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「残念なことに、今、カザルスはおりません」 [たびの空]

短いながら怒濤の欧州滞在を終え、今、極東の島国に戻るべく、ブリュッセル空港のラウンジにおります。あと30分で搭乗開始。シベリアを飛び越え、木曜夕方に成田に着く予定です。

昨日のバルセロナ、独立投票の結果を受けたゼネストの真っ只中、カザルスQのベートーヴェン全曲演奏会も当然ながら中止となりました。なんのかんのなんのかんのあったのですが、宿から道が封鎖されたり人々が集まって気勢をあげている市内中心部をぐるっと巻くように、サクラダ・ファミリア前を抜け
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グェル公園下を通り、上空には警察の監視カメラヘリが舞い、とうとう治安警察のヘリまで飛び始める下、1時間半程歩いて、カザルスQのヴィオラ、ジョナサン・ブラウン氏のアパートまで行き
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無事にヴィデオとオーディオ・インタビューをして参りました。

名前からお判りのように、ジョナサン君はシカゴ生まれの生粋のアメリカ人。ミロQのウィルと大親友だそうな。なんで「カザルスQ」なんぞに加わったのかなど、面白い話もいろいろあるのだが、ま、それはそれ。要は、カタロニア人ではない、ということ。

カザルスQは、創設メンバーのトマス兄弟がカタロニア人で、これまた創設メンバーの紅一点ヴェラさんはスペインとドイツのハーフでマドリッドの生まれ。つまり、カザルスの名は冠していても、カタロニア独立運動に何も考えずに旗を振って盛り上がれるわけでもない。

なにしろ状況が状況ですので、インタビュー原稿には絶対に使えそうもない「政治的」な話もイヤでも出て来るわけで、なんのかんの1時間半も話をした中には、いろいろと微妙なこともある。これは事実だから隠してもしょーがないことでしょうし、原稿には使えないことだから書いちゃうけど、やっぱりマドリッドには未だにフランコ支持者さんは生きているわけで、「カザルス」という名前にはニホンの我々が気楽に思ってるようにストレートな感覚は持てない人もいるそうな。それどころか、そもそもフランコに追われてピレネーの向こうに行き、その後はプエルトリコにいたカザルスの音楽の伝統は、実はバルセロナには残っていない。根絶されている。

カザルス、という名前は、そんなに簡単なもんじゃあ、ない。

インタビューの最後、これからまた街を歩いて帰るやくぺん先生に「気をつけて」と言いながら、ジョナサン君はこう仰いました。「今、私たちにはカザルスがいないんです。」

そう、楽しそうに独立を叫ぶ往来の人々にも、恐らくはそれを苦々しく思って眺めているであろう数は多くない人々にも、「カタロニアの鳥たちはピースピースと鳴きます」と言ってチェロを弾いてくれる人は、いない。対立を煽り、火を付け、それでなにかをしようとする輩は山のようにいるんだけど…

ピースピースと鳴いているのはどの鳥たちなのか…カザルスが毎朝、あの向こうは我が故郷カタロニアと眺めたピレネー山脈をあっさり跨ぎつつ
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頭の中ではイヤでも《鳥の歌》が流れてくる。高揚しカタロニアのアンセムを歌う人々は、この曲を、知っているのだろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=nijYeBsWNWk

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バルセロナの街のどこにでもいるこの方々は、確かに、「ぱおぱお」と啼いているように聞こえる…。

音楽は究極の平和産業。ゼネストや戦争があると、あっという間に出来なくなる。それをあらためて実感しただけでも、バルセロナまで行った価値があった。

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M

リーガエスパニョーラの試合を定期的に見ていると(WOWOWの録画で)、わりとちょくちょく追悼案件(テロや災害時だけでなく、チーム関係者が亡くなった時なども)が発生するため、かなりの頻度でキックオフ前に黙祷を捧げるシーンを目にすることになるのですが、FCバルセロナのホームで流れる音楽はいつも決まって「鳥の歌」です。
by M (2017-10-05 18:10) 

Yakupen

Mさま

コメント、ありがとうございます。なんせ、バルセロナで聞くのはカタロニアのアンセムばかりの数日でしたので。カザルスに関しては、実はいろいろアンビバレントなものがある、というのは「カザルスホール・フレンズ」(今や誰も知らない実質上日本初の月間室内楽雑誌だったなぁ)からいろいろ地元屋周辺で感じさせられていました。あれから20年近く、ますます「カザルス」は歴史の名前になっているのだろうなぁ、と感じざるを得ない日々でありましたです。
by Yakupen (2017-10-06 08:44) 

M

こちらこそ、タイムリーな記事ありがとうございました。リーガを見ていない人よりは、その地における「対立」についての情報は多く得ているはずですが、それとNHK-BSの朝のニュースクリップ番組だけではやはり限界がありまして。
by M (2017-10-06 10:29) 

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