SSブログ

弦楽四重奏とDJと老人と若者と [現代音楽]

「ハイドン+バルトーク(かヤナチェック)」、それに続くロマン派のラウンドが終わり、本日のバンフはセッションはお休み。弦楽四重奏は明日の委嘱新作ラウンドに向けて自分らの練習室に籠もりっきりの日であります。とはいえ、バンフ・センター内に泊まり込んでるレジデント聴衆はいるので、イベントはあります。もっとも、せっかく世界に冠たるカナディアン・ロッキー観光の中心地にいるのだからと、泊まりがけで山に入って現代曲セッションが始まる明日の午後までには戻ってくる、なんて猛者もいるそうですが。

センターが用意してくれたイベントとは、「アフィアラQとDJのコラボレーション」であります。前々回のいろいろ曰く付きの大会で優勝ならず2位となったアフィアラQ、その後、いろいろあったけど、チェロのアドリアン・ファン氏がなかなかの才気煥発な奴で、トロントをベースに手広い活動をしている。まあ、そういう動きになれば当然メンバーの中にもついていけない奴がいるわけで、今はバンフに来てたメンバーの半分が入れ替わっている。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2016-08-16
ま、それはそれでプロとして弦楽四重奏で喰っていくのはいろんなやり方を自分らで考えねばならぬわけで、意見も割れて当然。一緒にやっていけないと思う奴が出て来るのが当たり前。それをどうこういうわけではない。

問題は、やってることでありますわ。正直、解説を読んでも何をするのかちっとも判らない。こちら。
https://www.banffcentre.ca/events/bisqc-spin-cycle-afiara-string-quartet-and-dj-skratch-bastid
この公式ページの写真のレコード噛んでるあんちゃんがDJさん。めんどうなんで、まんま内容をコピペしますと…
This concert features compositions from four of Canada’s leading young composers (Kevin Lau, Laura Silberberg, Rob Teehan, and Dinuk Wijeratne) who were commissioned by The Afiara Quartet to write new works for a string quartet inspired by popular themes. Performed by Afiara Quartet, each of these works was then remixed by DJ Skratch Bastid, to create four new solo works for scratch DJ, which was 're-re-mixed' by the original four composers. These re-composed works will be performed live in concert in the form of a quintet (The Afiara Quartet + DJ Skratch Bastid).
トレーラーのヴィデオも付いているので、どんなもんか判るでしょ、ってことになってる。

けどさぁ…判らんよねぇ。いきなり「モーツァルトやハイドンは当時の最先端ポップミュージックだった」なんて、しばしば言われるけど実ははっきり嘘だった発言がされて(今に至る「クラシック音楽」の価値観と在り方が創られたのはスヴィーテン男爵の音楽協会だったのは歴史的な事実なわけですから、そこに出入りしてハイドンセットなんかが生まれてきた以上、明らかにポップ音楽とは一線を画した価値観だったことは否定しようが無い筈なんだけど、ま、そこを喧嘩するのは今は止めましょか)、それから弦楽四重奏の演奏するクラブ風リズム系音楽に、DJサウンドの基本たるレコード弄ってきゅっきゅ、って響きが重なってくる。ぶっちゃけ、これをライブでやりますよ、ってイベントでありまする。

連日、弦楽四重奏がバルトークやらハイドンやらを弾いてきた同じ会場の同じ舞台には、下手に弦楽四重奏の譜面台と椅子、上手に所謂DJのセットが置かれ、後ろにでっかいスクリーンがおりてます。
131.jpg
会場ロビーは当日券で街からやってきた若い聴衆もいっぱいで、みんな飲み物もって会場に入ろうとして、もぎり(ってか、マシンでピッピってチェックする)オバチャンは一生懸命止めるのだけど、とても止めきれずに客席はディスコか映画館みたいにでっかい飲み物抱えた若者が半分くらい。あとの半分は、レジデントの聴衆。無論、爺さん婆さんですう。

