SSブログ

ネタバレ注意:名歌手たちの大行進! [音楽業界]

一昨日のハノーファーNDR放送スタジオでのクスQ&エマールのカーター最晩年作品特集で、実質上、このコロナ前が戻ったようなツアーを終え、あとはシンガポールから福岡への便の都合で日曜日までフランクフルト近辺に滞在せねばならないだけのオマケ。いやぁ、「コロナ前が戻った」というのはいろんな意味でそうでもあり、そうでもない状況でありまするが、ともかくこの歳この体調でこの日程がこなせ、本来業務だけでも弦楽四重奏関係ではノヴスQ、エベネQ、エマーソンQ、クスQ、「戦後のオペラ」関係では《不寛容》と《光の金曜日》という大物をこなせ、オマケで日本では絶対に聴かないだろうペトレンコ指揮ベルリンフィル(来日公演では絶対にコルンゴルドの交響曲はやらんだろうしなぁ)、それに絶対に日本引っ越し公演などあり得ない地方都市の地元民と独逸業界のみを考えた演出の《タンホイザー》、《マイスタージンガー》、《ラインの黄金》と、それなりの収穫もあった実質11日間。よくまあ生きているものだ、と思いつつ最後の目的地たる我らがインキネンの街、ザールブリュッケンに向かってます。車窓は深い霧で、なにも見えず。

さても、昨晩のフランクフルトでコロナ一年遅れでやっと先月に出たらしい新演出《マイスタージンガー》でありますが
https://oper-frankfurt.de/de/spielplan/die-meistersinger-von-nuernberg/?id_datum=3176
独逸のこの規模と経済力、それに住民の知的水準の高さや意識の高さからすれば、この作品を上演することは並大抵ではない。それを敢えて若い演出家さんに任せたわけですが…結果からすれば、なかなか上手なうっちゃり方をしたな、と感心した爺でありましたとさ。

連日の移動移動の疲労も極まり、正直、1幕はガッツリ寝てしまいましたです。前奏曲でどうやらザックスらしい奴が墓の前で死んだ嫁さんの服を弄っていたり、上手では誰だか知らんがなんか似たようなことをしていたり(なんせ上手見切る席だったもんで、これはダメだ、音だけに徹すればいーや、と早々に降りてしまいました…)、ダヴィッドがヴァルターにレッスンするところなど、全く記憶が無い。マイスターたちの集まりでみんなやたらと高い椅子に座って、文字通りの「上から目線」だったりとかは覚えているけど、スイマセン…。でも、ちゃんと2幕からは起きたぞ。どうやらザックスとベックメッサーを本質はそう違わん、って描く路線みたいだなぁ。

で、3幕になって、大9重唱(でいいんだっけか)が終わり、いよいよ歌合戦となって、この演出の魔力が炸裂。そもそも、いろんな組合が入ってくるところから徒弟達の踊りまでは、巨大なスクリーンに抽象的な映像が映されるだけで、具体的にはなにもありません。で、いよいよマイスタージンガーが来るぞ、ってとこでスクリーンが上がり、寝てた客らもみんな身を乗り出すとぉ…おおおお、まずはキャバレーのねーちゃんみたいなのが入ってくる。どうやらマリリン・モンローかな。それから、ジョーン・バエスみたいな60年代意識高いっぽいおねーさん、おおお、キッスはやくぺん先生でも判るぞ、あ、エルトン・ジョンも来た。ってな調子で「名歌手」たちがゾロゾロ入ってきて、ビートルズも最前列に陣取る。これ、€5もする当日プロから。多分、公式ページに写真あると思う。
IMG_7084.JPG
そいつら舞台に集まり、何するかというと、名歌手集合の間も昨晩のラン基地騒ぎの疲れからずーっと舞台の真ん中で爆睡してるザックスに向け、みんなで大声で「ふぁんげと・あーん!」と叫ぶわけですわ。聴衆大感動なんだか、大爆笑なんだか、慌ててザックス起き上がる。ううううむ、国粋右翼大喜びのシーンが、完全にスカにされちゃう。

ちなみにこの演出、ニュルンベルクのマイスター達を含め「名歌手」は出てくるけど、ニュルンベルクというローカル制は一切落とされてます。潔い程ですな。

そこからもなんのかんの、最後は駄々っ子ヴァルターが素敵な歌をちゃんと歌うが、「マイスターなんかになるもんかい」と意地を張って場をしらけさせる。ここからのザックスの説得というかお説教、かのナチス・ニュルンベルク党大会に繋がっていく「独逸芸術の危機」のところでありますが、なんとなんと、ザックスはエヴァパパから渡された「マイスター協会公式声明書」みたいなもんを手に、ガッツリとガン見しながら、淡々とそれを読み上げる。途中から幕が下りザックスだけになり、公式演説が終わるや再び幕があがれば、あれまぁ、マイスター達はちゃんと並んで、エヴァとヴァルターもきちんと白い婚礼服で真ん中にいて、目出度し目出度し、みんなでいろいろ大変だったザックス先生を讃え、ベックメッサーと仲良く握手して手打ち、良かったねぇ、GERMANIAというたいそうな文字だ降りてくるけど
IMG_7082.jpg
っで、最後の最後にGERが消えちゃう、って粋なというか、ちょい黒い幕切れ。

まあ、上手い具合に処理したなぁ、とは思いますね。ともかく最後の演説は、ザックス自身が歌ってることはなーんのリアリティもない言葉の羅列、と思ってるのがビシバシに伝わる演出でして。

今、この作品を独逸でやるには何に気をつけなければならないか、良ーく判り、楽しませてくれる舞台でした。なお、ヴァイグレ社長、東京の雇われ社長のときより良くも悪くもワイルドで乱暴、でも勢いだけではなくしっかり纏めていく。会社によってやり方変えてるんだなぁ、と今更ながらに感じましたとさ。

ま、これでもうあたしゃ暫くこの作品はお腹いっぱい、結構です。3月にびわ湖に行かずに済むのは有り難い。次に観ることはあるかなぁ。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。