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独断と偏見で選ぶラ・フォル・ジュルネ2006の注目株 [弦楽四重奏]

栗東のシンポジウムから東京は有楽町に取って返し、昨日午後の「ラ・フォル・ジュルネ2006」の記者会見に出席しました。
それにしても、かたや「公共文化施設の使命とはなんぞやという市民集会」で、戻ってきたら「民営化された巨大レンタルスペース会社が日本一の音楽事務所やら三菱村を巻き込んで仕掛けるクラシック音楽をネタにした巨大商業イベントの華々しい記者会見」。同じ「クラシック音楽」の土俵で議論しようにも、共通点を捜すのも容易じゃない。いやはや、これが21世紀初頭の現実なのか。頭がクラクラしてくる。

今年は大成功とされたこの「都市型エンターテインメント期間限定クラシック音楽テーマパーク」の第2回、もうあちこちで情報は流れているでしょう。音楽雑誌や協賛の讀賣新聞にもデータが出るでしょうから、詳細はそっちをご覧あれ。テーマはモーツァルト。オペラもひとつあります(記者会見の席で、ルネ・マルタン氏は「モーツァルトの天才はオペラとピアノ協奏曲にあるが、国際フォーラムでは本格的なオペラ上演は不可能」と明言し、この音楽祭の性格が持つ限界を認めていました)。http://japan.mde.co.jp/blog/f/10000375.html
なお、次回も通し券はないそうなので、どうしても聴きたい方は早めに情報を手に入れ、さっさとチケットを手配しておくべし。昨日配られた音楽祭開催概要の「主な特徴」で筆頭に挙がる「選べる・比べる・ハシゴする」という趣旨には反するけど、しょーがないわなぁ。
昨日の質疑応答を聞く限り、今年の騒動の原因となったチケット発券システム(当日売りと前売りに本質的な違いがなく、実券でのハンドリングが不可能な「ぴあ」システム)の構造的見直しはないようです。ブースの増加など物量作戦で対応するみたい。
おいおい、それじゃ単なるコスト増だろー!(←発想が指定管理者選定委員化しているわたし)
小生が責任者なら、前回の失態を以てデジタルな「ぴあ」は当日対応能力無しと判断し、フェスティバル開幕前日まででお役ご免。初日の朝までに残りのチケットを全てプリントアウトさせて実券化し、以降はアナログ対応の女帝「日比谷のおばちゃん」軍団を再結集、群がる聴衆を迎え撃つけどなぁ。それがまともな興行師の考え方だろーに。適切な指示を出せる者もなく、現場で右往左往するだけのアルバイトを増やすより、コストは絶対下がるはずだぞ。

もとい。記者会見の様子など敢えて記しません。小生の個人的な興味で、勝手に注目点をふたつ。

1:日本初登場、エベーヌ弦楽四重奏団!
昨年のミュンヘン・コンクールの弦楽四重奏部門で優勝した、フランス在住のイスラエル人連中。(注:と記したら、パリ管の千々岩さんから「イスラエルはそっちじゃないぞ」というコメントをいただきました。イスラエル人じゃありません。己の恥を天下に示すために、誤りをそのままにしておきます。)http://www.impresariat-simmenauer.de/ebene.html
ミュンヘンのコンクールは数年前に評価の仕方を変え、20世紀の頃のように「絶対点数に達しなかったら足切り」という無茶はやらなくなりました。昔は、2次予選が終わった段階で残ってるのがひとつだけ、なんてマヌケなこともあったんですけど、みんなそれを嫌がって受けにこなくなっちゃって、普通のコンクールと同じやり方にしたそうな(昨年の弦楽四重奏部門審査員だった某先生からの情報)。だから、東京QやアルテミスQのときのような有り難さや特別さは、もうありません。
ま、それはそれ。この団体、なぜか小生とは巡り合わせが悪く、全然聴いていないんで、やっと聴けるのは嬉しいなぁ。
無論、新人ですよ。晴海のトリトンのシリーズでやっている連中なんぞよりもまだぺーぺー。クスQより若く、この翌月に来るパヴェル・ハースQなどと同格ですね。その点は誤解ありませんように(上記のホームページアドレスからお判りのように、クスもハースもアルテミスも、みんな同じあのヨーロッパ室内楽の総元締めジメナウアー事務所の所属です)。ま、「ミュンヘンで勝ったから世界一」なんて突拍子もない早とちりをする人は、室内楽好きにはいないでしょうけど。
指定管理者制度のあおりで、来年度は音楽事務所が地方公演を決められないでいるため、来日演奏家の数がうんと減るはず(現時点で予定される来日公演の中止も頻発するでしょう)。そんななかで、たとえ会場が会議室みたいな場所であれ、聴けるだけ嬉しいと思うべきでしょうね。
他の弦楽四重奏団は、かの大阪の田中嬢率いる一頃のワルター・レヴィンのお気に入りプソフォスQと、今年はチェロ交代直後にベートーヴェン全曲演奏をやらねばならずちょっと可哀想だったイザイQ。毎度ながらフランス系ばかり、独特な趣味だなぁ。あ、我らが古典Qは「ホフマイスター」やらアイネクやらで登場です。

