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「飛び恥」問題と演奏家のローカル化 [演奏家]

昨年のクリスマス頃のネタなんだけど、今、ある方と新年ご挨拶チャットが結構マジな話になってしまい、そこでいろいろ思うことがあったもので、忘れないうちに自分のメモとしてアップしておきます。

数週間前に、東京都交響楽団からこういう公式リリースがありました。
https://www.tmso.or.jp/j/news/20539/
いずれ消えてしまうでしょうから、後のために必要な部分はコピペしておきます。演奏会予定をキャンセルしてきた演奏家さんのお言葉部分。

★★★

予定されていた日本でのコンサートをキャンセルし、関係者や聴衆を失望させてしまうことを非常に残念に思います。 それでも私は、持続可能なツアーの新しい方法を示すため、演奏活動のために航空機を利用することをやめる決心をしました。アーティストでありながら気候や美しい地球を守ることも可能だとは思いますが、そのためには私たちが引き起こしているダメージを認識する必要があります。 私は模範として、私たちが引き起こしている破壊と汚染を好転させ、子供たちと将来の世代の未来を保証できるようにしたいと考えています。
ご理解いただきありがとうございます。
アリーナ・ポゴストキーナ

I am very sorry to cancel the planned concerts in Japan and disappoint my colleagues and my audience. Nevertheless, I have decided to take the decision to stop flying for my work, to show a new way of sustainable touring. I believe that it is possible that we take care of the climate and our beautiful earth while being artists, but we need to become aware of the damage that we are causing. I wish to lead as an example, so we can turn around the destruction and pollution that we are causing, to ensure a future for our children and the future generations.
Thank you for your understanding.
Alina Pogostkina

★★★

やくぺん先生的には「あれ、だんじゅーろーさんと室内楽やってた人だっけ」という感じで、今時のソリストに殆ど関心が無い隠居っぷりなんだけど、公式サイトを眺めると
http://www.alinapogostkina.de/#biographie
ま、普通の意味で「ドイツ拠点に世界で活躍する」ってタイプの方だったわけですな。

上述のご発言を眺めれば、まあ普通の方なら「じゃあ、昔みたいに船で3ヶ月かけてくればいいじゃん」とか無責任なことを思ってしまうわけだが、公式ページもコロナ前から更新がないようなんで、もしかしたらハリソン・パロットとのマネージメント契約を含め、全部の生活を変えてしまったのかしら、と思わんでもない。とはいえ、Web上でこの数ヶ月の日程などを検索するに、エルプフィルハーモニーに出て、その後にザルツに行って、って調子なんで、どうやらDBやOBBはしっかりご利用になっているようじゃ。車での移動かな、それとも。

欧州演奏家の「飛び恥」問題、昨年秋から久しぶりに出かけた欧州で出会う連中と演奏会後の楽屋とか、一緒に駅まで移動したりする地下鉄の中で立ち話をしたりすると、演奏家の活動にかなり大きな影響を与えているようです。欧州の演奏会ですから終演は10時過ぎになるわけだが、楽屋で話しようとすると「ゴメン、これから列車で帰る、終電が出てしまうんで」ってさっさと駅にいっちゃったり、逆にいつまでも楽屋で生徒と話してるんでどーするのかと思ったら、「ここからザルツまで帰る夜行がないんで、1泊して明日朝4時起きで、なんとか昼までに戻らないとレッスンがあるんだよ」とか、えええ飛行機使えばいいじゃん、と思ってしまうような話を何度も耳にした。

なんせ、ウクライナ戦争が引き起こしたエネルギー危機は、ロシアのエネルギー企業に頼っていたドイツなんぞは直撃なわけだし、原発大国フランスなんぞはさっさと脱化石エネルギーということで、実質上国内航空路線廃止に走っている。コロナの間に欧州短距離空路は航空会社の倒産なども相次ぎそもそも足が減っていたところにこの御上の方針で、今やかつては空路が当たり前だったパリ・フランクフルトとかフランクフルト・ベルリンとか、ミュンヘン・ベルリンとか、鉄道移動が基本。飛んでる飛行機はAFとかLHとかでも大陸間長距離路線の乗り継ぎ便で仕方なくやってる、って感じ。だって、パリ・フランクフルトがA319とかA220なんて、737-800や321ですらないんですから。ベルリンの壁崩壊直後、JALがほんのちょっとだけシェーネフェルト乗り入れで成田ベルリン便をやってた頃、フランクフルトからベルリンまででっかいジャンボが数人の客を乗せてヒョイッと離陸してた、なんて大昔の伝説か笑い話ですな、今や。

