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半旗の下の白鳥の騎士 [音楽業界]

ちょっと前まではヴィーン南駅、グラーツやイタリア方面、ブダペストやプラハに向かうときに利用したヴェルベデーレ宮南の先頭式ホーム駅が、なにやら全部取り壊され、中央駅なる通過ホーム式のモダンな駅になってます。昨年だかに出来たとか。ま、味わいも何も無いいまどきドイツ語圏の駅を出て、京都ローマに匹敵する世界の大観光地、プラハに向かってます。夕方に某弦楽四重奏団に遇うことになってる。

さても、ホントはいっぱいお仕事が溜まってるんだけど、雨が少なくいつまでも夏みたいなモラヴィアの平原を抜けつつ、食堂車から朝ご飯のコンボセットが来るまで、ちょっくら与太話などいたしましょうかいなぁ。

昨日は9月11日。もう15年も経って世間では忘れられてるかもしれませんけど、ボストンはローガン空港を離陸した民間機4機が一斉に乗っ取られてNYCの貿易センタービルに突っ込み倒壊させ、ペンタゴンに突っ込み、一機は民間人の努力でテロは阻止されたけど全員死亡、という「国家対国家ではなく、国家対国家を越えた組織個人」という21世紀の戦争の在り方を方向づける事件があった日であります。

指揮者が北米大陸出身のヤニックだから、ということもないのでしょうが、ヴィーン国立歌劇場正面には真っ黒な半旗が掲げられています。
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街に溢れる世界中からの観光客からは、「誰か死んだのかしら」なんて声も漏れ聞こえてくる…ああ、9月11日に半旗が掲げられていて、なにも思わない人々がそれなりの数いるような時代になったのかぁ。平和になった、ということはない筈なんだけど。

そんな半旗の下、日曜午後5時半から10時過ぎまで延々と上演されたのは、《ローエングリン》でありまする。まあ、劇場が劇場、出し物が出し物ですから、こんなどーでもいい無責任電子壁新聞でもデータが知りたい方もいらっしゃいましょう。コピペしておきますと…

Yannick Nézet-Séguin | Dirigent
Andreas Homoki | Regie
Wolfgang Gussmann | Ausstattung
Franck Evin | Licht
Werner Hintze | Dramaturgie

Günther Groissböck | Heinrich der Vogler, deutscher König
Klaus Florian Vogt | Lohengrin
Ricarda Merbeth | Elsa von Brabant
Tomasz Konieczny | Friedrich von Telramund, brabantischer Graf
Petra Lang | Ortrud, seine Gemahlin
Boaz Daniel | Heerrufer
Oleg Zalytskiy, Gerhard Reiterer, Michael Wilder, Dominik Rieger | Vier brabantische Edle
Irena Krsteska, Kaya Maria Last, Cornelia Sonnleithner, Sabine Kogler | Vier Edelknaben

多分、この通りの上演だったと思います。って、歌手とかしらんもんんっ。

さても、この圧倒的なメイジャー感のあるラインナップに、もう何を言ってもしょーがないという気しかしないけど、まー、ともかく、しょーもない感想。いつも以上に内容はありませんよ。

まずは、「ひとつの幸福があった」とでっかくかかれた幕が降りたまま前奏曲が流れ始め、その途中で先代王の葬儀で嘆き悲しむエルザと弟、さらにテルラムントとの結婚を最後の最後にドタキャンするエルザ、なんて「これまでのあらすじ」が舞台上で演じられるです。んで、幕が開くと、みなさんミュンヘンのオクトーバー・フェストですか、って感じの衣装の方々が葬式や結婚式をやってたデカイ部屋に集まって、神聖ローマ帝国の王様がくるぞぉ、とやってる。この先、ずっとこの部屋だけで話が進む。

ヤニック、よー鳴るなぁ、この人の芸分、レヴァインの真っ正面の後続者ってことなんね、というような元気の良くて判りやすい音楽がドンドン進んでいき、群衆がグチャグチャしてる中にいきなり寝間着姿みたいな白鳥の騎士が転がってて、決闘は机並べた台作ってその上でテルラムントが一方的にナイフを振るい、謎の騎士がひらりと身をよじってナイフをたたき落とし拾い上げ…って調子。部屋の中だけで進む、という状況をそれなりに頑張って処理してる。

ぶっちゃけ、騎士が出て来たあたりから半分寝始めてしまい、1幕陥落。続く2幕も、気が付いたらすっかりみんなと同じ衣装になった謎の騎士さんが、嫁さんにいろいろ言いくるめてるオルトルートを一喝してるところで…ゴメンなさい、オルトルートの聴かせどころ、ぜーんぶ寝てました。スイマセンです。

またまた滅茶苦茶元気な金管鳴り過ぎギリギリの前奏曲で始まった3幕は、ちゃんと起きてたぞ。うん、偉いぞ、あたしっ!なんせ€46もしたオペラ見物なんだから、せめて一幕くらはちゃんと起きておらねばっ。

