の地だったフランスがあれよあれよという間に若くてちゃんと弾ける連中がひしめき合うウルトラ激戦区になってしまう真っ只中にいた連中です。

どういうわけか、「今年のアルデオQはこうなっております」というメニューみたいなリリースを毎シーズン送って下さっていて、日本時間の本日午後もメールが届き、刈り入れが済んだ田圃とまだまだ頭を下げる稲穂の原が入り交じる秋を眺め、ああまだ俺も現役扱いなんだなぁ、と感じ入ってしまったでありまする。

もう10数年も前にレッジョ・エミリアとかでちょっと喋ったくらい、ましてやその時のタンクタンクローみたいな元気の良いチェロねーちゃんはとっくにいなくなっているというのに、未だ律儀にリリースを送って下さっている。となれば、こんな影響力皆無の無責任私設電子壁新聞とはいえ、どこでどう関心ある方がいるかもわかりゃしないから、ご紹介しましょうぞ。なんといっても昨年だかに出した《ゴルドベルク変奏曲》の弦楽四重奏版が、今のこの団体の看板じゃないかしら。こちらをどうぞ。
https://arts-scene.be/en/asd-artistes-videos-Quatuor-Ardeo-1070
そうそう、この団体の今のヴィオラ奏者さん、ウェールズQがミュンヘンARDで3位になった後にバーゼルに留学してシュミット御大に習っていた頃、ヴィオラ奏者としてずっとやっていた原裕子さんです。日本にもラ・フォル・ジュルネで来たりしているから、ご存じの方も多い筈。

さて、今シーズンのアルデオQのレパートリー、送られて来たリリースからまんま貼り付けてみます。弦楽四重奏のみは以下で、テーマが付いていたりして。なお、他にもクィンテットや特別演奏会のプログラムも用意されています。こういうプログラムを交代しつつ、年に60回とかの演奏会を行うのが、「常設」団体なのでありまするよ。ほれ、こんなん。

Autour de l’Amour
Dvorak - Mendelssohn - Janacek

XIII Schöne welt wo bist du?
Purcell - Schubert - Crumb

Variations Goldberg - Bach / Meimoun

L’appel de l’Amérique
Adams - Hisaishi ou Rhorer - Dvorak

Terra Memoria
Mayer - Saariaho - Mendelssohn

Projet Razumovsky
Beethoven: 3 quatuors op.59

なかなか興味深いですな。幾つか極めて特徴的なプログラムが用意されているのは、いかにも弦楽四重奏マーケットの競争が激しい文化圏らしく、へええ、と思わされますね。

そんな中でもひときわ興味深いのは、「アメリカからの呼びかけ」と題されたもの。中身を眺めると、こんなん。
https://arts-scene.be/en/asd-artistes-programmes-Quatuor-Ardeo-795
へええ、まずはアダムスとはいえ最近の弦楽四重奏曲ではい若い頃の作品が最初に置かれ、メインはドヴォルザークの《アメリカ》。で、間の1曲が、なんとなんと、ローラー《夜の観察者》か久石譲弦楽四重奏第1番のどちらかお好みで、ってさ。

へええ、アメリカ特集に、「宮崎音楽で名高い作曲家のアメリカ流ミニマル」って紹介で久石譲のシリアス系作品が取り上げられてるんですわ。

今やドイツ・グラモフォンから自作自演アルバムが発売される久石譲、いよいよ秘曲とも言える室内楽作品をレパートリーに入れようという連中が出てきているんですねぇ。

さっきから、確か香港藝術中心の売店で買った個の曲のCDを探そうとしているんだけど…めっからない。流石にNMLには上がってないなぁ。YouTubeには第1楽章だけアップされてますな。こんなん。
https://youtu.be/fODcTofmqtI?si=AqSAVYl2xozfHFtq

ご関心の方は、こちらが楽譜でございます。ショットさんからしっかり出ておりまするよ。
https://shop.schottjapan.com/products/sjh007


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今年もやりますアジア・オーケストラウィーク [音楽業界]

芸術祭って去年で終わっちゃったんじゃないの、と思う人が殆どだと思うけど、ところがどっこい、京都にお役所が移転して東京との移動費が膨大でタダでさえ少ないアートへの助成金がJR東海にごっそり取られている、なんて嘘かホントか判らぬ噂飛び交う文化庁さんでありまするが、なんとなんと、今年も「芸術祭」はやっており、10月ともなれば「ゲージュツの秋」到来なのでありまするよ。ほれ、文化庁さん、 昨年の公式サイトでこう仰っておりまして、要は「芸術祭参加公演を募り、その中から優秀なステージには賞をあげますよ」というのはもうやらず、個々のステージじゃなくて人に賞をあげるつもりなんで待っててね、ってこと。

「参加公演・参加作品については,それぞれの部門で公演・作品内容を競い合い,成果に応じて文部科学大臣賞(芸術祭大賞,芸術祭優秀賞,芸術祭放送個人賞,芸術祭新人賞)が贈られます。/なお、参加公演・参加作品の募集および贈賞については、今年度(令和4年度)で終了とします。/来年度(令和5年度)以降は、優れた芸術文化活動を行う個人を顕彰する制度をより充実させる方向で検討して参ります。」(文化庁「文化庁芸術祭について」より)

