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昔の仲間・今の仲間 [弦楽四重奏]

葛飾厄偏舎はまだ図書館とCD棚は何も完成していないのだけど、いくらなんでもそろそろ引っ越し作業ばかりもやっていられない。昨晩は厄偏舎から短い電話インタビューをし(電話から直接録音機に記録するディヴァイスがサカイの岡の中で、難儀しました)、引っ越し騒動前に8割完成していた原稿をひとつ完成、依頼主さんに送って、葛飾厄偏舎本格始動の初仕事となりました。ふううう…

この歳で連日重い荷物を持って上がり下り、右肩が完全に上げられなくなり、両手はすっかり膨れあがり、なんかキーボードを打っていて違和感がある。いちにちくらい肉体を休ませねば。そんなわけで、本日は佃厄天庵を出発し、遙々東京は西部地区をふたつのクァルテットを追いかけて彷徨い歩いたわけであります。傘より重いものは持たんぞっ。

まず向かったのは、知る人ぞ知る、かの日本の室内楽鬼教師、岡山先生が退官後にご自宅をコンサート・スペースにしたところ。最寄り駅は玉川学園で、なにせカサド・コンクールの資料調査で数年前に散々通った場所なので、どっかに行く感じはまるでありません。とはいえ、駅を出て、小田急沿いに学校の方に入っていくのではなく、右手に折れて坂を登っていくのは初めてであります。

この辺り、多摩の丘陵が緩やかに、でもかなりの急勾配で上下する味わい深い地形で、小田急を背に坂を登っていくと岡の稜線に住宅地が広がっている。無論、ここまで来ればそれなりに林も多く、北側には玉川学園の森、遥か大都会町田を眺め上空に日本海軍が中古品を買いたたいたC-130が降りていく南側には薬科大学が育てている森
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そして、東には横浜子供の国が広がっている。マンションを造って新たに周囲に植えこんだ松林や竹林もそこそこあるけど、昔からの落葉広葉樹や楢や杉なんぞの木立も多く、藪の中では絶対に姿を見せないウグイスばかりか、ちょっとこい、なんてのまで鳴いてる。頭の上ではやたらと騒々しいシジュウカラ君らに混じって、えながんも可愛く飛び回ってら。オナガ軍団がぜーぜーって感じで谷渡りをしてくる。幸いに日曜なので、上空に北米系猛禽類は跋扈しておりませんでした。

んでもて、「スタジオ・コンチェルティーノ」、要は岡山先生のお宅なんですけど、は南西を眺める斜面にあって、最近大流行の100席以下くらいのコンサート・スペースとしてはとても良く出来たところです。
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無論、音友の連載で取り上げるつもりだったんだけど、その前に連載がなくなっちゃって、やっと今になって文字通りの押っ取り刀で駆けつけられた次第。いやはや。

演奏したのは、クァルテット・バンベルク東京なる新しい団体です。なんか、最近この類いの命名法、流行なんじゃろかね。ええ、第1ヴァイオリンがバンベルク響コンマスお砂原亜紀さんで、セカンドが札響セカンド首席の我らが大森潤子様。んでもてヴィオラは岡さおりさんで、チェロは懐かしや、小貫詠子さんでありまする。そー、よーするに、半分がかのアガーテQでありますわ。←って、どれだけの方がご存知やら…

若い頃にクァルテットを志し、それなりに頑張り、でもいろんな事情で続けるわけにはいかず、それぞれが10数年の時間をそれぞれに歩んできた。で、今また、どれだけやれるかわからないけどやってみようよ、という音楽家たちが集まった。

冒頭のハイドン作品20の4、合わせるってのは縦の線だけじゃなく、和声の感覚なんだよね、ってことが判ってる音が流れ出す。それなりの時間を積んで、経験を積んで、「上手ならいいじゃないか」では済まないことを身体で知ってきた人達が出す音たち。無論、例えば数週間前のヴェローナQの天馬空を駆けるようなスター候補の《ラズモ2番》とはまるっきり違うけど、ザッとダウンボウで響かせる和音の重さにどれだけの意味が込められるか、それを判った「中堅」の音楽は、またそれはそれで、あって良い。


ケキョケキョ、って谷の奥で鳴いてるウグイスの声に背中を押され、慌てて岡を下り、小田急線に飛び乗り、大都市町田から八王子を経由、すっかり日も暮れた曇り空に武蔵小金井駅に到着。いつの間にやら高架線になっているホームから眺めると、あれ、駅を間違えたのかしら。
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小金井市民交流館に来た筈なのに、なにやら楽器屋さんのホールになってるぞ。

なんと、4月1日からネーミングライツでご覧の名前になったそうな。うううん、なんか凄く紛らわしいホールがまた出来てしまった。きけば、駅の反対側には昔から同じ名前の楽器屋さんの中のホールもあるそうで、そっちは「小ホール」と名告るそうだけど、そうはいってもちょっとこれは無理じゃろね。小金井の演奏会場にいらっしゃる方、お気を付けて。あ、北関東の小金井じゃなくて、多摩の小金井ですから。

こちらはもうこの場所で5度目の演奏会となる、同じものヴィルタスQであります。前回、日にちを間違えて出かけるというあり得ないアホをやらかし、随分と久しぶり…って書いたら、そういえば雪の凄い日に遭難しそーになりつつ国分寺から歩いて辿りついたこともあったと思い出した。あれはいつのことじゃっけかな。

とにかくなんであれ、ヴィルタスQ、この新しい地方民間音楽プレゼンター、演奏会は9回目になるようだけど、それなりに人も集まるようになり、やっぱり多摩地区は本気になればそれなりに固定客層はいるんだなぁ、と思わされます。武蔵野なんぞの無茶や、三鷹なんぞの地味な踏ん張りが、そこそこ浸透しているのかしらねぇ。

んで、ヴィルタスQであります。ぶっちゃけ、やくぺん先生的には、やっぱりこの団体は「20年後のすばるQ」でありまする。丸山夫妻の低音2人ががっちり20年数年の歴史を刻み、その上に今の才能溢れる若者が加わってきている団体。良くも悪くも、日本では珍しいパワー系の演奏がやれる人達で、きっちり詰めていって綺麗な音を常に維持出来るようにすれば(わあ、我ながら、滅茶苦茶ハードルの高いリクエストだぁ)、個人的には「日本のグァルネリ」と呼びたいぞ。

本日の演奏会、徒歩&電車移動の2時間弱前に聴いたばかりの《ラズモ2番》で始まり、休憩を挟まずに、なんとなんとスメタナの《我が生涯より》が続きます。個人的にはすばるQと言えばロヴェット翁に「興味深い曲としか言いようがない」と言わしめたスメタナの2番の印象が強烈なんだが(メルボルン大会でも弾いてる筈)、本日はまるで違う意味で印象的でした。
だってね、あなた、この2曲を休憩無しで前半に並べるなんてプログラム、過去に誰もやったことないんじゃないかい。そー、両方とも冒頭がホ短調和音ドッカンドッカン、で始まるんだもん。でも、そこから先に向かう方向がまるっきり違う。これはすごおおおおいビックリでしたねぇ。へええええ、としか言いようがない。終演後に丸山さんに「あれ、狙ったの」と尋ねたら、「ちょっとね」と笑ってました。

ま、それはそれ。連日の前頭葉を空っぽにしての肉体労働に披露しきった身体には、作品135の重過ぎない線の絡みがなんとも快い。

音楽家の皆さん、ありがとう御座いました、とあらためて当たり前過ぎることを言って、また荷物整理が待つ葛飾まで、まうで学部時代のように夜の中央線に揺られ、道、未だ遙か也。

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