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救世軍とカーネギーの鐘 [マンハッタン無宿]

アドヴェントの週末、金曜の晩のマンハッタンは人の大波の中にあります。グッゲンハイムのロタンダの真下にあるオーディトリアムで、Japanese Mangaのモチーフによる人形を舞台装置にした「ピーターと狼」を見物し、おお、これは使えるじゃないか、サイトウキネンのMプロデューサーにご注進しなければ、と思いながらグッゲンハイムのディレクターさんと「東京のガバナーが三流作家の成れの果てで、Manga表現を規制する法案を通して、今、騒動になっている」などという話をし(無論、NYCの美術業界関係者とすればそんな話は初耳で、そいつはバカか、悪い表現だけ規制なんて出来るわけがないんだから、自分の文化を殺すことになるだろうに、と呆れてました)、外に出ると冬至も近い日もとっぷり落ちてら。今からフリック・コレクションからパークアヴェニューの方に入ったアジア・ソサエティまで行くのもなんなんで、そのままセントラルパーク沿いにM1のバスで五番街を南下すると、かつて山本五十六も泊まったプラザホテル横からかの巨大クリスマスツリーまで、なんと30分もかかりました。人の海をバスがかき分けてく状態。

んで、バスを降り、人混みのスゴイ通りを避けて六番街まで行き、カーネギーの楽屋口に向け北上していくと、巨大クリスマスツリー近辺の交通規制の御陰でラジオシティからMOMAの辺りもスゴイ人の群れ。世界中の言葉が飛び交う雑踏に、カラカラカラカラとベルの音が突き抜けてる。
マンハッタンのサルヴェーション・アーミーは、銀座の部隊みたいにラッパを吹くんじゃなく、雑踏を貫くベルを唯一の武器に、今の季節の意味を人々に思い出させるべく奮戦してます。
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あっちにはラジオシティの巨大な電飾クリスマスツリーが光る。この季節とあってオケはとてもじゃないけど泊まれないヒルトンなんかにご宿泊の世界中のお上りさんは嬌声を揚げ、五番街と六番街の間の50丁目辺りのダイヤモンド屋通りはショーウィンドウに品物がなくなる程の景気の良さなんだけど、社会鍋はそれほど繁盛してないみたい。

どこかから夕方6時の鐘がなる。一昨日の「幻想」の巨大なカリオン、午後7時からの全員参加の通し最終練習に向けてオケ練習をやってるだろうブリテンの神のいないレクイエムの鐘の響き(小澤監督、ちゃんと振ってます)、クリスマスの雑踏の中の救世軍のベルの音。いろんな鐘が鳴るマンハッタンの金曜は、華氏36度の暖かい夕方。

んで、ジングルベルって、どんな音なんじゃろか?

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コロンブス・サークル駅のクリスマス [マンハッタン無宿]

マンハッタンは、世界のどの街よりも音楽に溢れてる。正しくは、世界のどの街よりもライブの音楽に溢れてる。

どこでもでっかい音でBGMを流すのならば、サイゴンや上海に敵う場所はない。でも、それらは所詮は出来合のパッケージを再生しているだけ。ここ、マンハッタンでは、音楽家たちが街のあちこちで音楽してる。それも、電子音を使わない、ホントのアコースティックライブをやってる。

サイトウキネンの練習を途中で抜け出し、某在京オケ広報さんの命令でカーネギーの上の方の部屋でやってるミュージカル・アメリカ大賞授与パーティに潜り込み、今年の指揮者としてラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス御大が賞を受けるのに某オケ事務局からのお祝いを伝えたり写真撮ったりして、慌てて7時半からブロードウェイを上がった93丁目にある教会で行われる「月曜無料コンサート」(無論、ドーネーションをするんですよ、皆さん!)リゲティ室内楽選でジャスパーQが1番のクァルテットを弾くのに間に合わねばと赤い地下鉄のコロンバス・サークル駅まで急ぐ。

一気に氷点下まで冷え始め、チラリホラリと白いものが舞ってるみたいな外から地下に潜って、ああ暖かいと一息付くと、ホームにクリスマス・キャロルが響いてる。若い声楽家4人ほどが、ホームの上で歌ってます。帰宅を急ぐ人々は、取り巻くでもなく、真剣に聴くでもなく、次から次へと繰り出されるいろんなクリスマスの歌を耳に流してる。
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地下鉄が轟音を立ててやってきて、キャロルをかき消しちゃう。でも、若い声楽家たちは、そんなもん気にもせずに歌い続けてる。アドヴェントのマンハッタンは、ロックフェラーセンターや五番街の地上の光の渦ばかりじゃなく、地下だってすっかりクリスマスさ。

地下鉄に揺られ、96丁目駅からブロードウェイに出たら
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しっかりと雪の欠片が落ちてら。

今年のマンハッタンはホワイトクリスマスかしら。

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とりあえず初日は売り切れ [マンハッタン無宿]

