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「窓際のお客様は…」 [弦楽四重奏]

国立駅に下車したのは、少なくとも今世紀になってからは初めてのことだった。http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/archive/20070914

世間が愛でるほど立派とはとても思えなかったあの三角屋根、駅舎とも言えぬような駅舎はなくなったけど、南口を出て右に曲がったディスクユニオンはしっかり怪しげにあって、驚くなかれ、クラシックコーナーなんぞも未だ健在。急がねばならぬのだけど、条件反射のように足を踏み入れ、条件反射のようにリヨンのオペラハウスが制作したパスカル・デュサパンの「ファウストゥス最期の夜」DVDを2080円也で購入(こんなもん、あたしが買わんで誰が買ってやりょーか)。東海上の颱風崩れの熱帯性低気圧に吹き込む湿ってあつうううい大気がとても秋と思わせてはくれぬも、実はもう9月も半ば過ぎ。午後の6時にもなればすっかり日も暮れ、一橋の正門向こうには三日月がほそぉく浮かんでら。

てなわけで、上品なご隠居ばかりが目立つ、まるでハイデルベルクかキッチナー・ウォータールーの楽友協会演奏会かと錯覚するような列に並び、ズルズルと入っていく兼松講堂も、考えてみれば20年ぶりくらいかしら。数年前に改装されて、一橋大学OB会の如水会なるボランティア団体が演奏会を主催していることは知ってはいた。http://www.kunitachi-gakki.co.jp/concert/archives/001703.htmlでも、昔の生活拠点って、かえって余程の用がないと訪れようと思わないものだし。

そうそう、よーく覚えています、1階正面入って左手の男性トイレ。まだ原田幸一郎氏が第1ヴァイオリンを務めていた東京Qの演奏会の幕間で、この扉を押そうとして、武満徹氏と正面衝突したんだっけ。「A Way a Lone」を書くために東京Qの音を必死に聴いてた頃なんだろう。その後、もう一度はらこーさんで東京Qの来日公演があって、文化会館でバルトークの全曲なんかをやったあと、はらこーさんが突如辞めてしまった。今の方々にはビックリもないだろうけど、あの頃はまだメイジャー団体の第1ヴァイオリンが交代するなんて、よっぽどのことだったっけ。結局、武満徹作弦楽四重奏曲第2番の世界初演は、ウンジャン時代になってからだった。

なーんて考えながら、2階正面にあてがって下さった席におとなしく座ってます。この会場、OBの寄付で無事に改築なって、客席を減らしたそうです。1階オーケストラ席はシートピッチを広げたそうな。2階はだんだんが付いてるのでそれも無理だったそうだけど、中央はB列が一列目になっていて、まるでエコノミークラスの非常脱出口横席みたいな妙なガラガラさ加減です。

影アナをする場所がないらしく、客席の前方上手に演説台みたいなもんが用意されて、そこでトライアングルをチャリチャリ鳴らすと開演です。影アナ、ってか、表アナのボランティア学生の声がスピーカーから流れてくる。「当会場は音楽ホールではありませんので、皆様にはご迷惑をおかけすることをお許し下さい。この季節、1階左右のお客様は、窓の外から微かに秋の虫の声がすることがあると思いますが…」

場内、爆笑。

エリーザQが出てくる。あの長髪のセカンド、覚えてるぞ。みんなオッサンになったなぁ。空調が切られます。と、会場に通奏低音のように、ジイイイイイイイイイ~って音が鳴り響く。

そう、秋の虫でありました。窓際じゃあなくっても、とってもよく聞こえます。

ま、それはそれ、秋なんだもんね。イェール大学のノーフォーク音楽祭会場なんて、蛍が飛び込んでくる。ウィグモアホールだって、ヒースローに向かうコンコルドの爆音がしっかり轟く。カーネギーのザンケルホールに至っては、最新の音楽専用スタジオなのに、草月ホールどころじゃあない地下鉄の大騒音。それに比べりゃ、秋の虫なんてねぇ。うん。秋なんだから、しょーがない。

もとい。虫の鳴き声に対抗して響いたK.138は、案外とちゃんとした音で、ちょっと吃驚、ってか、一安心。その先のシューベルトハ長調五重奏曲(なんか6月以降、毎月1回は聴いてるなぁ)、それにシューマンのピアノ五重奏曲、空調を切った灼熱地獄との戦いで、意識が朦朧。ピアニッシモになると響く虫の声ばかりが記憶に残る。

終演後、楽屋に一応顔を出し、12年前のバンフのことはよく覚えているよ、と伝えると、その後に加入したヴィオラ氏以外は、苦笑とも爆笑ともつかぬ笑い顔でありましたとさ。

エリーザQ、まだ1週間くらいあちこちまわるみたいなので、お近くでポスターなど発見した方は、せめて空調の効いた空間でしっかり聴いて上げて下さいな。

シューマンの 最弱音聴け 秋の虫


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