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ホールで大地震が起きたら [音楽業界]

指定管理者問題にも関連する話です。

東京湾岸地方では、昨晩2月1日午後8時半過ぎ、かなりの規模の地震がありました。小生は中央区晴海の第一生命ホール客席におり、クァルテット・エクセルシオがレスピーギの「ドリア旋法によるクァルテット」を弾き始めようとしている瞬間でした。単一楽章の曲なんで、弾き出してなくて良かったですねぇ。揺れ始めの一瞬、第1ヴァイオリンの西野さんがキョトンとした顔でホールの空間を眺めていた表情が魅力的だったぞっ!

で、演奏は地震の揺れが納まってからおもむろに始まり、無事に終了しました。あの晴海のホールは特に派手な吊りモノもないし、クァルテットですから危なっかしいセットが後ろにあったりするわけでもない。パイプが外れかねないオルガンがどかんと控えているわけでもない。まあ、20世紀末の耐震構造で、紀元2600年祝賀東京万国博覧会メイン会場ゲートとなるべく開拓されたしっかりした埋め立て地に建ってるので、東京湾岸地区でもかなり安全な空間にいたわけです。

ところで、ホールや劇場で大地震に遭遇し、様々な混乱が起きた場合、一体、誰が責任者なのか。その場で警察やら消防署の行為を代行し、様々な措置を執り、場合によっては人身の拘束も行わねばならない(どさくさまぎれに泥棒する奴、逃げるときに他人を押しのけ怪我させちゃう奴、などなど、身体的な拘束が必要になる輩だっていかねませんから)。誰か国家権力(=天下公認の暴力)を限定的に代行する権限を有する人が存在しなければなりませんね。

昨日の第一生命ホールの例で考えてみましょう。
まず、演奏会の主催者はNPOトリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)でした。当然、その場に、事務的な責任者である事務局長K氏はおります。でも、Kさんは地震で落ちてきたホール備品を持って逃げようとする奴を一時的に拘束する権限はありません。どさくさまぎれに殺人を犯した奴がいても、そいつを捕まえろと命令する法律的な根拠はありません。
なぜならば、TANというNPOはこのホールの主催公演を委託(でいいのかなぁ?)されている団体ですけど、あくまでもたまたまその瞬間にお金を払ってホールを借りていただけだからです。演奏会主催者=ホールを全部仕切っている主体、ではありません。
ちなみに、TANは第一生命ホールの主催コンサートを作っていますが、ホールを持っているわけでもなければ、ホールと同じ会社やら組織に所属した一部署でもない(トッパンホールとか、昔の日比谷第一生命ホールは、ホール全体が親企業の子会社で、ソフトとハードを一緒に運営しています)。あくまでも、ホールのお客さん。そんなところの代表に、国家権力を代行する権利などないのは当然でしょう。

では、誰が「緊急時の警察や消防の代理」になるのかというと、ホールを管理運営しているハード管理側のチーフです。昨日の第一生命ホールで言えば、第一ビルという第一生命保険相互会社の子会社があり、そこがこのホールを管理してるんですね。
そのチーフのこれまたK氏が、代理のお巡りさんなんです。
そのためのきちんとした資格も持っていらっしゃる筈。そうじゃなかったら、そういうポジションにはなれない。

本番があるときは、普通なら、TAN事務局長K氏と一緒に第一ビルのK氏もホールのロビーに立ってらっしゃいます。表方と裏方の両K責任者ですな。お二人とも、絶対に警官には見えない方々ですけどねぇ。
ところが昨日はたまたま第一ビルKさんはお休みで、いらっしゃらなかったとのこと。じゃあ、誰が昨日の「お巡りさん代行」だったのかしら。うううん。
普通に考えれば、第一ビルさんが第一生命ホールのハードとしての表方管理を委託しているサントリー・パブリシティ・サービス(SPS、正に指定管理者問題でちょっと話題の会社!)の現場責任者の方なんだろうなぁ。

ほーれ、もう頭がクラクラしてきたでしょ。
ホールを運営するには、あんな程度の規模のホールであれ、TAN、第一ビル、SPS(更にはハード面の裏方をしているNHKアートという会社もあり、地震で吊りモノが倒れたりしたら実際に動くのは彼らですね)と、こんなに沢山の人々や素性の違う組織が関わってるんです。