温暖前線と寒冷前線が上空で力比べをしているマンハッタンは、冬の嵐です。それなりに偏西風に後押しされて12時間とちょっとで太平洋を渡りきったデルタのまだまだ働かされる予定らしいジャンボ嬢は(逐次内装リニューアルがされて、アジアや中東系の航空会社じゃ常識の貧乏席用個人モニターも配備されるそうな)、華氏55度の雨のJKFにぐらんぐらん揺れながらタッチダウン。全米で最初に大型機運用を止めたデルタ航空ですんで、デルタ溜まりのターミナルにデカイ体は肩身が狭そう。
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911以降運行停止、787が導入されたら再開すると言われていたノースウェストの栄光のニューヨーク直行便NW18は、787完成が遅れに遅れるうちにNWそのものがデルタに吸収されてしまい、結局、DL172って馴染みのない便名になって、赤い尻尾から塗り替えられた昔ながらのジャンボ嬢の担当路線として復活した。座ったのがキャビンクルーとのお見合い席だったんでデルタには目立つスチュワードのオッサンとお喋りしたら、自分らはミネアポリスとかデトロイトじゃなくてNYベース、大西洋なんかもやってる、とのこと。へえ、もう完全にデルタのシフトになっちゃったんだなぁ。貧乏人席担当のスチュワーデスさんはおばーちゃんばっかりで、若い娘はビジネスクラスにしかいないのはNWと同じだけどさ(オバチャン軍団スチュワーデスのチーフさんっぽい方は、懐かしいNWの制服をまだお召しになってました)。

ま、ともかく、当初の予定に従って火曜日にマンハッタン厄偏庵に入るまでの仮の宿、カーネギーの向かいのスタインウェイホールの並び、カーネギーホールが学生セミナーやらを主催するときに子供らを泊めたりする程度の宿におります。

到着後、雨が切れたんで、スーパーでの買い出しもせねばならぬと、慌てて辺りをまわってきました。カーネギーホールは周囲にぐるっと足場を組まれて修理中。ポスターが綺麗に写真に撮れる場所がないのが困る。おお、正面に貼られたポスター、火曜日から始まるカーネギーホールも主催に名を連ねるJapanNYCフェスティバルの初日公演は、無事に売り切れたようです。我らが若きドラゴンも、しっかりポスターにお姿を晒してますね。
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なんせ今回の取材のそもそもの発端は、年の初めに、長くアジア圏との文化交流を担当してきた当地在住の某老プロデューサーに「去年のチャイナ・フェスティバルは官民挙げてスゴイ盛り上がりだった。今年のジャパン・フェスティバルは大丈夫なのか、今の調子で?」と心配されたのが発端。なにをおっしゃる、じゃあ、あたしゃ全部カバーしましょ、と啖呵を切ってしまい、結果としてまるで元の取れそうもない赤字仕事となった。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2010-01-29-1
だってさ、今年の頭の時点では、このままじゃチャイナ・パワーに完敗必至、って雰囲気でしたからね。昨年の11月、たまたま北京の宿でNYチャイナ・フェスティバルのオープニングを一面トップで伝える報道を眺め、ああああこりゃヤバイよ、来年のジャパン・フェスティバルじゃ日本領事館も企業も絶対にここまで盛り上げようとしないよ、と真っ青になってたわけだし。中国文化祭りは大盛り上がりで日本は閑古鳥じゃあ、やっぱり日本国の文化関係者としては困るでしょ。おお、なんて素朴で心優しい愛国者なんだ、あたしゃ!

だから、正直、Ozawa氏が振ろうがどうが、そんなことはあたしにゃどーでも良い。NYTはこんな記事入れてますけど。日本と中国の西洋音楽導入の違いなど、ちゃんとそれなりに判った記事になってます。学生さんは英語のお勉強にじっくり読むに丁度良い記事でしょ。http://www.nytimes.com/2010/12/12/arts/music/12festival.html?ref=music
なんであれ、去年の中国祭の盛り上がりに追い付かないことは確実だが、せめてなんとかちゃんとカバーする努力をしていることくらいマンハッタンの関係者には見せつけないと、腐ってもかつての世界第2位の経済大国としては格好がつかんじゃろ、ってのが本音。ここに至るまでいろいろあったけど、ともかく、初日は売り切れになって一安心です。
ただ、メインエベントの土曜日の「戦争レクイエム」はまだ売り切れてないみたい。マンハッタン近郊にゴマンと住む日本国民よ、土曜日はカーネギーに結集せよ!だってさ、幸か不幸か、この音楽だけはチャイナ・フェステイバルやコリアン・フェスティバルじゃあやれないもん。この場所でこの作品を演奏する意味があるのは、日本かドイツの音楽家だけなんだからさ。

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裏方はどこでも裏方 [マンハッタン無宿]

雪ならぬ冷たい雨がマンハンタンの湾曲した舗装を激しく打つ連休中日の日曜午後、カーネギーホールで恒例のヴィーンフィルNY定期最終公演がありました。

今回、マンハッタン厄偏庵には、佃厄偏庵に寝間着一式を置きっぱなしにしてる半居候状態の某都内ホール在勤の裏方モグラ君が転がり込んでおります。いや、ちゃんと部屋代をシェアなさってるんで、立派なお客さんでありまする。ちなみに臨職さんにつっこまれる前に記しておきますと、その某ホールが金を出してくれた海外派遣ではなく、自腹切り、溜まりにたまった代休使って、CMAコンファランスに勉強に来てる。
この業界、裏方というのはどんなに組織に雇われていても最終的には「職能フリーランスが会社と個人契約している」という意識がある方も多い。ですから、こんな動きも不思議ではありません。若くて貧乏なのに偉いぞ、って褒めてあげたい。