そんでもって、じゃあ今年はどうなったか、ってのはよくわからんのだけどぉ、ともかく、昨年みたいにやくぺん先生世を忍ぶ外の人の同業者さんのあの方この方などが御上から指名されて、毎晩いっぱい舞台を眺めて、どれが良かったか決めなければならない、ってのじゃなくなったようで、こういう制度になったみたい。残念ながら、もう応募は先週で終わってますけど。
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93939201.html

そんなこんな、ともかく今年もやります第78回目となる芸術祭、その開幕を彩り、年にたった一度のニッポン国御上が直接主催者となって(事業としてはオケ連さんに丸投げだけど)行う海外オーケストラコンサート、「アジア オーケストラウィーク2023」が開幕でありまする。こちらが公式案内。
https://www.orchestra.or.jp/aow2023/

売りはなんだ、と言われれば、もうハッキリと「團伊玖磨の《シルクロード組曲》、エルキンのヴァイオリン協奏曲、弦楽合奏版のイサン・ユン《タピ》、が3日間で総計3000円で聴けるぞぉ!」でしょう。もうほぼタダみたいなこのお値段、コロナ前の「ベルリン・マドリード航空料金無料!」なんて煽ってたLCCみたいじゃわい(あ、手数料やら空港税やら付くので、航空券タダでも無料ではなく、なんのかんの日本円で5,6千円はしましたけどね)。これはもう、行かないわけにいかんでしょ。

中身に関しては、こちらをお読みあれ。
https://fan.pia.jp/piaclafan/news/detail/116/

ちなみに、マニアさんであればあるほど「なんじゃこりゃ」とアヤシく思うかも知れない「韓国チェンバー・オーケストラ」でしょうが、なんのことはない「Korean Chamber Ensenble」とか、他にもいろいろな名前でずっと昔から日本にも紹介されていた団体で、この辺りの紹介がいちばん判りやすいかな。
https://www.kronbergacademy.de/en/artists/person/korean-chamber-orchestra
これが公式のURL
https://kco.or.kr/?ckattempt=1

オケ連の方に拠れば、ソウル首都圏のいろんなオケやらの弾ける若い奴らが120人くらいがメンバーリストに載っており、その中からピックアップでもの凄い数の公演が行われているとのことです。数週間前のソウル公演、滅茶苦茶上手だったそうな。

ぶっちゃけ、齢81で40年くらい前に引き継ぎ、意向、ずーっとコンマスに座っている韓国の伝説のアンサンブルの神様キム・ミン御大、さしずめソウルの豊田耕児か原田幸一郎か、って巨匠の芸に接するだけでも価値があるかも。お暇な方は、このドキュメンタリーを延々ご覧あれ。N響でお馴染みの顔も出てきますよ、


さあ、お暇でもお暇じゃなくても、10月5日から3日間は初台にGO!

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北京国際音楽祭2023 [音楽業界]

コロナ後、なにより困るのはアジア圏との技術格差による情報断絶がより酷くなったこと。

10年代後半に入ってから、中国大陸や韓国の情報環境がインフラ後進国老衰ニッポンなんぞを遙かに上回るスピードで変化し、よく言えばありとあらゆるものが携帯端末の中に突っ込まれるようになって、北京の街で飯食おうとしても「え、ここは現金ダメですよ」って状況になっていた。それがコロナの人的往来規制や情報規制で更に加速。ネットで世界中から買えるようになったと10年代初期には嬉しく思われたチケット購入も、技術が進歩するのに外国対応など後回し。今では購入に国民番号みたいなものが必要になったり、海外発券のカードは最後の最後ではじかれたりで、日本で言えばマイナンバーカードみたいなものを持たない外国人は画面上で何も出来ない。それどころか、ライヴでも北京南の新空港下りて地下鉄の切符買おうとしても、外国人は人が居るか居ないか判らぬ窓口を探さないと買えない有様という。ネット上でも実生活でもどんどん「デジタルの壁」が高くなっている感は否めない。ま、今のニッポン御上も、必死になって目指す方向は技術先進国中国なんだけどねぇ…

とはいうものの、たかが文房具がどうなろうがニンゲンは強かに生きていかねばならぬ。そろそろやくぺん先生の周囲でも、「コロナ後始めて中国に来ました」なんて演奏家からのSNS情報が目に入るようになったりしており、大陸鎖国状況もちょっとは緩んだかという感もなきにしもあらず。んで、ひとつ、ある程度纏まった英文情報が出てきている大物イベントについて紹介しておきましょうか。

秋の中国大陸といえば、やはり国慶節を挟むくらいの感じで開催される北京国際音楽祭でありましょう。0年代後半以降、実質上の中国大陸クラシック音楽の明治維新みたいな状況になり、北京五輪から上海万博を経て、20世紀末頃から御上主導でガンガン建ち始めていたホールやら音楽堂やらの中身を支える音楽業界も、それなりに近代化された。そんな流れに乗って「国際」音楽祭として急成長を遂げつつあったのが、北京はポーリーシアターなんぞを中心に開催されているこの音楽祭でありました。今年の公式英文案内はこちら。
http://www.bmf.org.cn/en?fbclid=IwAR0ob9SC4GLnR7wmQO_ICMLe_khCJKkI2UJs0RgwjCpbKtxkZXkdPK6PfNA
9月22日に開幕し10月15日までの3週間ちょいの長い開催期間に北京各地で25公演が繰り広げられるという典型的な「都市型音楽祭」で、夏の避暑地音楽祭なんぞに比べると案外とポイントが絞りにくい、紹介しに難いものになってしまうのは否めない。有り難いことに、本日、なぜかトロントの英文媒体がこの音楽祭の紹介記事を出してくれたので、当無責任電子壁新聞としてもそれに乗っかってご紹介する次第。
https://www.ludwig-van.com/toronto/2023/09/25/feature-beijing-music-festivals-25th-anniversary-celebrates-fusion-of-east-and-west/?fbclid=IwAR3ZQ_qGawjgrQrCT8WAZF9VBT9vCSFsHRtKIW6MnwiKQbSvrbY3sGWMa08

