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音楽と演劇の融合は永遠の「実験」なのか… [演奏家]

金沢駅東口、正面の鳥居モドキを挟み石川県音楽堂とは反対側のスタバで、7時開演の葵トリオ独奏(?)OEK開演を待ってます。練習を眺められるかと思ってたんだけど、なんとこのオケ、欧米都市型オーケストラのような「GPは午前中」で、到着した頃にはもうとっくにプローベは終わってました。金沢まで来て、駅改札から数百メートルしか徘徊せずに戻る、って毎度のパターンでありますな。

さても、なんせ新帝都は縦長屋に蟄居しているときは塒にホントに布団があるだけで、勉強したりお仕事したりするには縦長屋勉強部屋とか喫茶店とか資料館図書館とかに潜り込まねばならないわけで、そんなお仕事空間が佃にあろうが銀座にあろうが、はたまた上野にあろうが小松空港ターミナルビルにあろうが、もーまんたい。どうやらコロナの間に移転したようなここ金沢駅前スタバだって、いつものようなお仕事空間でありまする。それにしても、お彼岸の金沢で33度の湿気た猛烈な南風の曇り空って、どこの島じゃ、ここは…

もといもとい。ともかく新帝都ベースになっているときはほぼ連日どっかの演奏会場に足を運ぶ日々。昨日も、ベッタリ湿気た空気を掻き分け、振り返っても海も港も欠片すら見えやしない紅葉坂を老体に鞭打ってえっちらおっちら登り、こんなもんに行ってきました。ヘンデルのオペラじゃない方です。
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これじゃなんだか判らんわなぁ。こちら。
https://www.kanagawa-ongakudo.com/public_kanagawa-arts.or.jp/event_pdf/ongakudo_shojisakaya_flyer.pdf

ま、チラシをご覧になっても「??????」ってなるのがホントのとこでしょうねぇ。ともかく、庄司紗矢香さんらがソリスト、モディリアーニQがバックバンドでショーソンのコンセールをやり、どうやらそれに3人のプロの役者さんが演じる平田オリザ氏書き下ろしの短い演劇が付く…んだか、被さるんだか、なんだかよくわからんが、ともかく「コラボ」するよーであーる。で、その前には、オマケというわけでもなかろうけど、1本のコンサートとしての常識的な長さをきちんと確保するためになのでしょう、出演者が普通のコンサートのような演目を披露してくれるらしい。

県立音楽堂のプロデューサーさんにご挨拶しロビーを眺めると、こんなタイムラインが貼ってあるぞ。
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おおおお、なんてこったぁ、ショーソンのコンセールって、40分弱くらいかかるデカい曲ではあるものの、平田オリザ演劇付きヴァージョンって1時間半以上もかかるんかいなぁ。《子供と魔法》どころか、《サロメ》程もあるじゃないかい。

県立音楽堂はかなりの埋まりようで、とはいえ改装されてからも決して広いとは言えぬ席に押し込まれた善男善女、下手側に公園のベンチと街灯が据えられ、真ん中にピアノが置かれたステージを、何が起きるのやらと眺めておりまする。

まずは真っ暗なステージにヴァイオリンとピアノさんが出てきて、下手からリーマン風の男が出てきてベンチに座り、瀧口修造の「妖精の距離」を朗読。この朗読、単語ぶつ切りだったのは、恐らくは演出家さんの意図なんでしょうね。

役者が暗転すると、音楽家に光が当たり、武満が演奏される。そのまま拍手無しでドビュッシーのソナタが奏でられ、拍手。Qモディリアーニが出てきて、ヴェルディの弦楽四重奏曲を演奏。この作品、やはり第1楽章などどうしても「アムネリスの焦燥」というアジタートっぽい音楽になるのが殆どだけど、なにやらフレーズが妙に長くソットヴォーチェに終始するような押さえに押さえた音楽。この団体の毎度ながらといえ、正確さや細部の精妙さよりも全体の雰囲気重視、って音楽で、ま、なんというか…「イタリア語4幕改定版《ドン・カルロ》と思ってたら、フランス語初演5幕版《ドン・カルロス》だった」ってかな。うーむ、酷い比喩だなぁ…

で、休憩になり、いよいよ後半は庄司&平田オリザのコラボ創作になります。このプロダクション、誰がどう考えてもプロデューサーがいないと不可能な仕事なんだけど、誰がどうやって作ったかは一切の説明もない(判る人がみれば判るでしょ、ってデータすらなく)。そこにいた庄司さんのマネージメント関係者さんに尋ねたら、ある程度の種明かしはしてくれたのだけど…ま、こんな無責任電子壁新聞に記すようなことじゃないわい。そんなデータは鑑賞に必要ないです、と主催者側が判断してのことでしょうからね。