さても、日本でのヴィーンフィルの受け入れ先でもある某ホールの裏方とあって、この秋の来日時に団員の誰それにお使いを申し使っており、その品物を渡す用事があるという。で、マチネー終演後、カーネギーの楽屋口にまわって相手を待ち受けるとするべーか。どっかで連絡して事前に渡しておけよ、と思うでしょうけど、なんせコンファランスが滅茶苦茶忙しく、そんなことやってられなかったみたい。ともかく、確実に会えるところで会ってしまえ、ってわけ。

終演後でごった返す57丁目側の正面を出て、7番街に曲がれば、おお、今日はマチネをやっていなかったザンケルホールのロビーには、溜池地下で見慣れたヴィーンフィルの楽器ケースが山積みになってら。
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なんせ今回の渡米はこの3公演のみ。それも、初日のシェーンベルクのヴァリエーションと「田園」はヴィーンの定期でバレンボイムとやってきたそうだが、やくぺん先生が天井桟敷から見下ろした昨日と今日、シェーンベルク、ベルク、はたまたブーレーズの「ノタシオン」、なんてプログラムは、それぞれ1回のみの公演。いかな天下のヴィーンフィルといえ、どこで練習するのやら、って演目ばかり。実際、ブーレーズ指揮の昨日はそれなりにそれなりだったけど、本日のバレンボイムとのブーレーズ作品など…うううん、生涯トラウマになりかねんハラホロヒレハレでありました。

当電子壁新聞には、演奏の感想など書き綴る気などありません。中身についてはこれでオシマイ。悪しからず。それにしても、東京であれだったら、ネットの海にどんな発言が踊ることやら。ふううう。

で、不必要なまでに膨大な楽器を必要とするブーレーズ作品などのための楽器ケースを眺めつつ、グルリと56丁目の楽屋に行くと、楽器を抱え、荷物を引きずった楽人達が次々と出て来るぞ。おやおやこんなところで、と話しかけてくるのは、いつもヴィーンフィル演奏旅行に同行する専属お医者さん。裏方さんどおしのご挨拶。
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で、やがて出て来た目的のチェロ君との用事も無事に済んだのだけど、なにやらチェロ君、「あ、用事があった、もってて」と言い残し、溜池の裏方もぐら君に楽器を預け、ホールに戻っちまったぞ。おいおいおい、預けるなら裏方が違うだろーにっ!
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苦笑しつつも、演奏家に頼まれるとイヤでも騒いでしまう裏方の血。雨の中をしっかり楽器をガードいたします。ちなみに、ヴィーンフィル人事マニアの方なら知りたくてうずうずしちゃう類の事情があって、このチェロは幸いにもオーストリア政府所有の楽器ではありません。その分だけちょっと気が楽…でもなかろーがね。

かくて7番街に3台も無茶な駐車をしっぱなしだったバスに楽人らが次々と乗り込むと、終演後30分もしないうちにオケマンらはJFKへと出発。数時間後には大西洋を越え、明日の朝にはもう極寒の帝都でんがな。あうふぃう゛ぃーだぜーん、とバスから手を振る先にいるのが、何故かNYならぬ見慣れたTOKIOスタッフなのが滑稽だけど、誰もそんなこと不思議にゃ思ってない。
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これが音楽家の生活。そして、そこが世界のどこであれ、マレビトからサヨナラの手を振られるのが裏方の生活さ。

まだまだお仕事中だったろうカーネギーの裏方さん、あの膨大な楽器の転換、お疲れ様でした。

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マンハッタンのブルーレイ価格は [マンハッタン無宿]

作文作業の合間、昼飯に出たついでに、手近なとこでマンハッタンのブルーレイ価格調査をして参りました。ブルーレイ価格関連、過去のエントリー一覧はこちら。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2009-05-27
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2009-10-28
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2009-11-26

場所は、ジュリアード音楽院向かい、というべきか、アムステルダム・アヴェニューとブロードウェイが交差する西66丁目角「バーンズ・アンド・ノーブル」地下の音楽映像ソフト売り場です。ガラス壁面建築が良く分かる夜景でお見せしましょ。この写真、ブロードウェイを挟んで右側に光ってるのが、新しくなったアリス・タリー・ホールの上層階。綺麗ですねぇ。
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タワーレコードとかHMVとかヴァージンとかがあれば良いんですけど、マンハッタンにはそういう量販店タイプのCDやブルーレイ販売ストアがなくなっちゃったんで、電気屋さんや総合書店のソフト売り場が頑張らざるを得ない。半年ほど前のタイムズスクエアのヴァージン・メガストア閉店のときのNYタイムズの記事はこちら。
http://www.nytimes.com/2009/06/15/arts/music/15virgin.html

ちなみに、中古のゲームソフトやらDVDを扱う店舗はあるものの、店舗はどれも小規模。「ブックオフ」の映像音響コーナーみたいな規模の店はないみたい(ヴィレッジの方まで下りるとあるのかもしれんが、どうなんじゃろか)。DVDを投げ売りするそんな小規模店にはブルーレイを扱うところもあり、だいたいハリウッド映画で1枚15ドルくらいを相場に並んでます(オペラ全曲盤の中古などはまず皆無)。結局は、アマゾン・コムの中古値段と横並びという感じ。秋葉原の中古盤屋と状況は変わらんですな。

