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芸術家が学校に来る例 [音楽業界]

このところの所謂「鳩山偽装献金」とやらの大騒ぎを見物していると、ああああああ、なるほどぉ、やっぱり現在の日本国社会に於いては「ノブレス・オブリージュ」は最大のタブーなんだなぁ、とあらためて思うですね。それって、今、もうひとつの騒動になってる「仕分け」の議論でもそうなんだけど。←これ以上の暴論は厄偏庵に酒持ってこないとやらないよ。

さても、本来ならば御上なんぞがどうあろうが、大金持ちがどっかの民間団体に億単位の金をドカンと寄贈して、それを用いてやるようになればなーんの問題もない「学校への芸術家派遣」でありますが、このところの「仕分け」騒動で「この部分は中央政府でやる必要なんかない」と言われた途端になにやらたいへんだたいへんだぁと大騒ぎ。で、そんな風に騒いでる皆様へのご案内。

本日、午後3時から、NHK教育テレビで「大野和士と子どもたち」という番組があります。試写を眺めて書いてるんじゃないですけど、この番組でどう使われるか知らぬオーチャードホールでの「最終回記念豪華お招きアウトリーチ」みたいな妙な演奏会会場で流れていた一部分を眺めた限り、学校にアウトリーチして行った内容がある程度は紹介されるようです。「学校に芸術家が来るのは素晴らしい」と無条件で仰る方も、「そんなことは必要もない」と懐疑的な方も、とにもかくにも見物してみて下さいな。こちら。
http://cgi4.nhk.or.jp/feature/index.cgi?p=eBoVjLsd&c=2

このテレビ番組で紹介されているイベントは、「学校アウトリーチ」の中でも極めて大規模で手間とお金がかかったものです。映像収録を前提に、ソニー音楽財団やらNHK系映像制作会社やらがよってたかってやっちゃった最高級のアウトリーチです。全てがこんなもんだと思われては困る、もっと貧乏くさい、手作りなものが殆どだというところはお忘れなく。なお、このイベントは事業仕分け3-5で「地方へ」と言われちゃった「本物の芸術家を派遣する事業」とは無縁です(そうじゃなかったなら、誰かデータ教えて下さい!どっかには公開されている筈ですから)。

ちなみにこの放送、どんな映像が出てくるか分からないけど、本日の放送のためのテレビ収録も行っていたと思われるオーチャードホールではこんなビラが配られておりました。
006.jpg
子供の映像を撮られたくなかったら言って下さい、という案内です。

つまり、「学校に芸術家が行く」とイベントを世間に伝えるには、これくらい慎重な姿勢が必要なのだ、ということ。納税者の皆様がどんなことをやられているか知らなくても、ある意味当然なのです。だって、そもそもは広報するべきではないイベントなんですから。

ま、あとは見物してからにしましょ。ともかく、視ましょか。あたくしめが当電子壁新聞を張り出し始めてからずーっと言い立てている本音を繰り返せば、そもそも指揮者の大野氏が仰ってる「全身で音楽を体験し表現する」というワークショップ型の音楽体験には極めて懐疑的です(←業界内の超少数意見であります)。大野さんともあろう方なら、あなたにしか出来ない「体なんか通さずに、本物の芸術に接することで、耳や頭から精神に働きかけるアウトリーチ」をやって欲しいんだけどなぁ。ベルリンのラトル・チームやら、ロンドンでアーツカウンシルから金を取るためにやってるワークショップの劣化版みたいなまねっこしてないでさぁ。

追記

今、始まった放送の冒頭から数分くらい眺めてるんだけど、あたしゃこれ、眺めていられませんわ(「ベルリンフィルと子供達」も視てられなかった)。学校アウトリーチの取材や評価のための仕事で目の前にするのならともかく、テレビカメラを通して収録されたこの類の映像は、正直、視てるのが辛いです。真剣な目をして大野氏を見つめている少女のアップなんて見せられると、どうにも、視てはいけないものを視る感じがしてゾーッとするばかり。うううううん…困ったなぁ。作った方にはホントに申し訳ないと思うんだけどさ。

