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バレエ要素極大の《アクナトン》 [現代音楽]

昨晩、ドルトムント劇場で《アクナトン》の新演出プレミアを見物して参りましたです。
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若者と違って爺は時差に弱く、朝の5時にはパッチリ目覚めてしまうので、こんな時間にパソコンの前に坐ってます。

明日の菅尾友演出《神々の黄昏》ヴィルツブルクでのプレミアで轟沈しないための時差調整のための滞在なんだけど、わざわざこの旧西ドイツの名古屋近郊みたいな殺伐たる工業都市(でもないんだけどさ、この時期は新緑に蔽われてて)に来た理由は、一昨年の丁度今頃にこの劇場が出した《浜辺のアインシュタイン》が、ぶっちゃけやくぺん先生がこれまでに経験した数少ないこの作品の上演の中でも極めて特徴的で、個人的な趣味だけを言えば、ウィルソン版はオーセンティシティの意味で別枠としても、この作品上演のひとつの可能性を開くものだと大いに感心したからであります。こちら。
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2017-06-04

この劇場、ルールトリエンナーレなんぞがあった地区でこういうものに対する下地があるのか、はたまた今の監督がやっている「異文化」をテーマとする路線に上手く填まるからなのか、次は《アクナトン》を出して来た。演出家はまるで別のジュゼッペ・スポッタ(Giuseppe Spota)という方なので、グラスの歴史偉人三部作を統一的に出そうという意図ではないみたい。

そもそもシュトゥットガルトの劇場が「できるだけ普通のオペラを書いてくれ」と委嘱して出て来たこの作品、グラス初期偉人伝三部作の中でもオケはヴァイオリンはないけど普通だし、お話としても「アメンホテプ4世の人類史上初の一神教改革とその失敗」を時系列で描く無茶苦茶ロマン派オペラっぽい判りやすいもんですし、エピローグでアメンホテプ4世一家が幻影となって現れて現在のエジプトの大観光地たる廃墟で過去の栄華を回想する、なんて妙に大河ドラマっぽいサービスまである。
音楽的にも、ふたつの大作をやって経験を積んだ、というか、開き直ったというか、「前衛の方が失敗で、20世紀後半に調性を生き残らせた最大の功労者はミニマリストである」と捉える21世紀初頭に主流となりつつある音楽史観からすればちょー重要な作品となることもあってか、恐らくは初期偉人伝三部作ではいちばん盛んの上演され、毎シーズン世界のあちこちで新演出が出ている。特に、初演の経緯もあってか、自前の舞踏団を有する地方の歌劇場では大人気演目になってる。この作品はあまり得意ではない(好き嫌いから言えば、ダメ、ってこと)やくぺん先生としましては、恥ずかしながらこの作品、所謂メイジャークラスの劇場での上演を観たことありません。地方都市の小中規模ながらちゃんと自分の所でプレミア出してるような場所でしか接したことない。
日本の主催者やオペラカンパニーにはまるで期待してないけど、舞踏前衛地区の台湾、韓国、シンガポールなどでの上演がいちばんあり得る作品ですな。一神教崇拝の意味なんてどーでも良いところの方が、いろんな可能性があると思うし。

もとい。で、昨晩の舞台ですが、結果から言えば、「なるほど、こういうやり方ね」と納得はするものでした。名前の通りイタリア系伊達男っぽい、恐らくは昔は自分も踊ってた方なんでしょう、演出兼振付というタイトルの演出家さんがやったことは、「ストーリーの読み替えなし、冒頭から最後まで舞踏団が主役で、物語はiPadから読み上げるナレーターのオッサンが解説し、古典バレエに乗っかりながら今風のトリッキーな動きが多用される群舞がストーリーのあるロマン派バレエみたいに進み、アメンホテプ4世や嫁さん、神官ら歌手合唱団もさほど無茶はないがそれなりに動きを要求された歌唱を展開する」というもの。
セットは一切無く、今時の斜幕へのCG投影(ミニマル系にはこれがピッタリ合うんだわなぁ)で装置的な要素を処理する。ちなみにナレーターはドイツ語で、かなり弄ってたみたい(新都市建設の説明では、明らかにドルトムント郊外にあるW杯のときに造られたのであろう巨大スタジアムとしか思えぬもんが出て来て、客席は大受けでした)。エピローグもこんなに短かったっけ、という感じ。アメンホテプ4世一家に対するクーデターが終わったところで、客席から壮大な終わった終わったの拍手が出ちゃったくらい。

なお、全体はどういう訳か2幕2場のアメンホテプ4世と嫁さんなんぞの二重唱で休憩。
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後半は新都市建設から、20世紀最大のカウンターテナーのアリアたる太陽讃歌に始まります。結末に向け初期ヴァーグナーっぽいバタバタ感すら漂い、「頭ん中お花畑のファラオ」の顛末が突っ走る感じ。

シーズン終わりに街の劇場舞踏団が総力を挙げて新しいバレエのプロダクションを出した、という感じのプレミアでありました。実際、上演はオペラとバレエ団の共同制作、というクレジットになってました。あ、指揮は今ちょっと話題の、藝大出て此の地で10年、この劇場たたき上げの小林資典氏で、微妙に変化するリズムの処理と、殆ど普通の編成の地味な響きのオケから場面による的確な音色変化をひっぱり出さねばならん堅実な仕事をしっかりなさってました。この指揮者さん、数週間前にここで菅尾さんが出した《トゥーランドット》も担当していて、これから日本でも名前が出て来るんじゃないかなぁ。
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2017-06-04
残念ながら来シーズン頭のプレミア、菅尾演出《ちょーちょーさん》はボスのガブリエル・フェルツがやるみたいだけど。

ま、サラッと観られて、あまりめんどーなことを考えないで楽しめるバレエ《アクナトン》としては、これはこれでありなんでしょう。あたしゃ、もう一度観る気はしませんけど。昨年のボンで眺めた「現代の高校生がエジプトにタイムスリップしてしまい…」という突拍子もないけど、でももの凄く面白かった舞台とは、まるでやってることは違うし
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2018-06-20
昨年の舞踏性絶無のアインシュタインとも真逆でした。この劇場が再来年に《サティアグラハ》を…という感じでもなかったなぁ。

さて、シュトックハウゼン大会に至る前はたまたまグラス大会になってしまったこのツアー、次は月曜日にバルセロナで《浜辺のアインシュタイン》で、水曜日にはザルツブルクに移動し《審判》と続きます。《アインシュタイン》どんなもんか、まるで想像付かず。夜の8時から始める演目じゃあないから、抜粋なんだろーなー。

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