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ニコラス・キッチン師匠を語る [シモン・ゴールドベルク・メモリアル]

東京近郊が華氏105度を記録したキチガイじみた日、お墓参りから師匠の遺品整理に向かう途中の有楽町線と山手線の中で、ニコラス・キッチン氏にやっとインタビューが出来ました。佃厄偏庵に親子でいるとはいえ、忙しくしてるわけで、なかなか時間が取れない。これで来月の「シモン・ゴールドベルク・メモリアル音楽祭」の当日プログラム原稿がやっと入れられた。いやはや。

んで、スペースの都合で割愛せねばならなかった内容の一部、一般の音楽ファンの皆さんにも関心のありそうなところを、ホンのちょっとだけお見せしましょう。あとは富山で配布される無料のプログラムで読んでちょーだいな。

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--アメリカ国会図書館に収める予定のシモン・ゴールドベルク先生の楽譜整理はどんな調子ですか?
キッチン:大きな箱に7つ分の楽譜があります。日本での先生は指揮者としての活動が多かったからでしょうか、オーケストラ譜が多いです。カーチス音楽院で8年間習った間は、私が学生オーケストラのコンマスを務めさせていただいたこともありましたけど、先生はあまり指揮はなさっていなかったんです。今は全体を重要度によってランク付けし、貴重と思われる資料はスキャナーで読み込んでいます。極めて興味深いものもありますよ。例えばバルトークの無伴奏ソナタです。この作品の出版楽譜には、委嘱者のメニューインによる数多くの書き込みが反映されている、と先生は常々おっしゃっておりました。作曲者のオリジナルな考えに近い譜面があり、これはとても貴重ですね。

                          ※

--富山では前夜祭で昨年に続きバッハの無伴奏ソナタのハ長調をお弾きになりますね。ゴールドベルク直伝、ということでしょうか。
キッチン:確かにこの曲にはゴールドベルク先生との多くの想い出があります。一番多くの時間を費やして勉強した曲でしょう。(中略)私が勉強していた頃の先生は、「バッハは極めて尋常成らざるフォームを有しており、体系的に捉えるのは困難ではないか」とお考えだったようです。ソナタとパルティータを全部もう一度弾き直し、彼のそれまでの演奏がある種の特定の演奏法の結果ではなかったのか、再考していらっしゃいました。私とのレッスンでも、再検証しているようなところがありました。
--では、これがシモン・ゴールドベルクのバッハ解釈だ、という不動のものはないのですか。
キッチン:ありません。もしもそんな結論を出したとしたら、先生はとてもご立腹でしょうね。先生は作品のある部分についてはハッキリした意見を持っていました。例えばシゲティの演奏、作品をコラールのように扱う。ゴールドベルク先生は、あの解釈を尊重なさっておりましたけど、あのように完全に納得がいった風である必要はないとお考えでした。彼自身のあり方で、自分の8年前の演奏を全く別の考え方でやり直すことを示すことで、私たちにこの作品はひとつの解答だけがあるのではなく、全てが成長し、また考え直すべきである、と教えてくれていたように思えます。


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