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「どの便でも良いからここから出たい」 [たびの空]

羽田のラウンジです。空気は、まあ、普段と違いません。朝の7時前だと、昼間には観光客でごった返すらしい上層階の日本横町も開いておらず、まるで難民のように座る場所を求める人々で溢れています。

出国ロビーは、そこそこごった返しております。
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ANAカウンターのおねーさんに、「なんか、いつもと同じみたいだねぇ、やっぱりキャンセルとかいっぱいあるの」とアホなことを言ったら、以下のように仰いました。細部まで記憶はしておりませんが、論旨は正確な筈です。
「ここは混乱してませんけど、キャンセルはあります。日本の方がキャンセルなさってます。ですが外国の方は、逆に、どの便でもどこでもいいから一刻も早く日本を出たい、と席をお探しの方もいらっしゃり、それなりにいっぱいになっております。」

なーるほどね。それがまあ、現状、ということでしょう。今の状況で平気にしてられる方がおかしい、という意見は誠にもって尤もなんでしょうけどねぇ。ちなみに、武蔵野市民文化会館が演奏家キャンセルについて出しているこのような文書があります。この武蔵野文化事業団の主催者としての対応をどう考えるか、ま、それもいろいろでありましょう。
http://www.musashino-culture.or.jp/memo230317.html
http://www.musashino-culture.or.jp/memo230315.html
細かいことを言えば、ツェムリンスキーQは日本は武蔵野だけで、ソウルなどの公演が中心と聞いてたんだけど…リリースが文字通りの事実を伝えているのか、ちょっと判りませんね。ま、命に関わる類のことではないから、ホントのことを伝える必要は無い、という考えもあるのでしょう。

もとい。で、ラウンジの壁面では、CNNが延々とこんな絵を流してます。
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周囲でも、被災者に友人がいる話などが声高に語り合われてる。被災者が東京圏に逃げて来たくても、ガソリンがなくて来られない、などという話をこういう場所で大声でするのは、これはこれで不安を煽るぞ。東に逃げよう、などという声も聞こえます。なーるほど、こういう会話が今、あちこちでされているんだなぁ。耳をダンボにしていると、どうも、明らかに「こんな大変だ、あんな大変だ」という不安煽り系の話が大好きな方は特定の何人かみたい。なーるほど、こういう風に口コミ情報は広がっていくのか。興味深いことであるなぁ。

ところで、ラウンジのカウンターにいるおねーさんに「香港に行くのだけど、到着口でラディエーション・チェックなんかはやってるんですか」と訊ねたら、「そういう話は聞いていません」とのことでした。まだ、日本便は受け入れてくれてるみたいです。ただ、冗談じゃなく、使用済み核燃料が本格的におかしなことになってプルトニウムぶちまける、なんてことになったら、果たして日本便が飛ぶかどうか判らぬ。ま、ANAさんは飛ばざるを得ないでしょうけど。嫁さんには、「帰れなくなったらいくところはいくらでもあるから、直ぐにこっちに来い」と申して別れて参りました。嫁さんもそうなったら無理に帰るな、と言ってくれましたけどさ…

てなわけで、不安なんだか面白がってるんだか判らぬビミョーな日本国民らと、なんともホッとしたような顔をした諸外国の人々を乗せ、もうすぐ香港に向かいます。以上、羽田国際線ターミナルの空気でありました。

※※※

香港の宿です。小生はANAの無料航空券なんで、ここまでは日フィル一行とは別行動。もうすぐ到着するオケを待ってます。

さても、羽田のDランを離陸したANAのながぁいトリプルセブンは、エイッと東京湾を南に旋回。湾岸の厄偏庵近傍高層縦長屋を眺め、遙かに天樹を見下ろし、横浜を下に、横須賀上空でまた右旋回。おお、ジョージ・ワシントンがノンビリ停泊しとるぞ。高い「思いやり」してやって、火災事故で使い物にならない状態なのをわしらの税金で小泉息子の息のかかった業者に修理させ、幸か不幸か直ぐ傍で原発災害が起きてるってのになにをやってるんじゃ。あの船なら、確実に緊急冷却剤やら、戦術核兵器対応の放射能測定専門チームやら、ABC戦対策のプロやら、ゴロゴロ乗ってる筈なのに、こんなところでなにをしてるんだろーか。
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そもそも、原発上空は数十キロに渡って飛行禁止の筈なのに、どうして羽田を離陸した民間機が動く原子炉の上空をへーきで横切っているのか。あたしゃ、理解できぬです。
後記:米軍基地を監視している団体のサイトに拠れば、ジョージ・ワシントンは定期修理中だそうです。こちら。
http://www.rimpeace.or.jp/jrp/umi/yokosuka/110316yokosuka.html

不可解極まりない世界とは無縁にそそり立つ、霊峰富士。っても、今は、その下に複雑に入り組む地震の巣窟にしか見えてこないのは、なんとも寂しいなぁ。
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で、ボーッと数時間、雲の下に香港島が見えてくる。
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右手上の水路のような海に真っ直ぐ突き出た部分が、あの懐かしの香港カイタック空港の成れの果てですな。