この音楽祭、実質上オープニングから芸術監督として引っ張っているのは、あのロン・ユー御大でありまする。で、上海万博後の欧米中国投資ブームに乗っかり、所謂欧米メイジャー楽団の来演やら、大規模なオペラの舞台上演などを重ねて来た。当無責任電子壁新聞でも、その頂点とも言うべき「カラヤン演出《ヴァルキューレ》のリブート再上演」なんて派手派手なイベントを紹介したこともありましたですなぁ。ああ、もう6年も前のことになるんだ…
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2017-10-11

流石のロン・ユー御大も「中国のカラヤン」として北京、上海、広州、香港と全てのメイジャーシティのオーケストラのシェフを兼ねるなんてもの凄い状態を続けるのにお疲れになられたか、そろそろ若手にポジションを譲る空気も流れ出しているコロナ後の世界、相変わらず中国への巨大な文化投資をしていたドイツ&アメリカ合衆国との交流も以前同様にはいかなくなってきたこともあってか、今年のメインテーマは「若手」だそうな。まあ、実際、中国の若い働き盛り世代とすれば「北京にブラームスが流れた日」も天安門事件以前の紀元前の話、クラシック音楽なんてあって当たり前のものとなった今、中国国内を拠点として活動する音楽家だけでも立派に「国際音楽祭」レベルの大イベントがやれるのだぞ、というアピールでもあるのでしょうねぇ。無論、外国からの巨大なプロダクションをまだまだ持ち込めないことを逆手に取った賢いやり方だったのは、誰にだって判ることだけどさ。

やくぺん先生の個人的な関心からすれば、もう今年はこれ一択なんですけど
http://www.bmf.org.cn/en/play-detail?id=541

なんだか急に周囲で流行になってるフェリントン編曲のマーラー《巨人》とかも出てきちゃったりしてるのは、今風だなぁ。

とはいうものの、じゃ、ちょっと北京まで行ってくるか、って世界がホントにいつかは戻ってくるんじゃろかのぉ…

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2023年に30代がモダン大オーケストラのシェフになるということ [演奏家]

「暑さ寒さも彼岸まで」という諺(なのか?)が、「暑さ暑さだ彼岸まで」になった気候変動の21世紀、流石に春分の日も過ぎて新帝都は辛うじて「秋」になり、大川端からインバウンド溢れかえる銀座抜けてチャリチャリ溜池まで走るサイクリングもヤッホーと声も朗らか、まだなんとなくだらしない湿っぽい空気も残る新帝都に来演なさった京都市交響楽団を拝聴させていただいたでありまする。こちら。
https://www.kyoto-symphony.jp/concert/detail.php?id=1238&y=2023&m=9

結論から言えば、客席ステージ上ともに大いに盛り上がっていたこの演奏会、もの凄く評判の良かった広上氏の後を受けるというそれなりに難しいポジションにある話題の新シェフが手兵を連れてのお披露目ということもあったのでしょうけど、いろいろ「なるほどねぇ」と考えさせられるものでありました。今やすっかり新帝都はアウェイの田舎者となったやくぺん先生とすれば、「地方オーケストラ」などと十把一絡げにはとてもじゃないが出来ない、「ああ、流石に京都さんはスゴいなぁ」と憧れの目で眺める温泉県にプカプカ浮かぶ隠居爺じゃからのぅ。

この演奏会、過去の京都市響の東京定期(というのかな)などと比べても、恐らくは相当に違う雰囲気だったんじゃないかしら。京都市響といえば、「日本で唯一の自治体直営オーケストラ」というキャッチフレーズでデビューし、ある意味で反骨反中央の真の都の象徴とも思えるような動きをしたり、都響以上に県外には出なくて稀に出るときにはモーツァルトのピットばかり、若杉時代には「初演魔」の面目躍如で当時の欧州流行になりかけていた新ヴィーン楽派やらマーラーやらの周辺の作品をいろいろやったり。東京公演でも、なぜだか知らないけどゴールドマルクの交響曲《田舎の結婚》なんて珍品を文化会館の天井桟敷で聴いた記憶があるのだが、どうにのデータがめっからない。70年代後半から80年代初め頃だったような気がするんだけど…

ま、昨今はびわ湖ホールで大きな編成の作品をやるときのオケ、という感じのこの団体、本日の新シェフお披露目も、そんな期待を裏切らない演目で、なにやら雑用やら身体検査やらばかりの今回の田舎者爺い新帝都滞在でのハイライトのひとつであったわけですな。これがなければ、ハノイ弾丸取材って年寄りには無茶な仕事も受けてたかも。

さても、どういうわけか同業者関係者が溢れる席に押し込まれたお彼岸の日曜午後、カナフィルの名物ヤンキー臭で人気のコンマスが座り、ドカンと大編成が控えたベートーヴェンの変ロ長調交響曲が今時の独仏ベネルクスならヒョーロンカマニア層から「時代遅れ」と一蹴されかねない堂々たる音楽が鳴り響くぞっ。最近、こういう類いの音楽は弦楽器数人、管1本、なんて編成で見慣れてしまった温泉県爺には、なんともビックリのサウンドじゃっ!

