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無料の季節 [マンハッタン無宿]

梅雨空の成田を飛び立ち、爺さんばかりか3年前に加わった母親、それに父親にまでが墓の中から無事な旅をと手を振ってくれるのを眺め太平洋を横断、アンカレッジのちょっと南をかすめ、一気に北米大陸をエドモントンのビーコンまで南下、ICBMとB52がゴロゴロ並ぶマイノットやら、最近はアイスホッケーだかでも有名なグリーンベイ上空を横切り、ミシガン湖からえーちゃん懐かしのエリーの街に向けてエリー湖を突っ切り、だらしなく連なるアパラチア山脈を越え、マンハッタンの北でハドソン川を跨ぎ、一度大西洋に出てぐるりと旋回、半日と数十分のフライトはJFKに東から滑り込む。上空での待避旋回も予想される、なんて脅されてたんだけど、拍子抜けなほどあっさりと着陸し、昔は栄光のBAコンコルド専用スポットだった第7ターミナルの西側に入ります。誰も乗ってないエアトレインで鷺がノンビリ突っ立ってる湖沼群の中のハワードビーチ駅まで5ドル。いつの間にやら29ドルになってる1週間メトロカードを買い込み(1週間券が買える端末が4つ並ぶ中のひとつしかないのは、ニューヨーク市交通局の陰謀としか思えぬ)、A列車でマンハッタンに向かいます。
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貧乏人ばかりを乗せたA列車は、途中で真っ黒いもの凄い美人さんとか、イスラム帽子のオッサンとか、人類学博物館をライブでやってる状態は毎度ながら。いないのは白いビジネスマンのオッサンだけ。「文化のサラダボール」具合は成田からの京成電鉄の比ではないなぁ。

地下に入り、実験小説としての完成度がオソロシイほど上がってる筒井康隆の短編集を読みながらガタゴト揺られていると、そのうちにいつの間にかマンハッタンに入っていて、空気もちょっと変わってくる。コロンバスサークルまで正味1時間。赤い2番に乗り換えて、66丁目のリンカーンセンター駅の次が我が72丁目駅。えっこらえっこら階段を上れば、すっかり夏の緑がブロードウェイに被さり、いつも頭に鳩を乗っけたヴェルディ象もよく見えない。
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世界一のスーパーの前を抜け、いろんな人とあった角のギリシャ料理屋が潰れちゃってピザ屋になってるのに驚き、肩で扉を押して入っていくと、カウンターの向こうのいつもちょっと疲れた元イタリア系優男の社長が手を振って、「はーい、やくぺん先生、お元気」と声をかけてくる。昨年の1月末、「中国のニクソン」メト初演を見物に来て以来のマンハッタン厄偏庵に到着です。
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311があり、嫁ちゃんの親父さんが没し、嫁ちゃんの実家が厄偏庵近傍に引っ越してきて同居が始まり、その最初の晩に親父が死に、もうしっちゃかめっちゃかな半年とちょっと。思えば、今のやくぺん先生にとって、この場所は過去四半世紀で唯一変わってない拠点じゃないか。「あのギリシャ料理屋、一晩で居なくなったんだよ」と疲れた顔で笑う社長も、随分とオッサンになった。

さあ、NYPもメトもシーズンを終え、カーネギーも実質上休館中の夏のフェスティバルまでのつなぎの季節。なんにもやってなさそうなんだが、実は、いろんなことが起きている。ほれ、これとかさ。
http://rivertorivernyc.com/
そー、この時期のマンハッタン、野外パーフォーミングアーツの最盛期。無料の季節なんです。

マンハッタン島の南の全部無料の音楽演劇フェスティバル、イタリア系ねーちゃん作曲家のヴィジュアルアートとのコラボが中心となる一種のフォークオペラが7時半から市庁舎の向こうの音楽学校である(ちなみに、こういう無料若手中心フェスティバルでは、所謂クラシック音楽系のイベントはほぼ全て「現代音楽」です。現代音楽って、モダンアートと同じで、この街ではとりわけ難しいエリートのものとは考えられていません)。これは行かねばと思ったが、飛行機の中ではちゃんと寝られない我が身、ちょっとだけ寝ようと横になって、気付いたら夜の8時。おおおお、もう始まってら。アホじゃ。

しょーがないので、近くのスーパーに行き、今回は滞在が短いので食材というよりも食い物を買ってくる。
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そこそこの湿気の中、ホカホカのバッファローチキンがもの凄い臭いを醸し出しながら量売りデリに並ぶマンハッタン、紫アスパラが高級そうに鎮座する初夏の季節。

数ブロック向こうのセントラルパークでは、伝統の「野外シェークスピア」をやってる時間。これも勿論、無料です。明日はデュティーユの受賞記念演奏会でダメだけど、明後日はオライオンQのインタビューを終えたら、夜はこれまた伝統の「セントラルパーク野外オペラ」があるぞ。「トスカ」をきっちりと野外舞台でやって、これまた無料です。見物にでもいってくるべーかね。
http://www.vincentlaselva.com/pages/nygohome.aspx

初夏のマンハッタンは、アート無料の季節。部屋に篭もっていてもしょうがない。明日からは晴れるみたいだし。

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コメント 4

もぐら

あのギリシャ料理店はピザ屋ですか、、、。ジュリアードの室内楽マネージャーと飯を食ったのが随分昔に感じられます。
中華料理よりはましかもね。

部屋でビール飲む時に、暖かいピザを買って行けるようになったというきとでしょうか。

今のNYは仕掛けとしては面白いでしょうが、将来面白くなりそうな人は皆で外に出てる、、、、そんなシーズンでしょうか。
by もぐら (2012-06-26 23:36) 

Yakupen

それどころか、世界一のベーグル屋、H&Hベーグルが改装だかで、見事になくなってるのはもうビックリ。あたしゃどこでベーグルを買ったら良いんじゃ。
by Yakupen (2012-06-27 04:58) 

上野のおぢさん

NYの地下鉄(NYC Transit)は、第三軌条による集電方式であることがよくわかりますね。日本のメトロ、都営は私鉄・JRと乗り入れが当たり前になっていますから、架線からの集電が当たり前で面白くないです。

NYC Transitの車両の第三軌条方式の車両の台車部分の写真もいつかお願いします。

米国は都市鉄道の建設が歴史的にも早かったせいか、第三軌条方式を採用している路線が結構あるようですね。

ではまた、よろしくお願いいたします。
by 上野のおぢさん (2012-06-27 10:51) 

Yakupen

上野のおぢさん様

NYの地下鉄は怖くてカメラなんて出せませんっ。よく映画などでマンハッタンの地下鉄の線路を歩いているシーンがありますが、見てるだけでコワイです。ま、そういう状況ならば電気も何もないだろうけど。今週はどういうわけか地下鉄はあちこちで工事をしていて、今も深夜の1時過ぎに66丁目から小生は歩いて戻ってきましたが、ミロQの連中は100なんぼまで地下鉄で買えると申しており、あれぇ、今日は工事でどっかが止まってるという張り紙が出てたぞ、という会話をしてきたばかりです。←酔っ払いの発言
by Yakupen (2012-06-27 14:34) 

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