弦楽四重奏とDJさんが登場、もう若い聴衆はキャーキャー、と歓声を挙げてらっしゃいます。アフィアラQは席に着くやiPad楽譜を前に据え、楽器にマイクをくっつけ始めます。足下にはスピーカーが置いてあります。で、ファン君が趣旨についてちょっと話し、まずは委嘱した作品を弾く。アンプリファイされた生音弦楽四重奏は、連日響いていて「聞こえないぞ」という声が挙がっている生音とはまるで違う。そりゃそーだ、ちゃんとバランスやら音量をコントロールするエンジニアが客席いちばん後ろに陣取ってちゃんとコントロールしてるんだからねぇ。つまり、クァルテット側の仕事がひとつ減ってるわけですわ。中身は、プロモーション映像で流れてるようなもんです。ものすごくポジティヴに言えば、クロノスQが開いた道を先にすすめてるようなもの、日本ならモルゴーアQがある世代をピンポイントで熱狂させてる音楽をアンプリファイしたようなもんです。

15分弱くらいの曲が終わり、DJの方がどうやら今弾かれた曲を事前に録音した音源を弄り回しライブでターンテーブルやらなにやら弄って曲を作る、ってことをします。その様子が、後ろのスクリーンにでっかく映し出される。どうやらこういう音楽は途中で盛り上がりが一段落すると「いぇい」とか「キャー」と叫ぶのがマナーなようで、若い方々は粛々とマナーに従った嬌声を騰げていらっしゃいまする。なるほどねぇ、どの世界にも聴衆のマナーがあるのだなぁ。勉強になるなぁ。シュトックハウゼンなんかが額に皺よせてやってたことが、こういう風に「ポップ」に消化されていくんだなぁ。この若い聴衆、《光の火曜日》の第2幕なら喜んで聴きに来ると思うなぁ。まじで。

で、それから、両者のコラボレーションになります。アフィアラが弾いて、DJさんが独奏した音楽をさらに即興で弄っていくらしい。らしい、ってのは、正直、普通の意味での変奏でもなければ、モチーフの操作展開でもなければ、リズムやら和声(コード進行、というべきなのか)を維持しながらなんかするとか、そういうのじゃない。ぶっちゃけ、あたしにゃ、なにがどう変容されてるか判らないけど、どうやら同じ素材からの「コラボレーション」らしい。そういうもんでした。演奏途中でDJソロのきゅぃーんみたいな響き(思わず、《光の火曜日》の音響ミサイルだぁ、なんて思ってしまった)が出ると、客席はきゃああああっと沸く。そういうもんらしいぞ。うん。終わると、スタンディング・オーヴェーション。

演奏会は、結局、2曲やって1時間ちょっと、まあ、普通のライブの半分くらいの規模だったのかしら。終わると、案外とさっぱり、三々五々、秋の始まったバンフの山から若者は車でどっかに去って行きました。のこされたじいさんばーさんは、センターのバーに行ってどぐろを巻いて、なんのかんのなんのかんの世が更ける。

クァルテットが、絶対にバルトークやハイドンでは聴衆にならない若い人達へのアウトリーチとして、クラブやらに進出し、DJとコラボレーションして生活の場を広げていくという在り方は、全く不思議はありません。なんせ、所謂クラシック音楽の専門教育はぶっちゃけ超オーバースペックで、バンフのコンクールに来るクラスの連中ならば、そういうことをやれと言われれば簡単にやれる。無論、その筋の専門家の方々や専門聴衆からすれば言いたいことはいろいろあろーが、言いたいことを理解し、それなりに対応する能力は極めて高い音楽家達です。こういう作業は、それほど難しくなくやれるでしょう。問題は、やる気があるか、やる機会があるか、そしてなによりも、やれるメンタリティがあるか、です。

聴衆の中には、ヴェローナQのセカンドとヴィオラ嬢、なぜか今日から来てるエッシャーQのチェロ君なども座って、いぇい、と声を挙げてました。

そう、彼らは「若者」なんだわさ。さても、爺らはどーするねん。

明日は1日、ゲンダイオンガク。

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0