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マシューはシャンゼリゼでサヨナラ [弦楽四重奏]

バタバタしていて電子壁新聞に手が回ってなくてスイマセン。本日夕方の帰国機内でまとめていろいろやります。なんせ、今回は実質たった1週間の滞在で、インタビューは1本だけど(もう原稿にしてアップしてる)、この街はいろんな人がいるのでいろんな人に会ったり、会えなかったりで連絡待ちしてたり、意外にハドソン河眺めながら坐ってる時間がなかった。オペラ4本、オーケストラ2本、弦楽四重奏3本、それにレクチャーひとつ、7日間だけでこれだけやっつけてるのだから、うん、結構、真面目にこなしてるぞ。東京ではあり得ない勤勉さだわい。ふうう…

さても、昨晩、カーネギーホールの悪名高い(と、敢えて言いましょう、なんせ地下鉄の音はもうどうしようもないもん)地下のザンケルホールで、エベーヌQの演奏会があったです。
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今回の紐育滞在の目的のひとつ。ミュンヘン大会に突如出現し優勝をかっさらい(審査員だったポール・カッツ御大から評判を聞いたりしたっけ、そういえば「最後のフェルツ門下」と鳴り物入りだったファウストQとかって、どうなってるんだ)、以降、あっというまにゴマンとあるフランスの若手団体のトップに躍り出て、それどころか世界のトップのひとつになっちゃった団体。巨大レコード産業が日本の音楽情報を実質上支配していた90年代初期までだったら、当然、ハーゲンQやエマーソンQと同じクラスとして扱われていたでしょうねぇ。

創設メンバーのマチュー君が抜けるという話が室内楽愛好家にショックを与えてから半年くらいかな、この前、日本に来たときは半分公式みたいな状況で飯を喰ったときにもまるで出てなかったから、そんなくらいのスパンのニュースですな。あ、連休の最中のことだ。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2014-05-04
そういえば、いつ誰が呼ぶのか、と思ってたら初来日はラ・フォル・ジュルネだったっけ。その後…もう時効だろうから言って良いんでしょうねぇ。ラ・フォル・ジュルネ絡みのアーティストはるねまるレーベルで録音し、いろいろとグルグル回すという仕組みになってるのは皆さんご存知だと思いますけど、ぶっちゃけ、某大手レーベルから話が来て、出世していくことになる瞬間、さてもどうするか、ゼーリゲンシュタット音楽祭で凄い深刻な話をエベーネ会社でしているところにたまたまやくぺん先生は居合わせてしまうことになり、それが彼らとホントにちゃんと知り合ったときだった。結果、るねまると離れることになり、以降、るねまる氏のプッシュはアマデオ・モディリアーニになったのは皆さん良く知ってるでしょ。ラ・フォル・ジュルネ関連は情報が良くも悪くもいっぱい出てますからね。

音楽的にはやくぺん先生は話ばかり聞いていたのになかなか出会えなくて、結局、有楽町のしょーもない会場でバルトークをふたつだかやったのが初めてのエベーヌ体験。まあ、ぶっちゃけ、こういう団体はバルトークなんかは上手でちゃんとしてて当たり前なんで、もちょっと別の曲で聴きたかったなぁ、と思ったものでしたっけ。マチュー君の当時の嫁さんが誰か知ってアッとビックリしたのは、いつのことだっかなぁ。もーわからんわ。

音楽的に「こいつらはとんでもない」と仰天したのは、それから暫くしてのレッジョでのフェスティバルでした。フランチェスカ実質事務局長がいちばん頑張ってた頃で、コンクールのない年にフェスティバルをぶち上げて、来なさい、という命令で当時はまだ晴海のディレクターだった嫁さんとノコノコ出かけ、そこにミュンヘン代表(?)で出て来たのがエベーヌQ。ここであの必殺、「ジャズ」をやったんですよ。もうビックリでした。ああいう音楽をちゃんと、ホントにちゃんとやれる弦楽四重奏がいるなんて、21世紀はなんという時代になったものだ、って腰を抜かした。

以降、意識的に追いかけるようになり、ヘンシェルQの音楽祭で知り合い、なんのかんのなんのかんの。このときも、文字通りのライジングスターで、特にミュンヘンでは某大手音楽事務所との関係があって、いつもように仲間感覚でやっちゃったヘンシェルにいろいろ面倒なことがあったそうなんだが、まあ、それはそれ。売れっ子になりそうな奴らをどうやって音楽業界がキープするか、いろいろと勉強させていただきました。老獪な(悪辣な、とは言わぬが)ヨーロッパの連中がどうやって「スター」を作っていくのか、しっかり見させて貰った。