って、なんであんたらは寝室じゃなくてこんな集会室みたいなところで内密の話をしてるんねん、それじゃあ、テルラムントが潜んでいても仕方ないじゃーないかぁ。《ローエングリン》全曲の中でもいちばんカッコイイ騎士団招聘の音楽をヤニックせんせーったら煽る煽る、いぇぃいぇい騎士様を先頭に侵略者を打ち負かすぞおお、とばかりに(武器も持たずに)男達が集合、なんのかんのなんのかんので、モンサルバートのお世継ぎで聖杯パワーを持ってるスゴいヒーローだったと判ってみんながえええええと落胆、ローエングリンは来たときのように群衆の渦の中に消えていき、その代わりにエルザの弟が寝間着で横たわってて…

なんか、舞台を眺めたけどなーんにも判らなかったんで覚えていることだけを書いてる小学生の感想文みたいな、アホ極まりない文章でありますな。馬鹿だぞ、これ書いてる奴。

恐らくはこの舞台の最大の問題は、最後の最後でしょう。そもそもこの話、ヴァーグナーが勢いだけで書いていた頃の作品の常として、オシマイがどうなっているのか、なんか良く判らん。オルトルートが「ほーらみろ、聖杯の騎士だかなんだか知らんが、ヴォータン様らの前には無力さ」って叫んだあとに姿の見えない騎士が「弟を先頭に闘いなさい」とひとこえ、それでモンサルバート側の大逆転、ってことなんだろうけどさ…この天下のホモキ様の舞台では、戻された弟君が余りにへなちょこで、みんな「ええええええ、っても、そりゃなかろーに…」って怯んでて、オルトルートはざまあみろってあざ笑ってる。エルザは「ああああ、これじゃだめじゃないのぉ…」と凄い形相になって、オシマイ。つまり、「亭主を信じられなかった嫁さんがやっちゃった悲劇」ということになるみたい。

うううん、で、だからなんだい、と言いたくなるのを、まああたしゃ3分の2寝てたんだからなんも言えんわなぁ、と思いつつ、貧乏人専用のすり減った石の階段を延々と下ったのでありましたとさ。

オケは鳴り過ぎるくらいに鳴るし、歌手は立派だし、この「集団ヒステリー劇」みたいな作品を合唱ひとりひとりに細かい演技を付けてリアリティを与えるといういまどきのドイツ田舎に真面目な劇場の評論家うけ狙い演出なんぞに比べるとどんぶり勘定とはいえちゃんとした合唱団、なにひとつ文句を言うもんもないのだが…「あああ、メトとかパリとかこことか、世界中の観光客が観光地として見物に来る劇場で出す演出ってのは、ホントに難しいもんだなぁ」とあらためて思わされた次第でありまする。

最高のレベルの最大公約数を狙うって、尖った演出よりも余程難しいもんだわなぁ。

テロ追悼とはなーんにも関係なく、今日も白鳥の騎士は来ただけでなんにもせずに帰って行って、大拍手。
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聴衆も最高の耳の娯楽に酔いしれ、いつまでも夏みたいなヴィーンの夜に散っていく。

これが天下のヴィーン国立オペラというもの…です。そー、その通り。だったらあたしゃ、€46也の鑑賞でお腹いっぱいで御座いまする。批判してるんじゃ無く、あたしゃ、高級品はこの程度でもう充分、ってこと。

さあ、ロプコヴィッ邸裏から、トラムに乗ってラズモフスキー邸宅傍の安宿に、かえりましょ。

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コメント 4

長谷川

ウィーン国立歌劇場の黒い半旗はヨハン・ボータの死を悼んでという話があるのですが。
by 長谷川 (2016-09-13 16:57) 

Yakupen

書いた後でその話を知り、そうなのかとも思ってます。どうなんでしょうねぇ。なんせ天井桟敷なんで、下になんか掲示されていたかとか、判らないんですよ。あの高くて邪魔になる当日プログラムも買わないし、キャスト表の紙も飼わない酷い客なんで。情報、ありがとうございます。判ってる人には判ってるのでしょうねぇ。
by Yakupen (2016-09-13 19:08) 

通りすがり

いや、知っててわざと皮肉っているのだとばかり…
売文屋を自称するならせめて公式サイトくらいチェックして損はないと思うのですが。
通信料はともかく見るだけならタダですし(笑)

噂話ついでに、新体制に合わせて大々的に新ロゴを発表した某フィルが、いつの間にかそのロゴを黒歴史にしちゃったんですが、
そっくりさん問題が原因らしいというのは本当なんですか?
by 通りすがり (2016-09-15 00:08) 

Yakupen

通りすがり様

あたしゃ、歌手ってぜーんぜん関心無いんで、そんな関心のないことまでサイトをチェックするなんて時間の損なんです!これ、マジ。
なお、売文業は自称じゃ無くて、単なる税務署にそう申告している事実です。いろんなジャンルやってる人がいるんだから、別にあたしがやらんでもいいことは、そっちの専門家に任せるだけですわ。老い先短い身ですし。いやほんと。

なお、当電子壁新聞は、「書いてあることはみんな嘘」です。ですから、今小生が言ってることも、嘘かもしれないと思ってお読みあれ。

NJPは、今の体制はいろんな意味で判らんですね。どういう付き合い方をしたらいいか、昔からの方々はいいんですけどねぇ…これは愚痴かな。
by Yakupen (2016-09-16 06:45) 

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