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メセナの公共性について [音楽業界]

ものすごい題だけど、大した話はしませんから、期待しないように。

去る9月8日の日本経済新聞夕刊16頁に、「サントリーの文化支援」を巡っての記事が掲載されました。この新聞社、このような記事はウェブでは読めるようになっていないので、当電子壁新聞におこしのどのくらいの方が目を通したか分からぬ。関心のある方は、近くの図書館の新聞バックナンバーでも眺めて下さい。著名入り記事で、「大阪・文化担当 田村広済」と記されています。

ここにベタベタ貼りつけないと訳が判らんでしょうが、さすがにそういうわけにもいかないでしょう。以下は記事を読んでいる方を前提にした話。読んでない人は、仕事にでも戻って下さいな。

論旨を纏めれば、「サントリーのようなタニマチで文化に金を出していた企業が撤退する時代になった。地域は文化拠点をどう守るべきなのか」と始まり、サントリーホールディングス(この春にホールディングスになった)が大阪のサントリーミュージアムから撤退する話をします。この美術館の企画力を国立国際美術館の館長さんの口を借りて評価し、タニマチ文化支援の代表格としてのサントリーが撤退する事態を「サントリーショック」と述べています。まあ、サントリーさんも持ち上げられたモンだ、と恥ずかしくなってしまうけど、そう書いてあるのだから仕方ない。うん。
で、サントリーホールディングスの執行役員に「文化支援が後退したと言われれば否定できない」と言わせる。
話はそこから大阪の問題に絞り込まれ、慶応の「ミュージアム運営に詳しい」上山教授を引っ張り出して、「地域の有力企業が利益還元のためにつくった文化施設は、その企業だけで撤退を決められないパブリックな存在」という発言をさせています。おおお、やったね、久々に耳にする「メセナの責任論」ですな。そこからニューヨークでの例などを出し、慶応の先生に「今回も基金をつくるなり、運営するNPOを立ち上げるなりの議論が出来たはず。企業が突然死を通告し、自治体側も経営失政問題を抱えて対応できなかったのが大阪の不幸」なんてすげぇぇえええことを言わせております。

さて、本当に久々に耳にする「メセナの公共性」議論で、小泉改革の時代を経てこんな青臭い議論は吹っ飛ばされてしまったと思っていた過去の亡霊がまた出て来た、って感じが小生などにはするんですけど、一応、「そうだぁ、がんばれぇ、上山教授!」とエールを送っておきましょう。

まあ、構造不況産業の新聞社の文化支援だって撤退の噂が聞こえる今日この頃、一歩間違えば自分に返ってくるこんな発言をデスクは良く許したなぁ、という気もするけど、ま、それはそれ。

なんで小生がこんなことを言うかと言えば、まさにこの「メセナの公共性」とか「メセナを始めた企業の社会的な責任」という議論は、10年前のカザルスホール騒動のときに我々が散々に言い立て、あちこちから非難囂々の嵐となり、小生なんかのその後の商売にまで大きな影響を与えてくれた論なんでありますわ(はっきりいえば、企業系からほされた)。今だったらそれこそネット右翼の皆さんの良いネタにされただろうなぁ、と思うわけであります。はい。区が引き取れ、なんて議論も当然あった。別に「大阪の不幸」なだけじゃないです、ご安心を。
それどころか、その先の「ダメならNPOを作るなりしてやってみろ」というご発言なんて、カザルスホールから追い出された連中の一部が難民となって神田川を下り湾岸は晴海の地に流れ着きトリトン・アーツ・ネットワークというNPOを立ち上げに関わった、という経緯をそのまま述べてるようなもんだ。意識してるとは思えないけど。

ところで、当時を振り返るに、基本的には1999年3月から4月の段階(主婦の友側が引退していた萩元氏を引っ張り出して逆キャンペーンを始めるまで)ではカザルスホールから解雇される連中に基本的に好意的だったマスメディアにあって、唯一企業の側に理解を示し、はっきり言えば「稼げないなら部署をなくしたり解雇したりするのは当然だ」という論調を展開なさったのが、日本経済新聞だったわけです(ってか、当時の日経文化部の中心だった記者さん、というべきか)。それを思うに、なんだか隔世の感があるものでありますなぁ。それとも、大阪と東京の日経の違いなんでしょうか。

なお、この田村記者の記事、とても残念なことに、1箇所決定的な事実誤認があります。ちょっと調べれば分かることなんで、こんなミスをやってると「書いてあることは嘘ばかりのネットの勝手な記事も、天下の大新聞の記事も、精度としてはどっこいどっこいじゃないの」と思われてしまう。それは困るぞ。「書いてあることは嘘ばかり」の壁新聞としては、ひじょーに困る。

どこが間違いかといえば、最後の辺り、「同社は今月1日、サントリーホール、サントリー美術館の両運営団体を統合して公益法人サントリー芸術財団を設立。」というところ。サントリー芸術財団のホームページをご覧になれば猿にだって判ることですが、この財団、サントリーホールの運営なんてやってません。
サントリーホールは、最初はサントリー広報部の直営、数年前にCSRの一部門になって今後の運営に「私企業の中の公的な部分」としての変化が在るのではと思わせたのもつかのま、数ヶ月前のサントリーのホールデング化にともない、サントリーの細々しい雑務を取り仕切る「その他いろいろ」っぽい会社の一部門になってます。

以上、小泉構造改革前の幽霊話でした。

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Lionbass

9/8の日経夕刊、会社で引っ張り出して読みました。
中身についてコメントするほどの知識も見識もないのですが、「天下の大新聞の記事の精度」について、おっしゃるとおり「大したことない」ことは残念ながら事実です。
(もちろん、大新聞だけではありませんが…。)
by Lionbass (2009-09-15 12:24) 

Yakupen

Lionbassさま、なるほど、会社というのは新聞をとってるから、そこで読めるんですな。まだまだ新聞の販売も大丈夫か。

小生としましては、この日経の大阪の文化記者さんの趣旨には大いに賛同したいんですよ。ですが、世の中、それこそどっかの総理大臣じゃないけど(まだ)、漢字の読み間違えとか、細かい事実誤認とか、小生のやってる商売だと横文字名の読み方の間違いとかがあると、もうその瞬間に「記事の信用度」ががた落ちになってしまう、という面があるんですね。特に相手が口うるさい読者の場合、「こんなことを間違えるような奴の言ってることが信用出来るか」ってことになってしまう。その意味で、この記事はとてももったいなぁ、と思うわけであります。

ネットの記事なんて、そのレベルで事実チェックをしてたら、とてもじゃないけどひとつを20分以下で書いてオシマイ、ってわけにはいかなくなる。商売じゃあないんですから、それ以上の時間をかけるわけにはいかない。だけど、やっぱり十万単位で眺められる商品としての記事の場合は、デスクよもうちょっと頑張ってくれ、と言いたいところであります。

基本的には、己への反省も込めて。いやはや。
by Yakupen (2009-09-15 16:35) 

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