そして本日のメインイベントは、後半に置かれたコネソンの大作《コスミック・トリロジー》でありました。1970年生まれのこの働き盛りのフランス人作曲家さん、ランドフスキに学んだというところからも判るように、所謂「前衛」の流れを汲んだIRCAM系作曲家ばかりが紹介されるフランス音楽業界にあって、ま、ある意味堂々たる保守本流ですな。「フランスの吉松」なんて言うとまた妙な顔をされそうだけど、まあ、モダンな大オーケストラからの管弦楽作品委嘱なんぞがメインの仕事をなさっている方です。要は、夏の終わりの欧州メイジャー系紹介溜池現代音楽週間なんぞでは、いくら待っても仕事が来そうにないポジショニングの方、ってことかな。

今時のモダン大オーケストラをごっそり使い、打楽器なんぞはしっかり入って、とはいえ電子楽器やら特殊なエスニック楽器などは用いず、それらをジャンジャン衒いなく鳴らした急緩急の3楽章40分越え作品なんて、正にメイジャーオーケストラ定期演奏会のメイン演目となるべく書かれたとしか思えぬ創作。終演後はあちこちで「マシューズの《冥王星》がいまひとつだった《惑星》の、ホーキンズまでぶっ飛んだ続編ですかね」なんて声が盛んに挙がってたのは、みんな思うことは同じというか、みんなに同じことを思わせたんだからコネソン先生大成功、ってことなのかな。

京都市響のスタッフとの立ち話で聞いたところに拠れば、新シェフが純粋に作品として気に入って持ってきたもので、別にオケや京都とコネソン氏がコネがあるわけじゃないとのこと。昨日の京都でのプレトークでは、新シェフは「この曲を客演指揮者として持って行ったら、もう2度と呼んでくれないでしょうから」と苦笑なさってたとのことです。

ま、そんな自虐ネタはともかく、このプログラム、なんじゃらほいと思って聴きにいったわけだけど、終わってみれば新シェフの意図は非常にハッキリしてましたね。要は、「21世紀にモダンの巨大オーケストラで私はこういう仕事をします」という所信表明演説だったわけですな。

ベルリンに在住で、コロナ時代にSNSやZoomで同世代の付き合いもしっかり取っていたという沖澤新シェフ、当然ながら現在の30代指揮者が置かれた状況は良く判っていらっしゃる。特に、同世代の先行して既にスター街道を往っている欧州の連中などのやっていること、やってきたことを知らない筈がない。そんな中で、敢えて現在の大流行の「歴史的情報に基づきモダン楽器の響きをコントロールする」今時流行の古典再現とは一線を画した、師匠マズア直伝なんだか知らんけど、王道のベートーヴェンを披露する。続いて、それこそ同世代の日本のスター指揮者さんなんかが盛んに取り組んでいる「新しいクラシックレパートリー開拓」での新作合同委嘱とか、戦後前衛の影で名前は知られているがコンサートレパートリーとしては等閑視されていた諸井三郎とか大澤壽人とか信時潔とか、はたまた伊福部とか吉松隆とか水野修考とかあれこれあれこれ、もうきら星の如く存在するオーケストラのメイジャー演目となる作品を遺している巨匠歴史的大物の蘇生とか、要は「オーケストラレパートリーの見直し」の作業に、ベルリン在住という視点から(でしょうね、三沢出身としての東北視点、とかじゃないみたいですから)彼女なりに取り組むぞ、という決意表明をなさった。そして、それなりの成功を収めたわけでありまする。

それなりの、というのは、演奏がどうだったとかじゃなく、果たしてこの作品を「レパートリー」にしていくのか、何度も取り上げる気があるのか、ということです。なんせ、現代音楽の世界では「大事なのは初演だけでなく、再演がなされるか」という箴言がありますから。

なるほど、これが2023年にモダンオーケストラのシェフになるということなのね。思えば、ペトレンコ師匠だって、昨年の秋にやくぺん先生がベルリンフィル天井桟敷で拝聴した定期ではなんとメインにコルンゴルドの交響曲を据え、そのまま北米ツアーに持ってったわけだし。ニッポン公演にも、一部の熱狂的愛好家以外はしんみりむっつり煙たいだけのレーガー大作を持ち込んだりしてる。ヴィーンフィルやらメイジャーオケのソウル公演はまた別として、モダンな大オーケストラも常に変化しているぞ、ってことですな。

ま、田舎者には遠い目になってしまう話じゃの。

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三重協奏曲讃 [演奏家]

昨晩は遙々と石川県立音楽堂まで日帰り、オーケストラアンサンブル金沢に客演する葵トリオを久しぶりに拝聴してまいりましたです。
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https://www.oek.jp/event/5239-2

