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《ラインの黄金》のバランスの壊れっぷり [演奏家]

たまには音楽の感想。お気楽系です。

昨日月曜日、「東京春音楽祭」で《ラインの黄金》を見物させていただいたわけでありまするが、あちこちのサイトに山盛りになっている感想文からもお判りになりますように、演奏会形式での上演らしい意欲的な試みがいろいろ成されていたわけでありまする。

んで、それはそれで結構なんですけど、ヴァーグナーの作品の中では《ラインの黄金》と《ジークフリート》と《パルシファル》は一応関心がある、他はホントはちょっとご勘弁、というやくぺん先生とすれば、いちばん面白かったのはオーケストラのバランス、というか、オーケストレーションのバランスでした。

皆々様ご存じのように、ヴァーグナーはこの誇大妄想的にでっかいオペラ作品の台本を最後の『ジークフリートの死』から書いていったわけでありますね。この台本のオリジナルだかは、数年前にチューリッヒ図書館でやった「チューリッヒの音楽展」だかなんだかで現物をガラスケース越しに見物させていただいて、当電子壁新聞にもなんか書いたような気がするが、細部は忘れちゃった。あ、ここに書いたんじゃなくて、今は亡きweb雑誌『FujiTVアートネット』だったっけか。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2007-06-25
ま、ともかく、かのウーハー映画の『ジークフリートの死』と『クリュムヒルトの復讐』を纏めたような(ってか、無論、映画のがあとですけど)台本を書き、こりゃ全然足らんなぁ、と延々と先を書き足していった。で、《ラインの黄金》がいちばん最後に台本として完成したわけだ。これ、なんも調べずに書いてるけど、間違ってないよね。

んで、作曲は《ラインの黄金》から始めている。

ですから、この「指輪」というサイクルは、台本としての完成度と音楽作品としての完成度が相当に矛盾している、というとても面白い現象が起きている。

ぶっちゃけ、ヴァグネリアンの方には叱られそうだけど、《神々の黄昏》って、台本としては滅茶苦茶でしょ。普通に考えれば第1幕がアホみたいに長く、演劇的にもあれだけでひとつのオペラが出来るくらいの場面転換もある。中身についてはどうこう言う気はないけれど、ともかく、音楽的にある程度以上ちゃんとしてるからなんとかあの長丁場が耐えられるのであって(「リング」という大連作は、《ジークフリート》2幕と3幕の間でオケの響きの質が劇的に変化しますからねぇ)、ホントはあの台本なんとかしてくれ、ってみんな思ってるでしょーに。

それに対し、《ラインの黄金》はそれなりに良く出来ている。これくらいなら普通の人でも眺めていられるし、途中の演説も長いけれど長すぎないし、演説をする理由がちゃんとある。リヒャルト君、随分上手になったねぇ、と花丸印をポンと押して上げたいくらい。

だけど、音楽には、よく言えば実験的すぎる、悪く言えばあちこち壊れているとしか言いようがないところが多々ある。一番マズいのは、オケのバランスでしょう。どことは言わないけれど、もうあちこち、です。

一番困るのは最後の最後、ヴォータンが最もアリアっぽい「あーべんとりひと…」ってのを歌って、奥さんが「なんなんねん、そのけったいなお城の名前は」とかいう会話があってから、神々が入場するまでの最も盛り上がるシーン。ここで、ヴァーグナーさんは何を血迷ったか、6台もハープを並べて空気が浄化されていく様子を描いたのはまあ良いにしても、その後のラインの乙女達の懇願の場面のオーケストレーションを、思いっきり薄くしちゃってる。
結果として、舞台で眺めると、演出家が神様たちをヴァルハラに連れて行こうと様々な趣向を凝らす大見せ場で、舞台転換やら装置やら、はたまた神様の歩く足音やらが、どたんばたんと舞台上で響きまくることになって、舞台裏でハープまで使って歌ってる乙女達の声やら、ちょっとオマケにように伴奏しているオケピットの響きやらを、大いに邪魔することになる。

昨日のヤノフスキ御大は、流石にデンオンの「リング」全曲初のPCM録音に大抜擢されるほどのこの作品の専門家(なんでしょうね、マニアの方、そんな認識でホントに良いのかしら?)だけあってか、この最後の場面で神様からなにから、みんな舞台から引っ込めてオケだけにしちゃった。んで、ラインの乙女達はホントに裏で、裏ハープまでちゃんと使って歌わせた。

なーるほどねぇ、やっぱりこういうバランスなんだよねぇ、この曲は、と初めて思えたですよ。

普通、こういう演奏会形式で立派な歌手で楽譜に指定されてある非常識な編成を真面目に舞台に乗っけて(あるいは乗っけないで)やれるのは、メイジャーオケの音楽監督なんぞが録音絡みの大フェスティバルでやるか、オケの定期の特別な記念回なんかの上演になるわけですね。そういう指揮者さんたちは、オケの処理の名人さんですから、こういうヴァーグナーの楽譜自体がぶっ壊れているとしか思えぬ部分も、一生懸命なんとかきちんと聴かせようとする。それはそれで正しい態度なんだけど、「へえ、結構うまく処理したじゃん」ってことになってしまう。

昨日は、真面目に、ダメなものはダメなんだ、って感じで、でもきちんと処理したなぁ、ってこと。

以上、全くどーでもいい感想でありました。これ、褒めてることになるんだろーかね?

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