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死者の谷 [たびの空]

お彼岸なので、墓参り。

昼と夜の長さが同じ春の日の夜明け前、東京湾岸から羽田空港眺めながら横浜ベイへと走り、どこをどー動いたか判らぬままに路線バスがやっと通るような道を上り詰めた三叉路を曲がれば、おやまぁ、南に向いた丘から谷を挟んだ斜面いっぱいに、死者の街が広がってら。
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大正12年の9月に一斉に死んだ者達を葬るために、港郊外の丘に造成された新しいあの世の住居は、1世紀近く経った今はすっかり市街地に飲み込まれ、周囲の生きる者達から羨望の眼差しを投げられながら、線香の煙を春まだきの冷たい朝の大気に漂わせている。遙かに望むは、港はこっちだよ、と文字通りに教えてくれるLand Mark Tower。

残念ながら、あの足下の船着き場から湾周りの佃往きは、出ておりません。

たくさんの人が死んだ1年とちょっとだったらしい。でも、ホントのことを言うと、そんな話はテレヴィジョンの画面の向こうとか、パソコンのモニターの彼方にあっただけ。ボクとすれば、逝った者はふたりで充分です。

レクイエムのテキストをしっかり読んでみたまえ。人々は、死んだ者のために祈っているのではない。死んだ者をだしに、自分のことを考えているのさ。とっても、大まじめにね。

世間様には申し訳ないけど、2万人の知らない人々に向けて黙祷できるほど、ボクは心が広くない。ゴメン。

自分にとって「2万人の死」よりも「ふたりの死」の方が遙かに大事だと、なんと言われようが叫べる状況に否が応でも追い込んでくれたふたりの死者に、あらためて、感謝しよう。おかげでボクは、ウソツキになり切らずに、これらの日々を送れた。

昼長く 咲く梅もなし 死者の谷

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