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雪の中の教会たち [音楽業界]

ボストンというところは、静かに原稿をやろうとしてると、おおい飯喰おうよ、とか、久しぶりだから嫁さんみせたい、とか、なんのかんの電話がかかってきて、どーも作業に集中出来んっ。結局、今週で作文作業に専念出来たのは2日のみで、今週前半〆切は全部処理したものの、来週頭〆切の2本のうち1本が現時点で手つかず。シカゴで「中国のニクソン」お勉強日にする予定だった日を作文作業に取り崩さねばならぬ。ううううん。

そんなこんなで、このところ電子壁新聞どころではなかったので、大雪に埋もれているのではないかと心配なさってくださる方などもいらっしゃるわけで、大丈夫、生きてますよ、という報告です。

さても、ボストンといえば古楽。実際、昨日一昨日と雪の中をTにちょっと乗ったりして出かけ、あちこちの教会での演奏会を覗いてまいりました。結論から言えば、ま、レベルはいろいろだけど、こういうのがEarly Music Americaなんて組織を支えているんだろうなぁ、とあらためて思わせて頂いた次第。日本では相手にもされていないアメリカの古楽界ですけど、いやぁ、奥は深いですわ。鈴木雅明御大も、生活に根付いたこういう古楽をやってる人たちがいっぱい加わった合唱団を相手に4月のボストン響定期で「ヨハネ」の他流試合をやるわけで
http://www.bso.org/bso/mods/perf_detail.jsp?pid=prod3720052
カリスマが通じない、でもとってもオープンなこんな人たちが共演者であり聴衆だと、オペラシティなんぞとは相当に勝手が違うだろうなぁ。

って、いきなり結論でオシマイになりそうだ。どんなものかを、写真でご紹介しましょう。

まずは、市内を「午後7時に大雪警報が発令されます」などとアナウンスする車が走り回ってた水曜日の夕方、ボストン・コモンのちょっと先、サム・アダムス(ビールじゃないよ!)のお墓がある教会なんかの裏手の辺りのThe Church of St.John the Evangelistという地味な場所であったコンサート。
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水曜の夕方5時半から毎週やってる1時間の無料コンサートで、登場したのは完全にピリオド楽器のヴァイオリンふたつとチェロ、それにチェンバロのトリオソナタ。コレルリとかルクレールとかボイスとか、サラッと響かせてオシマイ。半分プロ、半分アマチュアみたいな団体で、ま、上手とか下手とかよりも、みんなで愉しんで飯でも喰ってさ、って感じの古楽好きの仲間たちみたい。
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こういうのを聴いてると、日本で古楽マニアの方が話題にするヨーロッパ系の団体とか演奏家ってのは、自分の個性やら解釈やらを(相手を説得できれば)好き勝手に展開できるから古楽やってる、って感じがしますねぇ。こういうノンビリした、商業ベースとは違う、俺たちはこの楽器の響きが好きなんて好きにやってます、ってのはなかなか耳に出来ない。いやぁ、勉強になるなぁ。

ちなみに無料ですが入口にドーネーションがあり、小生も5ドル札を放り込んできました。全て演奏者に行くそうです。
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ま、この位の額だと、そのまんま教会に献金しちゃう演奏家もいるんでしょうねぇ。

大雪警報に怯えて慌てて戻ってきて、雪が降り続く真っ白い夜を過ぎ、翌朝はまた20センチくらい積もってる。公立学校はさっさと休みになっていて、それほどの酷いことにならなかったからか、子供らが朝から騒いでる。昼間にはすっかり晴れて、暖かくなってきた(比較の問題ですけど)。そんな中、コモンウェルス通りからひとつ川の方に入ったマールボロ通りのボストン・コモンの近くにあるFirst Church Bostonって、なんだか凄く由緒ありげな教会までノコノコ歩いて参ります。
おお、ここは立派な教会だ。なんせブロックにひとつくらいは教会があるんで、イヤでも見比べちゃうんだけど、古い部分とモダンな部分を見事に合体させて、なかなかお金持ってそう。この礼拝堂で、これまた毎週、木曜日の昼に30分のチェンバロ・シリーズをやってます。10月から5月まで、シーズン中に22回のチェンバロ連続演奏会をやってるんだから、これはちょっとスゴイぞ。
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ボストンを訪れたいろんな人が出てるみたいで、オランダとか、南アフリカなんて人もいる。Akiko Enoki Satoという日本人らしき人も出ています。

