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第1ヴァイオリン墜落! [弦楽四重奏]

アムステルダム「オランダ芸術祭」のカティンカ・パスフェーア監修に拠るシュトックハウゼン《光》抜粋の第1チクルスが先程、無事に終わりました。無事に、というべきか、ともかく、終わりました。カティンカ様もすっかりお歳を召され、ご老公、って感じ。
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前述のように表のメディアに原稿を入れるので、こんな無責任な私設電子壁新聞にダラダラといろいろ書くわけには行きませんが、絶対に書けないことを記しておきます。

今回の上演の世間に向けた最大の目玉は、やっぱりなんといっても《ヘリコプター弦楽四重奏》が初演の場所で24年ぶりに再演される、というところにありました。演奏するのは、なんとチェロは19歳というハーグ音楽院の学生たちペラルゴスQであります。なんとまぁ、アーヴィンたちが世界初演したときにはまだ生まれてもいなかったお嬢さん達に大仕事を託したわけでありますな。

この上演、いろいろと考えや理由があってのことなのでしょうが、所謂巨匠クラスの演奏家は殆ど参加していません。弦楽四重奏だって、オランダ拠点でこの曲をやるならシェーンベルクQ(なくなっちゃったんだっけか)とは言わないが、若くて生きが良いラガッツェQとかいるわけで、ノーギャラでも喜んでやるだろーけど、敢えてホントに若い、コンクールなんかに出て来る前の世代を起用したわけです。

この作品のように長い時間をかけたアンサンブル訓練が必要で、メイジャークラスの演奏家が飛び込んで数日練習してどうなるというものでもない巨大作品のやり方として、間違った考えではないでしょう。実際、意外にもとういうか当然というか、3日間の間で最もインパクトがあった《火曜日》第2幕の宇宙戦争シーンなど、この空間を使った練習をきっちりやってこないと絶対に出来ないものを見せていただいたし、昨日の《月曜日》の女声合唱シーンとか、新生児とアヴァのやり取りなど、とても成功してました。

だけど、やっぱり、ぶっちゃけ、本日の《ヘリコプター弦楽四重奏》は、海千山千のアーヴィン達を前提に書かれた無茶がたっぷりなわけで、余りにも荷が重かったとしか言いようがありませんでした。

この作品、「ヘリコプターに乗って演奏する」という常識を逸脱したイロモノ的な要素ばかりが語られ、それ故に恐らくは最も有名な「ゲンダイオンガク」になっているわけでありますが、冷静に考えれば、もうひとつとんでもなく嫌な事実がある。要は、「演奏家が演奏している状況を最初から最後まで一切ノーカットで固定位置からのカメラが撮影し、聴衆に隠さずに見せる」という要素。つまり、どんな演奏中の事故があっても、一度据えっぱなしのカメラをまわし始めたら絶対に止められない。

これって、演奏する側とすれば、とてつもなく嫌なことじゃないかい。ましてや、普通の意味での演奏しやすさとは正反対な、これ以上演奏事故が起きる要素が揃った場所はない、という空間でありまする。譜面に書いてある音に当たらない、かすれる、入りや出を間違える、とかいうレベルの、普通の演奏事故だけではない。マリーン・ワンとかアベちゃん御用達空のロールスロイスVIPヘリみたいな場所じゃない、普通の小型へりEC120Bの後ろ座席です。こいつら。
https://www.flightradar24.com/data/aircraft/ph-wrw
狭い空間で弓が壁にぶつかる、振動で弦が緩む、エンドピンがズレる、等々、「なんでこんな場所で弾かせるんじゃぁ、責任者出てこおおおおい!」と怒りたくなって当然の、余りにも馬鹿馬鹿しい事故がいくらでも起こりえる空間であります。

ハッキリ言っちゃえば、演奏が後半に入り、スーパーフォーミュラの最後の提示がされる辺り、音楽がユニゾンっぽくなって妙に聴き易くなる前のところで、第1ヴァイオリン嬢の肩当てが外れちゃったんですわ。そりゃ、あんな空間でもの凄い振動の中で弾いてるわけだから、そういう事故も起きるでしょ。結果、20秒くらいかなぁ、ファーストお嬢さんは一生懸命直そうとして、その間、第1ヴァイオリン・パートがモロに落ちちゃった。
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それがみんな放送されちゃった!もうひとつ、これはエンジニアの問題もあるのかもしれないけど、チェロのパートが他に比べて明らかに音量が低く、聴き取りにくかった。ヘリ飛ばしたGPはやってるのでチェックはしているのでしょうから、恐らくは今日の本番でのピンマイクの位置がズレる事故でもあったのかしら。

両方とも「まあ、こういう状況の事故だから仕方ないよね」と広い心で接するのが大人なのでしょうねぇ。実際、聴衆は戻って来たお嬢さんたち&パイロット達を総立ちで迎えたわけでありました。
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…とはいえ、例えばこれがアルディッティQだったら、アーヴィンは肩当てが落ちたら落ちたままでなんとかあと10分弱を頑張っただろう。そもそも、こういう環境だと顎当てが落ちると判断し、用いなかったかもしれない。チェロにしても、音量が落ちているという連絡さえあれば、ロハンだったらじゃあもうひたすら音量を出す弾き方をするしかない、と対応することも出来たんじゃないかしら。

つまり、この作品の演奏は、ホントのプロの修羅場を潜ってきた連中でなければ対応出来ないような特殊な環境でのことなのである、冗談や興味でやってるならともかく、シュトックハウゼンの意図をきちんと再現しようとするなら、物理的な難易度が高い(というべきか)状況に対応出来る能力を備えた奏者を充てるべきではなかったか。

そう、本日の演奏で、《ヘリコプター弦楽四重奏曲》は、世の中にある弦楽四重奏文献の中でも極めて特殊な意味で「難しい」作品なのである、ってことがあらためてよーく判りましたです。だってさぁ、地盤がガタガタで自分のやってる音も相手の音も全く聞こえない状況でグリッサンドで埋まった曲を弾け、ってんだからさぁ。

主催者や演奏者の方には極めて厳しい、ホントに無責任な発言だとは百も承知で、敢えて記させていただきましたです。終演後、作品に含まれたインタビューを受けながら会場から線路を挟んだ向こうの原っぱから空港なんかにある電気自動車で走ってくるペラルゴスQの皆さん
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なんせオランダ語での対話だったの何を言ってるのかぜーんぜん判らなかったけど、どうだったのかなあ、スクリーンを眺める限り、マズった、という感じではなかったから、まああれで良かったのかなぁ。

結論。《ヘリコプター弦楽四重奏曲》を上演する際には、これだけお金かけちゃってるんだから、演奏家のギャラをケチるのは止めましょう。どんな酷い演奏事故にも耐えられる、年期の入ったちゃとした常設団体を使いましょう!ホント、マジで。これだけの仕掛けするんだから、よくやりました敢闘賞じゃ、やっぱマズいでしょ。

ちなみに今回の上演、ネーデルランド・オペラが映像パッケージにするみたいなんですけど、第2チクルスを収録するとのこと。だから、この事故は本日の演奏だけで消えていって、世間には残らない筈です。ぐぁんばれ、ペラルゴスQっ!

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