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「みちよしの盆休み」を面白がるには [演奏家]

昨日午後から着手している原稿で、にっちもさっちもいかなくなっている。一昔前のちょー類型的表現を用いれば…頭をグチャグチャにし万年筆を手に机にかじりつき、数行書いては奇声を発し原稿用紙を丸めて放り投げ、それが周囲に山積みになって姿も見えなくなり、お茶を持ってきたお手伝いさんが障子をあけると原稿用紙の山が廊下に崩れ落ちる…という奴である。

いしいひさいちの広岡先生で見えて欲しいんですけど。

なんでこんなことになってるかというと、理由は簡単。この原稿の発注者から頼まれている要求が、たったひとつであるから。

それすなわち、「面白いのお願いしますよ」。

ってねぇええええええ。筆者のごとき格安売文業者に、自由度の高い仕事など来るはずもない。「面白いものを」という恐怖の一言に辿り着くまでに、3ミクロンの平均台の上で宙返りをしてから、3センチごとに埋められた地雷原を突破せよ、くらい面倒な要求が課されているのだ。
発注主が誰で、どの原稿なのか、判る方は判るでしょうから記しません。いやはや。

そこで現状逃避かねがね思いめぐらすのは、昨晩チャリチャリと清澄通りを自転車を走らせて出かけたすみだトリフォニーホール、「みちよしの盆休み」なるとてつもない題の新日本フィル夏休み特別演奏会のことであります。

その題からも判るとおり、いや、ホントはそのチラシからも判るとおり、と言いたいのだけど、なんであれ、指揮者の井上道義氏が仕切った特別演奏会である。

6時半開演だけど、5時にはトリフォニーホールの扉はオープンになる。で、チケットをもぎられた先のロビーでは、フリーマーケットが展開されている。

これがトンでもないフリマです。要は、オケの事務局在庫一掃。商品を思い出せる限り列挙しますと(値段はうろ覚え)…カラヤン直筆サイン2万円、ストコフスキーのサイン入り楽譜1万5千円、小澤征爾サイン入りポスター多数、ポリーニやらなにやらの直筆色紙多数それぞれ2万円くらい、音楽監督アルミンク直筆サイン入り巨大ポスター7000円、アルミンク書き込み入りベートーヴェン交響曲第7番楽譜1万5千円、カメラマン木之下氏撮影朝比奈隆ポートレート一点物数点、終演後に井上道義がサインを入れてくださる予定の巨大みちよしパネル、新日本フィルがプロモーション用に作ったいろんな非売品ヴィデオテープや市場に出ていないLPレコード、楽団員が持ち寄った自分のCDやらレコードやらLDやら。自転車型健康器具7千円とか、古い当日プログラム(そんなの全て破棄してくれえええ!)とか、わけのわからないものもいっぱいある。

なんか、読んでるだけでパニックになりそうな方もいるでしょうねぇ。ネットオークションに出せば凄い値段になりそうなお宝が、最高でも2万円程度でゴロゴロしている。さすがに30分もしないうちに目玉商品はなくなっちゃったみたいですけど。なお、売り上げは墨田区社会福祉協議会に全額寄付するそうです。みんなで「あぼーさん」に行って飲んだり喰ったりするわけではありません。

で、異様な熱気渦巻くフリマの後に、井上道義指揮のNJPが、1時間ちょっとの短い演奏会を大ホールでなさるんですね。

オケはみんなTシャツを着ている。指揮者だけは黒シャツに黒ネクタイ。で、マイクを持って来ていて、みちよしさんがちょっとづつ喋る。「今日、みんなに来て貰っているTシャツはボクがデザインしたモノで…」と、チェロの花崎さんを立たせて背中を向かせ、音符の三途の川の上に屋形船が通っていくデザインを説明。なんせ今日は「お盆」がテーマですからねぇ。
指揮する曲は、グリーグの「山の魔王の宮殿にて」、悪魔が出てくるか「ラコッツィ行進曲」、なぜかヨアヒム・ラフのリストもどき交響曲第5番「レノーレ」終楽章「死での再会」(「ファウストの劫罰」最後の天かける騎馬から地獄への転落、みたいな音楽で、死者と再会するために死の世界に向かう交響詩だそうな。無論、本邦初演です)、最後は盛り上げてファリャの「三角帽子」からの舞曲。その間に、「お盆だから」と「弦楽のためのアダージョ」。そしてアンコールは、おお、知る人ぞ知る大名曲、武満徹が実相寺昭雄のテレビ映画「波の盆」に付けたテーマ音楽!

すごーく筋の通った、素晴らしい構成の演奏会だと思うでしょ。そう、確かに、究極の知的トーク力を誇る大野和士やら、勢いとパワーでこなしちゃう大植英次ならば、猛烈に格好がつくはず。

だけど、そーなんです、いのうえみっちーさんがやってるんですよね。

トークをなさるんだけど、はっきりいって、なにを喋ってるのかわかりません。小生のような彼のトークのバックグラウンドがある程度以上判る人間なら、「おお、おお、おおおおおお」と目をまん丸くして面白がっていられるんだけど、ホールに座る善良なる墨田区民やら、夏の夕方をオーケストラ音楽で楽しもうと思って来た音楽ファンには、あのオッサンなにを喋ってるんじゃ、としか思えないだろうなぁ。なんせ最後も、浴衣からげて妖怪に追っかけられて舞台を下手から上手に突っ走り、アンコールをもういっちょう期待していたお客さんの気持ちをスカッと裏切って幕切れだしね。

さて、みっちー・ワールドが濃厚に展開された「みちよしの夏休み」、わたくしめにはとっても面白かったですけど…

「面白いのをお願いしますよ」という要求がどんなにシンドイか、こんな例でお判りになられましたでしょうか。ちゃんちゃん。


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コメント 3

photographer_naoko

 わかったような、わからないような・・・。
 木之下先生の作品はお幾らだったのでしょうか?コンサートよりそちらの方が気になります。(スミマセン!)photographer_naoko撮影のアルミンク写真なんて誰も買いませんよね・・・。
by photographer_naoko (2005-08-18 23:18) 

Yakupen

いくらだったかなぁ。明日にでも新日本フィルの事務局に聞いてみます。でも、覚えてるかなぁ。いーかげんで乱暴な値付けだったから。
アルミンク、売れます!きっと、売れます。でっかいパネルがちゃんと売れました。来年も同じ夏の演奏会でフリマやると事務局が申してました。
かせぎましょー!
by Yakupen (2005-08-19 00:27) 

Yakupen

今、新日本フィル事務局に別件ついでに確認したら、朝比奈ポートレートの値段は、「木之下先生に頂いたときに、売るときにはこの額で、というお話がありまして、それに沿った額でした」とのこと。で、担当者がいなかったんだけど、「5万円だったかなぁ」とのことです。売れたそうです。
by Yakupen (2005-08-25 15:46) 

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