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My Dear Viloetta the Avalon [弦楽四重奏]

この商売をしていて何よりも困るのは、取材したのにきちんと記事に出来ないでいる素材を抱えたまんまの演奏家と、予期しないところでいきなり出くわしてしまう瞬間である。宿題を済ましていない子供が担任の先生に出会っちゃったような、なんともバツの悪い感じ。スイマセンと何度繰り返してもすまない状況。いやはや。

で、一昨日、そういう状況に陥ってしまった。すみだトリフォニーホール、「みちよしの盆休み」の開演前、フリーマーケットがほぼ空っぽになって、そろそろ聴衆は大ホールの客席に向かおうかという頃である。

「わたなべさんでいらっしゃいますわよね」とご婦人に声をかけられ、なんでしょか、とそっちを向くと、どこかでお会いした記憶があるオバサマ。その向こうには、おおおお、我らがヴィオレッタちゃんが、夏の縁日にお出ましになるような気楽な格好でいらっしゃるじゃあありませんか。
「ああ、お久しぶりです。今、日本なんだぁ。ええと、去年ソウルに行ったんだってね。うん、チェンバー・ミュージック・アメリカのコンファランスでマネージャーさんに聞きました…」なんてしどろもどろに、ともかくちゃんと近況は把握していますよ、とご報告。
「ジュリアードの助手は終わったんでしょ。」
「ええ、今はインディアナ大学でレジデンシィしてます。」
「学生レジデンシィなの。」
「いいえぇ、ちゃんと生徒教えてますよ。」
なんか、話せば話すほど悪い方向にズブズブいくなぁ。で、横の青年は誰かなぁ、と思ったら、
「彼ね、ニューヨークの打楽器奏者なんです。婚約者なの。」

おお、我らがヴィオレッタも、そんなお年頃になりましたか。なんであれ、目出度いことでございます。「大変だねぇ、Good luck!」とニコニコ顔で握手して、慌てて客席に向かったのであります。ああ、ぎこちない会話だったこと。

え、ヴィオレッタ嬢って誰か、ですって。

チェリストの工藤すみれさんです。

90年代始め頃だったか、桐朋学園に猛烈に弾けるチェロの子がいる、という噂が広がった。始めて耳にしたのは、カザルスホールのティータイムコンサート。原田幸一郎先生が頭に座ったバルトークの4番のクァルテットだったと思うなぁ。まだ高校生だったのかしら。ともかく腰抜かしました。当時、フィレンツェのクァルテット・フォネという団体でヴィオラを弾いていた植村りっちー君がたまたま日本に戻っていて、どういうわけかその演奏会を直ぐ近くで聴いており、「すっごく弾ける人がいるんですね、ちょっと落ち込んじゃいます」と素直に驚愕していたのが印象的。

その後、すみれ嬢がソリストとして名前を挙げたのは皆様ご存じの通り。小生も、CDの曲目解説を書かせていただいたりしたっけなぁ。あれ、演奏会の曲目解説だったかな。

だけど、我らがヴィオレッタは、どーしてもクァルテットがやりたかった。で、原田先生からエマーソンQのチェロ奏者ダヴィッド・フィンケルを紹介してもらい、ホントにクァルテットがやりたいならば日本ではダメだということで、日本で開けていたソリストとしてのキャリアを投げ打ち、はるばるジュリアードに渡る。ま、いろいろあったけど、数年前からアヴァロン・クァルテットのチェリストに座っている。

アヴァロンQについては、メルボルンのコンクールでクァルテット・エクセルシオやパシフィカQと一緒に戦った連中として、それなりの印象を持っていたので、「おおおし、我らがヴィオレッタ、いよいよクァルテット奏者として大輪の華を咲かせる良いスタートに着いたな」と、安心する一方、どうなることか心配になった。で、たまたまNYに滞在していたときに新生アヴァロンQの演奏会があったから、「お久しぶりです」とドカドカ楽屋に乗り込み、売り込み先も決まらないままにジュリアード音楽院向かいのバーンズ&ノーブル裏のスターバックスコーヒーで、インタビューに至ったわけでありました。

その後、アヴァロンQもヴィオラが替わったりしてバタバタしているようで、インタビューをどっかに記事として持ち込むタイミングを逸してしまい…今に至っているわけです。

さて皆様、あらためて紹介いたしましょう。あの工藤すみれさんは、今はアヴァロンQのチェロ奏者として4シーズン目を迎えます。ジュリアード音楽院での助手を終え、インディアナ大学のレジデントとして、プロフェッショナルなクァルテット奏者としての第一歩を歩み始めております。
正直、このクラスのアメリカの若手は過去の歴史上最も高いレベルでのクァルテットの生き残り競争が行われていて、アヴァロンQもどこまで来られるか、現時点ではなんとも言えません。でも、人生の伴侶も見つけたヴィオレッタは、これからも頑張ってぶんぶんとクァルテットでチェロを唸らせてますよ。よろしくねっつ。

すみれさんの近況をご覧になりたい方は、以下のアヴァロンQ公式ホームページへどうぞ。
http://www.avalonquartet.com/index.html
ちなみに、ホームページの後ろ真ん中に立っている優男と、右側のアジア系美女はご夫婦で、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンです。なお、アヴァロンQのCDは一枚市場にでていますけど、あれはまだ我らがヴィオレッタ嬢が加入する前の音です。残念!

ああ、ちょっと気持ちが楽になった。ブログって、なんて有り難いメディアなの。


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photographer_naoko

 憧れの方を直接ご訪問できるのも、ブログの良い点だと思います。先生のご活躍の場は本当に広いですね。素敵なお知り合いを沢山お持ちですね。私は一番下の所にいます。(写真のプロフェッショナルのつもりなのですが・・・。)
by photographer_naoko (2005-08-19 11:59) 

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