もとい。で、キラキラ光るガラス建築の向かいの「バーンズ&ノーブル」では、世界ブルーレイ価格調査の対象たるDVフィガロ、即ち、ザルツブルク音楽祭アルノンクール指揮の「フィガロの結婚」、お値段は32.99ドル也でありました。これにマンハッタンでは消費税が9パーセントくらいかかるから、現在の日本円では実質3200円くらい、ってこと。

とはいうもののお客さん、ここからが消費大国アメリカ合衆国の面目躍如でっせ。このお店、1月末まで、「ブルーレイでもDVDでもCDでも、なんでも3セット買うと定価が一番安いアイテムはタダにいたします」セールをやってるんでありますよ!
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だから、40ドルの「ファウスト博士」、90ドルのワイマール歌劇場「リング」全曲(!!)、ついでにこの「フィガロ」も一緒にカウンターに持って行けば、なんと「フィガロ」はタダです!結果として、オペラ関係のブルーレイを総計6枚買って、税込みで日本円にして1万3千円くらい、ってこと。

これだったら、高い高いオペラのソフト価格とすれば、そーとーに安いと言えましょーぞ。ソウルの価格と良い勝負かしら。

ってなわけで、ブルーレイを買うならばスペシャルセールの時期を選んでマンハッタン、ってことになるんでしょーか。

ただ、在庫の豊かさを考えると、現在の地球上で最も楽しくブルーレイを店舗購入できるのは、香港島のHMVと断言できましょう。理由は簡単で、値段はそこそこお安いし、ハリウッド映画だけでなく中国やアジア圏のソフトも手広く並んでいるからであります。残念ながら、マンハッタンはやっぱりハリウッド系のソフトが圧倒的。それ以外はチョボチョボしか見あたりません。

ううううん、中途半端な結論だ。

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一年と一月来ぬ間に [マンハッタン無宿]

マンハッタン厄偏庵に無事着いております。いつものアッパーウェストサイドの定宿に復帰です。どーしてそんなことになったのか、書けばこの1年のアメリカ合衆国経済とニューヨークのホテル業界の動向をウォッチングすることになるわけで、なかなか興味深いのですけど、今は眠いんで面倒なことは記しません。
とにもかくにも、慣れ親しんだ顔がまるで昨日出かけてまた戻ってきたように迎えてくれ、フロント前に立てば名前も尋ねられずに全部事が済んでしまう90年代からの定宿に戻ってきたのは、2008年の1月にカーター生誕百年記念年オープンを飾るパシフィカQのマンハッタンで2度目の弦楽四重奏全曲演奏会のとき以来。ここで今は絶版となったオンブックスのかなりの部分を書いたし、仲道本も殆どここでやっつけている庵。

この2年ほどは、ジョン・アダムスのインタビューに来たときは73丁目の安宿だし、サンクスギビングのボストンに入ってベルリンに抜けた際にはアッパーイーストのウィークリーアパート。それこそマンハッタン無宿していた。そもそも2009年にはオバマに沸くアメリカ合衆国そのものに一度も足を踏み入れていなかったんだし。

でも、今回はこれまでのマンハッタン往来とは違うことがひとつあるぞ。長くやくぺん先生んちが長距離空のバスとして愛用していた日本の評判は最悪のノースウェスト航空が、昨年暮れにデルタ航空に吸収され、実質上、なくなっちゃった。JAL以上に長い歴史を持つ太平洋線のパイオニア、真っ赤な尻尾の日本の翼が消滅し、なんだかやくぺん先生んちもひとつの時代が終わったような喪失感があり、この際だからいろいろ特典が利用できる旧日本ヘリコプター系列に乗り換えましょうか、ってことになった。で、生涯初めて日の丸が翼に映える飛行機で北太平洋を横断することと相成りました。日系航空会社って、目的地に到着してイミグレーションを受けるまで、日本社会の延長みたいな空気を運んでるんですねぇ。勉強になるなぁ。

ま、やくぺん先生の気持ちなんぞたかが三百数十分のひとつ。青尻尾に翼に赤い丸を貼りつけたトリプルセブンは、それほど酷く凍ってないハドソン川を跨ぎ(席が反対だったら、マンハッタン島を北から全て見通せてた筈)
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ロングアイランド上空からグルリと大西洋上で旋回、曇り空のJFKに到着したわけであります。

空港内スカイトレインでA列車のハワードビーチ駅まで行き、真っ黒い貧乏人の街を抜け、911の爪痕未だ残る辺りでマンハッタン島の地下に滑り込み、怪獣クローバーがトランプ高級アパートぶっ倒したコロンバス・サークルで赤ラインに乗り換えて、数年前の駅改装でやっとエレベーターが付いた地下鉄を上がれば、そこにゃ懐かしい72丁目の冬が広がってる。
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トスカニーニやホロヴィッツが住んだアパート(写真一番右端)は相変わらずマンハッタン・ゴシックの偉容を誇ってるけど、やくぺん先生がマンハッタン無宿をしてた頃に解体された72丁目駅南西、「ダイハードⅢ」でブルース・ウィルスが犯人からのクイズに答えようと必死に公衆電話にくらいついていたとこのアメリカン・アールデコビルが、世界のどこにでもあるガラス張り建築のつまらぬ総合ビルになってら(写真左端)。ううううん、この「マンハッタンの谷根千」とも言うべき地区の顔のひとつが、上海かハノイ目抜き通りの金に飽かせた新築キラキラビルになっちゃった。

