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みんなロッコ [音楽業界]

日生劇場オープン半世紀記念公演、二期会メンバーによる純国産「フィデリオ」を見物して参りました。
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勝手に東京東部独逸歌劇音楽祭の第2日にして、最も記念碑的な上演でありまする。

ええ、まあねぇ、言いたいことはいろいろある、ってか、ハッキリある。でも、ちょっとこの「書いてあることはみんな嘘、信じるな」を標榜する施設壁新聞でも、言えません。演奏のことではなく、「今日のこの日に、この日比谷という国会から1キロもない場所で、このオペラを上演する意味」をイヤでも考えざるを得ない。

冗談ではなく、最後の囚人が解放された後の大合唱で涙が出そうになりました。感動した、というより、ここに坐っている自分がホントに情けなく感じられたからです。
今から半世紀前、ベルリン・ドイツ・オペラがここでこの作品を上演して劇場をオープンしたとき、第2次大戦が終結して「まだ」18年でした。オペラ団の合唱団で囚人役を歌っている人達の中には、当然、30代後半から40代という脂ののりきった頃の歌手も沢山いたことでしょう。日本側の裏方スタッフの中にだって、それくらいのとしまわりの人は沢山いた筈です。そう、戦後18年という時間は、1945年の夏の前に俺はもう絶対にお国のために死ぬんだと信じていたけれど、そういうことにならずに戦後を生きることになってしまった兵隊達が正に働き盛りになる頃です。日生劇場の「フィデリオ」や特別演奏会のダイクを聴こうと徹夜して切符を買った人達の中にだって、そんな元若者がいっぱいいたことでしょう。

そういう人達にしてみれば、朝鮮戦争があり、安保があり、なにやらヴェトナムの戦争にアメリカが足を突っ込み始めているようだけど、でもともかく、あれからは人を殺したり殺されたりせずにここまで生きてこられた。不敬罪もないし、治安維持法もない。そういう時代を経てきた人達にしてみれば、「フィデリオ」の最後の大合唱は、決して他人事ではない。日比谷公園の隣、皇居の直ぐ傍、国会まで歩いて10分のところで、ああいう音楽が高らかに鳴り響き、みんなそれぞれにその意味を心に刻み込んでいた。

そして、半世紀が経ったわけです。ちゃんとした、ドイツの地方歌劇場通常公演くらいのレベルの「フィデリオ」が、日本のスタッフだけでまた鳴りました。それはそれで、立派なもんです。

だけど、半世紀前の「フィデリオ」に感じたリアリティを今も保っていらっしゃる方は、この公演に関わった全てのスタッフの中でも、そうだなぁ、田中信昭先生くらいしかいらっしゃらなかったんじゃないかしら。

今、御上のさじ加減一つで政府の持つ情報が機密になり、それを漏らすどころか関心を持っただけでも逮捕拘束される可能性がある法律が粛々と国会を通過しようとしているこの瞬間、我々は残念ながらフロレスタンにもレオノーレにもなれない。

この瞬間、この舞台で最もリアリティがあるのは、ロッコでしょう。我ら日本国民、みんなロッコ。

だから、涙も湧くわけさ。

本日はオチは無し。これでオシマイ。勤労感謝の日の夕方の銀座は、たいそうな人出でした。世は全て、こともなし。

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hyamada

西村朗氏の新作オペラの世界初演もあったようですね。
by hyamada (2013-11-24 01:24) 

Yakupen

なんせ昨日は、驚異の「トリスタン」都内で二箇所同時上演。本日は、都内で「フィガロ」、「フィデリオ」、「トリスタン」が全て日本国内プロダクションで同時上演、というとんでもない日です。
by Yakupen (2013-11-24 09:51) 

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