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追っかけパワーがペップを襲うのじゃ [ゆふいんだより]

当温泉県盆地の田圃の中、感覚的には線路向こうの高級旅館の敷地の中に何故か蟄居してる、って風なオフィスのリフォームが完成し、年間の半分ほどを暮らすようになってまる2年の記念日であります。それにしても、昨年はもうこの頃には田圃に雪が積もる日もあったのに、なんなんじゃ、この陽気は!

そんなおかしな年の暮れ、例年ならば雪になって、盆地から由布岳登山口を通り険しい山道を一気に別府湾に向けて下っていく開設から1世紀を超える盆地へのアクセス道を通う路線バスなんぞ、乗り込むのもちょっと勇気がいる頃なのにぃ、頑張ってバスで別府に下るのでーる。普通の路線バス車両なんで、観光客さんが持ち込むデカいスーツケースを収める場所などあるはずもない。通路に溢れるオソロシー状況にはすっかり慣れ、昨日から運賃が一割近く値上げになったと知るも、廃線にされないだけ有り難いと思ってしまう交通弱者也。バスったら、今日もお高くなったぶんだけ頑張って走りますと、暮れなずむ盆地を眺めながら分水嶺へと登っていく。


かくて到着したのは、ベップの女帝アルゲリッチ様が「限りなくルガーノに近い街」と愛する別府でのホームベース、ビーコンプラザでありまする。
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夕方なんでちょっと横地に入って小中学校の前に寄るためにいつもより時間がかかったバスで1時間弱。富士見通り側のバス停はもう入口とは道を挟んだ反対側で、小雨なら傘を差す必要もなく青になった信号をダッシュで渡れば、フィルハーモニアホール6時半開演の広島交響楽団別府公演に向け、聴衆は次々と吸い込まれてる。
http://hirokyo.or.jp/hirokyowp2/wp-content/uploads/20231211_beppu.pdf
この会場、反対側がスポーツ会場にもなる多目的コンヴェンションセンターで、大きな四角い箱の東側にホールをトンと置いたような造りになっている。フィラデルフィアのキンメルセンターみたい、っても、殆ど例にならんかのぉ。

どういう都合やら、学生服も多く見受けられる会場に入ると、まあ、平土間はそこそこ埋まっているかしら、という感じ。上層階は売っていないのか、なんであれ文化庁のオーケストラキャラバンとして開催されるこの演奏会、広島は別府港から直行の船が出ているわけでもなく(あれば直ぐなんですけどねぇ)、《展覧会の絵》をやれるオーケストラを引っ張って来てるんだから、それなりにお金もかかってるんだろうけど、なんとなんと全席一律4500円、高校生以下は1500円也、というどんぶり勘定なもんで、わざわざ上の方の席を購入する人もあるまい、ってことなのかしら。

ちなみにこの演奏会、上のPDFチラシにも記されるように「別府ビーコンプラザ、トキハ会館プレイガイド、トキハ別府店、ヱトウ南海堂でのご購入に限り、特別価格 3,500円とさせていただきます。」って太っ腹な切符が用意されておりましたです。貧乏老人のやくぺん先生ったら、今回の温泉県盆地滞在で大分空港に到着したその足で、いつもの盆地行き直行バス(なんとおおお昨日から3割以上の大幅値上げじゃあああ!)ではなく別府行き到着便接続バスに乗り込み、温泉県民御用達ローカルデパートの勇たるトキワの別府店前で下車、「広島交響楽団のチケット下さい」と叫んだら、嗚呼、うちに割り当てられたチケットは売り切れました、と無慈悲な宣告。哀れに思ったか、おねーさんがビーコンプラザに問い合わせてくださり、まだ10枚くらいあるということ。しょーがない、割引きチケットを購入するためにわざわざバスやらタクシーに乗ったら本末転倒と、そこから欧州も旅したデカい荷物引っ張ってダラダラと登ること半時間余り、ビーコンプラザの事務所に行って、「さっきトキワから連絡したものですが…」と息絶え絶えとなりつつ、3500円也の割引き切符を購入したのであったのじゃ。
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ちなみにこの割引きチケット、主催者であり会場でもあるびーこンプラザの事務所で1000円引きというのはなんとなく納得するものの、別府と隣町で実質上のツィン・シティたる大分のメインデパート、それに大分駅前アーケード街のレコード屋さんで扱うって、どーゆーことなんじゃろかね?南海堂さんではどれくらい売れたんじゃろか?