カーネギーにちょっと用事でバスで出かけたついでに、ヴィーンフィルやシカゴ響を振りまくるブーレーズの顔がやたらと並ぶ7番街側を下り、楽屋口の方にまわってみましょ。おお、伝えられたとおり、通りを挟んで楽屋口真ん前の楽譜屋さんが閉店してる。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2009-04-16
救いといえば、この超高層ビルが建ち並ぶ中に唯一の異様を誇った低層ビルが、そのまま姿を留めていることだけどさぁ…
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マンハッタンはホントに楽譜やCDが買えない街になってしまいました。以前なら、この街にいれば楽譜や音源なぞなんとでもなったんだけど、今やその類の商品はコストのかかる店舗販売ではなく、全てネットで購入するようになっちゃった。アマゾン・コムがこの街に仕掛けた破壊の大きさは、911の特攻ハイジャック機にも匹敵する。アマゾン・コムなんて大嫌いだぁ!

ぜーぜー…なにはともあれ、10日ほどの短い間ではありまするも、厄編庵はマンハッタンに結ばれております。お暇な方は、ブロードウェイに面したビーコン劇場横のビーコン・ワインで酒買っておいでなさいな。ちなみに韓国系の店主らしきオッサンは、今や少なくなった完璧に日本語を喋る旧植民地教育を受けた方です。店内で日本語で大声出してると全部筒抜けですよ。悪口厳禁!

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さらばカーネギー楽屋口前書店のおばば [マンハッタン無宿]

いよいよ新厄偏庵の鍵を渡され(今度は鍵がある!って、じゃあ前はどうだったのかというと…)、本日から当電子壁新聞は「お引っ越しボランティア様のための掲示板」になる予定だったのだけど、それどころじゃない大ニュースが飛び込んだ。これ。
http://www.nytimes.com/2009/04/13/arts/music/13pate.html?_r=1&emc=eta1
おおお、あのカーネギーホール楽屋口真ん前の楽譜屋、これから引っ越しせねばならぬ厄偏庵及び佃オフィスに山積みになる楽譜や書籍の出所として神保町の古賀書店と双璧の、世界の音楽愛好家の心の故郷が、とうとう閉店になるとのこと。

いやぁ、去年の暮れにマンハッタン新厄偏庵にいたとき、いつものように眺めに行って、あまりの閑散振り、というか、もう手を入れていません、って感じに、嫁さんと「こりゃあもしかしてもしかするかもねぇ」って話をしていた。そしたら、やっぱりもしかしたわけです。悪い予感と共に、嫁さん立てて撮影した記念写真。やっぱり、別れの1枚となったか。
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このお店、入りっぱたの「持ってけ泥棒本日の投げ売りコーナー」の充実ぶりは言うまでもなく、あちこちに張られたメイジャーではない小さな演奏会の案内だとか、音楽家や学生の間での情報交換のタッグを眺めているだけで、ああ俺は今、カーネギーホールの真ん前にいるんだよなぁ、と思える場所だった。なによりも嬉しいのは、立ち読みしながら楽屋口を張っていられたこと。ここで投げ売り本をぱらぱら捲りながら、ガラス窓の向こうに視線をチラチラさせ、演奏家が練習を終えて出てくるのを待ったり、事務所が泊まってるホテルを教えてくれない指揮者の入りを見張っていたりしたものです。どれだけの時間を過ごしたことか。

最後に買ったのは、投げ売り楽譜で出ていたシュトックハウゼンの「コントラプンクテ」のミニチュアスコアでした。佃オフィスに戻ってきて棚を眺めたら、同じ楽譜が、やっぱり同じ店のタッグが付いてちょこんと鎮座しておりました。アホか、わしゃ。

グリニッジのアカデミー・レコードも惨憺たる有様だし、ジュリアード裏のタワーレコードどころか42丁目のヴァージンまでなくなったというマンハッタン、これからは何を楽しみにあの街を彷徨ったら良いのやら。カザルスホールが取り壊されるなんて話の23乗くらいは悲しいぞ。冗談じゃなく、家族が死ぬくらい寂しい。幸か不幸か、マンハッタンは東京湾岸と違ってやくぺん先生の街じゃあないんだから、思いっきり残念がっていいのじゃ。

Amazon.comなんて大嫌いだ!

