SSブログ

小さなオケでベートーヴェンat佐伯 [演奏家]

豊後の大都会大分駅から日豊本線各駅停車でノンビリ1時間半くらいかな、お鉄の方向けに言えば宗太郎越えに向けて車窓風景が海から山に変わっていく辺り、南国宮崎に境を接した温泉県最南端の地に、豊後水道に面し回転寿司でも関アジ関鯖なんぞが並んでそうな佐伯という市がありまする。

明日土曜日から、佐伯市立の「さいき城山桜ホール」(城山と呼ばれる佐伯の城跡にある桜ホールなのか、佐伯城の山桜ホールなのか、よー判らんわい)で、「音楽ゆるり旅コンサート2023 ~全世代でクラシックを楽しむ2Days~」と題された演奏会が開催されます。
音楽ゆるり旅.jpg
https://sakura-hall-saiki.com/archives/event-infomation/4417

当電子壁新聞を立ち読みなさってるようなすれっからしの皆様からすれば、「九州のどっかの市のホールに九響だとか日本フィルだとかのオケが来て、休日の午後にファミリーコンサートをやるわけね、よろしーんじゃないですか、で、それがなんなの?」ってくらいの話でしょうねぇ。

ところがどっこい、このなんとも味わい深いチラシをよーく眺め、ホールの公式ページからチラシPDFに飛ぶURLをポチョっと押してご覧なさいな。なんのかんの提供される情報の最後にやっと出てきた演奏者ったら、指揮はあの元N響オーボエ名人茂木大輔氏ですわ。数年前の香港公演で最後の笛を吹いてから指揮者に転向、「のだめ」ライヴシリーズをずっと指揮しているわけだから、こういうファミリー・コンサートには格好の人材ではないかい。んで、その先に書いてあるオーケストラは…Taketa室内オーケストラ九州。

さてもさても皆の衆、このオーケストラ、ご存じかな。ぶっちゃけ、日本語文化圏1億数千万の1%程度を占めるという「クラシック音楽」愛好家の皆様の中にあっても、ご存じの方は殆どいないでありましょうねぇ。

港町佐伯から内陸へ、深い山を越えて阿蘇外輪山に至る途中に、竹田という古い町があります。滝廉太郎がその短い一生のある時期を過ごし、ほぼ最初に誕生した日本語歌曲の名曲たる《荒城の月》で歌われた城跡が残る古都ですな。我が温泉県盆地町からすれば隣の市なんだけど、キューシューという島は実質上いくつもの都市や町が険しい山で隔てられ、島が点在しているようなところがあり、非常に行き難く、生活圏としてもまるで異なっておりまする。距離的には数十キロでも、公共交通機関を使うと接続が良くても3時間はたっぷりかかってしまう場所。

そんな竹田市はJR豊肥本線の豊後竹田駅を熊本方面に出て川を渡った直ぐの沿線左手に、立派な公共ホールが竣工、なんのかんのなんのかんのあって、コロナ禍の真っ只中にそのホールを拠点として活動する民間の室内アンサンブルが誕生しました。規模は正規メンバーは12名のようで、近くの例では大村の長崎Omura室内合奏団よりも小規模な室内アンサンブルなれど、敢えて「室内オーケストラ」を名告った。温泉県としては初の常設プロオーケストラだそうな。まだ結成されて2年の若い団体、結成の経緯やらやってることなどは、こっちをご覧あれ。おお、昴21Qのヴィオラ氏などいらっしゃるではあーりませんかぁ、大分の方だったんだなぁ。
https://www.taketachamberorchestrakyushu.com/

おいおい、この編成でベートーヴェンの7番ですかぁ、とちょっとビックリでしょ。団長のコントラバス森田氏に拠れば、日曜日の演奏会はここに所謂トラで様々な顔ぶれが集まり、弦は4-4-2-2-2 、前半は1管編成で、ベートーヴェンは楽譜指示通りの管に最高音や最低音の補強がない2管編成そのまま、とのこと。とはいえ、竹田でこれまでに披露された規模の倍以上になるわけですな。なんと助っ人メンバーには、元九響の団長さんとか、かの墨田トリフォニー近辺では知る人ぞ知るブタオさんなんぞもいらっしゃるぞ。

日本にこのくらいの規模の小編成プロアンサンブルがどれくらいの数あるか、今や非売品となってしまっている「演奏年鑑」なんぞ眺めれば判るだろうが、余り中央で話題になることはない。多くの音楽ファンが「プロ団体はない」と信じ込んでいるような場所にも、案外とそれなりに存在しております。やくぺん先生がこの竹田での動きを面白いと思っているのは、立ち上がったタイミングが自分が生活拠点を移したときで場所も近いということだけでなく、やはり団長の森田氏の考えてるプロ「オケ」の動かし方そのものがとても興味深いからでありまする。

だってね、これは極めて誤解されそうな言い方になるんだけどぉ、「あああ、これって、ヴェトナムで本名さんがやってきたことや、ミヤンマーでゆうちゃんがやろうとしていたことだわなぁ、規模は違うとしても」って感じちゃうわけですよ。森田氏がこれまで大きな楽器を弾いてきた場所は、ベルリンやらパリやらミュンヘンやらヴィーンやらロンドンやらペテルスブルクやらニューヨークではない。ニッポン語文化圏の「クラシック音楽」西洋本場物ヒェラルキー構造の中では、アジアや北米の辺境と思われるような場所ばかり。そういう場所で、音楽に対する接し方もホントにいろいろな人達の前で音楽をやってきた。そこで起きていたいろんなことから思い、考え、感じたことを、ニッポンという辺境の中央たる東京やら関西圏を全く考慮せず、いきなり竹田という場所でやってみようとしている。

ポップスとか演歌だってありのこの団体の2年間の「オケ」活動の中でも、小編成版で指揮者付き《新世界》全楽章とか、このアンサンブルのオリジナル編成でやれるラインベルガーのノネットとか、普通の意味でクラシック音楽コンサートの王道たるレパートリーを真っ正面から取り上げ、竹田の些か立派過ぎるホールでちゃんと聴かせてきた。その延長で、山越えた佐伯まで出てきて茂木さんという手練れをポディウムに立て、いよいよベートーヴェン第7番という勝負に出た。ロンドン・シンフォニエッタでもなければ、オーストラリア室内管でもなければ、アンサンブル・ノマドでもなければ、神戸室内管でも、はたまた大村室内合奏団でもない。この団体しかやったことない、前人未踏の道を歩もうとし始めている。

というわけで、やくぺん先生ったら、日曜は朝からチャリチャリと温泉県盆地駅まで向かい、JRノコノコ3時間弱、押っ取り刀で拝聴に駆けつける次第。さても、どんなことになるのやら。その前に、土曜日は小倉で48回目の日本フィル九州ツアーが始まるんで、まずはそっちに行かにゃならんのだけどさ。

如月九州東海道、うらうらと言うにはまだちょっと早い瀬戸内西外れから豊後水道を、2週間で何度眺めることになるやら。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。