やくぺん先生世を忍ぶ外の人の現役時代の仕事の仕方からすれば、葵トリオさんは「もうこいつらは俺が見る必要はないな」ってポジションに来てるわけで、貧乏な中をシンカンセン乗って金沢くんだりまで出かけて(往路はANA直前マイル使用、有り難くも3000マイルで羽田から小松基地まで運んでいただけましたです)、一昨年暮れだかの名古屋のカセッラなんて「今回聴き逃すともう聴けないぞ」ってもんじゃない、定番中の定番曲をそこまでして聴くこともあるまいに、と呆れんでもないわけじゃが…

とはいえ、なんせピアノ三重奏という形態の団体が、ニッポン国文化圏をベースに「常設」としてこの先四半世紀やら半世紀やらの時間をかけて中堅巨匠へと成熟していこうとしているなんぞ、過去に類例のない壮大な(無謀な、ドンキホーテな!)実験でありまする。なんせ、弦楽四重奏の場合は、それこそ結成から空中分解、はたまた実質上の活動停止など含め、死屍累々の惨状を無数に眺めるのが商売ですけど、ピアノ三重奏は全く始めて。無論、老い先短い爺、その全過程を眺めるなんぞ絶対に出来ないとはわかりきっており、寂しさを感じるなと言われても無理というもの。それでもやっぱり遙々眺めに行ってしまうのは…あああぁこれがニンゲンの業というものであろーかぁ、ううううむ。

もといもとい、老いぼれの繰り言はともかく、若く未来のある葵トリオでありまする。皆々様ご存じのように、葵トリオは2018年秋のミュンヘンARD国際音楽コンクールで行われたピアノ三重奏部門で優勝、実質的にキャリアのスタートを切ったわけでありますな。で、それからもう5年、ヴァイオリンとチェロとピアノが独奏者となるベートーヴェンの三重協奏曲の独奏を担当するユニットとしてオーケストラ・アンサンブル金沢の定期演奏会と名古屋及び大阪ツアーに参加することになった。

って記すと、「だからなんだ」でしょうけどぉ…これ、実はもの凄くレアなことなんですわ。今、日本語文化圏で最も簡単に過去の上演演目の検索が可能な東京文化会館のアーカイヴで「ベートーヴェン 三重協奏曲」と検索してみましょうぞ。1961年からサントリーが出来てメイジャー団体の定期が去っていく21世紀初めまでの40余年だけのデータと考えても、なんとこの作品が上野の舞台で演奏されたのはたった19回。そのうち、所謂著名な「ピアノ三重奏団」がソリストを担当した演奏は、敢えて言えば「イストミン・スターン・ローズ」トリオしかないのであります!これ、なかなか衝撃的な事実でしょ。
https://i.t-bunka.jp/search/result?q=%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%80%80%E4%B8%89%E9%87%8D%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2
まあ、一番最初にやってるのが巖本真理&黒沼俊夫&坪田昭三という実質的に巖本真理Qの中心人物ふたり、というのがなんとも味わい深いですけど、70年代の日本ではピアノトリオの代表と信じられていたスーク・トリオも、日本を代表する「中村紘子・海野良夫・堤剛」トリオも、ある時期の日本で唯一の常設に近いトリオ活動をしていたジュピター・トリオも、上野でオケをバックにこの作品を演奏していないようなのですわ。へえええええ…

ま、そんな上演レアな作品を、既に札幌で札幌交響楽団の演奏会でも披露している葵トリオさん、再びの登場なわけであります。

有名なコンクールで勝ったんだから当然だろうに、ってお思いになられてもしかたない。ところがどっこい、それがそれが、またレアな機会なんじゃよ。「世界的に著名なコンクールに優勝すれば、プロアマ含め世界に何千と存在するオーケストラからソリストとしての声がかかる」なんて成功物語、存在するとすればあくまでもピアノやヴァイオリン、チェロなんぞ「ソリスト」という業種が存在している課目での話です。室内楽のコンクールの場合、今年立て続けに開催された大阪、メルボルン、ミュンヘンARD、はたまたバンフ、ボルチアーニ、ボルドー、ロンドンウィグモアホール、などのグランドスラム級大会でぶっちぎりで優勝しようが、世界中のオーケストラから独奏者としての声がかかり引き手数多、なんてことは絶対にないんですわ。

理由は簡単、曲がない、それだけです。特に弦楽四重奏の場合は、所謂オーケストラとやるメイジャーな協奏曲がひとつもない。無論、マニアさんたちからは「シェーンベルクがあるだろーに、マルチヌーやシュポアにだってあるぞぉ」という声は挙がるでしょう。昨今では、アダムスの《アブソリュート・ジェスト》という将来有望な作品も出てきたし、デュサパンにもあるし、努力は続けられている。

でもね、普通の意味での世間の音楽ファンがみんな知ってる作曲家の手になるメイジャーな「室内楽グループとオーケストラのための協奏曲」って、ひとつしかないんです。そー、楽聖ベートーヴェンが元気もりもりになり始める頃にお遺し下さった、「ヴァイオリン、チェロ、ピアノとオーケストラのための三重協奏曲ハ長調」ただ一つ!

