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伊藤昇のクァルテットについて [弦楽四重奏]

一昨日、善福寺川の向こうまで行き、黎明期から現代までの日本人作曲家による弦楽四重奏あれやこれや弾いちゃうぞ大会を見物して参りました。
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JASRACに介入されないための工夫をあれこれ凝らした無料の演奏会で、会場も30人も入ると弦楽四重奏が舞台に出てくるときに聴衆にどいて貰わないといけないような場所。聴衆も若い作曲家の方とか、自分でも同じような趣旨の演奏会を主催なさってる方とか、業界関係者とか、はたまたいかにもこんな演目ならいそうだと思わせる某指揮者さんとか、ま、演奏会というよりも、カルト集団の集会でんなぁ。←言葉の最良の意味で申しております。

さても、録音も存在している山田耕筰の留学前の弦楽四重奏とか、ある意味まるっきり想像通りの貴志康一の弦楽四重奏とか、プロの作家として楽器の鳴らし方をよーく心得ていらっしゃる圧倒的に作品としては上手に書けた水野修考御大(ご本人がいらしてました)の弦楽四重奏とか、意図はよく分かるのだがどうも流れがうまくいってないなぁという感じの小山清茂の弦楽四重奏とか、まあいろいろと耳にすることが出来て、とても有り難い機会でありました。これはもう、今年のベストテン演奏会候補のひとつですな。冗談じゃなく。

そんな中で、圧倒的に面白かった、というか、興味深かった、というか、ぶっちゃけ、破格のなんじゃこりゃ感を漂わせていたのが、「日本のアイヴス」伊藤昇の「四分音階律による幼年の詩」なる1930年の作品でありました。なんと、世界初演です。

文字通り、四分音をガンガン取り込み、音程狂いまくりみたいな歌が奏でられる音楽で、今回の演奏会を構成なさった評論家の西耕一さんに拠れば「過去の記憶のメロディが歪んで聞こえる」というような趣旨のようなんだけど、なーるほどねぇ、と腑に落ちるよりもやっぱり、なんじゃこりゃ、でありました。爆笑したいんだけど、アイヴスみたいに爆笑を期待しているのかちょっとわからないなぁ、と思ってるうちに終わってしまった。

終演後に楽譜を眺めさせていただいたのですが、無論、手書きでして、四分音の表記は自分で記号を発明して楽譜の冒頭に説明し、さあ弾いて下さい、となってます。とはいえ、ラッヘンマンの弦楽四重奏みたいに特殊奏法の説明で延々数ページ取る、なんてもんじゃあなく、今のプロのクァルテット奏者ならば慣れればそれほど難しくなく処理できる範囲ではあるでしょう。ただ、1930年という鈴木クァルテットだってちゃんとやってたか、という頃にこういうものを書いて、果たして誰かやってくれるあてがあったのだろーかね。頭の中で鳴ってただけなんだろうなぁ。

四分音の音楽というのは、実は横の旋律というのは案外問題なくて、あああなんか派手にずれてるなぁ、インドの音楽かいな、みたいに思えるくらいなんだけど、ホントに難しいのは縦の構成。やっぱり、横の線で出来ている音楽世界の発想なんだろうということは、よーく判りました。縦はもう、グチャグチャにしか思えない。「いろんなものが同時に鳴ってるんですよ」というサウンドスケープ的な思考に持って行かないとなかなか作品として成り立たせるのは難しい手法なのであるなぁ、ってこと。

ちなみに今回の演奏会、楽譜は明治学院大学の日本近代音楽館に納められてるものを借りたり、作曲者の遺族関係者から直接お借りしたりしてやったとのこと。出版されているものではない。

普通の常設なりの弦楽四重奏団がレパートリーというか、演奏する曲を決めるときは、楽譜をまず引っ張り出してきて、実際にちょっと音を出してみるなりして、ああこれはやっぱ駄目だねとか、これ案外いいじゃんやろーやろーとか、ある種のザッピングみたいなことをするわけです。ところが今回演奏されたような出版されていない楽譜というのは、どうしても「演奏する」ということを前提に楽譜を借りたり、アクセスしたりせねばならない。結果として、やっぱり駄目、とは言えなくなる。

それで結構じゃないですか、と言われればそれまでなんだけど、実際にプロのクァルテットに弾いて貰うには、弾く側に作品を選択する余地がないと難しい。

てなわけで、どんな状況でも良いから、出版なり自由なアクセスが出来るようになるといいなぁ、アメリカ国会図書館が今進めているような誰でも所蔵するオリジナル楽譜コレクションのフォトコピーにアクセス出来るようにする、って形に出来ないものなのかなぁ、と思わされた次第であります。

なお、この演奏会、商業的な形になるのかは判りませんけど、録音を世に問うことは考えているそうでありました。どうなることやら。期待して待ちましょう。

主催者の皆様、演奏者の皆様、あらためて、ありがとう御座いましたです。

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コメント 5

皇帝きむち

お久しぶりです。貴志康一のカルテットって1楽章形式のものでしたっけ?昔仕事で自筆譜からパート譜起こした記憶ありますがその曲?ちゃんと完成したのも別にありましたっけ?
by 皇帝きむち (2013-01-30 18:42) 

Yakupen

皇帝きむち様

単一楽章で、えいゃぁ、って感じで直ぐ終わっちゃう曲でしたよ。

by Yakupen (2013-01-30 21:23) 

皇帝きむち

 それなのかな・・・・とにかく出版されていない作品でした。題名はついてなかったです。じゃあ違うかも
by 皇帝きむち (2013-01-30 22:15) 

皇帝きむち

 失礼しました。貴志康一の作曲カタログ見たら習作としてカルテット「まつり」とありました。これですね。
by 皇帝きむち (2013-01-30 22:44) 

Yakupen

皇帝きむちさま

そうそう、「まつり」です。この楽譜は見せて貰わなかった。貴志はどこに楽譜があるかはっきりしてますからね。でも、使える曲だとは思います。
by Yakupen (2013-01-31 06:41) 

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