もといもとい、そんなこんな、ペラペラの実券をもぎってもらい、1階平土間上手の席に着き、オケがやってきて、「ああああ、誰ひとり知った顔がない日本のオーケストラって、案外珍しい経験だなぁ」と思いながらマエストロ沼尻を待ち、《カルメン》前奏曲がなり始めるや…あれぇ、ここってこんなデッドな空間だっけぇ、とちょっとビックリ。思えばこの空間、アルゲリッチ様の独奏や室内楽以外で聴いたことがなく、今回訪れたのも、来年2月に日本フィル九州公演が今年はここが会場となるため、その前にフルオーケストラを聴いておきたいと思ったからでありまする。

今時珍しい、打ちっぱなしの巨大空間に後から慌ててあれこれ反響板なんぞ吊したりしたんかぁ、と思ってしまうような、よく言えば舞台上の音が何にも遮られず、あちこちからの過剰な反射音などなく、真っ直ぐ伝わってくる。指揮者さんがオケにやってくれと仰ってることがまんまミエミエになるような場所でありまする。ま、これはこれで面白いという考えもあろうが、さりげないその辺の市民会館なのに何故か猛烈に音が良い佐賀市文化会館大ホールやら、そこそこ広い空間なれどあちこちからの反響などがそれなりに聞こえてくる大分市内で今シーズンは休館中のイイチコ総合文化センターホール(多分、この公演も休館中じゃなかったらこっちでやったんじゃないのかしら)なんぞとは、相当に違う空間であります。磯崎新の建築で、アルゲリッチ音楽祭が始まった頃に竣工したわけだからそんなに古いわけじゃないのに、なんだか一昔前の空間みたいだなぁ。室内楽だと、そんなに気にならなかったんだけどさ。

続いて、恐らくはアルゲリッチ様がいつもご愛用であろうピアノが引っ張り出され、21世紀生まれの若きスター亀井聖矢が登場。演奏するのも、女帝様に挑戦状を叩きつけるか、この会場では(恐らく)何度も響いたであろうラヴェルのト長調協奏曲でありまする。なまっちい響きで、意外にも高い音の綺麗さとかよりも低音の響きのしっかりした重厚さが印象的なソロで、へえええ、と思ったらぁ、演奏が終わるや会場の真ん中正面から嬌声が挙がったかのように大拍手、なんと次々と人が立ちあがり、スタンディングオーヴェーションでありまするっ!ここは韓国かぁ、って熱狂的な風景が広がるぞ!

立ちあがっているのは殆どがOLさんとかおねーさんという感じの方々。おお、これが世に言う「追っかけ」さんであるかっ。
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その数、なんのかんの数十人という感じ。熱狂的な拍手が続き、亀井氏、客席に向けて指1本立てて「1曲だけね」と客席を沈め、《ラ・カンパネッラ》をお弾きになり、終わるやまた拍手喝采は続く。

かくて後半の《展覧会の絵》も恙なく終わり、アンコールに《マ・メール・ロア》の終曲をこのデカい編成でやって盛りあがり、別府の夜は更けていく。

ま、知らない会場で楽屋に行こうとしてトラブルのもめんどーなんで、マエストロにはご挨拶もせず、西側の巨大な公園抜けて、上野公園噴水前や富山市美術館前公園内と並び「日本3大おされなスタバ」と呼ばれるスターバックス別府店の前を抜けて、別府駅に向かったのでありました。なんせ盆地行き終バスは6時半前で、もうぐるりと大分駅経由するしか公共交通機関で戻る方法がないのでありまする。

先程、来てたんですか、という連絡をマエストロからいただいた中に、「ラヴェルが終わったらお客さんが帰っちゃうんじゃないか心配だった」ってさ。

本日の会場を埋めていた中の数十人は、亀井くんが登場せねば遙々温泉県までいらっしゃることもなかったでありましょう。翌日は小倉だから、今晩は別府で温泉浸かって、関アジ関鯖喰、はたまた鶏天喰らって、イイチコの焼酎飲んで、しっかりお休みくださいませ。温泉県によーこそ…って、観光大使アルゲリッチ様みたいじゃのぉ。

別府駅前でいちばん遅くまでやってる居酒屋で海鮮丼とビールを喰らい、別府駅から大分駅まで佐伯行き各駅停車で10分ちょっと。大分市内での演奏会から戻るときはいつもこれしかない9時50分発由布院駅行きの終電からひとつ前、途中からはガラガラなロングシートに座って一気に標高450メートルまで登り、駅前で自転車を拾って灯に集まる蛾のようにフラフラと引っ張られていったコンビニには、昼間の標準語たるインバウンド半島言葉が飛び交うこともないノンビリした空間が広がる。盆地を見晴らすお寺の横には、何故か篤志家の方が寂しすぎる夜を紛らわすために設置したというアドヴェント電飾が光り輝き
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目の前の線路は明日朝までもう列車は通わない。

この週末は雪予報。ホントかしらね。

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