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世界で最も客が入る20世紀後半の管弦楽曲は… [現代音楽]

天皇誕生日の善き日、観光客とクリスマス飾り溢れかえる京都まで日帰りし、京都市交響楽団創立60周年記念演奏会を拝聴してまいりましたです。一応、短いとはいえ商売もん原稿もあるので、そっちには書けないやくたいないことを記すであります。

目出度いオーケストラの還暦演奏会、それも日本ではほぼ唯一の完全官立オーケストラとして始まり、余り話題にはならないけどストやったり、いろんな存続の危機があったりした団体。この数年は広上氏を首席指揮者に迎え、今や日本でいちばん元気があって集客力のあるオーケストラになった瞬間のお祝いですから、これはもうさぞや派手な、それこそマーラーの8番とか合唱付き新作委嘱初演とかで祝うのであろー…と思うのがわしら凡人の考えること。無論、誰もが期待するマーラーの8番は3月にしっかりやってくださるのだけど、敢えて「60周年記念演奏会」と高らかに題名を掲げてやるのが、なんとまぁ、シュトックハウゼンの《グルッペン》だというのだから、なんてこった。流石、と素直に驚嘆すべきか、誰がどうやって騙したんだ、と別の意味で驚嘆すべきか。
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結論から言えば、言い出しっぺは3人の指揮者陣を担う客演指揮者のマエストロ下野だそうで、それにいかにもやりたそうなもうひとりの客演指揮者のマエストロ髙関が大喜びで乗って、首席指揮者のマエストロは「ぐるっぺん、ってなんじゃ」だったそうです(会場で司会者さんがいて、マエストロそれぞれにちょっと話を聞いたときに仰ってたこと)。ま、その辺りは某月刊誌の本篇原稿を眺めていただくとして(余りにも短いので触れられない可能性高し、だけどさ)、ホントにどーでも良い感想を。

まずなによりも、おおっぴらにいうべきこととしては、これまた驚くべき事にこの演奏会が目出度くも実質満員御礼になった、という事実であります。改装なったロームシアター京都の向かいのみやこメッセという、天井は普通のコンヴェンションセンター展示室のように低いけど、長方形のひろおおい空間が会場ですので、客席数なんであってなきが如きもの。何人の客が入ったか知らないが(しまった、訊ねてこなかった!)、恐らくは1000人以上、普通のコンサートホールひとつくらいはしっかり入っていたことでありましょう。それに、曲の造りからいって前の方の3つのオーケストラに囲まれるところがいちばん良い席なわけで、そこめがけてパイプ椅子をLCCか中国のぱっちもん新幹線かってくらい思いっきりぎゅう詰めにしていた。なんであれ、その客席がほぼいっぱいになっている。全席自由なんで、会場前から聴衆がこんな風に並んでました。
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ちなみに、会場のタッパはこのロビーと同じですから、いかに天井の低いところでやったかがお判りでしょ。内部の写真は、ゴメン、出せないのですわ。

なお、《グルッペン》は間にケージの《五群オーケストラのための33の小品》挟んで2度演奏されたんだけど、NHK京都のアナウンサーさんという司会者のおねーさんがケージの後に強制的に客を一度排除し、別の席に座り直しなさい、ということをなさいました。数年前にサントリーでやったときもそうだったけど、この曲は席を変えて複数回聴くというのが、どうも日本での定番になりつつあるようですな。で、やくぺん先生はオケを全部等距離にするくらいの真ん中よりちょっと後ろくらいのど真ん中でGPを見物させていただき、1度目の本番は出来るだけ真ん中の第2オケに近い前寄りの真ん中辺り(とはいえ、大行列でど真ん中は取れませんでした)、2度目はいちばん後ろの真ん中で聴かせていただきましたです。

ええ、演奏そのものは、オーケストラの配置、会場の在り方など、過去にやくぺん先生が経験した多くはない回数のこの作品の実演の中では、最も理想に近い再現だったと思うです。マエストロ下野曰く、マデルナやらロスバウとやらブーレーズが初演した60年前の会場よりもちょっと広いそうですが、ともかくこの作品、響きすぎるいまどきのちゃんとしたコンサートホールでは無理、ということはよーく判りましたです。

でも、当然、そうなると「三群オーケストラ」というメインテーマとはまた別の、極めて常識的な意味でのバランスがやたらと難しくなる。アンプリファイされたギターなどの音量はどうあるべきか、そもそも指揮者3人が聴衆の方を向いているという「30人編成くらいの打楽器がいっぱい入ったアンバランスなオーケストラをサントリーのPブロックみたいなところで聴いている」というおかしな状況で打楽器がカバーしてしまうに決まってる弦楽器をどう聴かせるのか、もう訳が判らぬカオス状態。マエストロ下野は個人的な立ち話で「この曲にも正しいバランスはあります」と断言なさってましたので、恐らくはマエストロがGPで音チェックをしていた場所の辺りで聴けば、その理想に近い響きになっていたのでしょう。正直、2度目の、いちばん後ろの席で聴いたときは、弦楽器のソロなど、殆ど聴こえませんでした。難しいなぁ。まあ、そういう「よくきこえないよ」というのも含めた曲なんだろうけど。

