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「ラ・フォル・ジュルネ」再び [音楽業界]

なんせ月末に向けてほぼ連日一本は原稿締め切りがやってくる状況になってしまった。で、今日はひとことだけ。

昨日、別件でメールでいろいろやりとりをしていた同業者某氏から、こんな疑問が呈された。即ち、

「東京で、「熱狂の日々」のような、何日間かある特定の地区で、集中的に何十公演もひらかれ、一般の人々を数多く含む聴衆でにぎわった本当の「音楽祭」は今までにありましたかねぇ?」

ううううん…案外、答えが簡単そうで難しい疑問ですぞ。データというより、構造の問題だもんね。

いろいろな答え方があるでしょうけど、音楽ジャーナリストとしての小生の答えは明快。

あの「ラ・フォル・ジュルネ」という音楽祭の構造に近いイベントは、これまでもあった。
ひとつは「音楽大学の学祭」。もうひとつは、「ホールのオープンハウス」。

前者は、「何日間か」という条件をクリアーする唯一のあり方でしょう。「一般の人々を数多く含む聴衆でにぎわった」というのは、後者ですね。もっとも、「数多く」というところをどう捉えるかはいろいろな議論があるだろうが(4月にサントリーホールが初めて行ったオープンハウスが五千数百人、7月の第一生命ホールの6回目のオープンハウスは千人少しの動員数とのこと)。ま、オープンハウスについては、いずれこのブログで書くでしょうから、またそのときに。なんせ「業界内色物担当ライター」ですから。サントリーホールのオープンハウスのあらましは、以下参照。
http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/perform/2005/0403.html

正直、あの有楽町に溢れていた人々のノリに一番近いのは、ボストン・シンフォニーホールのオープンハウスなんかだったなぁ。「ラ・フォル・ジュルネ」も「東京国際フォーラムのオープンハウス」と考えるのが、一番正しいとらえ方なんじゃあないかと思うわけですよ。何が人々を喜ばせていたのか、という意味でね。

で、あの有楽町のイベントが、その両者と決定的に異なるのは、「学祭やオープンハウスは全て無料イベントだけど、国際フォーラムはかなりのものが有料イベント」という点。

ルネ・マルタンが偉いのは、普通ならばどう考えても無料イベントにしかならないものを、力業で有料イベントにしてしまった点にあるわけですな。

なお、有料イベントとして限定された地域で同時に複数公演が進行する、という演奏会のあり方は、東京では他に唯一、第一生命ホールがオープン以来行っている「育児支援コンサート」があるだけかも。年齢別の子供の演奏会と、親がホールで聴く演奏会を同時に進行させる、という試み。とても好評で、何度もやって欲しいとの声が寄せられているそうだが、ボランティアを数十人動員し、数百人の子供が一気に楽屋やらになだれ込む状況をコントロールせねばならない職員には、地獄の日だそうな。ご関心の向きは、以下のレポートをご参照あれ。
http://www.triton-arts.net/concert/tan_monitor_report/050327_01.html

ちなみに、「育児支援コンサート」を主催するNPOのディレクター児玉真氏は、地方自治体の公共ホール活性化のために旧自治省が主催したセミナーにパネリストとして招かれた際に、有楽町に雇われる前のルネ・マルタンと壇上で顔を合わせているとのことです。
発想の根っこは同じ、なのかしらね。共に自治体や公共ホールのプロデュースで最高に力を発揮するタイプの人が、2人とも民間ホールで実験的なイベントのプロデュースをやっている事実は、日本の文化行政や公共機関の人材登用力の限界を露呈しちゃってるのかしら。


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コメント 7

kodama

事実関係から・・フランスラボと称した地域創造の大津での研修に出てきていたのは何都市の文化部長でした。たぶんマルタン氏とは会っていません。ずいぶん前(1998年位?)ですから、まだラ・フォル・ジュルネは始まっていなかったと思います。
あと、ラ・フォル・ジュルネに似たイベントはあったかどうかは、難しい問題です。私はヤクペン先生の感想にもっともだと思える部分もありますが、一方、サントリーホールのオープンとか、カザルスホールのオープニングもそれに似ていると感じております。両方とも、一定の期間貸しホールをせず、全部自主公演で会館を開けていたのではないかな。ただ、ラ・フォル・ジュルネが面白いのは、一種の構造改革をしていることでしょう。前記2ホールや、その後に東京に出来た多くのホールが、音楽業界の構造を基本的に踏襲(または拡大)して仕事をしていたが、ラ・フォル・ジュルネはそれを期間限定とはいえ壊しているように見受けられます。あんなに成功したイベントなのですから、きっとギャラは正規に払われたのだろうなあ、とかね。
by kodama (2005-08-21 03:09) 

photographer_naoko

 何が人々を喜ばせるのか・・・?もしや「お祭り騒ぎ」では?
by photographer_naoko (2005-08-21 23:20) 