それでも頑張ってなんとか眺めているのだけど、うううん、ラトルのフィルムが「春の祭典」やったから「火の鳥」を取り上げたのかしらねぇ。「想像力」という意味だったら、「アゴーン」とか、もっと抽象的な作品を取り上げた方がよかったんじゃないかしら。ま、これはちょっと趣味的な意見かな。

それから、どうして東陽町の小学校に行ったのか、ということ。業界関係者の方はよーくご存じのように、江東区はバレエのアウトリーチを区の財団が積極的に展開しており、正に「国の事業」じゃなくて「自治体の事業」として「本物の芸術家」を学校に盛んに派遣している地域です。そういう土壌がある場所だから、このようなテレビ放送用のアウトリーチ広報イベントを仕掛けることが出来る、と踏んだのならば、それはテレビ番組制作とすればとっても正しい選択だったわけでしょうが、ティアラこうとうまで15分くらいの学校なんですよねぇ。山奥で舞踏に接することが出来ない学校、とかじゃあない。うううん。
せっかく「アウトリーチの受け入れ先進地帯としての江東区」を選んだのなら、たまたまテレビパッケージ作成のために訪れた大野氏と彼が連れて来た舞踏団をフィーチャーするだけじゃなく、普段から地域で同じような活動をしている東京シティ・バレエ団とかのことも紹介できないのかしら。
http://www.kcf.or.jp/tiara/partner.html
この放送を眺め、「ああ、良いことをしているから献金したいぞ」、ってノブレス・オブリージュな気概あるお金持ちが思っても、どこにお金を出せばいいのか分からんぞ、これじゃ。「本来は広報するものではないアウトリーチ活動を広報する目的は、出資者を増やすためである」という基本的な認識がこのイベントの制作スタッフにないのかしらね。うううううん。

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アトストロ

文化庁だろうが総務省だろうが、アウトリーチなんてなものは、しょせんその場限りの盛り上がりだけであり、こんなものはバッサリ消え失せてよい。

結局のところ、日本の音楽文化普及(いまだに普及かよ!)にとって最も重要な問題は教育でしょう。あのレベルのアウトリーチが「すんばらし~い」と感じてしまう最大の原因は、学校の音楽授業のつまらなさの反映でしょ?

それでね、日本の芸大、音大、地方大学の音楽学部っちゅうのは、そもそも学校の音楽教師生産のための機関でしょ?その結果として日本のオペラ歌手もピアニストも、ステージで稼いでいるのはほんの一握り(数人?)程度で、みんなほとんどが学校の先生(のタマゴの先生)で生計を立てているのが実情でしょ?

そうすると、みんな音楽文化普及の最前線に身を置いているわけでしょ。

ならば、華やかなステージでちやほやされるようなことばかり問題にするのではなく、まずは自分の足下、定期収入を稼いでいるガッコの音楽授業という”現場”をもっとがんばりなさい。その方が効果は大きいのではないかい。。と思いま~~~す。

事業仕分けがあぶり出したのは、音楽家を操って予算を獲得している文化庁総務省他の役人やエージェント会社というのが、まともな説得材料を持っていない勉強不足な連中であるということだと、思いま~~~~す。
by アトストロ (2009-12-27 11:26) 

