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ありがとう富山 [シモン・ゴールドベルク・メモリアル]

富山県立近代美術館に寄贈されたゴールドベルク・コレクションの前での演奏会を昼に終えた9月22日土曜日の晩、「ありがとう富山」と題された音楽祭の資金提供者や協力者の方々のための感謝演奏会で、「ゴールドベルク・メモリアル音楽祭2007」が終了しました。
http://www2.knb.ne.jp/news/20070922_12964.htm
http://www2.knb.ne.jp/news/20070923_12966.htm
地元の皆さんが口を揃えて「お彼岸の頃までこんなに暑いのは異常だ」と仰る立山を望む街を朝一番の飛行機で離陸、故郷のカオシュン(おお、今日は小澤征爾指揮ヴィーン国立歌劇場公演をやってるんじゃないかな)に向かうマンチェを羽田から成田への空港バスに乗せて手を振って、ボランティアのやくぺん先生のお仕事も全部オシマイです。昨晩は散っていくみんなに配るCDR焼いてたんで、睡眠時間はほんの数時間。ふうう…。

サンドラは明日の朝、ヴィーン経由でベオグラード音楽院へ。ニックは7週間ぶりにボストンへ。参加者たちも、魚津からコシヒカリが頭を垂れる田圃を眺めながら東京やらどこやら。そして、一昨年の9月に立山で細々と開催され、このフェスティバルに直接発展するセミナーから参加していた「山根三銃士」たちも、山根先生の教えを胸に、ベルリンへ、ヴィーンへ、そして北イタリアへといよいよ旅立っていきます。少なくとも2年間は国に帰れぬ青春終わりの旅を終えて、立山を望む蜃気楼の街に教える側として戻る日があるのかしら。

県庁舎向こうの新聞社ホールでの演奏会前、近くの宿に入ってチェックインしようとしたニックに、ひとりの若いコックさんが、いらっしゃいませ、と挨拶してきます。どうしてチェックインカウンターでコックさんが、と訝ったら、なんと、連日魚津まで夜のセミナーを覗きに来て下さっていた聴講生さんじゃあないですか。

「僕は山が好きで、立山に通っているときに立山国際ホテルでのゴールドベルクさんのことを知りました。興味を持って、一昨年のセミナーから見学させていただき、ヴァイオリンにすっかり取り憑かれてしまいました」と、富山第一ホテル中華料理の厨房で働く青年N君。それから自分でもヴァイオリンを習うようになり、昨年の「こしのくに音楽祭」に通い、バロン・ヴィッタの響きに魅了されて…「料理とプロの演奏家の皆さんの音楽は、似てると思うんです。素晴らしい素材があって、それをきちんと勉強し、見極め、完璧な技術で皆さんを幸せにするものを提供してるのですから。」

富山の食材はベートーヴェンの楽譜と同じなんですよ、と目を輝かせるN青年は、残念ながら昨晩の「ありがとう富山」コンサートは聴けません。だって、終演後に音楽祭の講師たちが、自分の働くレストランで打ち上げをやることになってるんだもの。ニックたちが、このイベントを可能にしてくれた人たちへの感謝を込めて、自分たちの得意曲を少しづつ紹介している真っ最中に、アマチュア奏者のコック君は自分のプロとしての仕事をしている。そして、お腹を減らしてやってくる敬愛する音楽家の皆さんに食べて貰おうと、腕によりをかけている。

演奏を終え、いろんなことがあったけどともかく腹が減ったぁ、食べよう食べよう、とモリモリと喰らっている音楽家たちは、ステージの上の天使に近い顔から、普通のお父さんやお母さん、おにーさんに戻っている。そして、今、天使に近いのは、厨房にいるN君。食後、ニックとがっちり握手。

この数年間、やくぺん先生んちがなんのかんの関わり合ってしまった富山の「シモン・ゴールドベルク・メモリアル」たち、恐らくは厄偏庵から出張ってのお手伝いも、今回でお役ご免となることでしょう。当電子壁新聞の、「こしのくに音楽祭」と「シモン・ゴールドベルク・メモリアル」のカテゴリーをずぅううっと眺めていくと、まるでフィクションのような劇的展開を示したこの3年間の出来事が、時系列で追えるようになってます。400枚くらいのノンフィクションにはなる素材だなぁ、と思うけど、日本語推定読者数十人じゃ商売にならぬ。某K放送のTさん、どうです、ドキュメンタリー作るなら、脚本書いたるぞぉ。
そんな日々の最後の晩に、この音楽祭が存在したことで音楽の素晴らしさに触れ、自分の天職との関わり合いの中で真剣に「アートとは何か、職業としてアートをすることの意味は何なのか」を考えるようになった富山青年の仕事に出会えたのは、ほんとうに嬉しいことでした。N君、あなたが作って下さった一皿故に、あたしゃはここで起きた全てのことどもに意味があったと思えます。天のゴールドベルク翁がどう思ってるかは、判んないけどね。

こういう人ひとりに出会うため、沢山のイヤなことや、面倒なことの森をかき分けて生きてるんだなぁ。

鹿や熊に出会えなかったのはちょっと残念だけど、ありがとうございました、富山の皆様。


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すみこ

心暖まるお話。。。同じものに夢中になってる人達は初対面でも
言葉が通じなくとも意気投合したりしますが、ジャンルを越えて
似通う点を発見するのにも楽しい驚きがありますよね。
職人さんとか、馬の調教師とか、こだわりのある人達のお話を
聞いてると、同じ畑で惰性でやってる人と話すよりずっと
刺激があったりします。やくぺん先生も熱いなあ。
by すみこ (2007-09-24 05:38) 

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