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「政治とは無縁」を装い続ける息苦しさについて [演奏家]

「音楽業界」よりも「演奏家」カテゴリーなのだろうなぁ、という判断。

当電子壁新聞ひとつ前の御題の後半でも記しましたように、昨晩、溜池はサントリーホールで公益財団法人ソニー音楽財団さんが主催し、外務省、スペイン大使館、港区&教育委員会が後援に入る「10代のためのプレミアム・コンサート:大野和士 バルセロナ交響楽団」なるものが開催されました。精神年齢は14歳と言われても否定のしようがないやくぺん先生なれど、一応、世を忍ぶ仮の姿のニンゲン体は爺初心者なんで、この演奏会のターゲットとする聴衆ではなく、あくまでも見物人として拝聴させていただいたわけでありまする。

6時というなんとも不思議な開演時間の1時間も前から、溜池の今や高層ビルの谷底化しつつあるホール前広場にはセレブなお嬢様坊ちゃま親子連れ、ここは灼熱のマドリッドの街角かという感じのラテンぽい気楽な格好の皆様、それに妙にいっぱいの中華系お子ちゃまやら「中国の笛」なんぞ持った中国雑技団衣装の方なんぞのお姿も。なんなんねん、と思ったら、どうやら小ホールでこんなよーわからんイベントがあったらしい。
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すごおおおい気になるなぁ、これ。ま、それはそれ。

大ホールの本編は、こんなもの。
http://www.smf.or.jp/concert/spkids_12/
サントリーホールの客席は無理にギュウ詰めにしないゆったりした感じで、Pブロックは使っておらず、2階最前列はこんな風に封鎖されてます。
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親子でいらしてた某同業者氏によれば、珍しいことだそうな。お子様たちに落っこちられて事故でもあったら、財団の事業停止、ホールは廃館、なんてことだってあり得るわけだから、慎重にならざるを得ないんでしょうねぇ。

演奏会の中身は、「前半はオーケストラという楽器の音色、後半はリズムがテーマの、大野和士による贅沢なレクチャーコンサート」でありました。ぶっちゃけ、内容はそれほどガッツリぎりぎりまで詰めたわけではなく、オーケストラからピアノ、歌手、ギター、はたまたバレエ団までドカンドカン動員してテーマになってることを見せた、聴かせた、という感じ。流石に頭の良いマエストロ、現在大流行の「参加型ワークショップ」も取り込んでおり、江東区でのシティフィルとのコラボで馴れたバレエの先生をアシスタントに、客席の大人も子どももみんな立たせて、「はいファルーカのリズム、はいこんどはホタ」って体を動かし手拍子させる。「花見にならないよーに」なんてさりげなく結構本質的なギャグかましたりして(ギャグとしては殆どスルーされてたたけどさ)。

そんなこんな、休憩含めたっぷり2時間の楽しい夏休みの時間が過ごされたわけでありまする。以上、「へえ、良かったじゃないですか」でオシマイのお話なんですけど…

偏屈爺初心者のやくぺん先生としては、この演奏会、ある瞬間から、ものすごおおおおおい違和感を感じてたんですわ。違和感、というか、居心地の悪さ、かな。痛々しいものを眺めさせられている感じ、とまでは言わないけどさ。

子どものコンサートである、マエストロ大野が無理に子ども向けやってる、オケがオペラとの間で大変そうだ…そんなことではありません。それはまあ、大変そうだけどお仕事だからしょーがないだろ、と思える程度のもんです。

違和感とは、「これって、Orquestra Symphoica de Barcelona I National de Catalunyaの演奏会なんだよねぇ…」ってこと。

今回のツアーの公式日本語表記では「バルセロナ交響楽団」となっており、もうその段階で薄められちゃってるけど、要は「カタロニアの国立バルセロナの交響楽団」でんな。少なくとも、表記のどこにも「スペイン」という国名は入ってない。