2:ハイドンのバリトン三重奏がバリトンで聴ける!
ハイドンはエステルハージー侯の趣味のために、膨大な数のバリトンとヴィオラとチェロのための三重奏を書いてます。バリトン(歌手に非ず)がどんな楽器かは、ネット上にいくらでも写真なり説明なりがありますから、検索してみて下さい。例えばここ。http://www.uni-leipzig.de/~mim/musik/exponat/mi/chordo/gestchord/viole/nr.855/855e1.html
なんにせよ、この楽器がちゃんとライブで聴けるのはとっても珍しい。ハイドンの室内楽書法の展開を知るためにも、絶対に聴かねば。

以上、膨大な数の公演から小生のオススメでした。まるで独断と偏見、信じるべからず。


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ちぢいわ

やわらさん、ブログとてもバラエティに富んでいて、楽しく読んでます。栗東はディオティマで去年行ったので他人事じゃない感じ。
老婆心丸出しですが、エベンカルテットは全然イスラエル人じゃないと思うけど。フランスのカルテットでイスラエル系入っているのは同じミュンヘンに出ていたQuatuor Benaïmのほうです。
by ちぢいわ (2005-12-16 20:08) 

Yakupen

わあああ、そっちがイスラエルかぁ。なんでこの名前でイスラエルなのだろー、とずっと思ってました(実は、ミュンヘン審査員だった某氏がそう言っていたので、そう思っていた。ま、強弁すれば、国籍は審査に関係ないという事実の証明ですな)。
栗東の事業団スタッフの方が、ディオティマのことは懐かしがって(?)いらっしゃいましたよ。ああいう尖ったことがやりたがるのは、滋賀県地方ではあのホールのスタッフくらいだったんですけどねぇ。
修正しておきます。というか、間違いでした、と、注釈しときます。ありがとうございました。パリは寒そうですけど、お体、無茶しないで下さいね。どうも指定管理者制度が一息つくまで、海外取材は減りそうで、なかなかそっちに行く用事が出来ません。国内はコスト高で困ります。
by Yakupen (2005-12-16 20:15) 

大阪の田中綾子

明けましておめでとうございます.お久しぶりです!やわらさん、お元気そうですね.
わたしも相変わらず超元気です。面白いサイトにたどりついて、だれが書いてんの?と思いきや、やわらさんくらいしかこんな記事書けないよね〜。素晴らしい!

5月に東京で再会できるのがうれしいです.ちなみに話題のquatuor ebeneのヴィオラ奏者は私の彼です.ハハハ!!!!また話題が増えるでしょう!

 もう1つちなみにベルチャの新チェリストはわたしの超友人です!!!彼は本当に上手です.
 
今年もばりばり面白い記事書いて下さいね〜!!!!   綾子by psophos
by 大阪の田中綾子 (2006-01-04 05:01) 

Yakupen

おおお、お久しぶりでございます。カザルスでお弾きになったときには、ご挨拶もせずに、失礼しました。
なんせこの業界、滅茶苦茶狭いですから、もうどこにいっても誰かにぶつかる。悪いことは出来ないですねぇ。いやはや。

数日前にも、ウィグモアホールの分厚い年間予定表を眺めながら、おおお、元気にやっとるじゃないかぁ、と思っておりました。国際フォーラムは、ヨーロッパにはちょっとないかもしれないタイプの会場です(その辺の会議室で、全然響きません)。会場での練習時間もほぼ皆無だそうですから、そのへんはもーしょーがないと割り切って頑張ってくださいな。5月にはお会いできますね。