その後はまあ、なんのかんの。勿論、追いかけていれば良いことばかりではなく、ソウルの世宗文化会館が新しく室内楽ホールを作って始まったフェスティバルで弾いた作品127はなんとも半端な出来で、こいつらまだベートーヴェン後期はダメ、ってやくぺん先生印をベッタリ貼り付けたり(結局、ベートーヴェン後期はその後も聴いてないなぁ)、内田さんのお気に入りになってからもの凄く精密なフランクの五重奏聴かせてくれて本格派としてのもの凄い実力をあらためて納得させて貰ったり。なんとか彼らの「ジャズ」パーフォーマンスをちゃんと眺めたいとヨーロッパの田舎の音楽祭に出向き、これは嫁ちゃんにもちゃんと聴いてもらわねばと香港にもご家族で行ったり。いちばん常識人っぽい苦労人タイプのチェロのラファエル(ド・ゴールでチェロ没収騒動、なんてあり得ない話もあったっけ)とは、アルミダQが勝ってザイーデQが本選前に落とされた最悪のミュンヘン大会のとき、やくぺん先生が渡された本選の席の一列前に審査員として座ってて、気楽な愚痴を言える相手として立ち話(座り話?)をしたり。いろんなことがあったなぁ。

天才ピエール、なんでもこなせるガブリエル(昨晩はメンデルスゾーンの作品13でファーストに坐り、第3楽章なんてプロのファーストもかくや、という振る舞いをきっちりしてました)、キャラ濃すぎのぶっとびマチュー、苦労人ラファエル、ってメンバーのバランスは、音楽的にはもうこの他には考えられないチームに思えていたもので、マチューの指揮者なんぞへの転身って話にはホントに驚いたもんです。結局、日本でもやりたいといろいろ話をしていた「ジャズ」の演奏会、一本きっちりと聴かせてくれることはありませんでしたねぇ。語りとかあるんで、難しいんだよなぁ。香港なら英語で問題ないんだけどさ。ピエールが奥さんに鍛えて貰って日本語もっと出来るようになれば…なんて笑ってたんだけど。


そんなこんなで、果たしてマチューがホントに弾くのか、誰か知ったような面子が北米ツアーのみ代打で入るのか、はたまたアナウンスされた凄く若いという新人が新たに加わっているのか、ワクワクドキドキで迎えたザンケルホールの演奏会。なんせ、演目に「ジャズ」系はなく、どんな可能性もあるように思えた。チケットは売り切れ。このザンケルの弦楽四重奏シリーズ、年間に4本くらいしかないのだか、それなりに客は入るメイジャー・シリーズに成長していて、先月は我らがボロメーオQがやっぱり売り切れだったそうな。

舞台にはちゃんとマチュー君が出て来ました。もう豊嶋御大をうんと偉くしたみたいな、なんともキャラの立った登場から、空気作ってるなぁ。こいつが抜けるんだからさあどうするのか、と出て来ただけで思わされる。ピエールが頭のモーツァルトの変ホ長調、冒頭から綺麗なユニゾンで始まり、古楽系とは無縁ながら細かくテンポを弄ったりする作り込んだ演奏。とはいえ、ベルチャQみたいな人工美じゃなくて、どっか凄く自然なのはこいつらなんだわなぁ。楽章が終わると拍手が来ちゃったのは、聴衆のかなりが「ジャズ」系のお客さんということなのかしら。頭を入れ換えたメンデルスゾーンで前半が終わり、後半はバルトークの4番、まあ、なんとも余裕のあるアンサンブルで、2楽章は合わせるってよりも音色の変化を前面に押し出す。ピチカート楽章も極めて多彩。終わったら会場から笑い声があがって、なんかアウトリーチで子供に聴かせたみたいな素直な反応だったのが面白い。

んで、大拍手に応え、マチューがでっかい箱を持って登場します。わあぉおおお、やっと来たぜぇ、って感じの客席。ラファエルが「今度のアルバムの最後のトラックは、ニューヨーカーのフランス人、ミノ・チネルが14の打楽器を叩き、いろんなゲストが合唱してくれてます。で、今、この会場にミノがいます(大喝采)、でも合唱はいない。そこで皆さんに加わって貰います(大喝采)。では、リハーサル、歌詞は♩ららららららららら~ですから、大丈夫(笑)…」って調子で、打楽器が加わり、無論、エベーヌQも弾きながらハモって歌い、客席も一緒になって、言わずと知れた《ブラジル》で大盛り上がりのザンケルホールであったとさ。
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終演後、大混乱の中で一瞬の立ち話しかできませんでしたが(先生を待ってるんだけど、というカリドールQの連中と楽屋前に立ってた)、必要な情報は得ました。創設メンバーにしてバス独唱担当のマチューが加わるエベーヌ・バンドの最後の公演は、12月14日のシャンゼリゼ劇場だそうです。演目は今回の紐育と殆ど同じですな。
http://www.theatrechampselysees.fr/recital-et-musique-de-chambre/concerts-du-dimanche-matin/quatuor-ebene?from_calendar=1
日本のエベーヌQファンの皆様、さあ、パリへGO!

弦楽四重奏の世界に前人未踏、空前のパーフォーマンスを繰り広げた初代エベーヌQ、本当にありがとーございました。君たちのお陰で、弦楽四重奏の世界は10年分くらいは生き延びられた。新生エベーヌQがどうなるかは判らないけれど、初代エベーヌは弦楽四重奏の歴史に今後も燦然と輝くことでりましょーぞ。

なお新生エベーヌQのデビューは、来年1月25日のこれまたシャンゼリゼとのことです。
http://www.theatrechampselysees.fr/recital-et-musique-de-chambre/concerts-du-dimanche-matin/quatuor-ebene-1?from_calendar=1
なるほど、作り直し、って感じのレパートリーになってるね。

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