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なぜ出版社が「クラウドファンディング」なのか? [売文稼業]

まず最初に申しておきますがぁ、今や老体のやくぺん先生ったら、新帝都は王宮を見晴るかす神楽坂の頂上から離れること直線距離で800㎞に蟄居しているわけで、思えばコロナ禍以降編集部にまともに足を踏み入れたこともない営利企業、社長が知り合いなわけでもなく、日常的に接している現場もみんな半分引退で内部事情などは全く知らない出版社の話題であります。ですから、「トップや現場の内部事情を知ってる奴が、社内の情報漏洩を無責任電子壁新聞にやらせている」などという大仰な話はまるでありません。全くの野次馬としての感想です。

そもそも、やくぺん先生の世を忍ぶ外の人とすれば、80年代終わりにこの業界で生計立てるようになってから、『レコード芸術』って媒体に記事を書いたのは…恐らく数回。それも「書き手の先生が持ち込むボランティアページ」として業界内では『音楽現代』にも匹敵する同人誌コーナーとして知られていた「海外盤新譜批評」だけだと思うなぁ。だって、恥ずかしながら遙か多摩県の東の隅、首都圏は帝都中枢から最も近いチベットと呼ばれた深大寺に庵を結んでいた頃から、帝都中枢を転転、ここ温泉県盆地に終の棲家を得るに至る迄、「家」と呼べる場所にちゃんとしたオーディオ装置があったことない!とてもじゃないけど、こんな媒体にお金貰って書けないでしょ。レコードって、別業種だからねぇ。

もとい。昨年の「レコ芸廃刊」は、日本よりも世界中の所謂クラシック音楽業界の衝撃を与え、特に「日本で売れて、評価を作る」というビジネスモデルがはっきり存在していたドイツフランスなどの業界では、「中国韓国と共に最後に残されたCD販売がキャリア形成に有効なマーケット」たる日本の貴重な媒体がなくなるなんてあり得ないだろう、なにか裏がある筈だ、という空気が流れていた。こういう異言語文化圏での空気、恐らくは神楽坂上層部やら大手株主さんたちには伝わってなかっただろうし、経営判断に影響を与えているとは思えませんが…

さても、そんな中で数ヶ月前にはこういう人事もあり(有料記事じゃないかぁ)
https://www.bunkanews.jp/article/342243/
こういう情報の常として、判る人がみれば何が起きているか判る、という状況になっていたのでありましょうねぇ。

そんなこんな、旧『レコ芸』編集部は跡形もなく解体され、編集長以下出版部やらに散っていき(結果として、今、神楽坂出版部、やたらと前のめりな感じですな)、アーカイヴ担当がいるのかもよーわからん状況になっており、「レコード録音」で権威や価値を作る他の媒体などでの新しい方策があれこれ模索され始めていた年の瀬、本来ならば『レコ芸』の存在が世界の音楽業界でも貴重とされていた最も大きな理由だった「日本レコード・アカデミー賞」が賑々しく発表され、レコード屋さんの広報さんなどが喜んだり嘆いたり、師走年末進行前の忙しいときに慌ててリリース作ったりしていた恒例行事もなくなった頃になって、こんなニュースが流れたわけです。
https://www.ongakunotomo.co.jp/information/detail.php?id=3202

なんせ、竹箒や納豆から先端工業製品に至る迄どんなニッチな分野であれ「業界紙」というものが存在する日本語文化圏にあって、何故か業界紙が存在しない日本のクラシック音楽業界(山のように存在する批評や広報のための媒体ではありません)、その事実を以て「日本語文化圏には真のクラシック音楽業界が存在しない」という情けない現実の証明とされていた極東の島国、本来ならば業界紙が事前に情報を流し様子を窺い…というのが常識な状況のにそれもなく、いきなり出版社自身が自分の公式媒体で発表するなんてオソロシーことになったわけですな。いやはや…

ぶっちゃけ、ビックリしました。「え、レコ芸分離して別社団法人だかNPOだかにして、そこで始めるのか」と、最初は思ったです。まともな大人(の振りしてる大きなお子ちゃま含め)なら、誰だってそう思うでしょ。だって、一応大手に入っている出版社が、自分のところの看板媒体を再興するのに「クラウドファンディング」なんて、常識的に考えればあり得ないでしょーに。

普通に考えれば、「Webでの再開を告知しサブスクライバーを募り、その際にオンラインでのドーネーションを行う」のが筋。まあ、有り体に言えば、一種の「相互会社」みたいなものにして運営する、ってことですね。

相互会社という企業のあり方は、20世紀前半に営利企業の限界が判ったところで生まれながら、結局、少なくとも日本では20世紀末までに絶滅してしまった。社会主義との関係はあるだろうが、高度資本主義の限界を乗り越える「ボランティア経済」のひとつのモデルだった筈が、あっさりと消滅させられた。「第一相互」で始まり、初期には「相互新聞」などという相互会社でのメディア運営までやっていた第一生命グループが株式会社になったとき、嗚呼ついに相互会社は終わった、とショックを受けたものでしたっけ。

ま、なんであれ、SNSが最も得意とする「微分係数値の大きな瞬発的な盛り上げ」のためには有効な手段である「クラウドファンディング」を、継続とデータの蓄積が最も重要な出版社に拠る月間雑誌の立ち上げに利用するって、どういうことなのかしら?艦隊戦するのに最新鋭の戦車ならべたぞ、ってくらいの違和感を感じるんですけど。

もう世の中には付いていけなくなった隠居爺である我が身である事実を、またまたひしひしと感じてしまうニュースであるなぁ。

言うまでもありませんけど、我が温泉権盆地の田舎町、かつてなら温泉地滞在中の客の暇つぶしのために必須だった「本屋」や「古本屋」は存在しません。その代わり、実質上の個人図書館なら、膨大なものがいくつもあるのじゃ。田舎あるある、じゃのぅ…

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