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ボルドーの《ヴァルキューレ》は勉強になる [音楽業界]

世間では「コロナ禍なかったことにする大会」が始まりそうな空気が流れるラマダン明けの目出度き日、皆々様はいかにお過ごしでしょうか。あたくしめは、先週くらいから細かい仕事がいくつか入り、パソコン2台開いて横にiPhone置いて、もう視力低下どころか目が見えなくなるんじゃないか、って酷いテレワーク環境で日々の食費を稼ぐ程度の仕事をしておりまする。ああ、コロナなき幻のタイムラインなら、2週間缶詰になった大阪からコンクール優勝団体と一緒に戻ってきて、佃の縦長屋に荷物を放り込んで、慌ててサントリーに向かってるところだったんだなぁ。周囲の世間は灼熱の五輪一色か、はたまた安倍内閣倒壊で永田町大騒ぎだったのか?

さても、すっかり夏の初めとなった湿っぽい空の下、御上がなんと仰ろうが今週も葛飾オフィスにお籠もりの日々が続きます。アジア圏ではヴェトナムや台湾はオケが通常業務に向けた動きを始めているけど、欧州やNYはまだまだ。各公共劇場がお届けするお籠もりストリーミングは2ヶ月を越える長期戦となりネタ切れの気配も。そんな中、まるでシーズン終わりの大盤振る舞いみたいに、先週からフランクフルトとアムステルダムの劇場が期間限定で《リング》サイクルの配信を始めております。ヴィーンもさりげなく先週だかに全部やったみたいだし、夏直前の皐月終わりのパソコン画面上は指輪大会の様相を呈してら。無論、どれもパッケージで既に出ている0年代から10年代初めの収録で、各劇場が映像化を競い始めた頃のもので、最新映像というのは案外と出てきてないんですよねぇ。映像収録の端境期に入ってたかな。

そんな中、昨日から期間限定で(フランス語情報しかないのでいつまでか判りません、スイマセン)なかなかレアなヴァーグナーを見物させていたけるチャンスがやってまいりました。こちら。

ボルドー歌劇場が昨年5月に上演した《ヴァルキューレ》全曲の配信でありまする。

この上演、昨年、ボルドー弦楽四重奏コンクールに出かけたとき、劇場の前で郊外のシャトーに連れてって貰うバスを待ってるときにまだ片付けられていない告知を眺め、「へえええ、この劇場で《ヴァルキューレ》やれるんだぁ、絶対にハープとか入らないだろうに」と驚いた。
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なんせ、上の写真からもお判りのように外見はもの凄く立派でデッカいけど実は箱としては小さな劇場で、《イェヌーファ》でもオケがピットに入りきらない状態だったんだから。ああ、10年も前のことなのかぁ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2010-05-12
当然、この劇場で上演したと思ってたら、なんとなんと、本日の配信タイトルをよおぉく見ると「ボルドー・オーディトリアムでの上演」とあるでありませんか。つまり、今やフィレンツェや京都と並ぶ世界の観光都市ボルドーのランドマークたる巨大オペラハウスではなく、トラム路線を真っ直ぐ駅方向に行って、曲がったところをさらに真っ直ぐ行ってバス通りに出たロータリー状公園の右にあって入り口が一瞬どこにあるか判らぬ(楽屋口なんて、もっとどこだか判らぬ)新しいオーディトリアムでの上演だという。

じゃあ、演奏会形式なのかと思ったらそういうわけでもない。いつもは大劇場で上演している地元カンパニーが、きちんと新制作したフルプロダクション。あの段差が付いたオーディトリアムの舞台の上に板を3枚置き、後ろの席は全部潰して巨大なスクリーンを上手下手と奥にガッツリ立てて、オケはどうやらステージの前半分くらいを下に下ろして、さらに平土間の前の方も潰しで巨大なピットにしているようです。なんせ弦楽四重奏コンクールをやるステージですからそんなに滅茶苦茶大きくはない。これ、Qベルリン東京が演奏を終えて拍手に応えてるところ。ここを舞台にしてる。
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簡素とは言え、それなりに「伝統的」な衣装を着けて演技もしている。メインは照明と後ろのスクリーンに投影される原色ギラギラな映像。この映像、数の限られたものを投影しているのではなく、実質ずっとなにやら変化しつつ流れていて、もの凄く力は入ってます。

つまり、流石にこの規模のオーケストラが必要な作品だとランドマークの劇場ではできないけど、こちらの1400席くらいの新しいホールを潰して1000席くらいにしてならなんとかやれるので、ボルドー市でもヴァーグナーをやってみよう、という試みですな。考えてみればオペラハウスのピットって案外大きなボトルネックで、かのシドニーの世界遺産オペラハウスはピットが小さ過ぎ、オペラ・オーストラリアが《リング》や《マイスタージンガー》をやるときには世界のランドマークでは無理で、メルボルンのアーツセンターを使わざるを得ない、なんてことも起きているし。

限定配信されてるこの映像でもうひとつ興味深いのは、正面上手側奥辺り(コンクールだと審査員の先生が座る辺りでんな)に据え置きにしたカメラを一切動かさず、周囲の騒音なども気にせず、3時間半視点を固定しっぱなしにして配信してること。このコロナ禍が始まった頃のびわ湖からの《神々の黄昏》も同じやり方でしたけど、劇場からのライヴ中継としては極めて珍しい事例ですね。細部の演技はまるで判らず、音もあの良く響くオーディトリアムのまんま収録、ホントに舞台を眺めている気分になります。個人的には、中途半端なカメラワークをされるくらいなら、このやり方の方がよほど有り難いんですね。

てなわけで、フランスの地方劇場が力を入れて作っている《ヴァルキューレ》全曲をノーカットの一発収録で視られるなんで、なかなかない機会。そもそもパリやエクサン・プロヴァンス以外の劇場のヴァーグナーなんて、需要がほぼ皆無の日本では目にできないでしょうし。あ、言うまでも無く字幕はフランス語のみですから、悪しからず。

やくぺん先生ったら、テレワークをしたり牛丼作りで煮込みしたりしながら、画面を視ている時間は三分の一くらいの感じで眺めさせていただきましたです。失礼しました、関係者の皆様。でもこれ、現実的には日本の関係者の皆様とすれば、メトやらヴィーンやらバイロイトやらの映像を観るよりも、よほど勉強になると思いますよ。身の丈に合った、ローカルなヴァーグナーをこうやって作ってるのかぁ、って、すごく学ぶことは多い。とくに「東京・春・音楽祭」のポンチ絵ヴァーグナーと陰口されている舞台を鑑みるに、びわ湖みたいなやり方とは違う映像処理もあるよなあ…

流石に2幕のジークムントが殺される場面とか、3幕頭のヴァールキューレがいっぱい出てくる場面などは
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メトのブリュンヒルデあひるじゃなくとも、ちょっとこの舞台は狭いだっくだっく、と思わざるを得ませんけどねぇ。

まだまだお腹がいっぱいにならない方は、フランクフルトのドイツ語台本をきっちり読み込んだ極めてまともな「人間」の物語としての演出と、ピットの大きさの限界を逆手にとったこれまた演奏会形式ギリギリながらハッタリ噛ました大舞台になってるアムステルダムの演出とが、月末まで観られるようです。どんどん勉強なさってくださいな。さあ、そして秋の初台に備えましょう…とは言いません。そもそもホントにやれるのかしらね。

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