こもへじ

 サントリーホールのオープンハウスなど、知らないことが書かれてあったので、たいへんおもしろく読ませていただきました。
 朝10時前から夜11時まで演奏会を数日間続けて行うというラ・フォル・ジュルネの企画内容には、脱帽してしまいました。何年も続く一大イベントとしてそれを定着させたのはすごいと思います。
 自分の国で成功したイベントを隣国ばかりかアジアにまで輸出して成功させてしまう行動力にも恐れ入りました。マルタン氏は大阪でも開きたいとの意向を持っておられるようですね。
 ただ、演奏家の顔ぶれを見ると、普通ならば無料イベントにしかならない、とは私には思えませんでしたが…。
 ラ・フォル・ジュルネで子どもたち向けにワークショップを開けたので、私は氏に感謝しています。文字絵で作曲家の似顔絵を描くワークショップです。よかったらブログを覗いてみてください。トラックバックを送らせていただきます。
 第一生命ホールの「育児支援コンサート」の先進性には驚きました。幼稚園児くらいの年齢のお子さんが相手では、運営が半端ではなく大変だと思いますが、さらなるご発展をお祈りいたします。
by こもへじ (2005-09-06 01:00) 

Yakupen

こもへじ様
コメント、ありがとうございます。正直、小生、あの3日間の間、人が猛烈にいっぱいいた地上階は殆ど近づいていないのです。で、マスタークラスとかワークショップとかについては、全く把握出来ませんでした。スイマセンです。もうあの人混みに戦う気が失せた、という感じでした。こういうワークショップをどのように全体の中に位置づけるか、いろいろと考えさせていただきます。
本日は猛烈に忙しく、まともにコメントできずに、この程度でお許し下さいませ。

ひとことだけ言うと、第一生命ホールの「育児支援コンサート」は、小生の個人的な感想では、先進的というよりも、誰でも考えつくけど、実際に行おうとすると、人の動かし方、会場の側の制約、ボランティア差配の仕方、演奏家の動かし方、などなど、極めて高い総合的なプロデュース能力が要求されるために、これまで実現できなかったものだと思っています。つまり、「誰にも考えられるけど、誰にも出来なかった」タイプ。
有楽町のイベントは、「金にならないイベントを金にする」という意味で、遙かに先進的だと思いますよ。善し悪しは別として、ですけどね。「誰も考えつかなかったけど、ある準備があれば誰にでも出来る」タイプのイベントだと思います。今後、あちこちがやろうとするでしょうねぇ。
by Yakupen (2005-09-06 10:44) 

こもへじ

 「育児支援コンサート」については、数百人の幼い子供たちを集めて、同年齢のグループに分けて音楽を聴かせようとは、自分なら思いつかないと思いました。
 ラ・フォル・ジュルネでは一部に小さい子供を迷惑がっていた人もいたようですが、いずれにせよ、このような子供向けの企画がどんどん増えるとよいと思います。でも、まねしようとしても、まねできますかね? 人を呼べる演奏家に低料金での出演を納得してもらうのがむずかしいようにも思いますが...。
 
by こもへじ (2005-09-12 23:41) 

Yakupen

そうですねぇ、まあ、でも、あくまでも噂ですが、辣腕フランス人プロデューサー氏、関西方面での開催を目論んでるとのこと。お手並み拝見ですね。
イベントとして総合的な広がりを持たせることで、いろんなジャンルの方を巻き込めるといいんですけど。
by Yakupen (2005-09-13 00:30) 

こもへじ

7月に大阪に行かれたようですね。今後新たな展開があるのか、見守りたいと思います。
by こもへじ (2005-09-14 18:33) 

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