教会に入ると、4人ほどの男たちがチェンバロ談義をしている。マニアトークというよりも、専門家トークでした。そこにオバチャンが礼拝堂から出て来て、なんか曲のこととか話してる。どうもこの方が本日の演奏者みたい。はーい、なんて、明らかに別の日に出演してたらしい演奏家に声を掛けてる。
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しばし今日の曲の話をして、「これで今日のプレトークはここでオシマイ」って仰って、みんなゾロゾロと礼拝堂に入ってくぞ。みんな、っても、7人しかいません(あたくしめを含め、ここにいる全員がEarly Music Americaの会員番号持ってるんだろうなぁ)。蓋の内側に綺麗な絵が描かれたチェンバロの前に座り、「今日は雪なんでやめようかと思ったけど、来てくれて有り難うございます」と、おもむろにスカルラッティを弾き始めます。どうも、予定された人じゃないみたい。ちゃんとしたプロの音楽でした。
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この演奏会も無料で、ドーネーションです。ポケットにあった1ドル札をありったけ投げ込んだんで、なんぼ入れたか判らぬ。

演奏者の名前すらわからんなんて、もーれつにいーかげんなレポートなんだけど、ま、特に知らなければと考えるような空気でもない。誠にノンビリ、ああ、チェンバロだなぁ、ああ、雪だなぁ、ああ、雀君たちも大変だなぁ、ってね。

せっかくここまで来たのだから、ニューベリー通りまで戻り、ちょっと曲がると、エマニュエル教会がある。あのグレッグ・スミス御大が監督でバッハのカンタータ・シリーズやってるところ。今年はどんな顔ぶれかな、と思ったら
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なんと数年前にグレッグ・スミス氏はお亡くなりになってたようだ。でもシリーズは続いてるらしく、良かった良かった。この教会、音楽には力はいってて、4月には教会で「道楽者の成り行き」やるそうな。へえええええ。

てなわけで、まるで力が入らないボストンの古楽レポートでした。こんなにノンビリしていれば、あたくしめのような根性無しでも古楽を気楽に聴きにいけるんだけどねぇ。

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たまる



こんにちは

先日、やくぺん先生が、わたしが愛読している「黒沼敏夫と日本の弦楽四重奏団」の共著者だと知り、ブログを拝見しに伺いました。巌本真里四重奏の文化会館での定期公演は、従兄弟も聴きに行っており、わたしも巌本真里さんの残された録音を愛聴しております。

室内楽への愛に溢れた、味わいの濃い記事、興味深く拝読しております。また、ゴールトベルクは、わたしの好きなヴァイオリニストで、カザルスと共演した室内楽など、ながく聴いております。

伺いたいことがあり、ご教示いただけるとよいのですが、ベートーヴェンの四重奏をまとめて、若い四重奏団で聴きたいので、若手の芸術家への支援と紹介を惜しまない、やくぺん先生に、これは!というクァルテットについて教えていただきたく存じます。候補には、Wihan Quartetはありましたが、Prazakは中堅といったところでしょうか?あれこれ四重奏の全集は持っており、現役では、パシフィカ、エンデリオン、エマーソン、ハーゲン、実演でも聴いております。

ながい、ダラダラ文になりましたが、ボストンの教会で演奏されるという、「道楽者のなりゆき」、台本を書いたオーデンは、わたしの師の友人であり、オーデンのことや、詩についても学んだ思い出があります。日本も寒いですが、ボストンもとても寒いと存じます。風邪などひかないようになさってください。来月の東京クァルテット、それから、夏だったかしら、パシフィカ、楽しみです。乱れた文ですが、応援しております。今後も、素晴らしい、ブログ、楽しみにしております。

たまる
by たまる (2011-01-29 17:52) 

Yakupen

たまるさま

コメント、有り難うございます。「黒沼俊夫と日本の弦楽四重奏団」と当電子壁新聞とでは、意図的に文体を違えてありますので、些か不快にお感じになっていらっしゃることでありましょう。お許し下さいませ。

小生にとって、全ての仕事の出発点はあの「黒沼本」にあり、未だにあの本以降、本当の意味でまともな仕事はしたことがないと思っております。出版までの時間が極めて押しており、結果として猛烈に誤植の多い書籍となっておりますのに、お読み頂けるなど、本当に幸いであります。

