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鴨川にて [指定管理者制度]

房総半島のすみっこ南総は安房鴨川駅を、太平洋の荒波が打ち付ける観光地の側じゃなく、ノンビリした町の方に出る。海にまで迫る千葉の山が少しだけ引っ込んだ猫の額ほどの平野に、鴨川市東条公民館があります。曇り空の秋の日曜日、町に人は歩いてません。市内周遊バスが、好きなところでお婆ちゃんを下ろしている。

公民館では、クァルテット・エクセルシオが練習してます。「アメリカ」第1楽章の最後が、裏のコスモス畑(じゃあないんだろうけど、そうにしか見えない)に流れる。あと1時間もすると、鴨川の子供たちがやってきて、ミニサイズの楽器を弄ったり、大友パパのブンブン唸るチェロに目を輝かせたりするんだろうなぁ。

だけど、今見えるのは、淡いコスモスばかり。あ、練習が終わったみたい。

                            ※

さても、まるで「たびの空」カテゴリーのノンビリ話に思えるでしょうが、皆の衆、この話、何を隠そう「指定管理者制度」なのだよ。

本日のクァルテット・エクセルシオの公民館アウトリーチは、主催が南総文化ホールです。隣町館山にある房総半島南端で一番大きな文化施設たる南総文化ホールは、この春から八丁堀の㈱ケイミックスが指定管理者となった。で、11月3日の南総文化ホールでのクァルテット・エクセルシオ公演に向けて、近隣地区で総計3回のエクのアウトリーチをやるのであります。今日はその2回目と3回目です。http://www.nanso-bunka.jp/program/index.html#15
「なるほど、地方で人が入らない弦楽四重奏公演を買っちゃったんで、そのセットでアウトリーチなどを付けて、少しでも聴衆を掘り起こそうとしているのだな」などとお思いの貴方。ま、その通りといえばその通り。だけど、よーく考えてご覧なさい。今、ここで行われようとしているアウトリーチ、もの凄くトンでもないことなんですよ。

だってね、㈱ケイミックスが指定管理をしているのは、あくまでも隣町の南総文化ホールなんです。この企業は県の財団でもなければ、市の教育委員会でもない。つまり、地区全体の文化政策を請け負っているわけではない。
指定管理制度が施設単位になっているお陰で、これまで地方文化財団などが地域の公共施設横断的に行っていた様々な文化活動が非常にやりにくくなる、いや不可能になるだろう。そんな危惧は、指定管理制度導入の際に一部関係者の間で広がっておりました。
つまり、ある地区の中心公共施設でやる文化活動の付帯的なイベントを近隣公共施設で行うことが出来なくなるだろう、ということです。だって、中心的な公共施設の指定管理者と、周辺の小さな公民館の指定管理者が違っていれば、内部や上層部でのお互いの連絡も付けられない。中央文化ホールの管理者が町の公民館を使おうとすれば、当然ながら使用料も発生するはずです。そんなこと、儲からないアウトリーチなんぞで誰がやろうか。

ところが㈱ケイミックスさんは、どういうわけかそんな限りなく高いはずのハードルを乗り越えて、「南総文化ホールが主催する鴨川市東条公民館での無料アウトリーチ公演」を行っているんですね。

つまり、指定管理者制度が導入される際に最も危惧された「民間管理者と周囲の公共施設の共同作業」が、成り立っちゃったんです。なにやらとってもあっさりと。

もちろん、そのためには2年前から館山に住み込んで動いている指定管理会社のMさんとか、入善やら晴海地区でのアウトリーチを重ね今や日本で唯一ユニットとしてのアウトリーチ・プログラムをレパートリーとしているクァルテット・エクセルシオ、それに彼らを支える「エクプロ」のブレインたち(エクプロジェクトhttp://www.quartet-excelsior.jp/はファンクラブではなく、文化資産としてのクァルテット・エクセルシオを有効活用するための文化ボランティア組織で、今回もA氏が楽器調弦や舞台周り手伝いのために自腹切って川崎から駆けつけてくれました)があってこそ、なんですけどね。