…なーんて一応は表のお話っぽいことは、まあこんなもの。ケージとシュトックハウゼンの「創作」の考え方がこんなに違うのかねぇ、とか、いろいろネタはあるけど、ま、それはそれ。で、当電子壁新聞で論じたいのは、どーでもいいけど、実はいちばんどーでもよくはない話。「なんでこの曲は客が入るのか?」ということ。

《グルッペン》という作品、これだけの規模の音楽ですから、アマオケや学生オケが出版社のUEさんに言わずにこそこそやってしまうのは流石に不可能でありましょう。演奏歴はきっちり把握されている筈で、最近のものを知りたければ、ここにいけば簡単に判る。
http://www.karlheinzstockhausen.org/Auffuhrungen_Performances_english.htm
シュトックハウゼン教の聖地たる、御大の公式ホームページの作品上演リストであります。ちなみに《グルッペン》のページはこちらで、ここで基本的なことは全部判るようになってます。
http://www.karlheinzstockhausen.org/gruppen_german.htm

で、上の上演リストを眺めればお判りのように、2016年には《グルッペン》はパリ、モスクワ、プラハ、京都と4回演奏されている。どこかのオーケストラなり主催者なりがこの曲を持って世界ツアーをやってるわけじゃあなく、それぞれが全く別のプロジェクトとして関係なくやられている。これって、60年前の前衛最盛期に書かれた110人の演奏者を必要とする純粋器楽曲としては、「もの凄く頻繁に上演されている」と言っても良いんじゃあないかしら。そりゃ、《トゥランガリラ交響曲》には及ばないかもしれないけど、これだけ特殊な編成でセッティングだけでも頭が痛くなりそうな曲が世界で3ヶ月に1度はやられてるというのは、とてつもないことでしょーに。

なによりスゴいのは、モスクワとプラハがどうだったかは判らないのだけど、やくぺん先生が直接知る限り、経験したどの演奏会も満員なんですわ。それどころか、1月のパリ・フィルハーモニーでの演奏は、もう数ヶ月前から完売札止めで、ホールのスタッフやパリ音楽院の方に手を回しても切符が1枚も出てこない状況。結局、プレスチケットも出ず、聴くのは諦めねばならなかった。その前に聴いたマンハッタンのNYPの特別演奏会も満員札止め。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2012-06-30
その前に、サントリーの夏の現代音楽祭でやったときも、まさかと思ったけど売り切れ満員御礼当日券ありません、でしたし。

うううん、これは一体、どういうことなんでしょうかねぇ。

興味深いのは、サントリーははっきりと「現代音楽フェスティバル」だし、パリもシュトックハウゼン・ウィークみたいな中での開催だったけれど、マンハッタンも今回の京都も、「ゲンダイオンガク」を全面に出した演奏会ではなかったこと。そして、当然ながらなのか、幸いにもなのか、聴衆も「ゲンダイオンガク」専門客ではなかった、という事実なのであります。とりわけ今回の京都は、聴衆の殆どが「昔から京響を聴きに来ているご隠居サラリーマンご夫妻」みたいな方だった。シュトックハウゼンだから、《グルッペン》だから、という客は、遙々東京くんだりからやってきた業界関係者や現代音楽関係者数十人と、関西のそういう固定客せいぜいが百数十人くらいでありましょう。要は、この演奏を聴いた人の7割くらいは、普段は「シュトックハウゼン」やら「ゲンダイオンガク」やらとは無縁に幸せに生きていらっしゃるまともな方々であったのでありまする。

こういう人達に「なんだかしらんけど、スゴい」と思わせられたのか?一部ドイツ語圏の方々はベートーヴェン並に偉いと信じていらっしゃるシュトックハウゼン御大がホントにエラいのか、勝負の日でもあったのですわ。

で、シュトックハウゼン御大は、これららの京の街場の人々をひれ伏させることが出来たのか…うううん、ぶっちゃけ、判りません。ただ、もの凄く長い拍手が続いていたことは事実であります。

「《グルッペン》は何故客が入るのか?」どなたか、本気で論じていただけませんかね。余りにいろんな要素がありそうで、アホなやくぺん先生には到底手に余りますです。

さても、次はいつ聴けるのかなぁ。

[追記]
28日朝の追記です。ええ、京都市交響楽団60周年記念イベントの最後の目玉、3月末のマーラーの8番は、昨日チケット発売と同時に2公演即完売になったそうです。今回の《グルッペン》も、そういう京響を愛する地元聴衆のパワーがあってこその実質満席、なのかもしれませんねぇ。愛されてるなぁ、京響。やっぱりオケは一都市にひとつに限る!←京フィルの方に叱られそうな発言じゃ…

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