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60年代ダルムシュタット版「映像研には手を出すな!」 [現代音楽]

昨晩、初台の武満メモリアル地下ホールで、こんな演奏会が賑々しく開催されました。
IMG_6708.JPG
うううむ、このやっつけ仕事感満載の張り紙からして、「音大の学祭」感プンプンであるなぁ。

この作品、ある意味で「20世紀後半前衛真っ盛りの伝説的作品」で、名前ばかり有名。一頃まではDGから出ててた組み物レコードしかまともなソースがなく、ネットで物を買うのが当たり前になった昨今では、もの凄い値段が付いてるみたい。オランダの現存する全ての録音物を収集しようという希有壮大なデジタル・アーカーヴには、ちゃんと入ってますな。Amazon.comでは品切れ。
https://www.discogs.com/ja/release/781795-Mauricio-Kagel-Staatstheater
https://www.amazon.com/Staatstheater-Mauricio-Kagel/dp/B004YQXWQK

まあ、どーゆー作品か、こんな無責任私設電子壁新聞を立ち読みしてやろーなんて酔狂な奴は、当然知ってるだろーから、もっと知りたい方は勝手にお調べ下さい。YouTubeにDG盤の音をまんま全部アップしてる恐れ知らずの勇者もおるが、ぶっちゃけ、これ、音だけ聴いてもなーんにも判りませんから。便利なのはこの出版社ユニヴェルサールさんの公式ページで、なんせちっちゃいながら全ページ楽譜を眺められます。冒頭の膨大な演奏のための指示のページからなにから見られるんだから、凄い時代になったもんです。解説が一切無い、と言うのも清々しいなぁ。
https://www.universaledition.com/mauricio-kagel-349/works/staatstheater-4945
wikiに独立したページがないようなんで、この辺りが解説としては便利かな。
https://soundart.zone/mauricio-kagel-staatstheater-repertoire-1967-1970/

さてもさても、この「作品」の中で最も大きな「レパートリー」というパートの全曲が日本初演されたのでありました。舞台作品としか言えないのだけど所謂「オペラ」とも言えないこの作品、新国予算で作った『戦後のオペラ』編纂の時に紹介する作品リストに加えるか一瞬は思ったものの、実際に舞台として観たことなかったし、この類いはケージの《ユーロペラ1&2》を挙げておけば充分であろーとの判断から、編集会議で出すリストにも挙げず、他の著者さんからも上がらず、冒頭の概論でも触れてません。とはいえ、気になっていた作品であることは否めず、ダメダメなしろーとコントを面白そうな顔して眺めねばならんのは辛いなぁ、でも一種の税金みたいなもんだわなぁ、と年末進行のバタバタな中を初台まで足を運んだ次第。

んで、感想というか、今思ってることを正直に記しておけば…ううううむ、これはやはり、前衛音楽の祭りだった1970年大阪万博でクレージーキャッツを出演者に日本初演し、鉄鋼館と並ぶ伝説を作っておくべき作品だったのであーる。

出落ちの一発芸音楽コントを100連発する作品ですから、要は、60年代前衛の牙城だったダルムシュタットの、「時間芸術のありとあらゆる要素を人間がコントロールするのが作曲である」という信仰(としか言い様がない)へのアンチテーゼとして出されていたものの集大成。当然、猛烈に細かくやることを指定された(うううむ、絶対矛盾の自己同一化じゃのぉ)その内容は、時代にヘリついてる部分が多々ある。

例えば、この作品でいちばん有名であろう「顔にレコードを貼り付けた怪人が両手で音面を引っ掻いてアンプリファイして音を出す」なんてのは、21世紀の20年代初頭の今こそレコードのリバイバルがあったから良いようなものの、レコードってなんだか知らん若い連中ばかりになった世界では文字通りの「歴史的楽器による演奏」で、アルペジョーネとかバリトンでの演奏みたいなもんでしょ。他にも、真面目に指定通りに音楽演奏するには超高度なプロの能力が要求される部分もありそうな100個の一発芸を次々と眺めさせられると、今の若い人には判らない動作とかネタとかがいっぱいあると感じざるを得ない。この作品の先にあるシュトックハウゼンの《光》チクルスになると、厳格にやることを指定された寒いオヤジギャグがひとつの様式感にまで昇華されている(←無論、皮肉です!)のだが、この作品の場合には、意図的だかも良く判らぬスキだらけだし。

逆に考えれば、右手に携帯を持って生まれてきた世代にとっても、いろいろと創造力と想像力をメリメリ働かせたネタの手帳になる可能性はしっかりある総譜なのかもね、と思ったりして。

以上、この作品、どう考えても「美術部が併設され様々な小物をタダで作ってくれるアホな友人が手近にいる総合芸術大学の作曲科学生たちが、部費を確保するアピールとして学祭で賑々しく披露するに最適の、作曲科学生の為の超絶技巧練習曲集」として生きていくのがいちばんいいんじゃないかしらね。実際、昨日のオペラシティ小ホールに漂っている空気は、まるっきり学祭のそれだったもん。

出演者の皆様、滑ってるギリギリの笑いに誰ひとり帰らずに最後まで付き合った聴衆の皆様、ご苦労様でした。

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