作品としては、ピアノが暇すぎる、それに対しチェロが無性に難しい、あれやこれや文句を仰る方もいらっしゃいますが、なんのなんの、ハ短調ピアノ協奏曲やら交響曲第4番くらいには人口に膾炙した、泰西名曲の地位を200年以上保ち続けているわけでありまする。

この作品、何がありがたいかと言って、第1楽章なんぞではそれなりにヴァイオリンもヴィルトゥオーゾっぽいことを見せてくれたりしつつ、なんのかんの最終的には第3楽章で「ピアノトリオ」という形態を聴く楽しみ、敢えて言えば「ピアノ三重奏という音楽のプレゼンテーション」をしっかりしてくれているということ。この作品を聴き、大盛り上がりのアンコールにハイドンの楽しいト長調のジプシー・ロンド楽章やら、昨晩のようにベートーヴェンのピアノ三重奏曲第2番の第4楽章みたいパリバリな音楽を弾けば、会場に座ったピアノ三重奏なんて地味な演奏会を自分から切符買って聴きに行くなんてまずあり得ないであろう多くの聴衆だって、「ああ、すごくカッコいいじゃん、もっと聴いてみたいなぁ」と思っちゃうでしょう。へえ、ピアノトリオって、いいじゃないか、ってね。

葵トリオさんは、この3日のツアーで恐らくは4000人くらいの聴衆に「ピアノトリオ」を聴かせることになるのでしょう。この数字って、オーケストラなどの関係者からすればなんてことない数でしょうけど、昨今の400人のホールでやれれば立派なものという室内楽業界の現状からすれば、10回もの演奏会をやったくらいの数。それも、いつもの顔ぶればかりの狭い室内楽マーケットではなく、広い客層に向けての露出なのですから、もう夢みたいな話です。

幸いにも、葵トリオの演奏は、作品とも相まって、あまりこのジャンルに馴染みのない方々にも「おおおおお」っと思わせるものです。いやぁ、ホントに、ベートーヴェンさんありがとー、ルドルフ大公様ありがとー、シュパンツィックさんありがとー、で御座います。

とはいえ、葵トリオにして次にいつこの作品を弾けるかは判らないそうな。お暇な方は、名古屋大阪へ是非どうぞ。

[追記]

葵トリオのマネージャーさんに拠れば、なんとまぁ、葵トリオさんったら3回の公演のアンコール、全て違う作品を披露したそうな。「常設ってのはこうなんですよ、ってアピールです」とのこと。葵トリオさんとしても、この作品はピアノ三重奏団として取り組み、深めるに値するポテンシャルがあると仰ってるそうで、それこそライフワークとして取り組む気満々だそーな。さても、どこまで深められるか。各シーズンに1回くらいは演奏する、なんて繰り返せれば、全体未聞なんじゃないかな。

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音楽と演劇の融合は永遠の「実験」なのか… [演奏家]

金沢駅東口、正面の鳥居モドキを挟み石川県音楽堂とは反対側のスタバで、7時開演の葵トリオ独奏(?)OEK開演を待ってます。練習を眺められるかと思ってたんだけど、なんとこのオケ、欧米都市型オーケストラのような「GPは午前中」で、到着した頃にはもうとっくにプローベは終わってました。金沢まで来て、駅改札から数百メートルしか徘徊せずに戻る、って毎度のパターンでありますな。

さても、なんせ新帝都は縦長屋に蟄居しているときは塒にホントに布団があるだけで、勉強したりお仕事したりするには縦長屋勉強部屋とか喫茶店とか資料館図書館とかに潜り込まねばならないわけで、そんなお仕事空間が佃にあろうが銀座にあろうが、はたまた上野にあろうが小松空港ターミナルビルにあろうが、もーまんたい。どうやらコロナの間に移転したようなここ金沢駅前スタバだって、いつものようなお仕事空間でありまする。それにしても、お彼岸の金沢で33度の湿気た猛烈な南風の曇り空って、どこの島じゃ、ここは…

もといもとい。ともかく新帝都ベースになっているときはほぼ連日どっかの演奏会場に足を運ぶ日々。昨日も、ベッタリ湿気た空気を掻き分け、振り返っても海も港も欠片すら見えやしない紅葉坂を老体に鞭打ってえっちらおっちら登り、こんなもんに行ってきました。ヘンデルのオペラじゃない方です。
IMG_8924.jpg
これじゃなんだか判らんわなぁ。こちら。
https://www.kanagawa-ongakudo.com/public_kanagawa-arts.or.jp/event_pdf/ongakudo_shojisakaya_flyer.pdf

ま、チラシをご覧になっても「??????」ってなるのがホントのとこでしょうねぇ。ともかく、庄司紗矢香さんらがソリスト、モディリアーニQがバックバンドでショーソンのコンセールをやり、どうやらそれに3人のプロの役者さんが演じる平田オリザ氏書き下ろしの短い演劇が付く…んだか、被さるんだか、なんだかよくわからんが、ともかく「コラボ」するよーであーる。で、その前には、オマケというわけでもなかろうけど、1本のコンサートとしての常識的な長さをきちんと確保するためになのでしょう、出演者が普通のコンサートのような演目を披露してくれるらしい。

県立音楽堂のプロデューサーさんにご挨拶しロビーを眺めると、こんなタイムラインが貼ってあるぞ。
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おおおお、なんてこったぁ、ショーソンのコンセールって、40分弱くらいかかるデカい曲ではあるものの、平田オリザ演劇付きヴァージョンって1時間半以上もかかるんかいなぁ。《子供と魔法》どころか、《サロメ》程もあるじゃないかい。

