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昔々あるところに「前衛」というものがありました… [現代音楽]

ニッポン国民に課された年に一度の強制労働たる納税申告も無事に終え、世間はカンブルラン御大がロマン派肥大症の頂点で壮大にハ長調鳴らすのに熱狂する中、その対極のチェロ1本の演奏会見物に早稲田のトーキョーコンサーツさんがやってるスタジオに行って参りましたです。こんなん。
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https://tocon-lab.com/event/%E5%B1%B1%E6%BE%A4%E6%85%A7%e3%80%80%E7%84%A1%E4%BC%B4%E5%A5%8F%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AB%e3%80%80%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%84%E3%83%AA

山澤慧さんという若いチェロ奏者さんの無伴奏リサイタルで、ご覧のように「ジークフリート・パルムに捧げる」というテーマ。演目は絶頂期のパルムが演奏した、所謂「前衛」時代巨匠作曲家の著名作品に、同世代の作曲家の新作をひとつ挟む、というもの。ま、ある時期にこういうものを聴いていた方にすれば、鉄板名曲選でありまするな。

興味深いのは、チェリストさんがいかなケルンに留学していたといえ、どう考えてもパルムを個人的に知っているとは思えないこと。会場にいらした若い某打楽器奏者さんに「パルムって、皆さんの世代にとってどんなん?」と尋ねたら、やっぱり歴史的な存在のようでありましたし。

演奏の合間に挟まれたチェリストさんのトークに拠れば、ケルンで師事したアンサンブル・モデルンのチェロさんがパルム御大のお弟子さんだそうで、要は孫弟子、ってこと。1927年生まれということだから、そりゃそーだわなぁ。曲間のトークで「パルムさんのCDを聴いて衝撃を受け…」などとサラッと仰る。ええええ、パルムのCDでっかぁ、パルムってば、なんといってもあのDGから出ていたチェロがごろんと立て掛けてあるジャケットのコンタルスキー兄弟のどっちだかと共演したレコードと、あとはドイツ・ヴェルゴから出ていたコンタルスキー御大の白黒写真かなんかが表になったLPレコードでしょーにぃ!CDなんてあるんかい!(←調べたらあるようだ。ただ、DGのジャケットが全然違うもんになっちゃってるんで、あのLPとは知らなかった…)

本日の演目も、ヴェルゴとDGの2枚のレコードに収められていた演目がだあああっと並び(今調べたら、カーゲルは両方に入ってないわ。そういえばレコードに入ってたカーゲルの曲って、最後にわあああっと大声挙げるだけだったような)、ある時期にパルム様の演奏でこの類いの演目を刷り込まれたものばかり。今は養父チェロの課題曲になってるもんもあり、ペンデレツキなどは既に全く定番演目で、ケラスなんぞを筆頭にいろんな演奏を聴くわけだが、爺とすれば未だに結局パルム様に戻ってしまう。それはそれで困ったことなんだけどさ…

パルムという方は、カザルスホールがチェロ連をやってた90年代頃にはもう実質的にチェロの弾き手としては大巨匠で(今、チェロ連担当者に尋ねたら、「パルムをやろうという話は常にあったし、日本にもレップはいました。もうあんまり弾いてなかったし、なによりギャラがお高くて…」とのこと)、つらつら思い返すに、恥ずかしながらやくぺん先生もライブで聴いたことがありません。リーム辺りとの付き合いが最後くらいなんでしょうねぇ。

個人的に記憶に印象的なのは、1997年だかのミュンヘンARDコンクール弦楽四重奏部門の審査委員長を務めていたのが、何故かパルム御大だったこと。
この年は、1970年の東京Q以来となるアルテミスQの優勝という大事件があったわけで、今はもう使われていないミュンヘン音楽院から東に1ブロック行ったロータリーの南にあるアメリカ文化会館だかが会場だった。随分とノンビリしていた頃で、1次予選の会場にはズラリと並んだ審査員を除けば聴衆はホントに数える程しかおらず、アルテミスQがツェムリンスキーの1番だかを弾いて歴史的な栄光へと第一歩を踏み出した瞬間から聴いてたのは20人もいなかったんじゃないかしら。本選でも、周囲のおばちゃん達は「アルテミスはスゴいけど、1位無し2位でしょうねぇ、アウリンもダメだっただから」なーんて言ってるところにパルム御大現れ、アルテミスの優勝を発表してもう大騒ぎ、ってのが最大の想い出なんだよなぁ。最初から最後まで、どーしてパルム御大が審査委員長なんだ、って客席でぶーぶー言ってたことばかりを覚えてる。

ま、そんな個人的な爺の繰り言はどーでも良いわい。この演目の若い演奏家個人主催のリサイタルですから、百数十人の聴衆が集まるのはスゴイことでしょう。聴衆も「コンサート人口の高齢化」などどこ吹く風、殆どが演奏家さんや作曲家さんのお友達仲間知り合いという感じで、東京コンサーツの本拠地だけあって某長老作曲家さんの顔もあったり。恐らくは溜池を埋めているであろうシニア熟年の姿は数える程でありました。ま、良く言えば、聴衆もちゃんと世代交代をしているので心配することなんぞない、ということにもなろーが…いつの時代もこの類いの演奏会はニッチなインディーズなんだよなぁ、ってことかな。

演奏そのものは、やっぱりこの類いの演目は絶対に視覚的な要素が重要だなぁ、とあらためて感じ田サテ暮れたのは有り難かったです。白眉はクセナキスで、どう考えても演奏不可能な最後の部分(トークでは「パルムは多重録音してます」とネタばらししてました)は、バッハの無伴奏の一部と同じように「実際には弾いてない音を弾いているように聴かせる」というテクニックで処理するしかないのだなぁ、と納得。勉強になりましたぁ。向井航氏の委嘱新作は、典型的な所謂「マンガ系」で、この写真では判らないけど上手側には玩具のメリーゴーランドみたいなものが置かれ、曲間に間奏曲のように演奏されたり最後は演奏と絡んだり。
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下に落ちてるのはスーパーボールみたいなもので、これを途中でぶちまけます。

こういう新作を含め、60年代から70年代「前衛」に、嫌でもフラクサスとかチャンスオペレーションとか懐かしいもんを思い出さざるを得ない新作とかを並べられると、今の若い人が半世紀昔の「古典」を改めて整理して見せてくれてるんだなぁ、と感じざるを得ないでありますな。

そういえば、明日明後日は日本フィルさんがルトスワフスキの第3交響曲をやるわけだし、ちょっと前には若い人達が協奏曲ばかり並べる演奏会でさりげなくルトスワフスキのチェロ協奏曲が入ってたり。来週は、本日ハ長調で「音楽監督サヨナラ公演」を終えているカンブルラン御大が、ホントのサヨナラで前衛時代の更に次のスペクトラム楽派とか地味いなものをやってくれるし。世紀末から世紀初めにかけて今や古くさいとやたらと評判が悪かった「前衛」やらが、「過去の歴史」として当たり前に受け入れられるようになってきたんだなぁ。

昔々、戦争でボロボロになった世界に、前衛という者がありました…

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