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日本初演半世紀:その2 [音楽業界]

湾岸からはるばる内陸は八王子に向かう京王線の中です。カサド・コンクール、今回はパスと思ってたのだが、諸般の事情で今日明日、それに土曜日と行くことになってしまいました。もう今週は物理的にパツパツで、どこで作文するってのよ。てなわけで、電子壁新聞なんぞかまけてる暇がないので、手短に。多摩川くらいまでで終えたいぞ。今、かつて深大寺厄偏庵が結ばれていた頃に使ってた駅だ。ご近所だった社会党の山花委員長、今はなにしてるのかしら。自転車で選挙演説してる菅直人なんて奴もいたなぁ。

さても、金曜日から昨日までの3日間、八王子ではチェロ抱えた若者達が1次予選を戦っていた裏で、日本国に独逸歌劇の最先端を見せてくれたベルリン・ドイツ・オペラが来日し半世紀の独逸歌劇祭が東京東で開催されていたわけであります。「フィガロの結婚」、「フィデリオ」、「トリスタンとイゾルデ」という三連発。重要なのは、これら全てが御上とは関わりのない地方自治体やら民間劇場、はたまた民間の歌劇団による上演だったということ。ちなみに御上とすれば、文字通りの押っ取り刀で来年に「ヴォツェック」で参戦するわけでありまして、これで以下の演目全てが半世紀を記念して上演し尽くされるということ。
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そう、日生劇場オープニング時のポスターです。値段が興味深いですねぇ。東京の学生アパートが四畳半で5千円くらい、国電の初乗りが15円の頃です。

さても、半世紀経って上演された「トリスタンとイゾルデ」、今やアマチュアオケまでが演奏しちゃう(確か新響がやったですよねぇ)わけだが、昨日の上演はもっとスゴイといえばスゴイ。アマチュアは持ち出しで良いけど、歌で喰ってるプロのバリトン歌手さんが日本でも普通にヴァーグナーが舞台で観られるべきだと信じ、自分でカンパニーを立ち上げ、プロデューサーさんとタッグを組み講習会やらコンクールなどをやってお金を稼ぎ、そこから挙がってくる資金をベースに年に1度、なぜかチンチン電車が走る東京は荒川区のサンパールという区民ホールでヴァーグナー作品の舞台上演を行ってる。で、昨日は「トリスタンとイゾルデ」だった、というわけ。

このプロダクション、客席でお会いした某同業者さんは区からの援助とかあるんですかねぇ、と仰ってたけど、プログラムを隅から隅まで眺めても、ポスターをじろじろ眺めても、荒川区文化財団とかの名前はない。無論、文化庁の助成金も、ローム財団やら日本音楽財団やらの助成もない。
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ここまでくると、天晴れとしか言いようが無いですわ。

高幡不動まで来ちゃったんで、もうそろそろオシマイにするぞ。上演の中身については、敢えて触れません。だけど、先週日曜日の富山の「トリスタン」と比べると、例えば歌手の言葉の扱いなどはこっちの方がちゃんとしているぞ、という瞬間もありました。指揮者さんはドイツの地方歌劇場をずーっとやって来ている方で、歌手のレベルが世界最高ではなく、臨時編成のオケでメンバーは60人くらいしかおらず、ちょっとしか出てこない合唱団はテープ録音で済ます、なんて極めて現実的なプロダクションをしっかり纏めてます。こういう芸は日本では接したくてもなかなか不可能。言葉の最上の意味で、ドイツの地方都市の劇場の日常プロダクションとして上演されるヴァーグナーを眺めているようで、気持ちいいもんでした。
初演から半世紀、こういう全く背伸びをしない、身の丈なりの東京の区の劇場がやってるとも言うべきローカルな「トリスタン」が観られるようになったんだから、いやぁ、ホントに、ニッポンもブンカコッカになったもんだ。繰り返しますが、全然皮肉じゃないですよ。

ところで、サンパール荒川の方、本日の出し物という案内に、こんな風に書いて下さった。
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これ、最初、このプロダクションが意図的に掲げてる題名なのかと思い、慌てて上に挙げたポスターを眺め、あああそうか、と納得しそうになった。ポスターの「と」が赤い文字でもの凄く見づらい(美術学科の色彩論の先生などが眺めたら卒倒するだろう配色だもん)。恐らくは、掲示を書いたホールの方に「と」が見えなかったんでしょうねぇ。

だけど、「と」無しって、演出家さんがホントにそう言い張ったという可能性もあり得る。だって、2幕で後の「愛の死」と同じ音楽で奏でられるクライマックスの2重唱になる直前、イゾルデが盛んに「と」が私らの愛のポイントだ、と叫ぶでしょ。なくなってトリスタンとイゾルデがひとつに溶け合っちゃう、って歌う内容の前触れになってる。だから「と」を敢えて抜いて、ふたりの肉体や魂がひとつになっていく事を象徴するのだ、なんて主張もあるなぁ、と勝手に思っちゃった次第。

さて、京王八王子駅に着いた。結論があろうがなかろうが、本日はここまで。銀杏ホールはまだ遠いぞ。

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