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クァルテットを続ける [弦楽四重奏]

弦楽四重奏団というジャンルは、「ソリスト」とはまるで異なり、ホントの意味での「新人」を追いかけるのが不可能な困った業界でありまする。新人が出てきても、コンクールなどで結果を出してもそこからものになるまでに最低でも5年、普通は10年かかってやっと「期待の新人登場」くらいの注目を浴びるか浴びないか。

20代前半に結成されたとしても、欧州では「30歳の壁」での選り分けが待っている。簡単に言えば、ヨーロッパのきちんと給料が払われ生活の保障がされる臨時編成自主運営なんかじゃないまともなオーケストラの場合、トゥッティ奏者として採用されるオーディションの年齢制限が30歳くらいまでで、それを越えての採用となると別ジャンルで既にキャリアを積んでいる奴が首席クラスで採用されることがあるくらい。つまり、30歳のところで弦楽四重奏団として喰っていくかを決断しないといけん、ということですわ。

北米でも似たようなもので、30過ぎくらいで「解散します」とFacebookやtwitterに投稿して活動を終える、なんて団体がいくらでもおります。ロルストンQもコロナ禍で活動停止だそうだし…。ま、室内楽コンクールそのもののを評価しない、という考えもあるわけだけどさ。https://chambermusicamerica.org/articles/in-it-to-win-it/
ちなみに、この昨年11月のチェンバーミュージック・アメリカの記事、ロルストン関係を以下に引用しておきます。ちなみにロルストンの第1ヴァイオリンのリー女史は、今はトロント響第2ヴァイオリン副主席だそうな。ふううう…
”Sometimes, competitions don’t provide the key to lasting success. Consider the Rolston String Quartet, which won first prize at the 2016 Banff competition. Despite this and other accolades — including the grand prize at the Chamber Music Yellow Springs competition and the Cleveland Quartet Award from Chamber Music America—the group disbanded last year amid a variety of career pressures, worsened by the pandemic. ”

って、話はどんどん別の方に突っ込んでるんでもうこれくらい。弦楽四重奏団を続ける困難さは世界のどこでも同じ、とあらためて確認したところで、昨晩は我らがソレイユQが作品130を弾いたぞ、という本論なのじゃ。

我らが太陽さん、ソレイユ弦楽四重奏団さんといえば、サントリー室内楽アカデミー第1&2期生から出てきた最初の「常設」を目指す団体でありました。こんなんとか…もう10年以上前なんだなぁ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2013-05-08
ありました、なんて言うとなくなっちゃったみたいだけど、毎度ながらの「クァルテット創設最初の5年」の壁を越えるところでメンバーがそれぞれの道を選択することになり、第2ヴァイオリンとチェロが「先輩おねーさん」として若いもんを従える形に再結成。チェロさんの本拠地の上田を拠点に年に1度の「定期演奏会」を行うことをメインに据えて活動を続けているわけでありますわ。若いもん、っても当電子壁新聞を立ち読みしようなんて酔狂な方とすれば、「ああ、琉球響のコンマス座ったりしてる彼と、反田オケにいるヴィオラくんじゃないの」なんて思うんじゃないかしらね。
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沖縄での活動なども模索していたようですが、とにもかくにも上田でのアウトリーチなどと、その前後に東京のサロン型会場での本気勝負、というやり方で7回目となるのかぁ。

なにせ0年代終わりからの「小規模コンサートスペース」ブームで、100席規模くらいのちゃんとした室内楽がやれる条件の良い民間スペースが日本各地に乱立することとなり、そういう場所の中でもメイジャーなヴェニュのひとつたる代々木上原の急坂の途中で、ちゃんと定員いっぱいくらいの聴衆を集めているのですから、立派なものとしか言いようがないでありましょうぞ。

こういう会場は、良くも悪くもダイレクトに生音が伝わり、もう一切の隠しようがなく、同規模の残響過剰な教会やら、響きが全部どっかに吸われれてしまうような宴会場やら、はたまた学校の講堂まんまで外の音がまるまる入ってきて音響も何もないやら…なんてところとは違う。ちゃんとしたマイクロ・コンサートホールです。それだけに、求められる演奏の質はかなりの水準となるわけで、いやぁ、侮れないわね、こういう場所での「定期演奏会」は。

年間にどれくらい練習やら本番やらの日程が入るのか知らんけど、自分らでマネージメント出来るところで、自分たちが弾きたい楽譜を音にする作業を続けられる状況を作れたのだから、これはこれでありなのでしょう。作品130の1楽章やらカヴァティーナ楽章前やらの、微妙なパルスとも言えぬ揺れみたいなものが自然と出てくるくらいになるまで、なんとか呆れられても同じ楽譜を繰り返して貰いたいものでありまする。

ちなみに、ソレイユを脱した元メンバーも、己の道を弦楽四重奏で開いていこうとなさっております。こちら。
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元ヴィオラさんが、ドイツでオペラのオケなどを弾き帰国した妹さん、それにこれまたアカデミーで別の弦楽四重奏をやっていた第1ヴァイオリンさん、それに知る人ぞ知る芸達者チェロ氏と結成した団体で、千葉や東京首都圏を拠点にアウトリーチなどを含めた活動をなさっている。演奏会は、まだピカピカの東武東上線池袋から直ぐの立派なコンサートスペースで開催しております。ちなみにこの演奏会、元ソレイユの第1ヴァイオリンさんも客席に顔をみせておりました。

弦楽四重奏として外国に留学し、その道で喰っていくために切磋琢磨し、あるいはもうダメだと諦めたりするだけが、クァルテットを続けるやる方ではない。地方で音楽を教えたり、お母さんになったりしながら、それぞれの生き方で弦楽四重奏の楽譜に向き合っている。クァルテットで生きていくには、いろんな道がある。そういう努力があちこちで重ねられることで、少しでも世間にベートーヴェンの後期やらメンデルスゾーンの魅力的な小品やらが広まることは、業界全体としてとっても大事なことだもんねぇ。

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