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21世紀20年代にピアノ五重奏を書く [現代音楽]

たまにはまともな話を…とはいえ、月末締め切りのデカい原稿があるので、サラッとメモでオシマイ。あしからず。

世間で、どころか、音楽ファンの皆さんの間でもほぼ全く話題になってませんけど、昨日からこういうイベントが始まっています。
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https://www.jfcomposers.net/concert/asian-music-festival-2022-in-kawasaki/
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2022-03-23

会場はかのミューザ川崎。最終日までは連日、エスカレーター上がって右の集会所がいろいろ納まってる実質上の「小ホール」空間のいちばん入りっ端、小ホール群の中ではいちばん大きいヴェニュなんじゃないかしら。最終日は大ホールでレジデントの東響さんが登場します。川崎市の担当者さんとの立ち話に拠れば、単に作曲家さんたちのお祭りに場所を貸しているのではなく、きちんとミューザ川崎が協賛するイベントだそうな。ううむ、その割には活発で有名なミューザの広報チームが動いたりしてないし(夏のこのホール最大のお祭りの記者発表などがあったからなんでしょうけど…)、地味ぃな感じなんだけどねぇ。

ま、所詮はニッチな「ゲンダイオンガク」業界だからこんなもの、協賛して下さるだけでも有り難い、とは言いませんが、とにもかくにも東アジア太平洋圏から7カ国だかの作曲家が集う記念年の祭り…の筈なんだが、日本作曲家協議会会長で実質上のこのイベントの監督みたいな作曲家菅野由弘氏がお話になるところでは、コロナで海外作曲家は誰も来られず、楽譜だけが来ている状態だそうです。そんな状態であれ無事に音楽家は揃っており、演奏はガッツリ展開されております。このイベント、最終日のオーケストラ作品以外、つまり小ホールで演奏される全ての曲が新作初演!これって、簡単に言うけど、ありそうでないトンデモなことでありますぞ。川崎のローカル紙記者の皆さん、六郷川沿いのお花見取材しているより、こっちでしょーにっ!

正直、このような開催で果たして客席は埋まるのだろうかと心配で顔を出したという些か失礼な状況でもあったんだけどぉ、なんとなんと、昨晩のオープニング室内楽演奏会、100席ほどの会場はパツパツでした。
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シンガポール、韓国、香港の作曲家さんが関係者といっしょに来日出来ていたら、確実に溢れたでしょーねぇ。盛況で良かった良かった、だし、なんせミューザにはこれ以上大きな小ホール空間はないわけだから、運営側とすれば消防署に情報漏れないようにしながら立ち見を出すしかないか、なんて頭抱える必要も無くて有り難かったかもね。

中身に関してですが、中川作品のハイパー娯楽性、最後に演奏された菅野作品の手慣れた感のある達者さはいうまでもないけど、やはり個人的な関心は初演されたふたつのピアノ五重奏作品にありました。

そもそも、所謂「現代音楽」の世界では、ピアノ五重奏曲というフォーマットは最も不人気というか、苦手なもののひとつです。20世紀後半以降のメイジャーな名前の作曲家でこの名称まんま使った作品を遺しているのって、ヘンツェくらいしか頭に浮かばんぞ。あとはシュニトケくらいかな。どちらもシューマンやブラームス、はたまたドヴォルザークみたいな定番になってるわけじゃないのは当然にしても、弦楽四重奏曲はありとあらゆる作曲家が書くのに…という感は否めない。

無論、それにはしっかり理由はあるんでしょうけど、ま、それはそれ。この3月は、なんとそんな貴重な第2次大戦後に書かれたピアノ五重奏がトーキョー近辺では4曲も聴けたわけでありまする。3月11日に紀尾井で開催された諏訪内祭りでタネージとバツェヴィッチ第2番、そして昨晩は韓国のチュン・スンジェ氏と香港のリチャード・ツァン氏の作品(ピアノ五重奏、というベタなタイトルではないけど)が世界初演されたのでありまするよ。

別に誰かがそんな意図を持ってやったわけじゃかかろーが、結果として、「戦後に書かれたピアノ五重奏曲の中で最も定評のある作品のひとつに始まり、西側の売れっ子の作品と、アジア圏の最新作」という興味深いラインナップになった。

ここまで記しちゃったら、せめてへっぽこお気楽な感想くらい書かないと引っ込みが付かないなぁ。

諏訪内祭りの2作はともかく、昨日の作品の無責任な感想にもなってない感想を防備録として記しておけば…前者は「沈黙」というのを捉える感覚が面白かったです。要は、かなり雄弁な沈黙だった、ということ。へええええ、ってね。後者は、まあ誠にありがちな物言いだけど、まるで香港の地下鉄乗って周囲のおばちゃんの会話やらオッサンの商売の電話やらが列車の騒音の中にいっぺんに聞こえてくる状況を懐かしく感じるようなサウンドスケープで、ピアノ五重奏編成とはいえ名手尾池さんやら山澤氏をもってしても菅野さんの指揮が必要になってくるリズム処理の難しさが、ちゃんとした効果を上げている作品。もういちど聴きたいなぁ、と思わせてくれるものでありました。とにもかくにも、コロナ禍の情報統制社会香港で、現役長老アーティストがこういう音を聴き、聴かせたいと思ってるのか、と実感できたのは得がたい機会でした。

なんせ、韓国や香港の現代作品って、ソウルや統営、はたまた湾仔のアーツセンターや東の外れの工科大学で現代音楽フェスティバルでもないと、まず聴く機会がありませんから、ホントに有り難いことであります。ちなみに本日は、なんと弦楽四重奏作品が3曲も世界初演されるようですが…うううむ、我らがゴールドベルク三勇士が新生なった飛行船シアターに乗りこむ日なので、そちらに行かねばなりません。残念。

お暇な方は、最終日のオーケストラ演奏会はまだ席がいっぱいあると思うので、是非どうぞ。やくぺん先生ったら、恐らくは原稿ギリギリ状態だと思うので、ちょっと弥生晦日に六郷川向こうまで行くのは無理そう。

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