無事に到着するも、なんせ長いトリプルセブンのいちばん後の席だったもので、ビジネスクラスさんたちが降りたりするまで暫く待たねばなりません。隣に座ってたインド人の親子と小さな娘さんの一家、スチュワーデスさんとヴィザがないのだがどうしたらいいか、とか面倒な話をしてる。話すともなく話してみると、ともかく日本にいるのが怖くて、買える便の一番早いのを買って飛び乗ってきたとのこと。どこに出国するか判らなかったので、香港のヴィザもなく、この先の予定はなにも立っていない。でも、お父さんは仕事で1週間後にはまた東京に帰らねばならず、地震はともかく放射線が怖くて怖くて仕方ない、どうしたものか。え、インドは地震はあるけど、北の方だけで、あんなスゴイのはないさ。大丈夫かなぁ、1週間もしたら…

どうも、この飛行機の家族連れ外国人の大半は、そんな人みたいです。いやはや、一種の放射線避難民護送船だなぁ、こりゃ。

空港から市内に向かう空港特急の車内でも、ニュースのトップはこれです。
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それに続く英語のニュースでは、日本政府が米軍に援助を要請したと報じてますけど、アメリカ時間11日にアメリカのメディアでのみちょっとだけ報じられた冷却剤提供の話は、結局のところ、どーなってたんじゃい。

で、香港島の空港線駅から、延々と地下鉄セントラルまでながあああい地下道を歩き、乗り込んだ地下鉄でも、社内の電光掲示板ニュースはこんなん。
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いやはや、こんなに日本のニュースばかりに晒されたのは、冗談じゃなく、初めての経験だぞ。

てなわけで、もうすぐ空港からオケを乗せたバスが到着するかしら。香港の庶民地区、20階建てくらいのアパート眺めながら、ホテルのドアボーイ君に、「ここは地震は絶対無いの?」と訊ねたら、きょとんとした顔をしておりましたとさ。

追記
今、香港の新しいジョッキークラブ円形劇場で、香港芸術祭参加若手演奏家シリーズ、エリアスQを聴いてトラムに乗って戻ってきました。エリアスQって、昔のジョンストンQのことです。で、連中の音楽の中身などはともかく、宿の近くのサークルKでカールスバーグと水とカッパ海老せん16香港ドルちょっとを買い、出たところの新聞スタンドに残っていた最後の新聞がこれ。
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まあ、中国香港の庶民が眺めてる新聞は、7割までがこの類の「東スポ」ですから、こういう風に情報が伝わってる、ってことです。日本国では「慌てふためいていない日本人だけがバカなのだ」と論じてらっしゃる方もかなりおられるようですけど、世界でいちばん原発に依存しているフランス以下、殆どの大衆はこの類の情報で世界に起きていることを捉えている、ってこと。なんせ日本は讀賣新聞なんて文字ばっかりの新聞の部数が1000万部という異常な社会なわけですからねぇ。

参考までに、中国のまともな人が眺めてる類のメデイアでの論調は、こんな感じ。
http://www.shanghaidaily.com/article/?id=466480&type=World
うううん、「なんかあっても、福島の近くに数十年住めない場所が出るくらいだから、心配するな」ってね。おいおいおい、なんだかなぁ。いやはや。

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一読者

初めてのコメントです。ときどきフラッと立ち寄らせていただいています。今回、こんな時期、やくぺんさんの文章は大変力が湧きます。ありがとうございます。

どこもかしこも「自粛自粛」で、普通の人のブログ、普段は爆笑ブログでさえ、静まり返っています。戦時中、体験していませんが、そんな雰囲気を感じます。なにか地震と関係ないことしたり、笑ったりしたら、「こんなときになにやっとんじゃ〜」と鉄拳が飛んでくるような恐怖をうっすらと感じます。

被災者以外の多くのかたが、「節電と募金くらいしかできないけれど・・・」と心を寄せられ、もちろん大切なことと思いますが、やくぺんさんや、香港に発たれた日フィルさんのように、不安はあるかもしれないけど、普通にも過ごす、ということも、大変勇気づけになることだと感じました。それで私も、普段はしない「コメント」など、書かせていただいている次第です。
どうぞお気をつけて。そして、香港でのレポート、楽しみにしています。普段から、そして、こういうときにも、音楽の力は大きいと思います。
by 一読者 (2011-03-16 08:42) 

オルガンマン

被災された方にお見舞い申し上げます。

今回の広範囲の震災で、私が知る限り首都圏の公共ホール2館の天井が落下しました。

東電管内、東北電力管内でも計画停電があり貸し館、主催事業とも今後どのようにしていくのか、はっきり言って4月くらいまで先が見えません。

音楽うんぬんの前に、建物、インフラの影響が現時点では一番大きいと思います。

東日本に設置されているオルガンの点検をするだけでも一仕事。オルガンの点検はすばやくされている模様ですが、「こんな時オルガンごときに!」なんて言われることを心配しながら、ビルダーさんたちが動いているのは、けなげというか、まだ日本は大丈夫というべきなのか…