震度3の地震でも何事もなかったことを、第一生命ホール舞台真裏に設えられた佃住吉神社の祭壇に感謝いたしましょう。なにせ、関東大震災や空襲から佃月島地域を守ってくださった住吉さんの出店ですから。ほれ、こんなもの。昨年のホール・オープンハウスにて。

指定管理者というのは、ホールで動いている人々のどの部分を扱うのか、どの部分を「民間」にするのか、日本全国津々浦々の市長さんや区長さん、指定管理者選定委員の皆様、地震をきっかけによーく勉強してくださいね。
本日の話の参考としてhttp://blog.so-net.ne.jp/yakupen/2005-12-25もご覧あれ。ここで乱暴に分類しているホールの中での仕事分担が前提となってますから。
管理者が交代になったばかりの4月1日に地震や火災なんてないよう、みんなで祈りましょ。


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yacht mio

たまたま刑法を授業でやったばかりなので、つい書き込ませていただきます。いつも勉強させていただいてます。都内のダイガクセイです。

ホールで地震が起こって目の前でどさくさ紛れに殺人を犯した奴がいたら、もちろん誰でも逮捕が出来ます。刑事訴訟法の214条に、検察でも警察でもない「私人」による現行犯逮捕が認められています。その場に居る誰でも、犯人の身柄を拘束することができ、直ちに検察か警察に届け出て正当性が認められれば監禁罪には問われません。詳しくはわかりませんが、捕まえろと命令しても明らかに相手が法を犯していれば問題は無いと思います。
逆にホールが公的機関によって運営されていて、コンサートを聴きに居ているのが正確な意味での「お客さま」でなくても、運営をしている公務員に国家権力を発動することなんて出来るのでしょうか??非常時における施設運営は、誰もが抱える問題であり、だからこそ危機管理の際に本当の運営能力が験されるのでしょうね。
とはいえ危機は万全に準備をしてさっぱりやってこないというのが一番いいですよね。東京の大地震が杞憂に終わりますように。

>Kさんは地震で落ちてきたホール備品を持って逃げようとする奴を一時的に拘束する権限はありません。どさくさまぎれに殺人を犯した奴がいても、そいつを捕まえろと命令する法律的な根拠はありません。
by yacht mio (2006-02-04 00:14) 

Yakupen

Yacht mio様、コメント有り難うございます。いやはや、こんなマヌケな話題に関心を持って下さる方がいるなんて。
実を言いますと、ホール現場の責任者という方からも私信をいただいており、非常に興味深い現場の実態をお教えいただいたのですね。
一方で、純粋に理論として勉強なさっている方からもこのような意見を頂き、ホントに面白いものであるなぁ、と感じ入っております。

それにしても、勉強になりますねぇ。まず、小生が基本的に懐いている「ホールの責任者というのは、国家権力の代行者である」という感覚そのものが、どうも日本国の法体系には合致しないらしい、ということ。これは結構ショックです。

「ある空間の責任者とは法の代理執行者」という感覚は、アメリカの社会などでは基本的なものですよね。例えば、ニューヨークでバスに乗っていて、客同士が喧嘩しそうになったりしてると、バスの運ちゃんは(オバチャンのことも多いけど)「この空間で権力を代行しているのは私なので、私には君たちに対する強制力がある。だからそれ以上やったら下ろすぞ」というような言い方をするわけです。これはホールなんかでも同じで、支配人というのはよーするにそういう国家の仕事を代行する責任者、という感覚があるわけですね。正に、船のキャプテン(大佐、という意味ではありません)みたいなもんですね。

で、日本のホールなどでは、どうして支配人なんかをきちんと置かないでも平気なんだろうか、と常々不思議に思っていたわけです。Yacht mioさんのコメントを拝読して、へえええええええ…と膝を打ったわけですよ。

小生のようにものを知らない者に貴重なご意見、有り難うございました。ホントに勉強になります。今後もよろしくお願いします。いろいろと指定管理者問題がらみでは、法律の細かい部分でもわけのわからないことがありすぎ、どんなとてつもないアホを言っているかわかりゃしませんから。どんどん突っ込んで下さいね。

ところで、第一ビルのKさんは、第一生命ホールの支配人さんだそうです。これも本日教わりました。いやはや、支配人さんだったのか。うううん。勉強になるなぁ。
by Yakupen (2006-02-04 02:41) 

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