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歴史の語り方あれこれ [現代音楽]

本日午後、東神奈川のJRと京急が並走する間の空間に幾つも存在する横浜市立ホールのひとつで、こんなイベントがありましたです。
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このホールのレジデント・アーティストをなさっている打楽器の會田瑞樹氏が「現代音楽を語る」というレクチャー。演奏家さんがレクチャーするというと、実際のところは演奏が9割であとは四方山話、ってのが殆どですけど、ヴィブラフォンとピアノが置かれた練習室での會田氏、演奏も勿論ながら、しっかりと極めて興味深い内容を語って下さいましたです。この類いのミニレクチャー・コンサートとしては驚異の充実ぶりの100分弱でした。

内容に関しましては、會田さんご自身があとで書き起こしを公開するかも、と仰ってますので、請うご期待。とはいえ、敢えてちょっとだけポイントを記しておけば、「歴史は個人の視点で語る以外に方法はない、という前提から、現代音楽の歴史をヴィブラフォンを専門とする打楽器奏者が語る」という前例のない試みです。ですから、20世紀の「戦後ゲンダイオンガク」のパラダイムにいらっしゃるある世代以上の「クラシック音楽系現代音楽愛好家」さんからすれば、ちょっと想像も付かないビックリな切り口で語られます。

そもそもこの類いの議論をするときの入口での堂々巡りたる「現代音楽って何?」に関しては、極めて明快。ニッポン語文化圏でのボンヤリとした常識の「戦後(あくまでもニッポン文化圏での「第2次世界大戦日帝敗戦後」という意味ではなく、第1次大戦後の世界)」を「現代」とします。その理由は、「打楽器という工業製品が作曲家が楽譜に音程を記すに値するまともな楽器と認定され始めたのがその頃からだから」という。ふーむ、なるほどねぇ。打楽器奏者が語る歴史とすれば、妥当この上ない認識ですね。

で、「現代音楽」の始まりは、《兵士の物語》最後の打楽器独奏。なぁるほどねぇ。以降、ミヨーやらヴァレーズ、はたまたチャベスらによる創作。ヴィブラフォン奏者による自らのレパートリーの開拓(皇紀弐千六百年騒動の頃に独学で日本初のヴィブラフォン独奏曲を書いていた演奏家兼作曲家の作品演奏などを挟みつつ)、楽器の発展と創作に及ぼした影響(パーシー・グレインジャーがシカゴの打楽器メーカーからの委嘱で書いた、譜面に特定の会社の打楽器を使う指定がある楽譜を回覧したり)、そして今の安倍圭子さんや、この夏は秋に初演する北原白秋の詩に拠る作品を作曲で缶詰だったというご自身に至る、という議論の流れ。

シェーンベルクもヴェーベルンも、ブーレーズもシュトックハウゼンも出てきません。演奏された音楽は、変拍子はあっても無調はありません。柴田南雄とも、マコトニオ・モンロイとも、はたまた博学片山センセーともまるで異なる「現代音楽の歴史」でありました。

うううむ、自分が常識として扱ってきている「音楽史」は一体誰の視点で語られたものなのか、イヤでも考えざるを得ない、猛烈に刺激的な時間でありました。これを横浜の御隠居たちが暑い夏の平日午後に面白がって聞いているのだから、いやぁ、新帝都首都圏ってのはスゴいところでんなぁ。

んで、そんなレクチャーが終わるや、ゴメンと客席から手を振り、目の前のJR東神奈川駅から帰宅の通勤通学列車に飛びこみ菊名で乗換え、通勤客は反対方向でガラガラじゃろと思ったら意外にも夕方ラッシュの東横線に乗り換え、そのまま渋谷新宿の下を潜り、池袋に向かいます。こんな演奏会。
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いやぁ、正に「歴史の語り方」第2部というか、実践編というか。

特別演奏会とはいえ、オーナーさんが某右派系コングロマリットから某音楽雑誌を買い取った会社なんで、メインとなる北原白秋作詞「皇紀弐千六百年祝奉」の神武東征譚に涙したい方々が詰めかけているかと思いきや、肩すかし。定期でサラッとやっちゃいました、という空気の演奏会。冒頭、ボンクリ芸劇ではスターの作曲家さんの手堅く纏めた委嘱新作も、ついでにサラッとやっちゃいましたぁ、って。

最近は大流行のこの《うみゆかば》作曲家さんの大作カンタータ、キューシュー島は温泉県に縁を持つようになってから始めて聴きましたけど、擬似古文の言葉がこんなに聞き取れたのは初めてかも。とはいえ、だからって内容が分かるもんでもなく、話を知ってないと付いていけないのはこの類いのヘロドトスや司馬遷以前の「歴史語り」としてみれば、仕方ないことでありましょう。個人的には、宇佐でガメラやら子供やら突然が出てくるのはどうしてなんだろうなぁ、なんて温泉県民以外には気にならんじゃろところにひっかかったりして。作品としてはユニゾンの力押し一本槍、それはそれで割り切ったもんであるなぁ、とあらためて思わされたでありまする。大阪上陸から大和平定の辺り、管弦楽の後奏でサラッと流しちゃって残念至極、ここで大暴れがあれば《クレルボ》くらいにはなれたかも…というと褒めすぎかしらね。

歴史の語り方にはいろいろある……そんな当たり前のことをガッツリ目の間に示された、いつまでも暑い新帝都首都圏の夏の終わりでありましたとさ。

[追記]

なんと、會田瑞樹氏がご自身のBlogでレクチャー全文を書き下ろし掲載なさっております。こちらを読んでいただければ、当電子壁新聞記事など不要ですな。じっくりどうぞ。
https://marimperc.hatenablog.com/entry/2023/08/31/%E7%AC%AC1%E5%9B%9E%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%8F%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E8%AC%9B%E5%BA%A7%E3%80%8C%E6%9C%83%E7%94%B0%E7%91%9E%E6%A8%B9%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B_%E6%89%93?fbclid=IwAR1bsvneEIY91Fhs-kxPNK25a-jJZ9MYBgwN6ZgnjvHejGdNJz1cAK17-ow

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