いやぁ、ビミョーだなぁ…って思うでしょ。

舞台の上で「教育プログラム」の素材として使われたのは、最初はセビリアが舞台のビゼー《カルメン》で、次はフランスっても「スペイン北部」みたいなバスク地方出身のラヴェルがペロー童話をネタにした《マ・メール・ロア》。そこまでは、ああそうですか、でよかろーが、後半はアラルコン原作でアンダルシアが舞台のファリャ《三角帽子》で盛り上がる。うううん、こうなるとアンコールに《鳥の歌》をしっとりやるしかないのかぁ、と思ってたら、アンコールも《カルメン》第1幕への前奏曲で大盛り上がりで終わった次第。

もの凄く危険な、表のメディアだったら絶対に口にしてはならないことを敢えて記させていただけば、これって、「1929年のバルセロナ万博に招聘された京城交響楽団が、スペイン人の指揮者で《蝶々夫人》やら《ミカド》抜粋、はたまた《さくらさくら》を演奏し大いに盛り上がった」って感じ、かしらね。

これは子どものための演奏会であり、更にはあくまでも純粋に芸術的な話をする場所なんだから、そんなことに違和感を感じるお前がおかしいのだ、と言われれば、返す言葉もありません。仰る通り、その通りで御座いまする。だから、あたしだって、人前ではこんなこと言いません。

だけどさ、やっぱり、もの凄い居心地の悪さを感じてたのは事実なんだから、それはそれでしょーがない。

まあ、半世紀も昔のちゅーぼーの頃に『動物農場』を読んだ勢いでオーウェル全作品制覇などと無謀なことを考えて丸善でペリカン版『カタロニア讃歌』なんぞ購入し必死に読む振りをした、なんて紀元前の話はともかく、なんせ「カザルスホール」という今はもう40代以下の方々には知る人もない場所の月間会報誌でこの商売の基本を学び、その頃からカタロニアやらエル・ヴェンドレィに足を運んでいた。今世紀になってからも、なぜか関わった「カサド・コンクール」の資料調査で、未発表のカザルスの手紙を掘り出すなんてオソロシ-幸運に巡り会ったり。バルセロナのオケにしても、今は誰も触れない前任者の大植えーちゃん時代にオルフェオ・カタランというカザルスを知る人なら涙が出そうな合唱団と第九をやるのを見物にいったり。
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2009-05-31
全く偶然ながら先頃のカタロニア独立騒動の際にはゼネストの真っ最中にバルセロナの街を彷徨かねばならず
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2017-10-02
当然ながらそこでやったインタビューには、表には出せなかった「政治的」状況に関する話もあったり。
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2017-10-04

ま、そんなわけで、目の前にいた70人くらいの演奏家さんのうちのどれくらいが「カタロニア人」なんだか知らないけど、この楽師さん達はどう感じながら演奏しているのかなぁ、と思わざるを得ないのであった。

実際、耳にする話では、ホール裏のスペイン大使館とは、あまり簡単ではない出来事もあったそうな。あくまでも伝聞です、「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」の当電子壁新聞であることはお忘れなくっ!

現代音楽を含め、世に知られたカタロニアの作曲家って、誰がいるのかしら?

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佐藤

アルベニス (Albéniz i Pascual)とグラナドス (Granados i Campiña)くらいは、流石にカタルーニャ出身の作曲家で「世に知られた」と言って良いのではありませんかね?

何の関係も無い人間故好き勝手に述べてしまえば、
カタルーニャの方々が演奏するカスティージャのほうの音楽のほうが、ある意味ではカスティージャの方々の演奏より興味があります

勿論、嫌々おやりの場合でなく、
「この作品の素晴らしさはこういったところだ」といった意識をお持ちになった上での演奏が聴きたいですが
by 佐藤 (2019-08-04 03:10) 

Yakupen

佐藤様

無論、そういう作曲家のことはみんな判った上で大野監督はこういうプログラムを作ったのでしょうけどねぇ。サントリーホールはスペイン大使館の真下、という特殊な環境もあったのかしら。ま、いろいろな裏話は聞きますが、裏が取れない話ばかりなので、流石に「書いてあるのはみんな嘘、信じるなぁ」をモットーとする当無責任電子壁新聞でも…
by Yakupen (2019-08-04 13:18) 

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