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北原白秋の『まざあ・ぐうす』をテキストにする [現代音楽]

本日午後、ティアラこうとう小ホールで、打楽器奏者として知られる會田瑞樹氏の新作、組曲《北原白秋のまざあ・ぐうす》日本初演が行われました。
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ヴィブラフォンを中心に打楽器奏者として活動する會田氏は、音楽活動、とりわけアンサンブル活動がほぼ不可能になってしまったコロナ禍の異常な時期をひたすら打楽器を叩くことで乗り越え、それ以降のコロナ明けの新時代、ジワリジワリと音楽世界(業界、というよりも、世界でんな)が変化していく中で、極めて重要な仕事をなさっている若手さんでありまする。個人的には、こういう方の活動こそがこの先の「クラシック音楽」界を担っていくのだろうなぁ、と思ってますが…そもそも「クラシック音楽」界なんてもんが存在すれば、ですけど。

ま、それはそれ。本日は猛烈に演奏会が重なり、昼間も日本フィルさんが団の未来を託した新音楽監督の記者会見などもあってそちらも顔を出せれば出したかったんだけど、ま、そっちは見ている人もいっぱい居るわけだから、今更やくぺん爺なんぞが居なくてももーまんたい。で、気楽にティアラこうとうに向かったわけでありまする。なお、前半には佐原詩音さんのアイヌ語による新作とか、笹原絵美さんの編曲作品とかあったわけで、そちらを紹介しないのは失礼とは重々承知はしつつ、こんな「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」をモットーとする無責任私設電子壁新聞故、お許しを。

さてもさても、この會田作品、ぶっちゃけた言い方をすれば「ソプラノ歌手、役者、ヴァイオリン、ヴィブラフォンによる北原白秋訳マザーグース詩集から45編を選んだ演奏会形式舞台作品」とでも言うべきものでありました。強いて言えば、ものすごおおおおく近くて遠い感じながら、コロナ禍以降世界中で大流行で一種の作品ルネサンスが起きているストラヴィンスキー《兵士の物語》みたいなテイストの「作品」かなぁ、ってかな。

話がいきなり結論みたいになっちゃったけど、もうちょっとだけ作品についてどんなもんか記せば…

北原白秋が関東大震災よりも前の1921年に出版した『まざあ・ぐうす』
https://www.aozora.gr.jp/cards/001529/files/546_21324.html
132編が訳されている中から45編を選び、歌唱、芝居、朗読、器楽演奏など、雑多なスタイルの小品集として演奏時間45分程度に纏めたもの。中には小品というよりも「小ネタ」としか言い様のない短いものから、「歌曲」として取り出せそうなもの
https://www.youtube.com/watch?v=KZCVUWw8Ii8
はたまた今時はやりの聴衆参加の部分まで含まれる。
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全体を張り巡らすモチーフのようなものがあるか、というとそうでもなく、でも何故か全体としては不思議に統一されたテイストが感じられる。それがどうしてなのか、ちゃんと分析出来るのかもしれないけど、ゴメン、ボーッと眺めてただけなんで今は無理です、スイマセン。

終演後、《ドン・カルロ》5幕版が6時から上演されるので上野まで吹っ飛んで行かねばならず(冒頭の初稿でもカットされたというフォンテーヌブローの森での民衆合唱蘇生というウリは、間に合いませんでしたぁ)、ご挨拶も出来なかったのですが、やはり今しか言えなさそうな感想ではあるから、「なんだか、まるっきり違うとは百も千も承知ながら、《ゴルドベルク変奏曲》全部聴いた後みたいな感じがします」とお伝えしたら、先程、それほどネガティヴではないお返事をいただきましたです。

作品として考えると、実はそれぞれのジャンルでのガッツリしたプロがいないとやれない、中途半端なやり方をしても効果がないだろう楽譜で、とっつきやすそうに見えてきっちりした上演は案外難しいかも。でも、チームを作ってしっかり仕込めば、それこそ前述の《兵士の物語》みたいな「子どもも大人も楽しめる地方巡業楽団のメイン作品」になり得る可能性を感じさせられます。このところ盛んに接する流行の「コンセプチュアルな演奏会」を可動式パッケージにした、ってものとも言えますな。

この作品、最大のポイントは、いくらでも日本語訳があり、場合によっては音楽や舞台の要請に合わせた新訳を作ってしまえば事は簡単なテキストを、敢えていろいろな意味で扱い難い北原白秋訳にしていることでしょう。後の『マチネ・ポエティク』みたいなリズムがあるわけでもなければ、明治期の漢語調リズムが脈打っているわけでもない、極めて微妙な、21世紀の一般的な日本語文化圏の人間とすればギリギリな感じのゴツゴツした日本語のテイストが、20世紀大戦間時代初期っぽいテイストに合っているといえば合っている(逆に言えば、合っていないえば合っていない)。

會田氏に拠れば、白秋が遺した132編全部を作品化する構想もあるとのこと。それはそれでマーラーの交響曲ひとつくらいの長大なものになるわけでしょうが、今回のこの初稿版は、これで充分以上なまとまりがある作品であると思うです。なんせさ、これなら、前半にそこにいるいろんな楽器や歌手や演技者のソロというか、アンサンブルであれやこれややり、後半に組曲《まざあ・ぐうす》をやる、なんてアウトリーチのフルステージ公演が出来るもん。

今年出会った「新作」の中で、将来の育ち方が最も楽しみなひとつでありました。なるほど、これがリミックスの時代たる21世紀の「創作」なんだなぁ。関係者の皆様、お疲れ様でした。

請う再演。てか、請うツアー。

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