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Metのラッシュに並んでみた [音楽業界]

当電子壁新聞には珍しい、「聴衆の視点に立った記事」です。えっへん。

NYはメトロポリタン歌劇場は、考えてみたら小生がいちばんいっぱいオペラを見物してる場所でありまする。個人的には「我がオペラハウス」たるメトロポリタン歌劇場、昨シーズンからかのピーター・ゲルブが総裁に就任し、様々な改革を次々と打ち出してるのは皆様ご存知の通り。なんせ、我が佃厄偏庵からチャリチャリ行ける歌舞伎座でも、メトのプロダクションが巨大画面で見物できるようになったんだから、いやはや、スゴイ時代になったもんです。

で、ゲルブの改革の柱のひとつが、「オペラをもっと身近に」です。まさかメトのプロダクションがアウトリーチするわけにいかんので、具体的には、映像を積極的に配信し、身近にする。日本でも歌舞伎座やパーシモンホールでやってる映像は、海外向けだけじゃない。42丁目タイムズスクエアの巨大サムソン画面に映したり、イーストリバーを越えたブロンクスのコミュニティセンターみたいなところで流したり、NYローカルだけどマンハッタンには全然行かないアフリカン・アメリカンやヒスパニックなんぞのコミュニティにメトの魅力をジャンジャン流してるんですわ。

「オペラを身近に」作戦のもうひとつの柱が、「安い切符をどかーんと出します(但し高い切符は値上げさせていただきます)」プロジェクトですな。これまた具体的には、これまで1階平戸間奥と天井桟敷一番後ろにあった立ち当日のみ売り出しの安い立ち見券に加え、「ラッシュチケット」を売り出すことにしました。ボストン響なんぞでは有名な、当日の格安券です。

ちなみ新国にも当日格安券があるみたいだけど、あれは劇場のチケットボックス前に延々と並ぶんじゃなく、オンラインで当日に出すなんて、世にも珍妙なやり方をしてる。ホントの意味でのラッシュじゃない。そこまで「ぴあ」に阿るかと呆れ返るあの新国のやり方、あたしゃ絶対に許せないので、利用する気はありません。ってか、地下鉄で30分以上もかかる皇居遙か向こうなんて遠い場所、余程のことがないと行くつもりはありませんしね。

もとい。メトのラッシュチケットについて。いかにも合衆国らしくこのシステムを可能にしてくれたドーネーターさんの名前がしっかり擦り込まれた「Agnes Varis and Karl Leichtman Rush Tickets」は、月曜から木曜までのウィークデー公演の開演2時間前から、メト正面右手の窓口で原則150枚が発売されます。20ドルって値段は微妙なところですね。だって、ファミリーサークル(天井桟敷)後ろは15ドルなんだから、それよりは高いんだもん。ただし、席は1階平戸間です。無論、立ち見席の前、最後列の5列くらいで、頭にはしっかり屋根が被ってます。オーケストラの音を聴くなら、15ドルのスコア読み机とスタンドが付いた天井桟敷左右お勉強席が最高なのはメトの常識。でも、15ドルの席は舞台の半分は見えないか、若しくは奥が全然見えません。だから、昨晩の「ヘンゼルとグレーテル」(昨年の狂ったように暑い6月のミラノで大野和士指揮「マクベス夫人」を演出したイギリス人の演出家さんの舞台で、「ヴァルキューレ」とは大違いの読み替え含むモダンなもの)なんぞ、正面から演出ちゃんと観たいという方には、この平戸間ラッシュの方が便利でしょうね。
小生のような貧乏人とすれば、一度15ドルで天辺から聴いて、次はラッシュに並んで正面から判らなかった演出を眺め、総計35ドル也で一本の全容を把握する、というやり方をするようになるだろーなぁ、これからは。多分、この秋にはこの週末にわざわざシカゴまで行ってまた眺める「ドクター・アトミック」NY初演も見物に来るだろうから、そのときはそうする筈。