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「空を這いずる者」再び [マンハッタン無宿]

土曜日の朝、3番街と53丁目の角のシティグループ(問題の…)ヘッドクオータービルのスターバックスです。今、JFKに嫁さんを送り出しました。お仕事でゴッソリ増えた紙モノの御陰で、地下鉄の階段を下りるだけで一騒ぎ。いやはや。

さて、これからマンハッタン新厄偏庵を明け渡して、2時からリンカーンセンターでカーター御大の演説会があり、途中で抜け出して、夕方遅くのデルタ航空でベルリンに向かいます。そー、あのテーゲル空港に到着する唯一の長距離国際線、かつてのパンナムのNY・西ベルリン線です(後記:ベルリンにはもうひとつ、ニューアーク空港からのコンチネンタル直行便もありました、まあ日に2便はないと捌けないであろうと思われるほど混んでた)。到着すると、出発ロビーに走り、そこで某作曲家にインタビュー。アホみたいな日程だなぁ。いやはや。

というわけで、「マンハッタン無宿」もオシマイ。昨晩は、ザンケルでのカーター室内楽演奏会。御大が最初に出てきて、なんのかんの20分くらいカーネギーのプログラミング・ディレクター氏とインタビューしました。お元気だけど、やっぱりだれがやってもインタビューにならない、独演会になっちゃうのはしょうがないわねぇ。もう他人の話なんて聞く気がないんだろうなぁ。それはそれで良いことなんだけど。で、前半で抜け出して、ジュリアード音楽院と同じ建物にあるリンカーンシネマにダッシュ。いろんな人に「これから人に会わなきゃいけなくて」なんて頭下げながら、なんですけど。

なんでそんなアホなことになったかというと、一昨日だか、ジュリアード音楽院に用事で出かけたら、チケットブースの前に夏頃にやたらとみせられたポスターが貼ってあった。ほれ。
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そーです、日本文化が唯一本当に誇れるガジェット・カルチャーの先兵、ANIMEであります。興行的にはポニョの1割もいかない大失敗(予想通り)だった、かの「空を這いずる者」のニューヨークプレミア上演が金曜の夜に2回だけある。どうも、これだけみたい。恐らくはアカデミー賞のノミネート条件をクリアーするための無理な上映なんだろーなぁ。

総理大臣なんか比べものにならないくらい熱烈な日本ガジェット文化振興係のやくぺん先生んちとすれば(我が家にリジョン1やらドイツ語吹き替えやらのパトレイバーやら攻殻機動隊やらDVDがどれほど転がっていることか!)、これは参加しないわけにはいかないでしょ-。カーターはもうこれほどの人たちが賞賛しまくってるんだから、どうせガラガラだろうこんなプレミアの席を少しでも埋めるのは、日本国民としての義務ではなかろーかっ!

というわけで、慌てて氷点下のブロードウェイを走るようにしてザンケルからリンカーンセンターまで。なんとか9時半の上演に間に合いました。ふうううう…

会場は、そうねぇ、アメリカオタクがいっぱい、という感じでもなく、まあ、7割くらいかしら。冒頭、押井監督のメッセージが恥ずかしそうに流され、淡々と上映され、深夜前に終わりました。後ろに座っていたデブなオタクどものライブ・コメンタリーが興味深かった。こいつら、Oshiiのどこをみて、どこを評価しているか、ってこと。

なんせ、この映画をロケハンしたポーランドはこの前通ってきた街。だけど、地上を描くときのどこかしっとりと湿った空気感は、間違いなく日本のスタッフの眺めている蒸気をいっぱい含んだ光(その違和感は、間違いなくアニメでしか表現できない)。冒頭の雲の映像が出た瞬間に、ああ、また明日からたびの空なんだなぁ、どこをどう叩いてもオッサンなやくぺん先生だけど、空這いずり具合は永遠のガキと同じやんけぇ…いやはや、なんて人生なんじゃろね。なんにせよ、カーターのハープがメインになる小編成アンサンブル曲と、Kenji Kawaiの音楽は、今回のマンハッタン滞在最後の晩のハイライトでありましたとさ。

そろそろ部屋に戻って鍵を返却せねば。いつもニコニコのカーター翁のご尊顔に最後のご挨拶をし(多分、最後、だろーて)、来週の今頃はようやく成田に戻ってる筈。やくぺん先生、再び、たびの空を這いずります。

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懐かしい人・いつもの人・新しい人 [マンハッタン無宿]

というわけで、カーター御大お誕生日、レヴァイン指揮バレンボイム独奏ボストン響という、なんか想像しただけで暑苦しい組み合わせで賑々しく協奏作品が演奏され、カーネギーを埋めた満員のお客さんが壮大なスタンディング・オーヴェーーションをするなかを、チョコチョコと御大が舞台上にお上がりになり、「Happy Birthday」と5階の一番後ろの列からも判るくらいでっかく書かれた笑っちゃうくらいでかいケーキが出てきて、オケが音程滅茶苦茶で「♪はっぴばーすてぃーつうゆうううう~」と弾き…きっちりストラヴィンスキー編曲でもやるかと思ったら、いい加減に弾いただけだったけど。こちら、ご覧あれ。ばっちり写真付き記事。
http://www.nytimes.com/2008/12/12/arts/music/12carter.html?_r=1&ref=music
驚くべきは、NYタイムズの紙版を眺めれば、アート欄のトップじゃあなくて、本編紙面のトップ下に掲載されてます。こりゃあ異例中の異例、恐らく、現代音楽作曲家アニバーサリーの扱いとしては空前絶後でしょうね。
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さても、マンハッタン新厄偏庵、まるで何年も住んでるみたいな気がしてきた場所も土曜日まで。またたびの空です。ここで最低でも4本の原稿を終えねばならなかったんだけど、今日終わる予定のを含めて半分しか出来ず、ベルリンからチューリッヒへの移動の最中に残りをやり終えて、火曜日のカルミナQの集中インタビュー日に備えねばならぬ。ふうう。

