SSブログ

音楽を商品とする街 [音楽業界]

ちょっと前に、あるところで「コマーシャリズム」という言葉を巡って相容れない意見の方と議論(になってないんだけど)をする必要に迫られました。その方は、「あなた方のような興行師のお陰で音楽がコマーシャリズムに堕落してしまい、芸術家の精神がゆがめられている」と主張なさる。あるフェスティバルの最後のスポンサー向け無料招待コンサートの内容がお気に召さなかったようなんですけど。

で、その方は、どうもヨーロッパの芸術家は極めて芸術性が高く、アメリカの音楽家は商業主義的でダメである。特にアメリカのアジア系音楽家は最悪だ、という主張なんですわ。

さても、今、ヴィーンにいます。数ブロック行くと、ブラームスが晩年に住んでいたところ。反対に同じくらい行くと、シューベルトの最後の家。向こうにはブルックナーが住まわせて貰って最後の頃の交響曲を書いていた宮殿跡もある。冬の初めの晴れたり曇ったりの半端な空。

ええ、ご存じの方はよーくご存じだと思いますけど、この街にいると、特に国立歌劇場の周辺とか、モーツァルト像の辺りとかにいると、頭に鬘被って3世紀昔の宮廷の雇われ人みたいな格好したアンチャンがしきりと声をかけてきます。「午後にあのニューイヤーコンサートで有名な世界的なコンサートホールでヴィーンの音楽家がワルツなど演奏する。さあ、切符を買いましょう買いましょう」、ってな調子。ほれ、今日もオペラの横、地下街から上がってくるエスカーターの横でカモを待ってる。

ムジークフェラインザールって、多くの方は神の如くお感じでしょうが、こういうアヤシイ団体にも結構貸してます。で、ディナー付きヴィーン音楽の夕べ、なんてのにアメリカ人観光客、日本人、中国人、韓国人観光客、なんぞが着飾って押し寄せ、ワルツなんぞ聴いて、わあああすてきぃ、って思って、その後にザッハトルテをデザートにメインのシュニッツェルなんて喰らい、滅茶苦茶甘いワインでも飲むんでしょう。一度経験してみたいなぁ。ま、「一度はとバス観光で芸者ショーを観てみたい」なんてのと同じ気持ちだけど。

この街には、こんな観光客向けの「商品としての音楽」が溢れてます。大きい声では言えないけど、ヴィーン国立歌劇場の通常公演の「コシ」だとか「フィガロ」だって、日によっては「観光客向け裏キャストやっつけ仕事」としか思えない日もあるとか。そういうのにぶち当たって、猛烈に怒ってるマニアさんに会ったことは珍しくない。

世の中には、クラシック音楽を貴重な観光資源としている街がいくつかあります。ここヴィーンは、それこそそんな訳の判らんワルツ楽団から、それこそコンヴィチュニー演出の「ドン・カルロス」(オペラ座のおみやげ屋でDVDを売ってる、ううううん、欲しい、視たい…ってか、他人様に視せてぶっ飛んでる様子を見物して面白がりたい!)やら、ヴィーンフィル定期のヴェーベルン、モザイクQの「大フーガ」なんぞに至るまで、ホントにピンからキリまで幅広く存在している(なんせアートですから、どっちがピンかはなんとも言えません)。それ故に、まあ、オペラ舞踏会オーケストラなんてもんの存在も許しましょう。頑張れ、ヴィーン、頑張っていっぱい稼げ。クラシック音楽は大事な商売道具じゃあ!

数日前にちょっと寄ったザルツブルクは、街の規模が小さいだけに、この「ピンからキリ」の間がかなり微妙。音楽祭の最中はピンがズラズラ揃うわけだけど、今のようなシーズンオフは、相当に突拍子もないものを商品として観光客に出してます。「モーツァルトも演奏した会場」が売りのミラベル宮殿内ホールでの演奏会、ミヒャエル・ハイドンのハ長調弦楽五重奏曲なんて興味深い演目に弾かれ、モーツァルテウムの巨匠と学生達のアンサンブルなどといういかにも危うさが匂う切符を29ユーロも出して買いました。にじゅうきゅーゆぅーろぉ、ですよ!4500円くらい。これで安い方の席。いかに観光客商売やってるか、よく判るでしょ。ほれ、こんなところ。綺麗でしょ。

そう、例えば昨日のハーゲンQ、一番安い席だったけど、14ユーロ。明日のモザイクQはもうひとつ上の席で19ユーロ。Landshut音楽協会のヘンシェル&ダネルQは17ユーロですぞ。ま、世界一切符が高いと地元の人が仰るミュンヘンの某団体主催のアルテミスQは、上から2番目で45ユーロって東京と同じ値段でしたけどね。いずれにせよ、突拍子もない値段ですわ。聴衆は観光客しかいない。で、音楽は、ヴィオラの教授がお年寄りでもうボロボロ。台湾人のファーストとか、東欧系のもう1人のヴィオラ君とか、ホントに大変そうでした。お客さんは大喜びだったけど。ううううううん。こういう音楽をたまに聴かないと、ヘンシェルにせよアルテミスにせよ、はたまたハーゲンにせよ、有り難みが判らなくなるわなぁ。うん、良い勉強だ。いやはや。

この類のコンサートがいっぱいある街としては、あとはプラハが筆頭でしょうね。スプラフォンに録音していて、日本では「東欧の室内楽精神を伝える巨匠」なんて宣伝される連中が、ハイドンやって「アメリカ」弾いて1時間で米ドルで30ドル、なんて教会コンサートを毎晩いっぱいやってる。チェコの若い連中に話をすると、「俺たちはあれだけはやらないよ」って眦をつり上げるんでなかなか面白い。

何を言いたいかと言えば、ドブリンガーなんぞに行こうとヴィーンの一区をウロウロしてると、このような「コマーシャリズムとしての音楽」に沢山出会う。クラシック音楽が堂々と商品である街、それをみんなが期待し、それで生きている奴らがいっぱいいる街。

「アメリカの音楽家が商業主義である」と主張しヨーロッパ演奏家を称賛する人は、街場の屋台で売られる粗悪品に甘いデコレーションを被せたような商業主義を批判するのだろうか。これはしょうがない、と広い心で目をつぶるのだろうか。「音楽で喰う」ことの大変さとすれば、2人の子供を抱えて異国ドイツで倒産しかかった会社をもう一度建て直さなければならないアルテミスQの第1ヴァイオリン女史と、モーツァルト像の前で鬘背負ってチラシ捲いてるおにーちゃんと、さほどの違いはないと思うんだけど。

とはいいつつ、やっぱり今晩は「ヴィーン舞踏会オーケストラ」にはあたしゃ行きません。ゲルギエフのマリンスキー歌劇場がアン・デア・ヴィーン劇場でプロコフィエフの「賭博師」をやってるなぁ。100ユーロの席ならあるのかぁ。うううん、高いなぁ。やっぱりフォルクス・オパーのダルベール「低地」のが興味深いなぁ(ゴールドベルク翁の弟子、富山でお馴染みのベシュナが頭に座ってるかもしれないし)。だって、日本一の興行師NBSの「コマーシャリズム」は、ヴィーン・フォルクスオパーの日本公演で絶対にダルベールはやらないだろうけど、ゲルギエフ流「コマーシャリズム」は、東京でも同じプロコのプロダクションをやりそうだもん。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0