思えば、マールボロ音楽祭60年で盛り上がる今年は、誰もそんなこと言いませんけど、「黒沼俊夫マールボロ音楽祭参加50年」でもあるのです。ここ、ボストンから車で6時間ほど北上した、今はシベリアのように凄まじい雪に埋もれた場所は、巌本真理Qの音楽の故郷のひとつでもあるのですね。この夏は、そんな気持ちで訪れてみようかとも思っております。

ところで若手弦楽四重奏団でベートーヴェンの全集とのことですが、録音ということであれば、21世紀の今ということを考えると、作品18をどう扱うかがポイントになってくると小生は思っています。その意味で、作品18の位置付けを明快にした全集は録音では未だ存在していません。まだまだ未開発なジャンルだ、ということです。お応えになっていなくてスイマセンです。ライブで言えば、プラジャークQは数ヶ月前に第1ヴァイオリンが変わったばかりで、小生はまだ聴いたことがなく、なんともいえないところです。ヴィーハンQは日本ではちょっと特殊な仕事のさせられかたをしていますので、残念ですね。当面は6月のパシフィカQによる3日間でベートーヴェン全曲、というのがひとつの目安でしょうか。

さて、これから荷物をたたんで、シカゴに向かいます。明日、パシフィカQのショスタコーヴィチ全曲演奏会シリーズのひとつがありますもので。またまたいつもの日々が帰って来ます。ではでは。

by Yakupen (2011-01-29 22:14) 

たまる



おはようございます(今晩はかしら?)

お返事、ありがとうございます。

いま、パシフィカQのショスタコヴィーッチの記事、拝読しました。なぜか、日本では、良質の四重奏の記事が少ないので、やくぺん先生のブログ、わたしのような室内楽が好きな人間は、熟読してしまいます。

Tully Potterとお親しいとのことで、羨ましく思います。わたしも、Potterの大著、The Life of an Honest Musicianは傑作だと感じますし、Potterが編集だったかしら?ブッシュの家族や友人に宛てた手紙をまとめた作品も好んでいます。黒沼さんがマルボロ音楽祭へ行って、半世紀ですか...黒沼さんが、マルボロで、英語に四苦八苦しながら得た経験が、日本の室内楽史に輝く、巌本真理四重奏の源泉になったのですものねぇ。ひとつの記念の年ですね(^^)

ご教示いただいた、ベートーヴェンの四重奏の件ですが、あとで、わたしが書いた文章を読んで、WihanやPrazakについて「若手」と書いていましたが、考えてみれば、中堅、いやヴェテランですね...パシフィカ四重奏も中堅ですし、わたしとしては、ちかいうちに、Wihanのライブ音源を購うつもりです。まぁ、Prazakも、買うことになりそうですが...

パシフィカ四重奏にしても、Wihanにしても、立派な中堅であり、自分たちの「おと」を持っているように思います。けれど、どうも、わたしの周囲では、カペーだの、バリリだの、古い音楽が聴かれています。わたし自身も、ヴェーグやヴラフの演奏を好んでいますが、けれど、やっぱり、同時代の演奏家の音楽を聴くと、「共感」するものがあるのも事実です。これからも、どんどん、同時代の音楽家について、暖かい応援の文章を楽しみにしています。そちらは寒い日々が続いているでしょうが、風邪などひかずに、お過ごしください。教えていただいて、ありがとうございます。パシフィカ、楽しみです。(^^)



by たまる (2011-02-04 07:05) 

Akiko Enoki Sato

Yakupen様、

Akiko Enoki Satoです。たまたまあなたのブログに私の名前が出ているのを発見してしまいました。
はい、私はボストン在住の日本人です。
次回ボストンへいらっしゃる際には、是非私たちのグループ
Les Bostonades (www.bostonades.org)も聞きにいらしてください。

Akiko Enoki Sato (11/11, 2011)
by Akiko Enoki Sato (2011-11-12 13:33) 

サンフランシスコ人

「鈴木雅明御大も、生活に根付いたこういう古楽をやってる人たちがいっぱい加わった合唱団を相手に4月のボストン響定期で....」

鈴木雅明.....2025年2月にフィラデルフィア管弦楽団に登場するみたいです....

http://symphony.org/philadelphia-orchestra-announces-programming-for-2024-25-its-125th-season/

http://www.philorch.org/globalassets/philadelphia-orchestra/performances/our-season/24-25-season-landing/poa_fy25_season-brochure_web.pdf
by サンフランシスコ人 (2024-01-24 04:35) 

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