どうしてそんなことになっちゃうかというと、なんだやくぺん君、マンハッタンにいるのか、じゃあちょっと会おうよ、なんて懐かしい人やらいつもの人から連絡があり、のこのこ出かけてしまうからんですなぁ。だめじゃあ、わしゃ原稿が終わっとらんのじゃあ、と言わねばならぬのですけど…やっぱりのこのこでかけてしまうわけです。なにせマンハッタンの困ったところは、夜の11時から会おう、なんてのが全然平気なことでねぇ。だーれも終電とか心配してないもんなぁ。

昨日は、諸般の事情でジュリアード音楽院内をウロウロしていたら、「Yakupen君」と声をかけられた。なんと、元グァルネリQのダヴィッド・ソイヤー御大でありました。お元気そうで、80過ぎてもなんのかんの20人くらい生徒をみてるそうです。そういえば、ボストンのNECではラファエル・ヒリアーさんとも立ち話が出来たし。100歳に比べると、みんな若いぞ。弦楽四重奏をやってた連中は長生きだ…ってわけでのなかろーが。

で、カーター御大お誕生会、バースデーケーキの後は夜の10時をまわってから「春の祭典」(カーネギーでの北米初演を聴いた16歳のカーター少年が、俺は作曲家になるぞと決意した因縁の作品だそうな)が披露されたんだけど、さっさと抜け出して、地下鉄でイーストリバーを渡り、猛烈な大雨で道が池みたいになってる中を、ラ・グァーディア空港の方まで行きます。そこで、これまた懐かしい顔にご対面。まあ、プライベートな写真だけど、こういうのは電子壁新聞に貼り付けるのは問題ないんだろうから、アップしちゃうぞ。ほれ。
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そー、お判りの方はお判り、ピアニストのRieko Aizawaさんです。あのカザルスホールでかのブダペストQの伝説の第2ヴァイオリン奏者アレクサンダー・シュナイダー御大と12歳で共演し、その後はフィラデルフィアに渡りホルショフスキーの最後のお弟子さんの一人になった方です。先月、上野でいろいろと問題多かった「ピエロ」でピアノ叩いてた(ってか、叩かせてもらえずにいた)んで、東京の方には「いつもの人」かもね。
なんと、彼女も去る5月にご結婚なさりこちらに落ち着いてる、せっかくだから新居に来て下さいよぉ、ってわけですわ。ちなみにご主人のジェス君はどっちでしょー…って、ひとりはダイダロスQのラーマン君であります。晴海近辺の方には「懐かしい顔」でしょ。ダイダロスQ、10月にはコロンビア大学で弾いてるのを聴いたからあたしゃ「いつもの人」だけど。頑張ってやってて(ちょっと前までクァルテットでドイツツアーだったとのこと)、このあと深夜の1時過ぎまでじゃんじゃん走ってる地下鉄で奥さんが待ってるマンハッタン北の外れのおうちまで戻ってった。本日の夜にバージ・ミュージックでバッハのガンバソナタを全曲弾くそうな。こりゃ、引き留めるわけにはいかんわね。

で、もうひとりのちょっとイケメン君がりえこさんのご主人。「新しい人」です。でも、ダイダロスのミンユンがご出産の際は代理でヴァイオリンを弾いていた、という音楽仲間であります。ちなみに、この連中、パシフィカのマスミとはジュリアードおプレカレッジ時代からの音楽仲間だそうで、「今日はマスミは来られないの」って(そりゃそーじゃ!)。
故郷を離れ20年近く、りえこさんはすっかり「ニューヨークのアーティスト」になってます。日本ではソリストとして活動していくみたいでした。具体的には来シーズン以降の東京のいろんなオケの定期で弾くことが決まってるそうですけど…うちの奥さんに「具体的なデータはまだ書いてはいけません」と叱られたので、残念ながら書けません。乞うご期待、ということでお許しを。

というわけで、そんなこんなで夜が更け、今日もNYP昼定期でフライシャー御大がヴィオレッタらと両手で(!)ブランデンなんぞ弾くのを聴きに行くまでに、1本原稿を仕上げねば。夜はザンケルホールでカーターお誕生会の続き。ボロメーオQの前ヴィオラ奏者、シンユンが出ます。これまた「懐かしい人」ですね。

さ、働け、あたし。

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アリス・タリー・ホール改装 [マンハッタン無宿]

マンハッタンの室内楽基地といえば、数年前にカーネギー地下の映画館を改装し華々しく誕生したザンケルホール、カーネギーの上の300弱のリサイタル拠点ワイルホール、ジュリアード音楽院から1ブロック北のマーキン・コンサートホール、東京Qのホームベース92丁目Y、更には特殊な企画でお馴染みのブロードウェイを上っていったシンフォニースペース、もっと上ってコロンビア大学正門横のミラー・シアター、それに実は隠れたメイジャー会場たるミイラの眠る部屋の向こうメトロポリタン・ミュージアムのオーディトリアム、ついでにマンハッタン新厄偏庵からセントラルパークに出た角にあるフェルメールでお馴染みのフリック・コレクションのオーディトリアム、等々、まあそれなりに数はある。そうそう、イーストリバーの上に浮かべた船でやってるバージ・ミュージックを忘れてはならんぞ。そこまでいくと、ブルックリン美術館講堂とかもあるけど、もう止めましょ。