当然、結果的に鉄道は猛烈な混雑っぷりで、昨年秋にやくぺん先生が10日間欧州乗り放題パスで動き回っていたときも、「ベルリン東発インターラーケン行き」とか「ハンブルグ・アルトナ発ヴィーン行き」なんて長っ走りがベースのICEネットワークなんぞあ、これまでも遅れが当たり前だったのが輪をかけて酷いことになってる。駅も大混雑で、ユーロスター乗り継ぎのあるブリュッセル南駅では「置き引きに気をつけて下さい」と盛んに繰り返してました。フランクフルトからパリへのICEは、マイン河を渡る始発辺りでは案外空いてるじゃないかという車内だったのが、ミュンヘンやらヴィーンからの乗り継ぎ客が入ってくるマンハイムからトーキョーの朝の通勤列車ばりのギュウ詰めになり、ザールブリュッケンで下車しようとしたら荷物の上に他人様の荷物が山積みで、これは下車出来るかパニックになりそうになったり。ちなみにザールブリュッケンの後は2時間以上ノンストップで終点パリ東駅到着だった。

車での移動はどうなっているのか、懐かしの学生と貧乏人専用みたいな長距離バスはどうなってるのか、判らない事はいっぱいあるものの、ともかくやくぺん先生がせまああいせまああい視野で眺めただけでも、これは大変だぞ、って感が漂っている秋の欧州でありましたです。

実際、先月には某弦楽四重奏団のヴィオラさんがシュトゥットガルトからハンブルクだかに向かう車内で楽器を持って行かれ、現時点でも戻って来たという報はない。やくぺん先生はせいぜいがルーター盗られたくらいだから、背負子全部持って行かれなくて良かったとラッキーに思うべきなんでしょうねぇ。「ヨーロッパ スリ置き引きは 通行税」という懐かしき官公庁宣伝文句っぽい格言を想い出す今日この頃です。

「飛び恥」でもう日本までは行けませんという方には、ああそうですか、新しい演奏家人生を探して下さいな、でオシマイなんだけど、欧州内移動はなさっているようなんで、この滅茶苦茶な移動を頑張ってやっているのか、それとも車で移動しちゃっているのか、どうしてるんだろーなぁ、なんて無責任な心配もしてしまうわけですね。考えみれば、欧州には昔から地味にローカルな活動しかしていない凄いレベルの演奏家なんていくらでもいて、たまたまプロデューサーやマネージャーや、場合によっては熱心なファンがそんな人を「発見」し、「こんな凄い人がヨーロッパに隠れていた」なんて騒がれてスターになる例は過去にも珍しいわけではないし。

いろんなところに社会の無茶が出ているコロナ後&ウクライナ戦時下の欧州、この動きがもう一歩進んで、「私はもう基本、地元でしか演奏活動しません」という宣言をする「国際的な著名演奏家」などが出てくるところまで来るのだろうか。プラドから出ないと宣言したカザルスとは意味が違うものの、ある意味でグールドが生演奏会拒否宣言したみたいに地元から動かない宣言でもする奴が出てくれば、これはこれでまたひとつ世界が違う方向に進むのかもしれないなぁ。ま、コロナで開拓されたWebで繋がったりしていることが前提になるだろうから、そのネットワークを維持管理する人の移動エネルギーはどうなる、貴方の演奏を聴くために移動してくる人はどうなる、って話になるんだろうけど、またそれは次の話。

新帝都大川端半分、温泉県盆地半分の生活になったやくぺん先生とすれば、「田舎に演奏家が定住する」という話はまるで他人事ではありません。コロナでハッキリ見えてきたそんな動きと、欧州大流行の「飛び恥」なんかが繋がって、なにか大きな業界の変化が見えてくるのか…うううん、どうも全然話が繋がらん感しかないなぁ。ニッポン列島では公共交通としての鉄道はドンドン廃止の方向が加速するばかりだし…

ともかく、明日から温泉県へ飛ぶ恥なあたくしめ。もうすぐ新帝都中枢には、究極のエコたる足で進むぞ駅伝チームらが戻ってくる三が日の昼なのであったとさ。

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