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クァルテット博士の新刊 [弦楽四重奏]

日本語文化圏が世界に誇る「LP時代までに世に出た弦楽四重奏の録音なら全て有している」と豪語するコレクターにして、シモン・ゴールドベルク最期の録音のプロデューサーでもある我らがクァルテット博士、幸松肇氏の新刊が出ました。もしかしたら、もうすぐ出ます、かもしれない。

オールドファンなら懐かしい雑誌『LP手帳』(現物が見たかったら神保町古賀書店に積んである)に幸松さんが連載していた、あの「レコードによる弦楽四重奏の歴史」の最初の部分が、やっとひとつの本の形になったのです。題はそのものズバリ、『レコードによる弦楽四重奏の歴史第1巻』です。

ご覧の通り、今時のこのような専門書です。経費削減のために綺麗なカバーもありません。古典叢書という神保町の本屋さんから、11月末に出ました。あたしゃ直接著者本人から手渡しされちゃったんで、本屋さんにどうやって置いてあるか判りません。一般の流通に乗るものではありませんので、書店での平積みはあり得ません。レコード屋さん、楽器店など、幸松さんがいらっしゃるところにあるくらいでしょう。ネットで検索すると、どっかのレコード屋さんやらが置いてるかもよ。

買えない本なのか、と思われたら困るけど、ともかく、21世紀の今、大衆消費用ではないまともな本というのは本屋では売ってないと言わざるを得ないのが現実なのです。お許しを。

内容は、あの連載をお読みになっていた方はご存じのように、「ルネサンス期からモーツァルトまでの音楽作品で、弦楽四重奏という形態で演奏されたSP及びLPレコードが存在する作品を、演奏と共に網羅した巨大なデータ本」です。第1巻となってるのは、第2巻のベートーヴェン同時代以降がまだある、ということなのでしょう。
幸松氏は、既に同じ趣旨の「ヴィーンの弦楽四重奏団」を「ストリング」に連載中で、また日本の弦楽四重奏団については、小生との共著『黒沼俊夫と日本の弦楽四重奏団』(柏の森出版)の第2部で纏めていらっしゃります。

恐らく、今の若い人たちはルネサンスやバロックというとピリオド楽器ばかりで、それ以前は受容などなかったと思ってらっしゃるでしょうが、トンでもない。沢山の再現が所謂モダン楽器でもあり、いろいろな試みが成されていたんですね。それらは、ピリオド楽器やピリオド主義者の出現で、殆ど淘汰されてしまいました。
恐らく、この先30年くらいのスパンで、そこで淘汰されたものをもう一度復興させる、などという次の動きが出てくるでしょう。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのピリオド楽器の巨匠達が猛烈な批判にさらされ、あれはひとつの時代様式だった、と言われる日が来るはずです。
そのときに、この書物の最初の部分、イタリアQの弾くガブリエリやシェッファーQの弾くネリなどの記述は、極めて貴重になることでしょう。

勿論、普通に過去の名演を求める方には必携です。特に、弦楽四重奏は20世紀最後の20年間に演奏技術の驚異的なレベルアップがあり、それ以前の「過去の巨匠」は実質的に意味のない存在になっている特殊ジャンル(なのかなぁ…ホントはそうとも思えないのだが、そこに文句を言い出すとエンスー世界の価値観をガラガラとひっくり返すことになるので、小生も流石に口を噤むのであった)。「過去の名演」マニアの方は、スメタナQやらバリリQ、コンツェルトハウスQなんぞで懐かしむしかなかった。それ以外で蘊蓄を垂れたいと思ってた方は、必読ですぞ!小生とすれば、世間の人々がニューミュージックQの凄さを知ってくだされば、それで充分。

さあ、みんなで弦楽四重奏博士の新刊を読んで、「レコーディング巨匠の時代」の裏歴史を知ろうではないかっ。


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コメント 3

メリーウイロウ

おぉ、そういうことなら報告致します。

私は神田神保町のCLASSICUSでマスターから直接買いました。弦楽四重奏のバイブルですね。第2・3巻も楽しみだし、続編も出して欲しいくらいです。

ニューミュージックQって、アール、アダム、トランプラーのニューミュージックですか? 今手に入るんでしょうか。

川崎ミューザ行きますよ。800グラムのステーキ定食、堪能してきます。

アーロンも行こうと思ったんですが、生憎他の予定と重なってしまいます。どこか他の日に聴けませんでしょうか。
by メリーウイロウ (2007-02-14 11:50) 

Yakupen

あ、ちゃんと売ってるんですね。安心しました。なんせ、トーハンなど普通の流通を通ってない本なので、手にはいるのか心配だったものですから。

ニューミュージックQは、そのとおりです。アールさんの団体です。ソイヤーがチェロに入ったときの音を聞きたいんですけどねぇ。これ、バルトークレコードがCD復刻を始めてくれたお陰で、比較的簡単に手にはいるようになりました。いろんな意味で、ジュリアードQの影に隠れてしまった団体ですが、20世紀では最も再評価されるべき団体だと小生は信じてます。

アール氏については、関係者が元気なうちになんとか伝記を書くところまで持って行きたいんですが(ソイヤー夫人には恐ろしくて話が聞けないけど)、幸松さん同様、小生もこの類のものは今はまるで出版の宛がないので、ずうっと構想のみになってます。まずいわなぁ。
by Yakupen (2007-02-14 12:21) 

メリーウイロウ

早速に貴重な情報を有難うございます。

アール伝は是非実現して欲しいですねぇ。購読予約しておきます。
日本フィル創設時代の関係者も少なくなられているでしょうし、アールQのメンバーも皆さんお亡くなりになったのでしょうか。

時間との勝負、と思うと哀しい限りです。
by メリーウイロウ (2007-02-14 13:11) 

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