あ、上のコメントは、プソフォスQの第1ヴァイオリン「大阪のたなかちゃん」でありました。このコメント欄はフランス系弦楽四重奏団邦人メンバー紹介コーナーになっちゃったぞ。
by Yakupen (2006-01-04 09:55) 

I嬢

「熱狂の日」フレンズ会員先行発売が今日から始まりましたね。
昨年はボストンにいて行けなかったので、さっそくやくぺん先生のオススメ公演を中心にいくつかチケットを買いました。
フレンズ会員というのは、ラ・フォル・ジュルネのウェブサイトで無料登録できて、チケット発売などお知らせメールがいただけて、先行発売まであって便利。

イザイQはどの公演を聴こうか迷っています。やっぱり不協和音でしょうか?
日本人若手人気ピアニストの公演は先行枠完売だったけど、弦楽四重奏はまだ余裕で買えるみたいです…
by I嬢 (2006-01-07 16:34) 

Yakupen

うううん、あのイベントは、怒号乱れ飛ぶ中でホントに買えるのかわからぬ切符を求めて人々が列を成す、というお祭りにはつきものの不穏な空気が充満していたから、あのような雰囲気になったと小生は思ってます。あれを、みんなが前売りチケット持ってて、それを聴きに来る、みたいになっちゃったら、恐らくはお祭りとしての一番大事な要素がなくなっちゃって、ただ単に「国際フォーラム、人がいっぱいいたよ」というだけになるんじゃないかなぁ。

まあ、条件の悪い会場ですから、聴けなかったらそれまで。ただ、あいだみつお美術館だけは別。館長とこのイベントを巡っていろいろ本音の話もしましたが、古楽系を強烈にプッシュしていたのはあいだ館長みたいだし、なにより、大きい声では言えないが、このイベント全体でまともな音楽が聴ける会場はあそこだけです。唯一、ゆふいん音楽祭みたいな雰囲気になるところですから。
by Yakupen (2006-01-07 18:25) 

I嬢

うううん、はたから見てると楽しめるかも知れないけど、お客さんとしてはどうなんでしょ?私は当日行って並ぶのはイヤだなぁ。昨年の様子をこの目で見てはいないけど、伝え聞くように、チケットはあるのにのんびりした発見システムのおかげで、手に入らないなんてねぇ。

あいだみつお美術館のコンサートは楽しみですね。

ああ、またこうして現実逃避している……
9日のシンポジウムは行く予定です。では。
by I嬢 (2006-01-07 18:42) 

Yakupen

なにをおっしゃるぅ、小生は、「あ、このイベントは、聴衆として接しないと全体像を見損なうぞ」と思ったので、ジャーナリスト招待の招待券やらは意識的に貰わず、朝の7時から出かけてチケットブースに並び、チケットが買えない聴衆のひとりとして、周囲のオバチャンが対応のアルバイト連中に文句を言ったり、なんとかしろと怒鳴ったり、はてはそんな客達をとうとう列を整理するスタッフが無視し始めてさらに険悪になる状況を、じっくり眺めさせていただきました。

このイベントを礼賛するのが基本の音楽ジャーナリズム界にあって、小生は数少ない批判的な視線を持っちゃった理由は、「表方対応スタッフに素人同然の対応をされ、おかげで聴きたかった今井信子のクァルテットが聴けなかった」という、客としての憤懣やるかたない思いがあるからですね。その辺りのことを期間中に開催された記者会見で質問されたフォーラム側プロデューサー、「チケット発券は出来る限り対処したので問題ない」と、文句などいうな、という態度だったのも、フォーラム側に対して冷静さを無くしている理由。まるでパパラッチに対するようなものいいでしたからねぇ、あのプロデューサー。もっともあの強面のオッサン、今年はおらず、もっと人当たりの柔らかいに人に交代したみたいですけど。

なんであれ、あのイベントは、音楽を聴くという意味では特に期待しないほうが良いです。不快な気分や様々な不手際、騒動も折り込み済みの、音楽をネタにしたイベントと割り切るべし。ヨーロッパの旧城壁都市の中でしばしば開催される、「ある1日に街のあちこちで無料演奏が一斉に沢山行われる」なんてイベントを商業化したみたいなもんですから。
by Yakupen (2006-01-08 12:01) 

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