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福岡は古楽の街なのじゃ [演奏家]

現在、半島は仁川の東横イン深夜前、先程福岡から到着しましたです。午後8時福岡板付空港発ソウル仁川空港行き、なんとまだぜんぜん最終便どころではなく、この後にKALアシアナ含めまだ3便もあって、空港運用時間ギリギリまで粘ってます。ま、市街地西博多駅から地下鉄5分の板付は運用時間制限があるけど、マッカーサーが上陸した沖に島潰し造った仁川は完全な24時間運用だから、こんなことが可能なんだわなぁ。ちなみに明後日の戻りは仁川朝6時20分発の始発便で、ほぼ板付運用開始の瞬間に滑り込むスケジュールでんがな。

さてもさても、本日はソウル・アーツセンター大ホールで最後からひとつ前のエマーソンQ海外公演が開催されていたんだけど、明日の豊川アートセンターでのロマン派ばかり並べた妙な最終公演とは別演目なのに敢えて眺めず、こんな深夜にソウル近郊に辿り着いている理由は、ひとえに(敢えて言えば)エマーソンQよりも遙かに重要な公演が福岡タワーを眺める西南学園大学コミュニティセンターという場所であったから。

コンセール・エクラタン福岡という団体がどういうものか、なーんにも知りません。が、要は「今時の30代、音楽家として生まれた時からもう古楽やらHIPが当たり前の中で育った世代がやってる古楽系アンサンブル」ですな。で、「ガット弦で紡ぐ魅惑の室内楽第5弾、やっぱり!!モーツァルト」なる、なんだか80年代頃の舞台の上で「古楽こそが正しいあり方なのだ」と布教しないとやれなかった頃を彷彿とさせる生真面目な肩肘張りっぷりと、歴史というパラダイムが崩壊しなんでもありになった今風な軽さとが、奇妙に混在した副題の演奏会でありまする。こういうもの。
https://www.eclatants.com/

前世紀後半から今世紀の演奏史を眺めていると、福岡というか九州島北部というのはなかなかに独特の展開を示しているところで、ちょっと調べ始めた「労働組合の活動としてのオーケストラ」なんてものがあったり、大学オーケストラが主導しプロのオーケストラが誕生していったり、アマチュアとプロの垣根が極めて低かったり、巖本真理Q解散から90年代の室内楽ホール建設ブームに乗った若手中心の弦楽四重奏リバイバルまでの空白期を唯一支えたのに中央の演奏史からは全く無視されている福岡モーツァルト・アンサンブルという常設クァルテットの活動があったり、有田さんが持ち込んだだけではない意外に奥深い古楽受容があったり、かなか一筋縄ではいかない場所なのでありまする。

そういう中で、あまり古楽古楽うるさいことを言わず、「ガット弦」というところだけ強調し、今時の大陸はフランスやらベネルクスやらをウロウロしている若手中堅連中の関心をサラッとまんま示してしまうようなアンサンブルが、本日の午後と明日の夕方にやられたのであります。要は、「20世紀後半の世界の情報をコントロールするメイジャーレーベルから次々出る録音で有名になり、世界中の2000席規模のホールをツアーして歩く常設弦楽四重奏団」の最後のひとつたるエマーソンQなんぞがやってることとは真逆の世界でありまする。

結論から言えば、これがまぁ、極めて面白かった。所謂「上手なアンサンブル」とかいう関心とはちょっと、というか、まるで違うんで、そんなレベルでいろいろ議論したい方、数日前の大阪に集まっていた若者達が目指しているような「きちんとしたアンサンブル」を聴けばよろし。昨今は鶴見でもシリーズでやってるし、大曲も代々木上原も銀座四丁目裏も、そんなアンサンブルに盛んに舞台を提供してますから。

まずはヴァイオリンふたつとチェロという間の抜けた編成の未完(なのか、冒頭ソナタ楽章なんぞがなくなっちゃったのか)の弦楽三重奏などという珍品、あああ「やられないものにはわけがある」という格言そのものだなぁ、と苦笑させて下さり始まった土曜のマチネ、続く天下の名曲中の名曲、テンポ設定に正解がない名曲の筆頭たるK.421ニ短調が本日の白眉。敢えて言おう、第3楽章トリオで第1ヴァイオリンのソロを伴奏する弦楽トリオのピチカートが、和声を伴う音楽として響いたのは、やくぺん先生が過去に無数に聴いてきた演奏でも初めてのことでありました。ここが聴けただけで、エマーソンQの古典をスキップした価値があったとおおいに満足したのでありました。

なお、後半は弦楽三重奏世界に輝く名曲中の名曲、モーツァルトのディヴェルティメントK.563から4つの楽章を、アレグロ、メヌエットとトリオ、アンダンテ、アレグロフィナーレ、という古典派4楽章作品のフォーマットに並べて演奏。なるほど、こうやって弾くと、もう完全に「モーツァルト作曲弦楽三重奏曲変ホ長調」じゃないの。こういう演奏のやり方があるのか、終演後に慌てて楽屋に走って懸田氏を捕まえ、尋ねたところ…「いやぁ、全部やると肉体的にキツいですから」と肩すかしの爆笑でありましたとさ。うううむ、古楽の世界、前世紀だったらここで捕まって空港に行く時間もヤバくなるような大演説をする先生方ばかりだったのに、時代も変わったものじゃのぉ。

この団体、プレトークやアンコールでの写真撮影OK、ジャンジャン拡散してください、という方針で、それどころかアンコール演奏の動画撮影もやってください、とのこと。で、ご期待に応え、ほれ、これがアンコール。何の曲か、そんなもん、興味があれば自分で調べて下さい。なんせアンコールですから。

福岡はさりげなく古楽の街。秋はクイケン御大とかもやってくる…のかな、今年も。

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