この日で3度目のステージになるというこのコラボ、演劇としての中身を説明するべきなんだろうけど…うううむ、ま、それもいいや。人生の半ば前くらい、青年時代は終わり、いろんな意味で生きるということに責任も出てきたけど、まだまだ青春はいろいろ引きずった記憶の中にある、というくらいの元リア充カップル2組の仲良しが、結婚して子供も出来た奴らの男の方が4歳の子供と嫁を残し若死にし、その葬式だかで田舎に戻ってきた3人が、街を見下ろす公園のベンチであれやこれや話をする、ってものでありまする。ストーリーはなく、人生のある瞬間のスケッチですな。

…っても、記そうかどうか悩んで、やっぱり自分のメモとして記しておくと、この「演劇」部分の醸し出すテイストって、なんかベケットの『エンドゲーム』みたいなんですよ。閉塞感の設定や意味がまるで違うけど、一種の閉塞感からの打開とその不可能さ、みたいな。ま、あくまでも感想ですから、気にしないよーに。

もといもとい、作品の大まかな作りについて。ショーソンの第1楽章が終わったところで、演奏家は暗転したステージ上で座ったままで、その横で舞台が始まります。で、第2楽章があり、またスキットが続き。第3楽章があり、またまたスキットが続き。第4楽章が演奏され、オシマイ。

ぶっちゃけ、ショーソンとこの「人生スケッチ」スキットの間には、なーんの関係もありません。3人の登場人物というのが、ヴァイオリンが4歳の子供と未亡人になって田舎に戻ってきた女で、ピアノがその昔の友人でもうひとりの男と別れた女で、弦楽四重奏が最初に滝口朗読してたリーマン風の男、ってわけでもない。いや、そうなんだ、と思って眺めたり聴いたりすれば、なにかみえてくるのかもしれないけど、そうしろとは誰も言ってません。そうなんじゃないか、なんて思いながら舞台を眺めてた人は少なくないんじゃないかなぁ、と思うけどさ。

とはいえ、両者の間に関係がないかと言えば、こんな風に見せられれば関係なく感じろなんて言われても無理です。やっぱり第2楽章なんて、「あああ、みんなでお線香あげにいって、そこでいろいろ感じたり思ったりしているのかぁ」なんて映画のBGMみたいに聴けちゃう。第3楽章だって、別れた2人の対話に去来するいろいろと複雑な思いが描かれてる…って感じろといわれれば、そう感じるでしょうねぇ。終楽章だって、こうやって人生は続き…って風に感じられるかも。

ま、まるで異なるものを並べ、それを鑑賞する側が勝手に解釈し、感じれば良いのだ、と思えば、これはこれでありでしょう。敢えて暴言を吐けば、この「作品」、演劇パートがターゲットとしている客は県立音楽堂の中でたったひとり、庄司紗矢香さんだけでしょう。

平田オリザさんが舞台に上げた人生のある瞬間のスケッチを直ぐ横で眺める庄司さんが、そこで感じたものをショーソンの譜面の中に瞬時に反映していく。恐らく、この演劇空間の横では、『エグモント』のような英雄悲劇も、『フィデリオ』のような夫婦讃歌も、はたまた『リア王』のような壮絶な叫びも聞こえる筈がない。その意味では、誠に「コラボ」でしかない音楽が奏でられました。

だから、これはこれであり、なんでしょう。叱られそうなことを言えば、演劇部分というのは「湯豆腐の昆布」みたいなもので、まあ好きな人は食べても良いけど、ホントはそっちじゃないからね、ってね。

終演後に県立音楽堂のプロデューサーさんに直接言ったことをあらためて記しておけば、この「作品」、演劇祭みたいなところでいくつか違うヴァージョンを交代上演してみる素材としては極めて有効でしょう。ショーソンのコンセールという音楽と演奏者は固定し、演劇部分を「故郷の町を見下ろす青春が終わった3人ヴァージョン」と、それとは全く違う話のヴァージョンを用意し、交代で上演する。と、ショーソンがどんな風に違って聴こえてくるだろうか…なんてやり方ですな。

さもなければ、演劇部分はそのままにして、音楽を全く違う4楽章作品にする。個人的には、この話に最も似合っているのは、ケージの《4つの四重奏曲》だと思うなぁ。特に、最初のスキットが「数を数えること」と「永遠」の恐ろしさ、というテーマにも思えちゃうんで、ミニマル系はピッタリでしょう。《ラズモ》の第3番とか作品132とかみたいな、「最後に向けて明快に解決を求めて動いていく」ってタイプの音楽は絶対にダメでしょ。ラヴェルの弦楽四重奏、って声が挙がるだろうが…ううううん、どーかなぁ。

ま、こんなどーでもいいことを考えさせてくれただけでも、このプロダクションを作って下さった方にはありがとう御座いますと申さねばなりません。とはいえ、まだこれから聴く機会がある方に、是非とも会場へ、とは敢えて言わんなぁ。やはり「実験」ですからね、これは。積極的にそんな実験にも付き合ってやろう、という方が来て下されば充分じゃないかしら。

なお、上の写真のタイムライン、完全に間違いです。実際は演劇パートはそんなにバランス崩して大きくはなく、終演は9時20分過ぎくらいでありました。ご安心を。

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