Yakupen

アトストロ様

昨日来、貴殿の書き込みにどのようにお応えしようか、困っておりました。理由は以下。

1:議論がはっきりした立場に立脚しているようである。所謂「通りすがり」系の、自分には関係ないことに対する無責任な書き込み、とは思えない。文面の内容からするに、特に日本の音楽教育システムに関しては明快な見解を持っていらっしゃる方のようだ。
だとすれば、小生が何かの意見を表明するには、貴殿の「音楽教育」に対するお考えをもう少し知らないとかみ合わない議論になる可能性が極めて高い。
例えば、ここで表明されている「日本の高等音楽教育は、学校の音楽教師生産のためのシステムである」という認識。どのような根拠でこの主張(というか、議論の前提)をされているのか良く分からないが、常識的に言えば、日本ばかりか世界の音楽教育は、はっきりと「エリート養成と教育者養成」との目的の違うふたつのラインで作られている事実がある(所謂「高等音楽院」と「音楽院」の役割分担。日本なら、東京藝大と、東京教育大やら筑波大やら山形大学の音楽部などの役割分担)。
エリート育成教育機関出身者のプランBとしての「音楽の先生」はあくまでも結果論で、システムの問題ではない。なんせ世の中には、医学部出て医者になってない奴だっているわけですからねぇ。

2:御自身が音楽業界に何らかの利害がある方か、若しくは利害があり得る立場にあったことがある方なのであろうか。今回の仕分け騒動と「エージェント会社」の関連のご指摘は、なかなか斬新な視点である。
確かに、学校派遣などを専門にしていて、「アウトリーチなどという言葉をニッセイ基礎研の吉本なんぞが言い出す前から、俺たちは学校派遣の専門家だった」とご立腹なさっている民間業者の方々がいらっしゃる。だが、そのような方々の存在は、今回の派遣議論でも殆ど議論の対象とはされていない。
そもそも事業3-5に含められた「本物の芸術家…」で、派遣先決定など末端での技術的業務をしているのは、そういう民間エージェントじゃなくて、芸団協なのである。あまりに技術的なことなので誰も指摘しないのだろうけど、今回の仕分け評価コメントで下された厳しい意見は、「芸団協はもっと効率的に金を使うことを考えて調整をやれ」という風にも読めるのである。
もしや、国の金による学校派遣が始まってから芸団協に「アウトリーチ業務」を奪われた民間エージェントの関係者、若しくは関係があった方のご意見なのであろうか。

てなわけで、スイマセン、展開なさっている議論は「相手がどんな奴なのか」が分からないと対応出来ない内容なのであります。結果として、こちらもきちんとしたことが申せません。お許しを。それこそサシで、酒飲みながら話しましょ。

なお、最後の「音楽家を使って…」という部分ですが、今回の「仕分け反対騒動」の裏には「音楽家を使って自分らの既得権を守ろうとしている」方々がいるのは、みんな口には出さないけど、思ってることであります。音楽家としても、利害は違うし自分らが踊らされていることも分かっているけど、当面は仕方ない、と思ってらっしゃるのでしょうね。ですから、仰ること誠にごもっとも、と賛同させて頂きます。「勉強不足」というよりも、「悪辣な」という気がしますけど。←もっと酷い意見だ。

by Yakupen (2009-12-28 11:30) 

Yakupen

上のコメントの追記です。
芸団協のホームページに、仕分けに対する反論書が上がっています。これ。
http://www.geidankyo.or.jp/02shi/pdf/0911jigyoshiwke.pdf
アトストロ様の議論を先に進めるには、当面はこの芸団協の主張を批判するところから始めるのが最も手っ取り早いんじゃないかしら。

芸団協側の主張をひとことで述べれば、「御上が芸術家派遣業務などを地方にやらせようとしても、できっこないじゃないか」ということですね。この意見に対しては、文部省や文化庁の系統ではなく、旧自治省系で進められてきた地方への権限移譲に向けた様々な試みで文化をやってきた方などは、大いに反論なさるでしょうねぇ、「俺たちをバカにするのか」ってね。

ただ、今の仕分けの議論からすれば、文化庁系と旧自治省系の二つの流れがあることそのものが「無駄」となるんでしょう。ま、確かにその通りなんだけどなぁ。

by Yakupen (2009-12-28 11:45) 

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