んななかで、やっぱり一番メイジャーな室内楽会場と言えば、リンカーンセンター室内楽協会の本拠地、リンカーンセンターの北のジュリアード音楽院東隅のブロードウェイ側をどかんと占めるアリス・タリー・ホールでありましょー。

音が悪いの、室内楽には広すぎるの、なんのかんの悪口を言われながらも、このホールを満員に出来て、音を満たせないとメイジャーではない、と思わせてくれる場所でありました。やくぺん先生としましても、ジュリアード音楽院学生の無料室内楽からヴィオレッタ時代のアヴァロンQ、更にはエマーソン、ジュリアード、グァルネリ、オライオンQ、などなど、どれだけお世話になったか。そういえば、東京Qによる間宮先生の第3クァルテット世界初演を一緒になって練習から立ち会ったりしたのもここだっけ。

さても、このマンハッタン唯一の室内楽ヴェニューが、昨年からずっとクローズになってました。流石にいろんな意味でおんぼろになってきたんで改装する、とのこと。御陰で、今年の頭からリンカーンセンター室内楽協会は65丁目をセントラルパークのところまで行ったNew York Society for Ethical Culture って、それこそ絶対にカーターよりもご高齢なことは確実なふるうういビルのオーディトリアムで演奏会をやってました。
フィンケル氏は「実はマンハッタンで一番音が良いかもよ」なんて気楽なことを仰ってるけど、暫く使うんであればそれなりに風格あって良いけどねぇ…という場所であることは確かだった。パシフィカQがこの1月に凱旋カーター全曲演奏会をやったのもそこです。これがそのときの写真。わざとぶれたやつ。聴衆から喝采を受ける、明後日100歳になる現役作曲家さん。なかなか趣のある場所でしょ。
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昨日、キャプランせんせーの「復活」が終わってオーディトリアムを出ると、向かいのバーンズ&ノーブルやらの壁面にスポットライトが飛びまくってる。またまたなにやってんだか、と思ったら、サーチライトを回転させているのは工事現場みたいになってるアリス・タリー・ホールの新正面入口だった。前にいくと、今時流行のガラス張りの向こうからレッド・カーペットが敷かれて、丸見えになったロビーではレセプションが行われてる。警備のオッサンに尋ねたら、「大口ドーネーターのための完成レセプションだよ」とのこと。ほぼ内装が完成し、お披露目だったようです。

というわけで、当電子壁新聞でもお披露目しましょう。まずは、改装前の姿。エヴリー・フィッシャー・ホールに置かれた完成時のリンカーンセンターの模型がこれ。写真の左手がエヴリー・フィッシャー・ホールで、65丁目を挟んで右側がジュリアード音楽院で、その手前の部分を旧アリス・タリー・ホールが占めていました。
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マンハッタンの中で唯一の「通りを跨ぎ二つのブロックを総合的に利用した施設」として有名だった。ジュリアード音楽院入り口は、この通りに被さった広場の右手正面にありました。

で、これが、エヴリー・フィッシャー・ホールのブロードウェイ側隅っこ3階から眺めた新しいアリス・タリー・ホール。上の写真で広場になってるところまで建物が張り出して、その下を大きくカットしたように空間が広がっている。張り出し部分の下は大きなガラス壁になっていて、真っ赤なカーペットの内装が丸見えです。つまり、上の建設当初の模型で三角形の広場になっていた場所の上まで建物が張り出し、その下がガラスで覆われたわけですね。
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ブロードウェイ側から眺めると、こんな。オーディトリアムの壁にでっかく「アリス・タリー・ホール」と書かれてます。
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というわけで、いかにも21世紀らしく丸見えのスケスケになったマンハッタン室内楽の本拠地、来年2月に再オープンし、フェスティバルが開催されます。問題は音なんだけど…どうもオーディトリアムそのものには手を加えていない、という噂もある。さても、どうなっておりますか。乞うご期待、でありますね。
http://www.lincolncenter.org/asc_load_screen.asp?screen=AliceTullyHall
なお、旧アリス・タリー・ホールの音を聴きたい方は、DGのライブダウンロードでこの協会のシリーズが出ています。
http://www2.deutschegrammophon.com/cat/result?COMP_ID=&sort=newest_rec&ALBUM_TYPE=&SearchString=lincoln+center&IN_SERIES=&ART_ID=&IN_XXAWARDS=&PRODUCT_NR=4776627&start=0&IN_XXSERIES=&IN_XXPQ=&MOZART_22=0&GENRE=&per_page=10&presentation=list
ジュピターQのバーバー…は、アリス・タリーじゃなくて、ジュリアード音楽院のオフィスビル上にあるローズ・スタジオのライブかぁ。へえ、あんなところのまで録ってるんだなぁ。一応は天下のグラモフォンというのに日本のメディアでは全く話題にすらならないこのシリーズ、新しくなったらまたどんどん出るでしょうから、変化が耳で判るかもね。って、変わってなかったりして。

たまには真面目なマンハッタン音楽案内でした。さて、働け、あたし。まだブリュッヘン「天地創造」のテキスト翻訳が終わってません。来週の火曜日までに、これ含めて締め切り4つ。マンハッタン厄偏庵でどこまでやれるか。ふううう。

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