さてと、もう12時半。子供が入り始めたぞ。お母さんが車で送ってくれます。担当者と話すオバチャンの声が賑やか、「第九でいつもお世話になってます、うち、子供もう小さくないんで、親子で、って書いてあるんで大丈夫かと思ったけど、聴かせていただけてありがとうございます」

子供を小さい車に乗っけてきたお母さんも、勿論、一緒にエクを聴いていきます。さても、どうなることやら。午後6時からは館山市に移動し、館山市立博物館でももういちどアウトリーチがあります。南房総のお坊ちゃんお嬢ちゃん、エクと一緒に楽器を弾いてみませんか。


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コメント 3

shink

指定管理者制度は、公の方だけでなく民の方の意識も普通の儲ける仕事と同じ発想ではできないはずと思っていますので、こういうのがあちこちでやられるようになると良いですね。それに公もお金を出すと言うのが望ましいと思います。
by shink (2006-10-29 14:03) 

ガーター亭亭主

アウトリーチが、本来の地域的な守備範囲を超えて行われることは、むしろ指定管理者制度になって柔軟に出来ることなのではないかという気がするのですが、どうなんでしょうか?ワタクシはそのあたりの今のルールを必ずしも知らないので的はずれなことを言っているのかもしれませんが。
by ガーター亭亭主 (2006-10-30 06:52) 

Yakupen

Shinkさま、ガーター亭亭主さま、コメントありがとうございます。昨晩は、エクの運転する車で東京湾横断橋を越えて深夜11時前に湾岸佃に戻って参りました。いやぁ、丸1日、ヘバヘバでした。

問題点を整理します。非常に簡単なことなのです。導入された「指定管理者制度」は、あくまでも「公共施設の管理」です。文化の問題とはなにも関係有りません。ですから、それがたまたま「公共文化施設の管理」だった場合も、「場所の管理」が基本なのです。はっきりいえば、基本的にハコ管理で運営されている日本の公共施設にとって、その文化施設でやる内容はハコ管理の付帯的問題に過ぎない(フランスとは正反対の発想でしょう)。だから文化施設での大問題が起きている。繰り返しますが、全ての発想が、「公共の資産管理」なんですから。

そうなると、指定管理となった会社も、まず大事なのは自分が管理している場所をどうするかに専念することになるわけですね。

これまでは市が所有するホールAと公民館Bとは、市直属の公共の団体が管理運営していたわけですから(地方公共団体文化体育財団と教育委員会は、筋としてはまるで独立したものの筈ですけど、GHQが形を整えても結局は御上の上意下達に過ぎなかった日本国の場合、実態は「市直属」だった)、現場の意識はどうあれ、首長やらの偉い人がその気になれば、最終的にはひとつの大きな地域としての発想で運用することも可能だったのです。それが、ホールAと公民館Bを管理するのが、今は、ことによるとライバル民間企業のこともある。さても、ホールAさんがやるイベントを盛り上げるような補足的イベントに、ライバル企業が管理する公民館Bが協力するだろうか、ということなんですわ。

こればかりは実際に制度を運営してみないと判らない。地域の力と企業の理屈やメンツのどちらが強いのか、ホントに判らなかった。ま、判らない場合は、幸運を待つわけにはいかないから、「ダメだろう」という前提で考えるのがまともな大人ですから、結果として「こりゃあ面倒なことになるだろうなぁ」とみんな思っていたわけでありますよ。
「民間になったことで、地域的な守備範囲を超えて業務活動を行うことは難しくなるだろう、この市は民間にアウトリーチやれみたいなことを要求しているが市はどういう風に協力するのねぇ」、と業界関係者は指定管理制度導入の際の大きな問題のひとつと考えていた。それがこの記事の前提なのです。

正直、「指定管理になって地域を越えての活動が柔軟に行い得る」というガーター亭さんのご指摘は、小生はまるっきり吃驚でありました。大昔の言い方をすれば「逆転の発想」で、おそらくそのような要素も絶対にある筈でしょうね。

結論から言えば、昨日の南総の例は、逆転の発想ではなく、従来型の地域協力関係をなんとか民間が公共財団などと作ろうとしている、というものでした。

以上、同じ事の繰り返しになってますが、お許しを。
by Yakupen (2006-10-30 11:11) 

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