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26人でべとななGOGO! [演奏家]

とりわけ若い世代には猛烈な自主規制マインドコントロールが行き届き切った21世紀20年代には絶対に発表出来ないだろう国木田独歩の小説『春の鳥』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000038/files/1057_15980.html
の舞台となった城山の下、温泉県最南端の港町佐伯に2年前に出来たさいき城山桜ホールで、オリジナル2管編成26人の楽人が演奏するベートーヴェン交響曲第7番を拝聴してまりました。指揮はお馴染み茂木大輔、オーケストラはTaketa室内オーケストラ九州であります。この話の続き。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2023-02-10
ちなみにメンバーは、当日配布のチラシみたいなピラっとした刷り物に拠れば、以下。
IMG_E0412.JPG
おおお、福岡の方には「へえええ」と思われるお馴染みの名前、そして我が墨田区近辺の音楽ファンなら懐かしい、ってにはまだついこの前ながら、嬉しくなっちゃうような名前もあるでしょ。

竹田のアンサンブルは、本来ならば1ダースちょっとの正規メンバーから成ってます。ヴィオラの生田氏なんぞ、東京でもやたらと名前を見るスターだけど、そもそも大分の出身だそうな。基本は車に楽器積んで阿蘇外輪山手前の竹田まで通える大分や北部九州に在住の演奏家で(熊本側からはまだだけど、大分から竹田までは高速が繋がってて、小倉からずっと下ってきて大分の南から山に入ってきます)、さらに大分に縁のある方なども加わっている。今回、初の佐伯でのオーケストラ公演で、そこに墨田やら京都やら大阪やら福岡やら那覇やらから、団長の森田さんの人脈で「この人達なら目をつぶっててもベートーヴェンの7番いける」って(かどーだか知らんけど)手練れが助っ人に集められた次第。

主催者たる地元ケーブルテレビ局で団長の森田氏とクラシック番組をやってるアナウンサーさんが音大ピアノ科出身でしれっとラフマニノフのソリストやっちゃうとか、中学生の女の子たちが学校が連れてきたんじゃないみたいなのに4人も並んで聴いてるとか、竹田とか佐伯とかJR特急が停まるくらいの町にこんな立派で響きの良いホールをコロナの頃に立て続けに竣工した温泉県のトップが「文化行政」で何を考えているかとか、あれこれいろいろ興味深い切り口はあるけど、日豊本線と久大線乗り継いで延々2時間半ほどで温泉県盆地まで戻って来たこの瞬間、やっぱりもの凄く面白かったのは本日のメインとなったベートーヴェンの第7交響曲でしたわ。

この演奏会、まずは《フィガロの結婚》序曲で始まり、独奏ヴァイオリンと独奏コントラバスでオケ伴奏《チャルダッシュ》をやり、前述のアナウンサー独奏でラフマニノフ第2協奏曲第1楽章をやって、後半は上のリスト全員が参加しベートーヴェン。「のだめコンサート」をずっと指揮しているマエストロ茂木とすれば、今やオーボエよりも手慣れた演目でしょう。で、前半のモーツァルトとラフマニノフは1管編成なんだけど、ちゃんとイアィン・ファリントン(Iain Farrington)って英語圏の作曲家さんが編曲した編曲楽譜が存在しており、それを使って演奏したそうな。この方でんな。
https://www.iainfarrington.com/
へえ、Aria Editionsというところから、小編成版の《海》とかエルガーの協奏曲とか出てるんだなぁ。それどころか、YouTubeでFarringtonと調べると、なんとなんと小編成版のマーラー1番とか、はたまた9番なんてのがあるぞ。どうやら、ウニヴェルサールが天下公認みたいにシリーズで出しているやつとか、パスカルくんがル・バルコンで小編成版でやってるマーラー・チクルスの楽譜とは、どうも全然違うものみたいだなぁ。うううむ、小編成アンサンブル業界、なかなか奥深い世界が広がっているようじゃわい。

舞台の上では、茂木&森田の掛け合いで聴衆置いてきぼりの「こういう編成でもよく出来ていて、ちゃんとそれらしく鳴るんですよ」なんてオケマントークで盛り上がってました。森田さんも北米時代に小さい編成でやったとか、東欧ではこの規模できっちり働いてるローカルオケがあるとか、まあ、考えてみればボルドー歌劇場なんてあんなデッカいのにピットではコントラバス2本だかで《イエヌーファ》やってたし、ビュルツブルクの《神々の黄昏》も小編成版の楽譜があると言ってたっけ。そういう需要はあるんだから、当然、楽譜が用意されているわけでしょうねぇ。

で、後半のベートーヴェン7番は、なんせトロンボーンもピッコロも要らない2管きっちりの小さな編成で書かれてるわけですから(やっぱり7番のシンフォニーって、一般聴衆向けの陽気な大編成《セリオーソ》、って思えちゃうんだわなぁ)、弦楽器の負担さえ考えなければ全くもーまんたい。茂木さんったら、前半はギリギリのギャグかましながら楽しそうにやってた姿から一転、完全に普通の演奏会モード突入で、一切の刷り物なしだから楽章4つあることも判らず、どこ曲やってるのかしら、って中学生女子らを置き去りに、でもなんだか知らないけどスゴいからいいわ、ってノリで突っ走る。

上の写真のメンバーのような編成ですから、明らかに弦とティンパニーのバランスはいつもの「べとなな」とは大違い。いかなこの曲をこれまで無数に弾いてきているだろう猛者を集めたとはいえソプラノに比べてバスが圧倒的に声がデカくなるのはわかりきったこと。でも、結果として第1楽章の最後でグランドバスがごーわーごーわーと盛り上がってくるところとか、もの凄い大迫力になります。ティンパニーは、ホールが今時のもの凄くちゃんと鳴る空間なだけに、もうまるでコンチェルトみたいな大迫力で、一発で全オケを凌駕しそうな勢い。殆ど腕力で処理しているようなちっちゃな弦楽器チームも、これだけ小編成だと逆にダイナミックスの指定が猛烈にはっきりと見えて、まるで弦楽四重奏聴いてるみたいなやりとりが見えてきたり。いろいろと問題ありと言えばそれまで、相当に「歪んだ」演奏なのかも知れないけど、この場にいた聴衆はこの些か特殊な作品の「ノリノリ」部分に前のめりになって、最後は大盛り上がり。マエストロ茂木ったら、アンコールで出てきてどうするのかと思ったら、聴衆に向かって手拍子で参加してくださいと宣い、おもむろに「べとなな」コーダを鳴らし始め、ビックリするくらい広い客層の佐伯聴衆はノリノリで「♪てーってててててててててててて…」って手拍子バンバン、城山桜ホールは大盛り上がりに盛り上がる梅もほころぶ春間近となりましたとさ。

これ、ありじゃん。ヴェトナムやら澳門やら北米やらで沢山の聴衆に出会い、コロナ禍で敢えて温泉県の古城の町にオーケストラを造ろうなんてドンキホーテなことを始めた奴が何を考えてるか、マエストロ茂木をポディウムに得たことで、ようやくハッキリと判りました。もしかしたら、21世紀半ばはマイクロ・オーケストラの時代かっ?!

《追記》

主催者のローカルケーブルテレビ局の翌日のニュース。4分くらいからですぅ。


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