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原稿作成コストについて [売文稼業]

作業中の作文が行き詰まったので、気晴らしにこっちに来ました。で、またまた、「商売では絶対に書けないこと」を書いてしまいます。

原稿のコストについて。

ええと、今やっている原稿は、「フジテレビ・アートネット」という、その名の通りお台場のフジテレビの公式ホームページ上の原稿。小生が持っている中で、ウェブの上でのみ発表されるものとして唯一きちんとギャラになっている原稿だ。
2年くらい前から、月に一度更新ということで始まった、「Music in Museum」という連載。世界各地のミュージアムやギャラリーで開催されるライブパーフォーマンスを紹介する、というもの。お暇ならご覧下さい。
http://www.fujitv.co.jp/events/art-net/index3.html
このホームページを上からスクロールすると、Muisc in Museumという文字が浮かびますので、そこをクリックして入ってください。過去の原稿も全てバックナンバーとして挙がっています。

日本の新聞社や放送局の伝統に則り、フジテレビもアートやら音楽の公演を主催している。そのお客さんへの情報媒体として立ち上げたウェブマガジンのようだが、今はずいぶんと懐が広くなってしまったようで、自分のところが主催する公演の前パブ媒体では全然なく、「ウェブ上の月刊アートマガジン」になっているみたい。

ウェブを媒体に書く、ということで、様々なフィードバックやあちこちへリンクを張って立体的にドンドン広げていく、という方法もありなのかと思ったが、どうもそういう感じではない。極めて静的で、クローズドな、ホントに「月刊アート雑誌がウェブに貼ってあります」というようなものだ。その意味で、書き手としてはあまり実験ができるわけではないけど、ウェブに上がっているということで取材先に掲載記事を送る手間が省けたり、便利といえば便利。
インターネットにアクセスできない人はどうなるんだ、という基本的な問題はあるんですけどねぇ。

正直、このブログを始めたのも、このウェブマガジン原稿をやっている中で、インターネットの可能性がもっとあるだろうに、といろいろ不満が溜まったから、というところもある。無論、クローズドなウェブマガジンのあり方を否定するわけではない。あれはあれ、これはこれ。

で、原稿の制作コストである。これはホントにタブーだなぁ。でもまあ、世の中の人々に真実を伝えるならまず自分から、ということで、書いてしましましょう。露骨な書き方はしませんから。

今やっているのは、去るゴールデンウィークに有楽町の国際フォーラムが主催した「ラ・フォル・ジュルネ」という音楽祭について。テーマは、この音楽祭に会場を提供した相田みつを美術館だ。
まず、4月29、30、及び5月1日は、朝の7時前からチャリチャリと自転車で有楽町まで行き、当日券を購入するために行列に並ぶところから取材は始まる。無論、「フジテレビ・アートネット」としてプレス証は貰っているので、プレスオフィスに行けば招待券は貰えるのだろうけど、それでは聴衆がチケットにどうやってアクセスするかが判らなくなる。
実際、この音楽祭では、当日券販売でぴあシステムの限界を露呈する大失態が起き、行列で怒号が飛び交う事態となった。主宰者側の発表を鵜呑みにしている限り、こんな状況は判りっこない(記者会見でこの事態を質問したら、答える側の国際フォーラムのプロデューサー氏は何が問題だったか把握していなかった)。で、チケット代は自腹を切ることになる。でも、これは文字通りの取材費用。仕方あるまい。京橋税務所さん、領収書ありますので、3月にはよろしくね。

チケットを手に入れるや、おもむろにプレス証を首から提げ、プレスルームに行って茶を飲みながら入場者数が刻々と記録されるのを見物したり(某大新聞の名物記者は、フランスのイベントなんだからプレスルームではワインを出すべきだ、と宣ったそうな!)、現場の担当者と冗談めかした本音話をしたり、会場で同業者と情報交換をしたり、聴衆として来ているいろんな人たちと立ち話やら座り込み話をしたり、無料イベントをうろついたり。そんなことを3日間繰り返し、記者会見に出て、ヘトヘトになってまたまた自転車を転がして佃まで戻ってくるわけですな。

それでお終いではありません。
急ぎの原稿ではないので、事態が落ち着いた頃に、相田みつを美術館の広報担当者と連絡を取り、館長に今回の音楽祭についてインタビューをする。助手として取材に付き合ってくれる芸大アートマネージメント科大学院博士課程で音楽祭について研究しているIさんと、この音楽祭とは何だったのか、何が評価すべき点で、何が問題か。さらには発表されているデータをどの程度の信頼性を持って読むか、などなど、佃の家の前の路地に縁台を引っ張り出し、茶飲み話ついでに事前の議論を重ねているのは言うまでもありません(Iさんは「芸大大学院生」という研究者として東京国際フォーラムの広報担当者とインタビューを行っており、広報さんも彼女には鵜の目鷹の目のジャーナリストなんぞに決して見せぬ別の顔と本音を漏らしていて、それはそれで面白いのであーる)。

というわけで、直接の取材費用は「チケット代1500円×10公演」、美術館館長取材後のIさんとフォーラムの喫茶店でいろいろ議論したときのお茶代1000円くらい。取材中の飯代は家でゴロゴロしていても同じだから数えない。幸いなのは、取材先まで通う電車賃がゼロで済んでいること。この原稿、写真も込みで自分で撮影するのだけど、幸か不幸か、これもデジカメになってから直接のコストはゼロに思えるようになった(ホントはゼロのはずないんだけどねぇ)。

そして、作文にかかる時間である。館長のインタビューテープ起こしにかかる時間がほぼ丸一日。原稿作成としては、間に祭りやら葬式やら宴会やら入り、なんのかんのもう3日かかっていて、まだあと半日はかかる。

さあて、これでいくらになると思いますか。

勿論、教えてなんてあげません。だけど、ひとつ言えるのは、このフジテレビ・アートネットの原稿だけに限れば、もう赤である、ということ。わーっはっはっは(空しい笑)。

アホな商売の仕方やなぁ、とお思いでしょうねぇ。でも、もしもこの音楽祭をこのような形で「取材」していなかったならば、小生はこの音楽祭についていろいろと語られることに対し、何一つ自分では言えなくなってしまうわけだ。東京を拠点にしている音楽ジャーナリストとして、それはひじょーに困る。「ヴィーン国立歌劇場日本公演」とか、「東京の夏音楽祭のシュトックハウゼン公演」なんかなら、「それ、私のジャンルじゃないので、全然顔出しませんでした、ごめーん」と嘯いても良いんだけど、小生のフィールドからすれば、これはそういうわけにはいかぬものなぁ。

実際、先週出した「メセナ・ノート」の原稿にもこの音楽祭について触れたし、月刊「都響」の連載でもそのうちにネタにするつもり。ここだけで使い終える気など,さらさらありません。自腹切った取材は、内容は使えるところまでとことん使い尽くすのがフリーの基本です。

というわけで、月末にアップされる原稿をご期待下さい…などと記して、自らのモーティヴェーションを高める夏の夕方でありました。


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