さても、じゃ、実際に並んでみましょう。

「戦争と平和」の日もそうでしたが、列はどうやらかなり早くから出来ているようです。昨日は8時開演で、ヴィレッジの方の劇場(近くにエリオット・カーターが住んでる)で5時にセミナーを終えヘトヘトの嫁さんと、赤の1番の地下鉄で66丁目リンカーンセンター駅までえっちらおっちら上ってくる。各駅停車しか停まらないから、気を付けて下さい。この時間はいかな地下鉄が混もうが、バスなんか乗って8番街を上ってくるなどキチガイ沙汰で、いつ着くかわかりませんから。
で、そのまま一番ダウンタウン側の地下出口から直接リンカーンセンターの地下へとアクセスしてしまいましょう。地下道を真っ直ぐ進んで、右に折れると、遙か向こうに人が並んでる姿が見える筈です。5時半前くらいの段階で、既に列は地下のメトショップ(現在改装中でお休み)の前、オペラハウスの地下もぎり口の辺りまで伸びてます。小生らの数人後ろに並んだ陽気なにーちゃんと仕事帰りのスーツ姿のサラリーマンさんは「今日もギャンブルだなぁ、この辺りじゃ」と話し合ってます。わーい、オペラ馬鹿二匹発見!
ここが列のオシマイですか、と尋ねた列最後尾は、Nakataみたいなクールなアジア系にーちゃんと、笑っちゃうくらい典型的なアジアン・ビューティ。コリアン話してら。君たち、国に帰ったら浮いてるだろーねー。ここが列のオシマイですか、とわしらに尋ねてきたカップルは、フランス語喋ってます。おお、いかにもNYC!

やがて15分も待ってると、列が動き始める。ズルズルと地下を進み、1階のチケットブースと奥のオペラショップの手前にあるエスカレーター&階段に向けて、列が動いていきます。

なーんだ、案外あっさりいけそうだ、と思ったら、そこからがホントの列。メト正面の右手、チケットブースの手前に、6列くらいにうねうね折られたテープにがっちり仕切られた行列用のスペースが出来てる。ここに押し込まれる。

更に待つこと10数分。6時になるや、列が本格的に動き始めました。その間、頭の上にはパナソニックのモニターがあって、70年代末から80年代のドミンゴやら、今シーズンの宣伝ヴィデオやらが流されてるんで、みんな列が動いたことに気付かなかったりして。案外、待つのは辛くありません。それに、この間に周囲のオペラ馬鹿どもといろんな情報が交換できるしね。これが一番大事。←小生が新国立劇場のシステムを許せないのは、ラッシュ最大の目的たる「聴衆が勝手にコミュニティを形成し得る貴重な時間&空間」を劇場自らが奪ってしまってることにあります!
なお、この列の管理はかなりきちんとしていて、用事で一度列の外に出てしまって戻ろうとすると、警備員さんに無慈悲に突き返されます。ま、周囲の空気もそんなことを許さない風だけど。あの警備員さんたち、是非とも北京オリンピックにアメリカから派遣して上げて欲しいですね。メトの北京公演はできなくなっちゃったそうだけど。

10分ほどノンビリ進み、いよいよわしらもチケットブースの横まで到着した。まだありそうだ。横に立ったオジサンに、「3番へ」と言われます。チケットブースは、ひとつを除いて総動員でラッシュに対応してます。2枚おくれ、と言うと、ものすごくニコニコした顔のおじーちゃんが、瞬く間に出してくれました。BB列8と10です(メトの席番号は偶数が上手で奇数が下手側)。クレジットカードを出して、サインして、無事、ラッシュチケットが確保されたのは午後6時15分頃のことでありましたとさ。あと何枚くらいあったのかな。

平戸間奥の席に着くと、さっき並んでいた連中の顔が周囲にある。当然、もう顔見知りだから、オペラ談義に花が咲きます。ブースがいくつかあってばらけるので、すぐ前のクールなコリアン・カップルは見あたらぬのが残念。

最後に、チケットをご紹介しましょ。本日のNYタイムズ芸術欄、トマシーニ御大がマゼール指揮「ヴァルキューレ」を絶賛する批評が刷られた上にのっけます。ヒラリー・クリントンについては、ノーコメント。

メトのラッシュチケット、ゲルブ総裁の新名物になるか。今シーズン、NYシティを訪れる音楽ファンは、並んでみてはいかが。売り切れたら諦めて当日券を買えばいいんだしね。


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