オルガンマン自身は、上りの新幹線、福島トンネルで緊急停止し、20時間をトンネルの中で過ごしました。ある意味安全なところにいたのですが、翌朝、JRが用意した食糧、飲料を口にし、その後33台のバスに分乗し10時間かけて一般道を大宮に向かい、動きだした京浜東北線に乗り、トータル35時間の大旅行をしました。

この体験、いろいろな意味で“面白い”ものでしたが、今ブログで書く気になれるかというと、やはり無理だというのが本音です。

オルガンマンより
by オルガンマン (2011-03-16 17:15) 

Yakupen

オルガンマンさま

お疲れ様です。実は、数日前、某音楽雑誌編集者さんと、少し状況が落ち着いたら北日本のホールの被害状況をきちんとリストアップすべきでしょうねぇ、などと話をしておりました。実際に記事にするための取材を始めましたら、宜しくお願いします。

ともかく、小生は出来るだけ日常を続けたいと思っております。どんな状況でも、生きていかねばなりませんからね。
by Yakupen (2011-03-16 17:32) 

OKUDA,Y

Yakupen先生
北九州でお世話になりました奥田です。

仙台フィル事務局のW氏から関係者への
一斉メールで、メンバーとご家族の
無事が伝えられています。

同フィルは地震の当日、
夜の日演連のコンサートのため
本拠地の青年文化センターにいました。
(OKUDA記)

メンバーがホールに残した荷物などは
事務局が事務所に引き上げ、管理しているので
メンバー諸氏は
仕事のことを気にせずに、
復旧に専心してください、
と(事務局メール)。

被災の状況はほんとうにさまざまです。
仙台市の一部は電気、水道が復旧
しましたが、ガスはまだです。
(OKUDA記)

仙台国際音楽コンクール(SIMC)の
事務局である仙台市市民文化事業団
のスタッフも無事が確認されています。
(スタッフメール)

世界各国の審査員、出場者、関係者
から安否の確認やお見舞いのメールが寄せられ、
非常に勇気づけられたとの報告が、
コンクール推進課のN氏から寄せられました。

ただ同事業団のスタッフは地震以来、避難所
の支援・応援に奮闘しているので
同事業団の事務局機能が回復するのは
来週以降になる可能性が高い、と。

仙台市の復興のため同事業団の資金を
使うことになるため、事業は当面
ストップするものと思われます、
と結んであります。

が、仙台の事業団スタッフ
(コンクール推進課含む)
は無事である、
内外のご支援に感謝している、
復興に全力を尽くす
旨を、ひろく皆様に
伝えてほしい、とあります。
by OKUDA,Y (2011-03-18 01:16) 

Yakupen

Okuda様

情報ありがとうございます。小生のところにもいろんな話は入るのですが、なんせ裏が取れない、というか、取りようがないことばかりで、不確かなことを書くわけにもいかず、このように出所がはっきりした情報は有り難い限りです。

今後、長期的に最も難しいことになるであろう「いわきアリオス」に関しても、直接の関係者の皆さんも敢えて今起きていることを語ってはおりませんので、記しません。ただ、恐らくは皆様の想像を超えた事態になっているようです。公共ホールのひとつの目的が人々が集まるところであるならば、正に本来の機能を果たしている、としか言いようがないです。

ホントに、スタッフの皆さん、頑張って、としか言えなくてゴメン。あたくしめもここで頑張るから、許してくれ。

by Yakupen (2011-03-18 01:51) 

OKUDA,Y

やくぺん先生

香港での日本フィルのアウトリーチのご報告、
読ませていただきました。
どうぞお気をつけて取材をなさってください。

仙台国際音楽コンクールの事務局スタッフは、
自らも被災者ですが、希望を失うことなく、
雪のなか、自転車でかなりのキロ数を走り、
避難所の支援に奮闘している
ということです。

こうした事例は、たくさんあるでしょうし、
さらに厳しい環境に置かれている被災者、
関係者も多いと思いますが、一例として
挙げさせていただきました。

いっぽう(メンバーは無事でしたが)
仙台フィルが6月までの主催公演を
すべて中止することも決まりました。
7月の山下一史さんの定期が
開催されますことを。

ミューザ川崎シンフォニーホールの天井資材の崩落
に心を痛めております。写真が公開されました。
復旧を切に祈ります。

ベルリン・フィル、シュターツカペレ・ドレスデンが
今週の定期を日本に捧げ、メッセージを寄せています。

ベルリンは、ウェーベルンの夏風のなかで、に変えて
ルトスワフスキの弦楽のための葬送音楽を、
ドレスデンは、予定のプログラムに加えて
エルガーのエニグマ変奏曲のニムロッドを演奏です。
by OKUDA,Y (2011-03-18 04:15) 

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