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サルビアホールに打楽器が鳴る [演奏家]

思えば帝都首都圏に於ける弦楽四重奏の聖地が晴海から鶴見に移ってからはや10数年にもなろうという今日この頃、冬の戻りのような寒い晩、サルビアホールで加藤訓子打楽器独奏会があるというので、ノコノコ出かけた次第でありまする。
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っても、会場に着くまでお馴染みの3階100席の「音楽ホール」ではなく、その上のもっとデッカい本編「サルビアホール」の方だと信じ込んでました。当電子壁新聞を立ち読みしてるような酔狂な方は皆さんご存じのように、「横浜市内駅前一区毎に専用ホールひとつ設置プロジェクト」の中で生まれたJR鶴見とと京急鶴見両駅に挟まれた中之島みたいな空間の総合ビル内に設置された公立ホール、諸般の事情で本来ならば上層階の大きな方のホールに施される筈だった音響設計バッチリの設備が100席の小さな空間の方に施行されてしまい、結果として個人のお金持ちが数億円かけて自分ちに造っちゃった昨今流行のコンサートスペースの公立版が出来てしまった、という特殊過ぎる場所。まるでピアノやチェンバロの中に頭突っ込んで聴いてるような空間の素晴らしさに比して備品のピアノがお粗末すぎる、まともな楽屋といえる楽屋がない、など問題は多々あるものの、結果としてH先生の持ち出しに近い尽力もあり「首都圏の弦楽四重奏の聖地」となっている。

なんと加藤さんはご自宅から車で15分というこの場所をご存じなかったそうで、どういう経緯やら知らぬが、今回が初めてこの地でのソロリサイタルとのことでありました。舞台の上にはヴィブラフォンひとつと、共演のマシンのスピーカーが据えられてます。
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客層もいつもの弦楽四重奏のコア過ぎる、ニッポンでいちばんコワい室内楽聴衆とはまるで違い、若い人も多く、どっかのライブハウスみたいでありますな。

当然のことながら、「こんな無茶苦茶響く空間で打楽器リサイタルって、大丈夫かしら」と思ってしまうのは仕方ない。なんせ、前日の晩に同じく打楽器叩きまくった、単なる集会室みたいな天上が低い早稲田の東京コンサーツラボとはまるで異質な空間ですから。

で、結論から言えば、なんとまぁ、まるっきりOKでした。というか、加藤さんが「なるほどこういう空間なのね」と割り切って音楽を作り上げた、というのが正解なんでしょう。終演後のステージ上からの挨拶で「エストニアの教会でバッハを録音したときのことを思い出した」など仰ってましたけど、なーるほど、確かにそうね、って。自分の楽器の「響きを造る」という要素と、「バチによる打鍵でデジタルな実音を造る」という要素とを見事にバランスさせた、質の異なる響きのポリフォニーを造り出す。押しも押されぬ「スター演奏家」のソロリサイタルっぷりをガッツリ聴かせていただいた、という晩でありました。

加藤訓子さんといえば、このところは若い打楽器奏者を纏めるお姉さん先生、って感じの立ち位置のお仕事ばかり拝見していたわけですけど、思えば20世紀最後の10年くらいの半ば、サイトウキネンに出ていて最初のマネージャー氏に連れられて池袋で打ち合わせした頃、「地味な女の子が地面に座ってその辺を叩き出し、もの凄く繊細な響きの上にボソボソなんか呟いてる」って感じの「もの凄く小さな音に耳を澄ましてる人」ってイメージが、ホントにホントに久しぶりに見たなぁ、って。地面に落ちる桜の花びらの音すらも聴こうとする、静謐な打楽器奏者さん。

サルビアホールがこういうことも出来る空間だと知って、スゴく嬉しくなった春まだきの宵でありましたとさ。横浜市民は、ホントにラッキーだなぁ、こんな場所があるなんて。

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