県立音楽堂はかなりの埋まりようで、とはいえ改装されてからも決して広いとは言えぬ席に押し込まれた善男善女、下手側に公園のベンチと街灯が据えられ、真ん中にピアノが置かれたステージを、何が起きるのやらと眺めておりまする。

まずは真っ暗なステージにヴァイオリンとピアノさんが出てきて、下手からリーマン風の男が出てきてベンチに座り、瀧口修造の「妖精の距離」を朗読。この朗読、単語ぶつ切りだったのは、恐らくは演出家さんの意図なんでしょうね。

役者が暗転すると、音楽家に光が当たり、武満が演奏される。そのまま拍手無しでドビュッシーのソナタが奏でられ、拍手。Qモディリアーニが出てきて、ヴェルディの弦楽四重奏曲を演奏。この作品、やはり第1楽章などどうしても「アムネリスの焦燥」というアジタートっぽい音楽になるのが殆どだけど、なにやらフレーズが妙に長くソットヴォーチェに終始するような押さえに押さえた音楽。この団体の毎度ながらといえ、正確さや細部の精妙さよりも全体の雰囲気重視、って音楽で、ま、なんというか…「イタリア語4幕改定版《ドン・カルロ》と思ってたら、フランス語初演5幕版《ドン・カルロス》だった」ってかな。うーむ、酷い比喩だなぁ…

で、休憩になり、いよいよ後半は庄司&平田オリザのコラボ創作になります。このプロダクション、誰がどう考えてもプロデューサーがいないと不可能な仕事なんだけど、誰がどうやって作ったかは一切の説明もない(判る人がみれば判るでしょ、ってデータすらなく)。そこにいた庄司さんのマネージメント関係者さんに尋ねたら、ある程度の種明かしはしてくれたのだけど…ま、こんな無責任電子壁新聞に記すようなことじゃないわい。そんなデータは鑑賞に必要ないです、と主催者側が判断してのことでしょうからね。

この日で3度目のステージになるというこのコラボ、演劇としての中身を説明するべきなんだろうけど…うううむ、ま、それもいいや。人生の半ば前くらい、青年時代は終わり、いろんな意味で生きるということに責任も出てきたけど、まだまだ青春はいろいろ引きずった記憶の中にある、というくらいの元リア充カップル2組の仲良しが、結婚して子供も出来た奴らの男の方が4歳の子供と嫁を残し若死にし、その葬式だかで田舎に戻ってきた3人が、街を見下ろす公園のベンチであれやこれや話をする、ってものでありまする。ストーリーはなく、人生のある瞬間のスケッチですな。

…っても、記そうかどうか悩んで、やっぱり自分のメモとして記しておくと、この「演劇」部分の醸し出すテイストって、なんかベケットの『エンドゲーム』みたいなんですよ。閉塞感の設定や意味がまるで違うけど、一種の閉塞感からの打開とその不可能さ、みたいな。ま、あくまでも感想ですから、気にしないよーに。

もといもとい、作品の大まかな作りについて。ショーソンの第1楽章が終わったところで、演奏家は暗転したステージ上で座ったままで、その横で舞台が始まります。で、第2楽章があり、またスキットが続き。第3楽章があり、またまたスキットが続き。第4楽章が演奏され、オシマイ。

ぶっちゃけ、ショーソンとこの「人生スケッチ」スキットの間には、なーんの関係もありません。3人の登場人物というのが、ヴァイオリンが4歳の子供と未亡人になって田舎に戻ってきた女で、ピアノがその昔の友人でもうひとりの男と別れた女で、弦楽四重奏が最初に滝口朗読してたリーマン風の男、ってわけでもない。いや、そうなんだ、と思って眺めたり聴いたりすれば、なにかみえてくるのかもしれないけど、そうしろとは誰も言ってません。そうなんじゃないか、なんて思いながら舞台を眺めてた人は少なくないんじゃないかなぁ、と思うけどさ。

とはいえ、両者の間に関係がないかと言えば、こんな風に見せられれば関係なく感じろなんて言われても無理です。やっぱり第2楽章なんて、「あああ、みんなでお線香あげにいって、そこでいろいろ感じたり思ったりしているのかぁ」なんて映画のBGMみたいに聴けちゃう。第3楽章だって、別れた2人の対話に去来するいろいろと複雑な思いが描かれてる…って感じろといわれれば、そう感じるでしょうねぇ。終楽章だって、こうやって人生は続き…って風に感じられるかも。

ま、まるで異なるものを並べ、それを鑑賞する側が勝手に解釈し、感じれば良いのだ、と思えば、これはこれでありでしょう。敢えて暴言を吐けば、この「作品」、演劇パートがターゲットとしている客は県立音楽堂の中でたったひとり、庄司紗矢香さんだけでしょう。

平田オリザさんが舞台に上げた人生のある瞬間のスケッチを直ぐ横で眺める庄司さんが、そこで感じたものをショーソンの譜面の中に瞬時に反映していく。恐らく、この演劇空間の横では、『エグモント』のような英雄悲劇も、『フィデリオ』のような夫婦讃歌も、はたまた『リア王』のような壮絶な叫びも聞こえる筈がない。その意味では、誠に「コラボ」でしかない音楽が奏でられました。

だから、これはこれであり、なんでしょう。叱られそうなことを言えば、演劇部分というのは「湯豆腐の昆布」みたいなもので、まあ好きな人は食べても良いけど、ホントはそっちじゃないからね、ってね。

終演後に県立音楽堂のプロデューサーさんに直接言ったことをあらためて記しておけば、この「作品」、演劇祭みたいなところでいくつか違うヴァージョンを交代上演してみる素材としては極めて有効でしょう。ショーソンのコンセールという音楽と演奏者は固定し、演劇部分を「故郷の町を見下ろす青春が終わった3人ヴァージョン」と、それとは全く違う話のヴァージョンを用意し、交代で上演する。と、ショーソンがどんな風に違って聴こえてくるだろうか…なんてやり方ですな。

さもなければ、演劇部分はそのままにして、音楽を全く違う4楽章作品にする。個人的には、この話に最も似合っているのは、ケージの《4つの四重奏曲》だと思うなぁ。特に、最初のスキットが「数を数えること」と「永遠」の恐ろしさ、というテーマにも思えちゃうんで、ミニマル系はピッタリでしょう。《ラズモ》の第3番とか作品132とかみたいな、「最後に向けて明快に解決を求めて動いていく」ってタイプの音楽は絶対にダメでしょ。ラヴェルの弦楽四重奏、って声が挙がるだろうが…ううううん、どーかなぁ。

ま、こんなどーでもいいことを考えさせてくれただけでも、このプロダクションを作って下さった方にはありがとう御座いますと申さねばなりません。とはいえ、まだこれから聴く機会がある方に、是非とも会場へ、とは敢えて言わんなぁ。やはり「実験」ですからね、これは。積極的にそんな実験にも付き合ってやろう、という方が来て下されば充分じゃないかしら。

なお、上の写真のタイムライン、完全に間違いです。実際は演劇パートはそんなにバランス崩して大きくはなく、終演は9時20分過ぎくらいでありました。ご安心を。

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11月のソウルは東京以上のオーケストラ・ラッシュ! [音楽業界]

数日前からやっと本腰を入れて秋から来年の春節くらいまでの日程を本気で弄り始め、とてつもないことを知りました。

今年で創設30年を迎えるソウル・アーツ・センター、今月もインキネン様が手兵連れて来たり、個人的にはスゴく嬉しい元ノヴスQヴィオラくんのソウルフィル指揮台への登場とか
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=47411
ハンナ・チャンが指揮でマイスキーが弾くとか
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=47718
なかなか興味深いことが起きている。

続く10月にも、ロンドンフィルとかチューリッヒ・トンハレ管とか、はたまたチェコフィルとか大人気シェフ率いるオスロフィルとか、じゃんじゃんメイジャー団体が来て演奏しているんだけど、11月の前半がとてつもないラインナップになっておりまする。

まずは、11月7日と8日、ニッポンでは不動の人気を誇るヴィーンフィルが日本訪問前にソウルに来訪。指揮は日本はまだ決まってないけどソキエフで、独奏はラン・ランじゃぁ。
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=47703

その週末の11日と12日は、先頃Bachtrackが行い大いに物議を醸している「欧米の大手メディア評論家が選ぶ世界のオーケストラ&指揮者ベストテン」で
https://bachtrack.com/worlds-best-orchestra-best-conductor-critics-choice-september-2023?fbclid=IwAR0wV8FsSqLgvd219C-EfGpTZcq6Go8LDEHy1cilqQjHC7_KhAKcsfJ50Pg
堂々ぶっちぎりの1位に選出された天下のベルリンフィル&ペトレンコ様の登場じゃっ!
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=47701

それどころか、なんとなんと、11日にはロッテ・コンサートホールでルイージ指揮コンセルトヘボウとバッティング、なんてまるでトーキョーなことも起きてます。
https://www.lotteconcerthall.com/kor/Performance/ConcertDetails/259980

そしてソウル・アーツ・センターったら、わずか一週間にスーパー・ゴージャス・オーケストラ三連発の最後となる11月15日と16日には、ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管が登場でありまする。
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=48926

それだけで終わらず、ちょっと間は開くけど月末の26日と30日には、なんとなんと、チョン・ミュンフン御大がミュンヘンフィルを引き連れて来演。
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=47697
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=47696

うううむ、ソウルの状況、ちょっと前には「毎日が国際音楽祭」と苦笑されたトーキョーを質的に上回る勢いですなぁ。興味深いのは、これらの欧州メイジャーオーケストラのSACでのコンサートでは、ソリストがみんな自前の韓国系か、アジア系ということ。これって、結構、とんでもないことじゃないかしらね。日本ではちょっとないだろーに。

その間にも、ソウル御三家オケがちゃんと定期をやってるわけだし、ヨー・ヨー・マやらユジャ・ワンやらが来てリサイタルやってるわけだし…

それにしても、流石に11月11日のSACとロッテでベルリンフィルとコンセルトヘボウというのは、ソウルでも後の語り草になるんじゃないかしらね。どっちもチケット4万円台ですし。

なお、やくぺん先生ったら、周囲で何が起きてるかなんて知らんと、これだけ行って帰りますう。詳細は、追って。
https://www.lotteconcerthall.com/kor/Performance/ConcertDetails/260132

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